【連載】ドボたんが行く!
2019.05.21
三上美絵
橋の「横顔」を愛でる
遊びは創造の源泉。どんなことから「遊び」が見出せるか、そこに本当のクリエイティビティがあります。このドボク探検倶楽部、略してドボタンは、さまざまな土木構造物を愛でる、土木愛が溢れるコーナー。第3回は、身近にありながら、まじまじと見つめたことはあまりない「橋」。その横顔を双眼鏡で見つめている「橋梁マニア」の世界へあなたを誘います(タイトル写真は路面がアーチ部分の上にある上路式の奥多摩橋)。
みなさんは、「土木構造物」と聞いて何を思い浮かべますか?「橋!」という人も多いのではないでしょうか。
日本には、道路橋だけでおよそ70万橋もの橋が架かっているそうです。それだけに誰にとっても身近な存在だし、比較的ジミめな土木構造物の中にあって、華やかな外見を持つものが少なくありません。最近のコンクリート橋のシャープで無駄のないデザインも美しいけれど、木や石や鉄(鋼)でできた古い橋の構造美もすばらしい。全国の橋を巡り、写真を撮ってブログやSNSにアップする"橋梁マニア"の方々もたくさんいらっしゃいます。ドボク探検倶楽部第3回は、橋の魅力を味わう見方をご紹介します。
渡るだけでは気づきにくい"イケメン橋"の横顔
橋って、そもそも渡るためのものですよね(←当たり前)。
でも、のほほんと渡ってしまうと、せっかくの橋の美しさや迫力を味わい損ねてしまうことがあるんです。なぜなら、形式によっては、肝心な部分が橋の下に隠れていたりするからです。
橋は、路面の位置によって「上路式」「中路式」「下路式」に分類されます。通路が橋の上面にある「上路式」と呼ばれる形式のアーチ橋などは、残念なことに、一番の見どころであるアーチ部分が路面の下にあるので、橋の上からはほぼ見えません。横から見て初めて、「アーチ橋だったのか!」と気づくことも多いのです。
じゃあ、どうしたらいいでしょうか。
川に架かっている橋ならば、隣の橋まで行って、そのまん中からお目当ての橋を見る。そうすると、橋の横顔が見えます。「えっ、毎日渡っていたあの橋、横から見るとこんなにカッコよかったんだ!」と驚くかもしれません。たとえば、いつも向かい合って座っていた恋人といい雰囲気になって、夜中にふと目が覚めたとき、隣で眠る彼または彼女の横顔を見てはっとする、あの感じです(笑)。
橋を愛でるのにオススメなのが、ダム湖など湖の周遊道路をドライブすること。道なりに走っていけば、対岸にある橋の横顔が自然に目に入ってきます。ただし、運転にはくれぐれも注意してくださいね。橋をじっくり見たければ、安全な場所に車を停めて。橋のディテールを観察するには、双眼鏡があればベストです。
橋のカタチや形式に明確な理由あり
"ドボたん"こと私ミカミは昨年、橋マニアのみなさんに、東京・奥多摩湖の橋巡りツアーに連れて行っていただきました。小河内ダムの貯水池である奥多摩湖には、ダム建設の資材運搬のために1930年代~50年代に架設された形式の異なる橋がたくさんあり、まさに橋の展示場。
橋の代表的な構造形式には、アーチ橋、桁橋、吊り橋、斜張橋などがあります。これらは、橋にかかる力をどのように支えるか、その方法による分類です。この構造形式と、先ほどの「路面の位置」、そしてコンクリートか鋼かなどの材質によって、橋の外観に個性が表れます。
奥多摩湖の橋の多くは、下路式または中路式の鋼アーチ橋です。周遊道路が低いところを通っているので、橋桁から水面までの距離が短く、アーチ部分が橋桁の下にくる上路式では無理だったからです。現地へ行ってみると、たしかに、橋の下にはあまり大きな空間がありません。これで上路式にしたらアーチが水没しちゃうよね、というのがよく分かります。
橋に限らずどんな土木構造物もそうですが、必ずその形式が選択された明確な理由があるはず。それが分かると、橋を眺める楽しみがいっそう広がります。橋を見に行くならぜひ、橋本体だけでなく、地形と形式の関係や、周囲の風景との調和なども観察してみてはいかがでしょうか。
※記事の情報は2019年5月21日時点のものです。
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【PROFILE】
三上美絵(みかみ・みえ)
土木ライター
大成建設で社内報を担当した後、フリーライターとして独立。現在は、雑誌や企業などの広報誌、ウェブサイトに執筆。古くて小さくてかわいらしい土木構造物が好き。
著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員。
建設業しんこう-Web 連載「かわいい土木」はこちら https://www.shinko-web.jp
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