【連載】ドボたんが行く!
2019.09.17
三上美絵
「地球の窓」とレトロ建築が魅力のまち、秩父
遊びは創造の源泉。どんなことから「遊び」が見出せるか、そこに本当のクリエイティビティがあります。このドボク探検倶楽部、略してドボたんは、さまざまな土木構造物を愛でるコーナー。第 5回は「秩父」。東京から2時間ちょっとで行ける秩父には、自然とレトロな建築物がたくさん。ドボたんならではの視点で、秩父の街をご紹介します。
ダイナミックな地球の胎動を感じる岩畳
東京から手軽に行ける観光地として人気上昇中のまち、埼玉県の秩父。ドボク探検倶楽部、略してドボたん的な見どころの一つは、長瀞(ながとろ)渓谷の地形や地質の面白さです。なかでも秩父鉄道長瀞駅からすぐのところにある「岩畳」は、川岸に平らな岩の層が広がる独特の景色で有名。地球の"中身"が見えちゃってるということで、「地球の窓」と称されています。
窓から顔を覗かせているのは、結晶片岩という変成岩。太平洋の海底に堆積した玄武岩や石灰岩、チャートなどが、海洋プレートの沈み込みによって日本列島の地下へ押し込まれ、高圧を受けてミルフィーユ状になったものです。この結晶片岩が、地殻変動によって地表に現れたのが岩畳というわけ。
地表に出た結晶片岩は、地下の土圧から解放されて一気に膨張し、垂直にヒビ割れてしまいます。岩畳の景観は、平らな層がこの垂直の割れ目に沿って剥がれ落ちてできたのです。秩父の地層は、古くは約3億年前の古生代からの堆積物。遠い南洋から気が遠くなるほどの時間をかけて運ばれてきたと思うと、なんだかクラクラします。
100歳超の鉄道橋が現役
長瀞ライン下りの舟に乗ると、対岸の地層も間近に見ることができます。さらに! ライン下りでは、秩父鉄道荒川橋梁の下をくぐるコースがあるのです。花崗岩とレンガをウェディングケーキのように積み重ねた橋脚がとってもキュート。荒川に架かる橋では最も古く、1914年(大正3年)に架けられた100歳超の橋ですが、現役でがんばってます。
秩父鉄道は上長瀞までは荒川の左岸を通っていますが、この付近は地盤が軟弱であったため、橋を架けて鉄道を右岸側へ渡し、秩父へと通したのです。つまり、このドボかわいい橋梁が生まれた理由にも、地質が関係しているのですね。
レトロでモダンな建物がたくさん
さて、ドボク探検倶楽部のメンバーとしては、ダイナミックな地球の営みのほかにぜひとも観賞したいのが、秩父神社の参道「馬場通り」のレトロな商店街。長瀞駅から電車で20分ほどの秩父駅が最寄りです。大正末期から昭和初期に建てられた商店や医院などの建物がたくさん残っていて、建築好きにはたまりません。
さらに、私ミカミが秩父で最も驚いたのは、秩父駅の隣の御花畑駅から10分ほど歩いた羊山公園のふもとにある「ちちぶ銘仙館」の建物でした。銘仙とは平織りの絹織物で、秩父の伝統工芸品。大胆な柄のおしゃれ着が大正から昭和にかけて大流行したそうです。
訪れる前は銘仙の資料館としか意識していなかったのですが、実際に門をくぐり、目の前に現れた建築の素晴らしさに息を呑みました。どっしりとした玄関ポーチはドイツ表現派風。基礎部分などに大谷石が使われているところは、帝国ホテルの設計者として知られる20世紀建築界の巨匠、フランク・ロイド・ライトの建築を連想させます。
このモダンな建物は、1930年(昭和5年)に秩父絹織物同業組合が資金を出して地元の工務店に建てさせたもの。秩父地域の繊維産業の振興を目指して、埼玉県の工業試験場を誘致したといいます。重厚な設えからは、建て主のなみなみならぬ熱意が伝わってきます。
ちちぶ銘仙館は、秩父の観光スポットを紹介するサイトなどには必ず登場するものの、たいていは銘仙が主役。2001年に国の登録有形文化財に登録された名建築ながら、建築物自体はその実力のわりに、あまり注目されていないように思えます。でも、だからこそ、予想外の出合いの感動が生まれたのかもしれません。
地球が覗ける長瀞渓谷や、秩父神社前のレトロ商店街、そしてライト風建築のちちぶ銘仙館。見どころ満載の秩父は、ドボク・ケンチク大好物!というあなたにこそ、ぜひ味わってほしいドボたんエリアなのです。
※記事の情報は2019年9月17日時点のものです。
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【PROFILE】
三上美絵(みかみ・みえ)
土木ライター
大成建設で社内報を担当した後、フリーライターとして独立。現在は、雑誌や企業などの広報誌、ウェブサイトに執筆。古くて小さくてかわいらしい土木構造物が好き。
著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員。
建設業しんこう-Web 連載「かわいい土木」はこちら https://www.shinko-web.jp
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