【連載】大人が楽しめる傑作ゲームたち
2023.10.03
野安ゆきお
大傑作「ゼルダの伝説 TotK」とインディーズゲーム「LIMBO」――久しぶりにやるならこの2本
ゲームは子どもの頃以来やっていない、そんな大人にこそ遊んでほしいゲームを、ゲームジャーナリストの野安ゆきおさんに厳選して紹介してもらいます。プレイすることで脳トレになったり、創造力を高めるのに役立ったり。楽しいだけじゃないゲームの世界に触れてみませんか。腕が鈍っていても、初心者でも大丈夫。いざ、最新ゲームの世界へ!
「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」ギネス記録を達成した大傑作
ゲームをあまりやったことがない人でも「ゼルダの伝説」というゲームソフトの名を聞いたことがあると思います。「ゼルダの伝説」は、任天堂が開発・発売しているシリーズ作品(初代作品は1986年に発売)で、その最新作が「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」(以下、ゼルダの伝説 TotK)です。
「ゼルダの伝説 TotK」のすごさを語るには、データを示すだけで十分かもしれません。2023年5月に発売されると、3日間の販売本数が1,000万本を突破。これはギネス世界記録として正式に認定された大記録です。その後も勢いは衰えず、2023年6月末までの販売本数は1,851万本に到達。ゲームの歴史を塗り替えるスピードで大ヒットしています。
この爆発的ヒットの理由は、2017年に発売された前作「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」にあります。これは同年の全世界のゲーム賞を総なめにし、多くのゲームメディアから史上最高のソフトとまで激賞された大傑作。
映画でたとえるならば、米アカデミー賞やゴールデングローブ賞などの主要映画祭を総なめにし、さらにはカンヌ・ベネチア・ベルリンなどのアート系作品を選出する映画祭などもすべて制覇したようなもの。空前絶後の称賛を浴びたソフトです。
「ゼルダの伝説 TotK」は、そんなゲーム史に残る大傑作の続編にあたります。もし、あなたが久しぶりに本格的なゲームをプレイしようと思っているのなら、これほどふさわしいゲームはありません。
これまでの人生で得た経験・知識がゲームの攻略に活用できる
プレイヤーは本作の主人公「剣士リンク」となり、広大なハイラル王国を守るために冒険し、平原、砂漠、山岳地帯、熱帯地方、雪国など、多種多様な地域を駆け巡ります。これぞ、まさしくザ・テレビゲームと呼ぶべき作品、王道のアクションRPG*1です。ぜひ動画をご覧ください。
*1 アクションRPG:キャラクターを成長させて冒険を重ねていくロールプレイングゲーム(RPG)と、戦闘シーンで操作のタイミングなどが考慮されるアクションゲーム的な処理、隠された謎や仕掛けを見つけていくアドベンチャーゲームの要素が備わったもの。
ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム 2nd トレーラー
この動画を観ると、上級者向けゲームなんじゃないか、と感じる方もいるかもしれませんが、まったく心配いりません。上級者にとっては痺れるような緊張感が味わえるゲームではあるのですが、同時に、さほどゲームに慣れていない人も、ちゃんと心から楽しめてしまうのが「ゼルダの伝説 TotK」のすごいところなのです。
でも、どうしてゲームが上手くなくても楽しめるのか? 大袈裟に言うならば、これはプレイヤー自身が人生で得た知識や経験、アイデアを活用できるゲームだからです。
ゲームに出てくる、魔物(モンスター)との戦いを例に説明しましょう。もし、あなたが歴史好きならば、戦国武将の合戦を参考にすればいいのです。例えば織田信長が「桶狭間の戦い」でやったように、雨天の夜に奇襲をかけましょう。ハイラル王国には常に時間が流れ、夜になると魔物たちは寝てしまいます。天候も次々に変わり、雨天時はこちらの気配に気づきにくくなります。雨天の夜に忍び寄る→「ふいうち」攻撃をくり返せば、魔物の群れを楽々と殲滅(せんめつ)できるのです。
中国史が好きなら、「三國志」の「赤壁の戦い」の諸葛亮(しょかつりょう)を参考にしてみましょう。戦いの場に大きな板を持っていけばいいのです。これで魔物が放ってくる矢を受け止め、それを回収します。大量の矢が手に入りますから、それで逆襲することが可能になります。
ハイラル王国では、朝には日が昇り、夜には日が沈みます。そこには風が吹き、水が流れ、火を起こせば上昇気流が発生する――といった具合に、現実世界とまったく同じ物理法則に支配されています。だから現実世界の戦いと同じような戦略が、すべて実現可能になるのですね。
歴史上の有名な戦い方だけではありません。映画や小説、コミックなどで見たことのある「有利な戦い方」も、すべて実践できます。高台から岩を転がして魔物を押しつぶしてもいいし、風上から草原に火を放って魔物を焼き尽くしてもいいし、遠距離から大砲を撃ちまくってもいい。このゲームには戦い方の正解はなく、すべてはプレイヤーの自由なのです。
どうでしょう? ゲームの腕前がさほど必要ないことが理解していただけたでしょうか。これまでの人生経験、そして知識やアイデアさえあれば、ゲームの腕前不足はカバーできるのです。これぞ、大人こそ楽しめるゲームといえましょう。
創造力が生きるアイテム作り。魔物を倒す重機制作も可能
色々なものを「くっつける」ことも可能です。この世界にあるものすべてが、ただの障害物ではありません。道端に落ちている小さな石も、木の棒に「くっつける」とハンマーになります。これで堅い鎧に守られている魔物を倒せるようになる、といった具合です。
川を渡りたいときはどうすればいいか。大地に生えている木を切り倒して丸太を作り、それらをくっつけて筏(いかだ)を作ればいいのです。そこに扇風機(と呼ばれるアイテム)をくっつけて動力にすれば簡易モーターボートの完成です。扇風機がないなら、かわりに大きなタイヤをつけて、そのタイヤに木の板をくっつけてみましょう。これで外輪船が作れます。
いっそ乗り物を作らなくてもいいです。何本もの丸太を縦にくっつければ、長い棒が作れます。これを橋にして川を渡ることも可能です。巨大なバネ(と呼ばれるアイテム)を斜めに設置して、バネの勢いで川を越えてしまってもいいですね。
数百にものぼるアイテムを、それぞれ「くっつける」ことが可能であるため、世界中にいるプレイヤーの中には、想像を絶するモノを作る人も出てきています。ミリタリーが好きなプレイヤーは、砲台やレーザーを装備した戦車や装甲車、さらには爆撃機のようなものを作り、ハイラル王国の魔物を叩き潰しているようです。重機の知識がある人は、ブルドーザーやショベルカーのような乗り物を作り、魔物を谷底にまとめて突き落としながら冒険しています。
いかがでしょう? こんなに自由度が高く、自分自身の人生経験を活用できるゲームを、あなたは体験したことがありますか? ぜひ、自分だけの攻略法で魔物を倒し、ハイラル王国の平和を取り戻してください。とてつもなく楽しいゲーム体験が、あなたを待っています。
急いでプレイする必要なし。至福の100時間が待っている
最後に、いくつかアドバイスを送ります。
「ゼルダの伝説 TotK」はオープンワールド*2と呼ばれるゲームです。ゲーム序盤のチュートリアルが終わると、あとは自由に行動できます。東西南北どこに向かってもいいため、あまりの自由度の高さに、ゲームに慣れていない人は戸惑うかもしれません。そんな時は「プルア」と呼ばれるキャラに会い、そのアドバイスどおりの順序で冒険しましょう。これが初心者向けのルートとなります。
*2 オープンワールド:ゲーム内の仮想世界において、移動的制限がなく、プレイヤーが自由に探索し、目的に到達できるように環境設計されたゲームを指す。明確な定義はないが、日本ではつなぎ目(マップの切り替え処理)の無いシームレスなマップを指すことが多い。
また、ゲームのボリュームがとてつもないことになっていて、一般的なプレイヤーはクリアまでに100時間くらいかかります。「この週末に没頭して、一気にクリアしよう」といった覚悟で挑んでも、絶対にクリアできません。週に数時間ずつ、のんびりとプレイする計画を立てておいてください。
ゲームに行き詰まったら攻略サイトを見てしまいましょう。とりわけゲーム序盤で迷ったときは、任天堂公式サイト内にある「冒険の手引き」がオススメです。ゲームはすべて自力で解きたいんだよ――といった信念をお持ちの方もいるでしょうが、意地を張るのはやめましょう。これは100時間くらい楽しめる大ボリュームのゲームなのですから、何度か攻略情報に頼ったくらいでは、面白さは0.1%も損なわれません。
なお、ゲームの腕前はさほど必要ないとは書きましたが、まったくのアクションゲーム初心者であるならば、それなりに苦労はするかもしれません。ゲームに慣れるまでは、とにかく魔物から逃げることを心がけましょう。このゲーム、魔物を倒さなくても主人公がどんどん強くなりますので、逃げることを恥に思う必要はありません。
さあ、これで準備は完了です。あとは世界一と称される大傑作を、心ゆくまで体験してください。あなたの人生経験が豊富であればあるほど、とびきりの楽しさを味わうことができるはずです。
ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム 3rdトレーラー
発売から10年たっても色あせない。あまりに独創的な傑作「LIMBO」
続いて紹介するのは、北欧産の傑作ゲーム「LIMBO(リンボ)」です。
ここ10年くらい、ゲーム界では世界各国から新進気鋭の個人クリエイターが次々と出現するようになりました。PCの性能が上がり、ゲームのオンライン販売の仕組みが整ったため、才能ある個人がゲームを作り、在庫管理などを考えずに販売できるようになり、ビジネスとして成立しやすくなったのです。
その結果、大手企業が巨大な予算を投じて作る大衆向けゲームとは一線を画すような、独創的なゲームが世界中から出てくるようになりました。とりわけ北欧や東欧など、大資本のゲーム企業が存在しないような国・地域からは、才能あるクリエイターが独立独歩の精神で作ったインディーズ系ゲームが次々に出てきています。「LIMBO」は、そんなインディーズ系ゲームの先駆けとなった、デンマークの作品です。
その魅力は、言葉で説明するよりも、動画を見ていただいた方がいいかもしれません。
LIMBO - Trailer
いかがですか。すべてが淡いモノクロームで描かれた、その独創的な世界に心惹かれませんか? ゲームのストーリーは明示されず、主人公の名前も、その目的も、なにひとつ描かれません。これが現実なのか、それとも夢の中での出来事なのか、何もわからないまま、ただ不穏な世界を進んでいくゲームです。
しかし、そんな不穏な感覚に包まれたままのプレイ体験は全世界に絶賛され、世界中のゲームクリエイターに大きな刺激を与えました。いまでは大手ゲームメーカーが、薄暗い世界を少年少女が冒険するゲームを作るようになり、世界中に「LINBO系ゲーム」と呼ぶべき作品群が生まれました。ひとりの天才クリエイターが作ったゲームが全世界に刺激を与え、ひとつのジャンルが作られたのです。
みなさまには、そんな新ジャンルの元祖となった作品「LIMBO」を、ぜひともプレイしていただきたいと思っています。きっと心を奪われるに違いありません。がんばれば数時間でクリアできますし、各種ゲーム機だけではなく、PCやタブレット、スマートフォンでもプレイ可能です。久しぶりにちょっとゲームでもやってみようかな、と考えている方にはピッタリです。
悪夢のようなモノクロの世界は終わることなく延々と続く
ゲームのルールはシンプルです。右へ右へと進んでいくだけでいい。ただしゲーム中にテキストはまったく表示されませんし、細かなゲームのプレイ方法すら説明されません。すべて「自分で体験して、たくさん失敗しながら正解を見つけていく」ことになります。
そう説明されると、ゲームマニアしか楽しめない上級者向けソフトだと感じるかもしれませんが、ご安心ください。いざプレイすると、まったく戸惑うことはありません。コンマ数秒のタイミングでの忙しいボタン操作などは求められませんので、ゲームが苦手な人でも大丈夫です。
ただ、心の準備だけはしておいてください。あなたは、いきなり死にます。たくさん死にます。トラバサミを踏み、巨大なクモのような生き物の脚に串刺しにされ、崖から落ち、水に沈んで溺死し......と、3~5分おきに死ぬことになります。「LIMBO」は死ぬことで学習し、次は死なないようにがんばるという、「死にゲー」と呼ばれるジャンルのゲームでもあるのです。
序盤は、そんな人ならぬモノたちがいる薄暗い森を、がんばって進んでいきましょう。いずれ人間と出会えます。主人公と同じような背丈の子どもたちです。ああ、よかった......と安心しそうになりますが、いえいえ、ここからがゲームの本番です。この人間たちもまた、主人公の妨害をしてくるのです。クモなどの魔物たちよりも、はるかに悪意に満ちた妨害に見舞われます。そう。この世界では、魔物よりも、人間の方がはるかに邪悪なのです。こうして悪夢のような世界は、さらに悪夢らしさの度合いを増していくのです。
さて、ゲームの中身についての説明はこのくらいにしておきましょうか。次に何が起きるのか? どんな不穏さが待ち受けているのか? 何も知らないまま、ドキドキしながらプレイしてこそ、このゲームは強く楽しめるからです。ゲームの展開を事前に明かしてしまうのは、「LIMBO系ゲーム」では最大のマナー違反でしょう。興味を惹かれた方は、ぜひ自身の手でプレイしてください。
LIMBO Concept Trailer
【ご紹介した作品詳細はこちら】
対応プラットフォーム:Nintenso Switch
販売元:任天堂
2023年5月21日発売
対応プラットフォーム:Nintendo Switch/PlayStation4/PC/スマートフォンなど
販売元:PLAYDEAD
2010年7月21日発売
※記事の情報は2023年10月3日時点のものです。
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【PROFILE】
野安ゆきお(のやす・ゆきお)
ゲームジャーナリスト。ファミコン時代からゲームライターとして活動開始。プレイしたゲームの本数は1,000本を超える。ゲーム雑誌記事執筆のほか、100冊を超える攻略本を編集・執筆。現在はフリーランスのゲームジャーナリストとして活動中。子どもの頃、海外を転々とした経歴があるため、異文化になじむのが得意。1968年東京生まれ。
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