ブックフォールディングで独自の世界を創造する

アート

D. Hinklayさん ブックフォールディング・折り紙クリエイター〈インタビュー〉

ブックフォールディングで独自の世界を創造する

本のページを折ってさまざまな作品を生み出す「ブックフォールディング」のクリエイター、D. Hinklay(ディー・ヒンクレイ)さん。作品のモチーフは、文字や数字、動物、地図など幅広く、国内外を問わず多くの人々を魅了しています。今回はインタビュー取材に伴い、アクティオがレンタルする建設機械のひとつ「バックホー」のオリジナル作品を作っていただきました! D. Hinklayさんのアトリエにて、ブックフォールディングを作り始めたきっかけ、作品へのこだわり、今後の展望などをうかがいました。

子どもの頃は折り紙のプロになりたかった

アトリエに飾られたブックフォールディングの作品アトリエに飾られたブックフォールディングの作品


自作のレゴ、紙で作った多面体、フィギュアなどが並ぶ棚自作のレゴ、紙で作った多面体、フィギュアなどが並ぶ棚


――ブックフォールディングのみならず、折り紙やレゴなどたくさんの造形作品に囲まれていて、ロマンが詰まったアトリエですね。ものづくりへの興味は子どもの頃からあったのですか。


レゴは小さい頃から好きで、今もその延長で作っていますし、折り紙は小学2年生の時から大好きでした。誕生日に父に頼んで、折り紙の本を買ってもらってよく作っていました。


当時、1枚の紙を切らずに折るだけでドラゴンなどの複雑で精緻な作品を作る、神谷哲史(かみや・さとし)さんという折り紙作家に憧れていました。エルメスのショーウインドーに神谷さんの折り紙作品が展示されていると知って衝撃で。正直、折り紙ってそんなことができる次元にあるものだと思わないですよね。たかが折り紙でもそんなところまでいけるんだと驚き、それを見て自分も将来は折り紙のプロになろうと思っていました。ただ動物など形のある精緻な作品を作るのは、ちょっと難しくて諦めちゃったんですけどね。


――小学生の頃、オリジナルの作品を作ることはありましたか。


この原型(下の写真)は自分で考えて作っていました。小学生の時にオリジナルで作った作品はこれだけです。具体的なモチーフや名称があるわけではないですが、連続する形が好きだったんですよね。折り紙に限らず、レゴで同じブロックを規則的に並べて「かっこいい形だな」と眺めたり。こういうよく分からないものを作るのは昔から好きでした。


紙を折るだけで作った多面体。横に広げると球体のように丸くなる。小学生の時にこの原型を作っていたという紙を折るだけで作った多面体。横に広げると球体のように丸くなる。小学生の時にこの原型を作っていたという




ネットでブックフォールディングと出合い、世界一になれそうだと思った

D. Hinklayさん作「アクティオのバックホー」。東京・日本橋にあるアクティオ本社1階のレンサルティングスタジオにて撮影D. Hinklayさん作「アクティオのバックホー」。東京・日本橋にあるアクティオ本社1階のレンサルティングスタジオにて撮影


――そこからブックフォールディングに出合ったきっかけは何だったのですか。


大学4年生だった2013年、かっこいい作品がまとめられている本がないかなと、ネットで「art book」などと検索していたら、まさかの本を使った海外の作品がたまたま出てきて、「何だこれ! すごいな」と思ったのが最初の出合いですね。


当時の僕は就職活動を一切していなくて、ただ「何者かになってやる!」という野望だけがありました。ネットでその作品を見た瞬間、折り紙のノウハウもあったので作り方が何となく分かったのと、世界一になれそうだなと思ったので作り始めました。段階を踏んで仕事にしていったというより、初めから「これだ!」と決めてやり始めた感じです。


――まさに運命の出合いですね。教本がないところからのスタートだったと思いますが、どのように作り始めたのですか。


初めて見た時に何となく作り方は分かったものの、その思いついた理論が正しいかを実証しないといけなかったので、まずはテストとしてアルファベットの「O(オー)」を作ってみました。すると理論は合っていたのですが、全然きれいじゃない。これは測って作らないとだめだなと気づき、2回目から測るようにしました。そこからはだいたい何の形か分かるくらいのものが作れるようになっていましたね。


――その後どうやって作品が注目されていったのでしょうか。


最初にFacebookで何となく作品を投稿したら、別のSNSに勝手に転載されていて、その投稿がすごく伸びていたんですよ。それを見て「もしかしたらいけるのかな」と思って、Instagramを始めたら最初の1カ月ほどで300人くらいフォロワーができ、「もしかしたらもっといけるかも」と徐々に確信めいた思いが湧いてきました。そうして作品を投稿し続けるうちに、さらにフォロワーが増えていきました。


ブックフォールディング・折り紙クリエイター D. Hinklayさん


――HinklayさんはオフィシャルサイトやSNS、YouTubeなど、作品を紹介する際は全て英語で発信しています。海外を対象にしようと決めたのはなぜですか。


日本語で発信すれば広まるのは早いかもしれませんが、1億数千万人しか相手にできないわけです。それなら、英語で発信した方が確実に広がっていくし、言葉の関係ない世界で戦える。分母の大きさから考えると、日本に腰を据える意味はないなと思っていました。あと元々海外が好きなので、そこでリスペクトを得られたらうれしいというのもあります。




ページを切らず、折るだけで作る。みんなが思う前提を覆したい

――制作の際にこだわっていることはありますか。


絶対にページを切らないということは決めています。それは昔から折り紙をやっていたという経験が大きいですね。折り紙って1枚の紙を切らずにどこまで表現できるかというのがセオリーなので、必ず切らずに作ります。作品を初めて見た人は、切って作るのが前提のように思っている方が多いのですが、その前提を僕は覆したいんです。みんなが思っているよりすごいよって。


また、世界観としても難しさとしても、人が作らないようなものを作るようにしています。ブックフォールディングというと、だいたいの方が「結婚式に良さそう」とか「ギフトにいいね」と言うし、実際に作る方も「A♡B」「LOVE」とかを作っている方が多いんですよ。ただそれってみんなが思いつくことだし、誰かがやっているのであれば僕はやる必要はないと思うんです。僕はみんなが思うブックフォールディングの世界観から出たものを作りたい、自分の世界観に持っていって、みんなに認識してもらいたいと思っています。


ブックフォールディング・折り紙クリエイター D. Hinklayさん


――作品のアイデアはどんなところから生まれるのですか。


作品自体には深い意味はなくて、フォルムの美しさに重きを置いて作っています。散歩中に思いつきでアイデアが浮かんでくるって感じですかね。


――例えば紙を折って多面体の作品を作るとき、こういう形を作ろうと思ったら、すぐに作れるものなのですか。


散歩中にこの形を作りたいなというのがパッと思い浮かんで、そのアイデアを忘れないうちに家に帰って、折り紙で「この下の角はどうやって出せるかな」って研究して組み合わせていくようなイメージです。天才みたいにサッと作れるわけではないですね。


1つできると応用が効くので、前に作った作品のAの要素、ここはBの要素が使えるよねっていうのを組み合わせると結構慣れてきます。どう折ったらどんな形ができるかというのが、100%は当たらないのですが、何となく見えるんですよ。動物とかだと領域が違うのでできませんが、幾何学的な連続する形であれば、何となくあたりをつけることはできます。


壁には、大きな紙を折って作った多面体が並ぶ壁には、大きな紙を折って作った多面体が並ぶ


――あたりをつけられるというのが、素人には分からない世界です(笑)。ブックフォールディングの場合は、イメージをどのように形にするのでしょうか。


作る対象が決まったら、デザインラフを作り、折る場所を1ページずつmm単位で全部エクセル表にまとめて、その通りに印を付けていきます。その印に合わせて折っていくという作業です。最初にイメージできるのはそれが作れるか作れないかということと、何もない空間を作るのは難しいなとか、それくらいです。


ブックフォールディングの制作工程。①デザインの下絵を描く ②折る場所を1ページずつmm単位でエクセル表に入力する ③表に沿ってページに印を付ける ④印に合わせて折るブックフォールディングの制作工程。①デザインの下絵を描く ②折る場所を1ページずつmm単位でエクセル表に入力する ③表に沿ってページに印を付ける ④印に合わせて折る


――今まで作った中で、お気に入りの作品は何ですか。


お気に入りは1つもないです。どの作品にもいい点と悪い点があるし、僕が気に入るかどうかって関係がなくて、僕が満足したところで誰も幸せではないからです。誰かがこの作品を見て、何かを感じて初めて作品に意味が生まれるので、僕は自分で作品にお気に入りをつくらないようにしています。




創造を続けるためには、やめないことが大事

――AktioNoteは「創造と革新」がテーマですが、創造を続けていくために大切なことは何だと思いますか。


やめないことだと思います。たとえくじけても、そこでやめたら終わりですから。やめたら「夢かなわなかったね」で終わっちゃうけど、くじけそうになったけど立ち上がって1年後、その時の想像の100倍成功したら、くじけてもくじけたことにはならないじゃないですか。やめないことが、創造を続けることや生きていく上では大事なのかなと思います。


――ご自身も、これまで挫折したことはあったのですか。


1年ほど前、Instagramに認証されて公式マークが付きフォロワーが8万人くらいいたのですが、そのアカウントが乗っ取られてしまったんです。1,000枚ほど写真や動画を投稿していたのですが、1日30枚くらいずつ向こうの手によって削除されていくんですよ。アイコンの写真が謎の外国人になったり、いくら払ったら返してやると脅迫されたりして。


その時は本当に辛くて、全てをやめたいなと思いましたが、自分が立ちたかった階段はここじゃないって思い出して、新しいアカウントを作って一念発起し、またこうして声をかけていただけるようになりました。


ブックフォールディング・折り紙クリエイター D. Hinklayさん




どれだけ活躍の場を広げられるかが、僕のゲーム

――Instagramアカウントの再開設から約1年、今ではフォロワーが16万5,000人(2022年10月7日時点)と、前のアカウント以上に増えていますね。今年は日本で書籍を2冊出版されました。作品への反響についてはどのように受け止めていますか。


僕が目指しているゴールに対して、今達成している内容って1%未満なんです。かなえたい未来があるから、ここで評価をいただいている場合でもないというか、今の反響に対しては「まぁそうだよな」と思います。どこかへ買い物に行きたいのに、靴を履いただけで「すごいね」って言われている感覚です。今はまだスタートラインに立つ準備ができたくらいだと思っています。


――なかなか自分に厳しいのですね。では、Hinklayさんがうれしいと感じるのはどんなときですか。


今までにない現象が起きたときがうれしいですね。例えば、初めて売れたという経験をした後、次に「10作品まとめて買いたい」という方が出てきたり。段階がステップアップしていく瞬間が、自分がレベルアップできているなって感じられてうれしいです。


――目指しているゴール、かなえたい未来とはどんな未来なのでしょうか。


まだブックフォールディングを知らない人の方が圧倒的に多いので、「ブックフォールディングって言ったら、あれのことだよね」くらいにみんなが知っている、当たり前になる世界を目指しています。ブックフォールディングを1人でも多くの人に広めたい。そして広めた上でどれだけ活躍の場を広げられるかが、僕のゲームなんですよ。


子どもの頃に憧れていた神谷さんのように、エルメスのようなハイブランドショップのショーウインドーに作品を飾るというのが昔から目標としてあります。僕の作品がどこまで活躍できるのかというのが、これからの楽しみです。


D. Hinklayさん作、「アクティオのバックホー」とともに。自身のSNSやYouTubeでもよく見せるこのポーズは「悪魔の角」を表している。好きなバンド「Slipknot(スリップノット)」に倣ったポーズだというD. Hinklayさん作、「アクティオのバックホー」とともに。自身のSNSやYouTubeでもよく見せるこのポーズは「悪魔の角」を表している。好きなバンド「Slipknot(スリップノット)」に倣ったポーズだという


――みんなが思うイメージ、固定観念を覆したいという思いが強いHinklayさん。サングラスにキャップ、ハンカチで顔を覆った風貌にも独創性が表れています。作品も風貌も、ほかにない独自の世界観を貫くことで、"創造と革新"が生まれていると感じました。いつかハイブランドショップでHinklayさんの作品が飾られる日を楽しみにしています!



【ブックフォールディング「アクティオのバックホー」ができるまで】


「アクティオのバックホー」ができるまでの制作過程を動画にしました! 早送りのタイムラプスでお届けする「Short Version」と、分かりやすく工程を追った「Long Version」の2種類があります。ぜひご覧ください!



▼Short Version



▼Long Version



■著書


ブックフォールディング"猫" この本を折ると猫ができる!

「ブックフォールディング"猫" この本を折ると猫ができる!」
出版社:KADOKAWA
発売日:2022年6月15日



折って飾れる! 勇気と希望を贈る言葉 そのままブックフォールディングになる本

「折って飾れる! 勇気と希望を贈る言葉 そのままブックフォールディングになる本」
出版社:学研プラス
発売日:2022年7月21日


※記事の情報は2022年10月11日時点のものです。

  • プロフィール画像 D. Hinklayさん ブックフォールディング・折り紙クリエイター〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    D. Hinklay(ディー・ヒンクレイ)
    2013年、大学4年生の時にブックフォールディングの制作を始める。幼少時から折り紙に興味を持っていたことから、独学で制作。折り紙の技法を尊重しており、作品制作においてページを切ることや、刃物を使用することは一切しない。唯一の方法は本のページを折るだけである。独創性、芸術性など海外メディアを中心に高く評価され、作品は40カ国以上の個人宅や店舗でアートとして飾られている。

    D. Hinklay オフィシャルサイト
    https://dhinklay.com/
    オンラインショップ「OruFun」
    https://www.orufun.com/
    Twitter
    https://twitter.com/DHinklay
    Instagram
    https://www.instagram.com/d.hinklay
    YouTube
    https://www.youtube.com/channel/UCbBDwLzqtGifyc_zJL9Q1ww/featured

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