ソリストとしてリサイタルシリーズを22年続けている理由

音楽

森下幸路さん 大阪交響楽団首席ソロコンサートマスター〈インタビュー〉

ソリストとしてリサイタルシリーズを22年続けている理由

大阪交響楽団首席ソロコンサートマスターの森下幸路さんは、浜松フィルハーモニー管弦楽団でもコンサートマスターを務めるなど多忙を極めつつも、ソリストとして96年から毎回テーマを設けて挑むリサイタルシリーズを継続しています。森下幸路さんのインタビューVol.2ではその旺盛な演奏活動の源について聞いてみました。

バイオリンのための名曲を演奏するのは使命。

――コンサートマスターのお仕事と並行してソリストとしても活発に活動されています。多忙な中、ソリストとしても演奏活動をするのはどうしてでしょうか。

クラシックにはたくさんの名曲があります。オーケストラ作品ももちろん重要ですが、バイオリンのため書かれた作品もたくさんありますし、そこには演奏されるべき素晴らしい名曲もたくさんあります。ですからバイオリニストとしては、それを弾かないわけにはいかないのです。私が通った桐朋学園大学は、ソロでの演奏に重きをおいた教育をしていたこともあり、バイオリンの名曲を演奏することは私の使命だと思っていて、それでリサイタルシリーズを毎年開催しています。

バイオリンのための名曲を演奏するのは使命。


――リサイタルシリーズは96年から毎年開催しているんですね。


1年だけお休みしたことがありましたが、それ以外は毎年やっていて、今年で22回目でした。毎年上野の東京文化会館と仙台、そして第12回からは京都でも開催しています。毎年やるという課題を自分に課して、自分の首を締めているわけですが(笑)、なんとか続いています。

――コンサートマスターだけでも重責なのに、22年もソリストとしてリサイタルを続けるのは大変ですね。

1年なんてあっという間ですよ。終わったらすぐに次のプログラムを考えなきゃいけない。たとえば今日はベートーベンをオーケストラで演奏しましたが、やっぱりベートーベンっていいな、リサイタルシリーズでもまたベートーベンをやろうかなとか、何かの機会にラテン音楽を聴けば、ピアソラをやりたいなと思ったり、そんな風に日常の中からプログラムを決めているうちに、すぐ次のリサイタルになってしまうんです。

日常の中からプログラムを決めているうちに、すぐ次のリサイタルになってしまうんです。


ストラディバリウスは、弾くたびに新たな発見がある。

――ところで最近森下さんは、世界的なバイオリンの銘器を使い始めたと聞きました。

そうなんですよ! 銘器であるストラディバリウスをある方から貸与いただいて、使い始めました。バイオリニストにとってこれほど名誉なことはなく、現世の運は全て使い果たしたんじゃないかと思うぐらいです。ストラディバリウスには個体に名前がついているものが多く、これはラインハルトという名前がついています。1680年製で、以前はドレスデンのオーケストラの方が所有されていました。

ストラディバリウスは、弾くたびに新たな発見がある。
――ストラディバリウスの音色は、やっぱり全然違いますか。

やっぱりスーパー・バイオリンだね、ストラディバリウスっていうのは。全く違う。全てがクリアです。それと弾いている私の耳元ではなく、むしろ遠くに響きます。「遠鳴りする」と言うんですけどね。だから弾いていると心許ないな、と思うんだけど、客席にはばっちり届きます。不思議だよね。この楽器は1680年製だから、バッハが生まれるよりも前に作られたわけで、ベートーベンやモーツァルト、シューマン、ブラームスの初演の音を知っている楽器だと思うんですよ、年代的にも。実際に弾いてみると、歴史を感じるというか、昔の巨匠の音がします。

――「ストラディバリウスは鳴らしにくい」という話を聞いたことがあります。

たしかに鳴らすのは大変なバイオリンです。だからいまさらですが、練習時間が増えました。でも弾いていて楽しいですよ。いまだに弾くたびに発見があります。

――これでまた新鮮な気持ちでバイオリンに取り組める、というわけですね。

はい。新たな女房をいただいたという感じ? あっ、言い方がよくないですね(笑)。でも、このストラディバリウスは10年間貸与していただける予定です、ということは、毎年続けているリサイタルシリーズもあと10年は頑張れ、ということだと思います。

※使用楽器は将軍堂(株)(H.Hiruma)の貸与Antonius Stradivarius,1680※使用楽器は将軍堂(株)(H.Hiruma)の貸与Antonius Stradivarius,1680




団員が「今日もよかったね」と言いながら舞台袖に帰ってくるとき、コンサートマスターをやっていてよかったと思う。

――最後にもう一度、コンサートマスターのお話をお聞かせください。今後コンサートマスターとしてどんなことをやっていきたいですか。

最近やっと作曲家に対して、どういう風な意図で彼はこのオーケストラ作品を書いたんだろうということを、若干考える余裕が出てきましたので、作曲家のことを考えながら、オーケストラプレイヤーとして、またコンサートマスターとしてのリーダーシップのありかたを、私の人生の徳として積んでいきたいなと思っています。

団員が「今日も良かったね」と言いながら舞台袖に帰ってくるとき、コンサートマスターをやっていてよかったと思う。


――コンサートマスターをやっていてよかった、と思うときはありますか。


コンサートマスターって、いつもオーケストラ全体に気を配って演奏しているわけですが、時々オーケストラ自身が意思を持ったように、自然と美しい演奏をしてくれるときがあるんです。そのときは責任から開放されて、純粋に演奏する楽しさが味わえます。あとは苦労の方が多いかな。でも、たとえばリハーサルやゲネプロで、本番どうなっちゃんだろう、と不安に思うときでも、この大阪交響楽団は、本番になれば、みんなの集中力とチームワークで乗り越えられる力を持っています。本番が終わって「今日もよかったね」ってみんなで笑いながら舞台袖に帰ってくるときは、毎回、大阪交響楽団でコンサートマスターをやっていてよかったと思います。


オーケストラの演奏会の本番を見るだけでは垣間見ることができないコンサートマスターの役割は、想像以上に大きなものであることがよくわかるインタビューでした。オーケストラの演奏会を見に行ったときは、ぜひ指揮者のすぐ左隣でオーケストラを見事にリードしていくコンサートマスターにご注目ください。


※記事の情報は2019年5月31日時点のものです。


Vol.1はこちら



■森下幸路 演奏スケジュール

2019年6月15日
ストラディヴァリウスの響き [pdf:1.4MB]
会場:長野市 竹風堂 大門ホール

2019年6月22日
浜松フィルハーモニー管弦楽団
会場:アクトシティ浜松(中ホール)

2019年6月28日
アンサンブルガブリエル
会場:宇都宮短期大学長坂キャンパス須賀友正記念ホール

2019年11月21日
大阪交響楽団 第234回 定期演奏会
会場:大阪 ザ・シンフォニーホール

2020年4月5日
森下幸路リサイタル
会場:東京文化会館小ホール


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  • プロフィール画像 森下幸路さん 大阪交響楽団首席ソロコンサートマスター〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    森下幸路(もりした・こうじ)
    京都市生まれ。4歳よりバイオリンを始め、幼少を米国で過ごし、小林健次、田中千香士、江藤俊哉 アンジェラ夫妻、三善晃 等の各氏に師事。桐朋学園大学を経て米国シンシナティ大学特別奨学生としてドロシー・ディレー女史に学ぶ。94 年、リサイタルデビューを果たし絶賛された。96年からリサイタルを東京と仙台でスタート、京都も加わる(本年が22回目)。97年にはスペインのセヴィリアでのリサイタルをはじめ、2011年より北ドイツ音楽祭(ドイツ)毎夏、13年からたびたび台湾に招かれ、そして14年にはガーク音楽祭(オーストリア)にも出演。15年にはバルカン室内管弦楽団のゲストコンサートマスター、18年にはモスクワにソリストとして招かれた。2000年まで仙台フィルコンサートマスター。現在は大阪交響楽団首席ソロコンサートマスターおよび浜松フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターの任にある。CDは「La vie」「esprit」
    ※レコード芸術誌特選盤、「彩り」、「夕べのうた」、「夢」、「カンタービレ」、「ブエノスアイレス組曲」をリリース。2013年より大阪音楽大学特任教授を務めている。
    ※使用楽器は将軍堂(株)(H.Hiruma)の貸与Antonius Stradivarius,1680

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