Singers came from Osaka & Hyogo~極私的 大阪・兵庫出身の唄うたい12選【後編】

【連載】創造する人のためのプレイリスト

音楽ライター:徳田 満

Singers came from Osaka & Hyogo~極私的 大阪・兵庫出身の唄うたい12選【後編】

クリエイティビティを刺激する音楽を、気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドする「創造する人のためのプレイリスト」。前編に引き続き、ジャズ、ブルースなど多様な音楽文化が育まれた大阪や兵庫にルーツを持つアーティストたちの音源を紹介します。

東京に住んでいるので、盛り上がっているのかどうか今ひとつよくわからないのだが、現在開催中の大阪・関西万博。そして執筆している時点ではプロ野球セントラル・リーグの首位を快走する阪神タイガースと、関西圏は今年の(例年の?)猛暑のようにアツい。


そこで今回は、そんな大阪府および、お隣の兵庫県出身ヴォーカリストを特集(京都や奈良、滋賀など他府県出身者はまた別の機会に)。「なんであの人がいない?」「なぜあの曲がない?」などのご意見もあろうが、「極私的」ということで、ひとつお許しを。ほな、行きまひょか。



〈目次〉

  1. 香西かおり「大阪の女(ひと)」(1991年)
  2. PUFFY「これが私の生きる道」(1996年)
  3. UA「ミルクティー」(1998年)
  4. EGO-WRAPPIN'「かつて..。(Live)」(2001年)
  5. ゴスペラーズ 「新大阪」(2003年)
  6. ソウル・フラワー・ユニオン「満月の夕(ゆうべ)」(1995年)

7. 香西かおり「大阪の女(ひと)」(1991年)


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ここからしばらくは女性アーティストが続く。前編で紹介した「大阪で生まれた女」や「スウィート・ホーム大阪」に限らず、大阪を歌った歌は、よく知られた「大阪ラプソディー」(1976年)や「浪花恋しぐれ」(1983年)をはじめ数多あるが、カバーしたアーティストの数という意味では、この「大阪の女」が最上位に来るのではないか。


というのも、そもそもこの曲のオリジナル(1970年)を歌ったのはザ・ピーナッツ。作詞が橋本淳(はしもと・じゅん)、作曲が中村泰士(なかむら・たいじ)というポップス畑の作家たちによる楽曲。演歌調ながらどこか垢抜けているのも、カバーしたいと思わせる理由の1つなのだろう。


カバーした歌手を挙げると、有名どころだけでも、いしだあゆみ、海原千里・万里[うなばら・せんり、まり、海原千里は現在の上沼恵美子(かみぬま・えみこ)]、小林幸子(こばやし・さちこ)、坂本冬美(さかもと・ふゆみ)、園まり(その・まり)、テレサ・テン、天童よしみ(てんどう・よしみ)、都はるみ(みやこ・はるみ)などがおり、意外なところでは小野リサ(おの・りさ)も洒落たアレンジでカバーしている。


面白いのが、「大阪の女」でありながら、大阪生まれの女性歌手が歌っているのは、この香西かおり(こうざい・かおり)くらいだということ。大阪のイメージが強い都はるみは京都市生まれ、天童よしみも大阪府八尾市出身ではあるが、生まれは和歌山県田辺市である。


これは1991年7月、初のリサイタルとなった大阪厚生年金会館(現・オリックス劇場)でのライブ音源。出身地のことはさておき、どこか儚げなイメージのある香西かおりに、この歌はよく合っていると思うのだが、いかがだろうか?

8. PUFFY「これが私の生きる道」(1996年)


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来年の2026年でデビュー30周年を迎えるPUFFY(パフィー)。「アジアの純真」でデビューした1996年5月当時、誰がここまで続くと予想しただろうか。しかし、彼女たちの地位を不動にしたのは、同年10月リリースの、このセカンド・シングルだろう。


初期のビートルズ(The Beatles)を思い切り意識したサウンドと、PUFFYを「脱力系」の元祖たらしめた歌詞が年齢・性別を問わず広く支持され、156万枚という大ヒット。デビュー曲のプロデューサーであり、本作では作詞・作曲・編曲・演奏まで手がけた奥田民生(おくだ・たみお)のプロデュースがまんまと当たったわけだが、今、改めてこの歌詞を見ると、30年前のこの国で、若い女性たちが置かれていたポジションも浮かび上がってくる。これは男性である奥田がPUFFYの(当時の)立ち位置や、本人たちが「感じていそうなこと」を想像しながら書いたものだろうが、だからこそPUFFY本人たちはもちろん、多くの女性たちにも共感されたのではないだろうか。


なお、よく知られていることだろうが、吉村由美(よしむら・ゆみ)は大阪府寝屋川市、大貫亜美(おおぬき・あみ)は東京都町田市の出身。この、大阪と東京のコンビというのも、PUFFYが長続きしている理由の1つだと思う。あと蛇足ではあるが、この「これが私の生きる道」というタイトルは、植木等(うえき・ひとし)の「これが男の生きる道」(1962年)のパロディであることに、今回ようやく気がついた。

9. UA「ミルクティー」(1998年)


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PUFFYより1年前の1995年にデビューしたのがUA(ウーア、大阪府吹田市出身)。つまり、UAは今年がデビュー30周年である。


PUFFYとは違った意味で、UAの登場も衝撃的だった。同年6月のデビューシングル「HORIZON」と2ndシングルはチャートインしなかったが、1年後の4thシングル「情熱」が大ヒットし、筆者もそこで存在を知った。何が衝撃だったかというと、これがクラブ・カルチャーから出てきた音楽だったからだ。


クラブ・カルチャーの源流は1970年代後半の「ディスコ」だが、1990年代前期に、より音楽のジャンルを絞り、DJがレコードを「スクラッチ」して客を踊らせる「クラブ」が主に都市部で流行。筆者もたまにそうしたクラブに出かけていたので、その雰囲気は知っていた。生のドラムスではなく打ち込みのリズムが用いられた「情熱」は、そのクラブの「音」がオーバーグラウンドに出てきた、という印象だったのだ。もちろん、ほぼ全作で手がけているUA自身による歌詞や、けだるいわけでも元気はつらつでもない、独特のヴォーカルが強いインパクトだったことは言うまでもない。


今回紹介するのは、1998年2月にリリースした9枚目のシングル「ミルクティー」。その前年に初めての子どもを出産したこともあってか、この楽曲にはそれまでにない、穏やかで優しいUAの一面が見える[作曲とプロデュースは「情熱」同様、朝本浩文(あさもと・ひろふみ)]。当時、新進写真家として注目されていたHIROMIX(ヒロミックス)が監督した、このオフィシャル・ビデオには、そんなUAの愛くるしい表情がよく捉えられていると思う。

10. EGO-WRAPPIN'「かつて..。(Live)」(2001年)


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EGO-WRAPPIN'(エゴ・ラッピン)は1996年の結成なので、やはり来年で30周年となる。共に大阪府出身であるヴォーカルの中納良恵(なかの・よしえ、大東市)とギターの森雅樹(もり・まさき、堺市)によるユニットで、「『ムード歌謡』の系譜」で紹介した「色彩のブルース」(2000年)がヒットした後も、関西を中心に活動を続けていた(現在は関西と東京に拠点を置いている)。


筆者も何度かライブに足を運んでいるのだが、地元の関西ではもちろん、東京でも大阪弁のままで話す中納のMCが愛らしく、完成度の高い演奏の間でのいい息抜きにもなっている。


そのライブで特に人気を博し、定番曲となっているのが、この「かつて..。」。スタジオ・バージョンはアルバム「満ち汐のロマンス」(2001年5月)に収められているが、ここではその半年後にリリースされたシングル「〜Midnight Dejavu〜 色彩のブルース」に入っている、同年7月に録られた新宿リキッドルーム(2004年に閉店)でのライブ・バージョンを紹介したい。


演奏全体はもちろんだが、特に「そしてこの曲......」という中納の語りに始まり、ソプラノ・サックスのソロに入っていく導入部から、ソロが終わって全員が演奏に加わるまでの約2分間は、スリリングさも相まって、とても素晴らしい。

11. ゴスペラーズ 「新大阪」(2003年)


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前編で紹介した「大阪で生まれた女」は、東京へ行くという男性に女性がついていくという歌詞だったが、大阪と東京は、今では新幹線で3時間もあれば着いてしまう距離となった。だからこそ、遠距離恋愛という恋愛の形が珍しくなくなったのだが、離れたところに住んでいるという「心の距離」の存在は、特に若者にとってはその気持ちの本気度が試される、高いハードルとなる。それは、恋距離恋愛を経験した人間にしかわからないものかもしれないが。そんな遠距離恋愛をテーマにしたのが、この「新大阪」である。


ゴスペラーズは1994年、シングル「Promise」でデビューしたが、アカペラ・グループという存在がなかなか一般に浸透せず、大ヒットした「ひとり」(2001年)までは7年という長い道のりを経験している。この「新大阪」は23枚目のシングルで、リーダーである村上てつや(むらかみ・てつや、大阪府吹田市出身)による作詞・作曲[曲は妹尾武(せのお・たけしとの共作)]。最終の新幹線で帰る恋人をプラットホームで見送る、車中で相手の好きな音楽を聴きながら思いを寄せるなど、細やかな情景が表現された歌詞と、洗練されたコーラスワークが、恋の切なさを見事に表現している。

12. ソウル・フラワー・ユニオン「満月の夕(ゆうべ)」(1995年)


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締めは迷うことなく、この曲に決めていた。


ソウル・フラワー・ユニオン(SOUL FLOWER UNION)の楽曲として最も知られており、さまざまなジャンルのアーティストにカバーされている「満月の夕」である。


ソウル・フラワー・ユニオンは、それまで別個に活動していた中川敬(なかがわ・たかし、兵庫県西宮市出身)率いるニューエスト・モデルと、伊丹英子(いたみ・ひでこ、三重県出身らしい)らによるメスカリン・ドライブが統合し、1993年に結成。その音楽性を一言で語るのは難しいが、古今東西のさまざまな音楽と楽器を融合させたロック、という表現が近いかもしれない。


この「満月の夕」は、1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災を受け、中川が地元でもある被災地の現状やそれに立ち向かう人々の姿から歌詞をつくり、ヒートウェイヴの山口洋(やまぐち・ひろし)と共に作曲(なので、ヒートウェイヴによるバージョンもある)。同年10月にリリースされたシングル・バージョンでは中川の弾く三線のほか、アコーディオンやお囃子、太鼓なども入っており、鎮魂という意味合いとともに、明日への希望や生きる力が湧いてくるような、不思議な感動が呼び起こされる。


なお、YouTube動画は、別ユニットながら重複メンバーも多いソウル・フラワー・モノノケ・サミットによる1999年の野外ライブ。個人的にはドラムスの代わりにチンドン太鼓や西アフリカ起源の太鼓、ジャンベが加わったこちらのバージョンの方が好きだが、聴いていると、改めて中川のヴォーカリストとしての表現力に感じ入る。


※記事の情報は2025年8月8日時点のものです。

  • プロフィール画像 音楽ライター:徳田 満

    【PROFILE】

    徳田 満(とくだ・みつる)
    昭和映画&音楽愛好家。特に日本のニューウェーブ、ジャズソング、歌謡曲、映画音楽、イージーリスニングなどを好む。古今東西の名曲・迷曲・珍曲を日本語でカバーするバンド「SUKIYAKA」主宰。

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