周防正行監督 | コロナで「映画」の定義が決定的に変わるかもしれない Part1

MAY 14, 2021

周防正行さん 映画監督〈インタビュー〉 周防正行監督 | コロナで「映画」の定義が決定的に変わるかもしれない Part1

MAY 14, 2021

周防正行さん 映画監督〈インタビュー〉 周防正行監督 | コロナで「映画」の定義が決定的に変わるかもしれない Part1 1992年の「シコふんじゃった。」では日本アカデミー賞最優秀作品賞を、そして1996年の「Shall we ダンス?」では日本アカデミー賞13部門をはじめ、様々な映画賞を総なめにした映画監督の周防正行さん。2019年には成田凌さんが初主演を務めた「カツベン!」がヒットを記録しました。そんな周防監督に映画作りについて、そしてアイデアや創造性の源泉について、3回に分けてお話をうかがいました。最初はコロナ禍における映画作りや映画のあり方について。

Part2Part3 はこちら

コロナ禍で映画制作のための対面取材が難しくなりました

――コロナ禍がなかなか収まりませんが、周防監督としてはどんな面に影響が出ているのでしょうか。


(新型コロナウイルスが流行し始めたのが)ちょうど「カツベン!」が終わって次の作品の構想段階でしたから、撮影への影響はありませんが、それ以降、取材は大変やりにくいですね。会って直接お話を聞きたい人がいても、なかなか会いに行けません。僕が構わないとしても、相手のことを考えるとなかなか行きづらい。例えば高齢者で遠くにお住まいの方にお話を聞きたいんだけど、コロナが収まるまでは会いに行けないと思っています。


それと問題は人だけでなくて、例えば国会図書館に行くのも予約制なんですよ。そんな感じで企画の段階でも今までのようなペースでは取材も進められなくなっています。


――周防監督の作品はアマチュア相撲や舞妓さん、活動弁士など、私たちが全く知らない世界のプロの姿を見せてくれて、大変興味深いのですが、そういう映画を作るためには念入りな取材が欠かせないですよね。


そうなんです。もちろん本を読んだり、映像を見たりもしますが、僕は割とたくさん取材をする方で、最終的にはその世界で生きている人たちの言葉を生で聞きたいんですよ。それがコロナ禍で思うようにいかないのが現状です。


――映画の構想にはどのくらいの時間がかかるのですか。


ものによりますが、僕の場合「シコふんじゃった。」や「Shall we ダンス?」は取材に1年、映画撮影までに2年はかかっています。刑事裁判の実状を描いた「それでもボクはやってない」では準備に3年かかりました。


映画監督 周防正行さん



――「それでもボクはやってない」はテーマが法律や裁判などに関わって複雑だからですか。


この映画は痴漢冤罪事件の報道を見て興味を持ったのがきっかけですが、私がおかしいと感じたことの裏側にはいろんな事実があって、これが大事なんです。例えば法律の成り立ちですね。なんでこういう法律があるのかという背景までも勉強しなければいけないわけで、そうなるとやっぱり3年ぐらいはかかってしまいます。


それでもボクはやってない



一方、シナリオライター(脚本家・演出家の片島章三氏)が脚本を書いてくれた「カツベン!」では、私は撮影準備段階からの参加でした。撮影の準備をしながらの勉強ということで、自分で書くときほど時間はかかっていない。それでも無声映画時代のことなどは知りませんから、いろいろ勉強しなければならなかったですね。


カツベン!




散歩で壁投げができる公園を見つけたのはうれしかった

――お仕事以外の日常ではどんな変化がありましたか。


歩くことが増えたのと、自分で料理をするようになったのが、大きな変化です。外食産業の時短要請でレストランが早く終わりますよね。今、妻(女優の草刈民代さん)は仕事ですごく忙しいのですが、稽古や劇場での出演が終わると夜9時や10時になるでしょう。そうするともう外では食べられないんです。それで僕が夕食を作って待っているんですよ。おかげで料理のレパートリーもすごく増えました(笑)。


――監督はもともと料理をされる方なんですか。


ほとんどしてきませんでした。朝のサラダや自分用の昼食は作っていましたけど、夜は妻が時間が空いていればやるし、時間がなければ外食だったので。自分がこんなに料理をするようになるとは思いませんでしたが、これはこれで結構楽しんでます。


――歩くのが増えたのは運動不足解消ですか?


はい。草野球でピッチャーをしているんですけど、ほとんどの試合がコロナで中止になっているんですね。年齢的にも今運動をしておかないとできなくなるという焦りがあって、散歩でいろいろな道を歩きまわっていたら、壁投げできる公園を見つけたんです。今どきはなかなかボール投げできる公園も少ないので、見つけたときはうれしかったですね。真面目に真剣にトレーニングしなきゃと思っています。


――周防監督が草野球でピッチャーをされているのですか!


はい。中学時代に肘を壊すまでは野球部でした。今やっているのは映画会社のチームで、監督特権乱用でピッチャーをやらせてもらっています。本当だったらシニアリーグの年齢ですけどね(笑)。


ピッチャーとして活躍する周防監督(写真提供:周防正行)ピッチャーとして活躍する周防監督(写真提供:周防正行)




映画の撮影制作にもコロナ禍の影響が

――音楽や演劇はコロナで壊滅的な打撃を受けていますが、映画業界もコロナの影響を大きく受けているのでしょうか。


やはり今は大変です。撮影となるとまずはPCR検査です。今、妻はテレビの撮影と舞台をやっていますが、見ていると2週間に1回ぐらいはPCR検査受けているかな。それぞれの制作会社が検査を条件にするので家にしょっちゅう検査キットが届いています。僕の方も昨秋、大崎事件という再審事件の証拠製作で映像を作ったんです。鹿児島まで行って撮影しましたが、スタッフ全員でPCR検査を受けました。


あと、問題は演技のときのマスクですね。リハーサル中は役者さんもマスクをしていますが、本番はマスクできないわけですよ。じゃあ、エキストラの人たちをどうするか。10年前の話を撮るなら、エキストラがみんなマスクをしているのは変なんですよね。逆に現在の話だったら、みんなマスクをしていないとおかしい、ということもあります。この前の宮藤官九郎さんのドラマでは、みんながマスクをしています。そういう風にちゃんと意識している人はいる。だけど今の話のはずなのに、全く無視しているドラマもあるので、そのあたりは考え方でしょうか。ただ撮影現場自体はやっぱり人が多く集まるので、細心の注意が必要です。


©2019「カツベン!」製作委員会©2019「カツベン!」製作委員会


――映画の制作現場はどうしても密になってしまいますよね。


映画の制作の現場は、みなさんが考えているよりずっと多くのスタッフがスクリーンの外側にいるんです。だからコロナ対策はなかなか大変です。業界でのガイドラインができ、ちゃんと衛生管理のスタッフを設けるようになっていて、衛生管理スタッフが消毒や換気など環境に注意をしてくれています。




映画館で見る映画と、家で見る映画と

――コロナ禍は現場だけでなく映画館にとっても打撃ですよね。


映画館は密で、しかも換気が悪いイメージがあるのかもしれませんが、実際にはみんな前を向いて黙って見ているし、映画館もいろいろな対策をして換気にも気をつけています。映画館でクラスターが起きた話も聞きません。とはいえ今、別の意味でも映画館が大変な時期であることは間違いないと思います。コロナ禍より前、映画の撮影がフィルムからデジタルへ移行した時点で、劇場や映画館の概念が変わること、そして映画の定義が変わることは必然だと思っていました。


劇場や映画館の概念が変わること、そして映画の定義が変わることは必然



――その「映画の定義」とは何でしょうか。


今までの映画の定義とは「スクリーンにフィルムを投影してみんなで見るもの」でした。でも映画館がフィルム上映からデジタル上映に移行し、ビデオやインターネット配信も増えてみんな家で見たり、スマホの画面を1人で見ている。いわゆるホームシアターです。コロナ以前から映画の定義は既に変わりつつあって、それがコロナ禍で加速しているというのが私の認識です。


――今後映画はホームシアターで見るものになるのでしょうか。


昔みたいに「ちょっと時間があるからふらりと映画館に入ろうかな」というような映画の見方はなくなって、今後家で見るものと映画館で見るものとのすみ分けが明確になってくると思います。ホームシアターはいかに映像や音を充実させるかが重要でしょうし、映画館での上映はイベント化するなどして、映画館に行かないと楽しめないものが中心になるでしょう。


――最近は映画を上映しながらオーケストラがサウンドトラックを生演奏するといったイベントも増えていますね。


そういった試みも1つの例だと思います。今後は映画館ならではの体験、音響効果、イベント性などの「特別感」を作れないと映画館が存続するのは厳しいと思います。


――ただ、映画の定義が変わったとしても、映画館で見る作品もホームシアターで見る作品も映画は映画なんですよね。


メディアが変わっても、やっぱり映画は映画だと思います。


――ありがとうございました。次回は「それでもボクはやってない」「カツベン!」など周防監督が手掛けた映画作品についてお話を聞かせてください。



Part2へ続く

  • プロフィール画像 周防正行さん 映画監督〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    映画監督。1956年生まれ。東京都出身。立教大学文学部仏文科在学中、映画評論家の蓮實重彦の講義を受けて感銘したのをきっかけに映画監督を志し自主映画を製作し始める。高橋伴明監督に志願し電話番からキャリアをスタート。助監督として年間10本以上の作品に参加し高橋伴明監督はもとより若松孝二監督、井筒和幸監督らの作品にも参加。その後「スキャンティドール 脱ぎたての香り」で1984年に脚本デビュー。同年、小津安二郎監督にオマージュを捧げた「変態家族 兄貴の嫁さん」で監督デビュー。異彩を放つこの作品で注目の人となる。1989年、本木雅弘主演「ファンシイダンス」で一般映画監督デビュー。修行僧の青春を独特のユーモアで描き出し大きな話題を呼び、再び本木雅弘と組んだ1992年の「シコふんじゃった。」では学生相撲の世界を描き、第16回日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。1993年、映画製作プロダクション・アルタミラピクチャーズの設立に参加。1996年の「Shall we ダンス?」では、第20回日本アカデミー賞最優秀賞13部門独占受賞。同作は全世界で公開され、2005年にはハリウッドリメイク版も制作され、2013年には宝塚歌劇団が舞台化した。2007年公開の「それでもボクはやってない」では、日本の刑事裁判の内実を描いてセンセーションを巻き起こし、キネマ旬報日本映画ベストワンなど各映画賞を総なめにし、2008年、第58回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。2011年6月に発足した法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」の委員に選ばれる。同年には巨匠ローラン・プティのバレエ作品を映画化した「ダンシング・チャップリン」を発表。銀座テアトルシネマでロングランヒットを記録。2012年「終(つい)の信託」では、終末医療という題材に挑み、毎日映画コンクール日本映画大賞など映画賞を多数受賞。2014年の「舞妓はレディ」では、個性的な歌と踊りとともに京都の花街を色鮮やかに描き出し、2018年には博多座で舞台化され好評を博した。
    2016年、紫綬褒章を受章。2018年、立教大学相撲部名誉監督就任。2019年より「再審法改正をめざす市民の会」共同代表としても活動。最新作は、映画がまだサイレント(無声)だった大正時代に大活躍した活動弁士たちを描いた「カツベン!」(2019年公開)。

    《主な著書》
    ◎小説・エッセイ・ノンフィクション
    ・ シコふんじゃった。(1991年 太田出版/1995年 集英社文庫)
    ・ Shall we ダンス? 周防正行の世界(1996年 ワイズ出版)
    ・ Shall we ダンス?(1996年 幻冬舎/1999年 幻冬舎文庫)
    ・ 「Shall we ダンス?」アメリカを行く(1998年 太田出版/2001年 文春文庫)
    ・ スタジアムへ行こう!周防正行のスポーツ観戦記(2000年 角川書店)
    ・ インド待ち(2001年 集英社)
    ・ アメリカ人が作った「Shall we dance?」(2005年 太田出版)
    ・ それでもボクはやってない─日本の刑事裁判、まだまだ疑問あり!(2007年 幻冬舎)
    ・ 周防正行のバレエ入門(2011年 太田出版)
    ・ それでもボクは会議で闘う──ドキュメント刑事司法改革(2015年 岩波書店)

    ◎対談・インタビュー
    ・ 古田式(2001年 太田出版) - 古田敦也氏との共著
    ・ ファンの皆様おめでとうございます(2002年 大巧社) - 若松勉氏との共著

    周防正行ウェブサイト(株式会社アルタミラピクチャーズ)
    http://altamira.jp/suo.html

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