アート
2023.06.13
東大レゴ部〈インタビュー〉
東大レゴ部の現役部員が語るレゴ愛。憧れの部活で、仲間と情熱を共有できる喜び
子どもから大人まで幅広い層に愛されている、デンマーク発のブロック玩具「レゴ」。近年はSTEAM(スティーム)教育*の教材として取り入れる教育機関が増え、この春にはレゴグループ公認のテレビ番組「レゴRマスターズ」が日本に初上陸するなど、ますます人気が高まっています。部活として「レゴ部」を設ける学校も増えましたが、その先駆けが東京大学の学生有志が2006年に創設した「東大レゴ部」です。学業と並行しながら部活動にも精力的に取り組んでいる現役部員3名に、活動内容やレゴへの愛について語っていただきました。
*STEAM教育:理数教育に創造的な教育を加えた、分野横断的な学び。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の頭文字をとっている。
今回は、約40名いる部員の中から、鈴木悠士(すずき・ゆうと)さん、尹杰(いん・じぇー)さん、山口遥(やまぐち・はるか)さんの3名にお話をうかがいました。
大型作品は約4カ月かけて作り上げる
――まずは、東大レゴ部の活動内容について教えてください。
鈴木さん:メインの活動は、毎年5月に開かれる五月祭と11月に開催される駒場祭の2つの学園祭に向けた展示作品の制作です。個人作品と複数人で作り上げる大型作品があり、展示の目玉となる大型作品は約4カ月かけて取り組みます。
山口さん:新入生は、入部したらまずはテーマを決めて100~200パーツの作品を作り、設計図を作るためのCAD(キャド。建築物の設計図面などの作成に使うソフトウエア)の使い方に慣れてもらいます。たいていの人は受験勉強で1度レゴから離れているので、駒場祭に向けて感覚を取り戻してもらうのですが、中にはいきなり五月祭に出品する猛者もいますね。
尹さん:この数年はコロナ禍のためリアルで集まるのが難しかったので、オンラインで進捗確認をしていました。レゴの制作は、メールで簡単にCADデータをやり取りできる強みが生きました。ただ、各部員にパーツをデリバリーするのは大変でしたが......。
――大型作品はパーツ数が多くて大変そうですね......!
山口さん:大型作品は使用するパーツ数が数万に及ぶので、コスト削減のためにも、使うパーツはなるべく絞るようにしています。使うのは、流通量が多くて安い現行品のパーツが中心。廃盤パーツは流通量が少なくて高いので、避けるようにしています。
尹さん:山口さんは、レゴに関して圧倒的な知識を持っているんですよ。本当にすごいです。
山口さん:レゴの作品を作るのはお金がかかるので、「できるだけ安く」を心掛けています。レゴのパーツは、色によって値段が違うんですよ。なので、外から見えない部分には、安い色のパーツを使っています。
そのために、ここ数年の新作は全てチェックし、レゴの傾向はきちんとおさえるようにしています。レゴのホームページから説明書をダウンロードして目を通し、新しいパーツが出ていないか、ブロックの番号も確認しています。
――大量のパーツはどうやって調達しているのですか。
鈴木さん:レゴを専門としているオンラインのショップを利用しています。使いたいパーツのデータをアップすれば、そのセットを一気に買える仕様になっていて便利です。
最も時間がかかるのは設計。CADを使って各自のデザインを共有
――大型作品は約4カ月かけて準備するということですが、制作はどのような流れで進めていくのですか。
山口さん:まずテーマを決めて、設計に取りかかるのですが、全体の中で最も時間がかかるのが設計です。ここ数年の傾向として、2~3カ月かかっていますね。組み立てにすごい時間をかけていると思われがちですが、実は組み立て自体は2週間くらいで完成します。あとは、海外からの部品の調達に時間がかかりますね。
東大レゴ部の創設当初は、必要なパーツをおよそ100個単位で取り寄せて、不足したら追加注文して作っていくスタイルだったようですが、今は「4カ月で作るぞ!」と決めて、そこから逆算して発注し、制作しています。東大レゴ部として「大量生産の時代」に入ったので、計画的に進めないと追いつきません(笑)。
――組み立てよりも設計に時間がかかるのですね......! 設計はCADを使うのですよね。
山口さん:以前は方眼紙に手書きで設計図を描いていた時代もありましたが、今はCADを使っています。「STUDIO(スタジオ)」というレゴ専用のCADがあって、それを使うことがほとんどですね。
作品のスケールが大きくなると、複数人で合作しないといけないのですが、自分のデザインをほかの部員に伝えるのにもCADが必要になるんです。部全体として、2016年以降デジタル化を進めてきました。
尹さん:山口さんは、自分でもモザイク作品を作るソフトを開発したんですよ! 写真を取り込むと、自動でレゴのモザイク画に変換してくれるんです。
――学園祭での作品展示が主な活動とのことですが、合宿などはありますか。
鈴木さん:合宿ではないですが、年に2~3件、外部からの依頼案件があるので、その設営作業やワークショップなどで地方に行くことはあります。
以前、三重県でワークショップの依頼があった際に、名古屋に寄って「レゴランド・ジャパン」に行ったことがあります。アトラクションでワイワイすることはなく、ジオラマを見るだけで数時間過ごせました(笑)。
レゴ部に入りたいから東大へ
――皆さん、いつ頃からレゴで遊んでいたのですか。
鈴木さん:小学生の時には家に青いバケツ(数種類のレゴブロックが入っている基本セット)があって、遊んでいました。中学と高校ではロボットを作る部活に入っていたのですが、入部動機は「マインドストーム」というレゴです。プログラミングで動かすことのできるロボットなのですが、自分で買うには高くて手が届かないので、マインドストームを使えるならと入部を決めました(笑)。
尹さん:きっかけは5歳の時に、母の知り合いが「レゴクリエイター」(創造的な組み立て方を楽しめるシリーズ)のセットを買ってくれたことです。当時、母は修士論文を書いていて忙しかったのですが、僕がレゴで遊ぶと1日10時間くらいの驚異的な集中力を発揮したので、ちょうど良かったんだと思います(笑)。
それ以降、僕はレゴとプラモデルにはまっていきました。ほかのおもちゃはすでに出来上がっている物が多いけれど、特にレゴは自分が好きな乗り物や建設機械など、だいたいの物を自分で作ることができます。そこが面白かったです。
山口さん:レゴをやり始めたのは5歳くらいです。初めて家に青いバケツがやってきて、以来5年間、それを使って数百回は遊びました。自動車やトラックなどの乗り物を作ったり、迷路を作ってそこにダンゴムシを入れてみたり(笑)。
小学3年生の時にアメリカに移住したのですが、アメリカはレゴが普及していて、スーパーでも売られているんです。新しいレゴを手に入れて、ますますレゴに夢中になりました。
――レゴの作り方はどうやって習得されたのですか。
鈴木さん:「創作アイデアの玉手箱 ブロック玩具で遊ぼう!!」(ソシム、2008年、さいとうよしかず著)などレゴビルダーの本を読んだりして、レゴを作る上での基本的な考え方を身に付けました。
山口さん:長くいじっていることで、感覚的に分かってきた感じです。
尹さん:僕は失敗から学んできたかな。こういう組み合わせ方をすると割れちゃうんだなとか、たくさん作る中で感覚的に組み立て方を身に付けました。
――三者三様のアプローチがあって面白いですね! 東大レゴ部のことはいつ知ったのでしょうか。入りたいと思ったのは、いつ頃どんなきっかけだったのですか。
鈴木さん:近所にレゴが好きな友達がいて、その友達から有名なビルダーさんなどを教えてもらい、東大レゴ部のことも知りました。自分が興味のある学問の研究をするなら東大だと思っていたので、東大に入ったらレゴ部に入ろうというのは決めていました。
尹さん:東大レゴ部の存在を知ったのは、高校1年生の時です。「部活のお金でパーツを買えるかも」という不純な動機で、志望するようになりました(笑)。実際には、部員みんなで部費を出し合うほか、企業からの制作依頼などで部費を賄っています。
山口さん:中学進学のタイミングで日本に戻ってきた時に、東大レゴ部の存在を知り「行きたいな」と思うようになりました。東大に入る理由のだいぶ上の方にレゴ部があったので(笑)、入学後にオリエンテーションを受けてすぐに入部しました。
レゴは課題解決の連続。1つずつ課題をクリアしていくのが面白い
――実際に入部されてみて、いかがですか。
鈴木さん:東大レゴ部は憧れの存在だったので、入ることができてうれしく思っています。造形能力が高い部員が多いので、メンバーの個性を生かしながら制作するのが楽しいです。
尹さん:小さい時にレゴのことを話せる人が身近にいなかったので、レゴの話が通じる仲間ができて充実した時間を過ごせています。それから、東大レゴ部にはいろんなタイプの人間が集まっているので面白いです。大型の作品を作れるのも1つのスキルだし、小さい作品を作れるのも1つの才能だし、みんなそれぞれ技術のベクトルが違うんですよね。
山口さん:僕が入部した当時は今よりもっと部員が少なかったのですが、その頃からみんなレゴへの情熱があって楽しいですね。東大レゴ部は世間的な認知度も高くて、そのことが成長の機会を与えてくれているとも感じています。外部から「もっと大きな作品を作ってほしい」と依頼されると、自分たちだけでは考えられなかったことを学べるし、ノウハウを蓄積することができるので、ありがたいです。
――今日はそれぞれ制作した個人作品を持ってきていただきました。作品のポイントと合わせて、皆さんが感じているレゴの魅力について教えてください。
尹さん:ブロックという制限がある中で、自分が作りたい物をどうやって実現させるのかを考えるのが楽しいですね。レゴは課題解決の連続ですが、課題を1つずつクリアしていくのも面白いです。
それから、僕は形にこだわって作っています。画家である父の影響もあり、作品としての「美しさ」を意識しています。この大型宇宙船は、この尺の中でスケール感を演出するために、あえて凸凹(でこぼこ)させました。最近は最初からCADで作る人がほとんどですが、僕は最初のイメージ図であるスケッチモデルは紙と鉛筆で描いて、その次にCADを使ってレゴに落とし込むようにしています。
鈴木さん:僕も、制限があるからこそ、どう作るかに個性が出て、そこがレゴの魅力だと思っています。例えば、この赤いソファは、ポッチ(ブロックの上にある丸い突起)を隠して丸みを出し、なるべくレゴっぽく見えないように工夫しています。強度が必要な作品でもあり、シンプルに見えてテクニックが求められるんです。作りたい物や作り方を思いついたら、寝る間を惜しんでCADをいじってしまう時もありますね。
山口さん:このバックホー(ショベルカー)は、頭の中で設計図を描いて、2日くらいで作ってみました。僕は組み立てる作業が一番好きです。実際に組み立ててみて、自分で発見した技法を試してみるのが楽しいですね。
――皆さんとてもうれしそうにレゴについて語ってくださるので、こちらまで楽しい気持ちになりました。取材をしたのは土曜日。取材後、同席してくださった大学の広報の方に「休日のご対応ありがとうございました!」と笑顔でお礼を伝えている姿も印象的でした。今年の五月祭にお邪魔すると、東大レゴ部の展示は1時間待ちの大盛況。今後の作品も楽しみにしています!
※記事の情報は2023年6月13日時点のものです。
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【PROFILE】
東大レゴ部
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鈴木悠士(すずき・ゆうと、写真左)
東京都出身。東京大学理学部地球惑星環境学科4年。
尹杰(いん・じぇー、写真中央)
佐賀県出身。東京大学工学部航空宇宙工学科4年。
山口遥(やまぐち・はるか、写真右)
静岡県出身。東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻博士課程3年。
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