1台のポンプから~アクティオを創る~
2019.02.20
小沼直人
「趣味は鉄道。出張も寝台車で行きます」
創造の原点は「人」。アクティオの要である小沼直人社長の人となりをご紹介し、「人と創造」の接点を解き明かしていきます。
吹雪のなか列車を待った「撮り鉄」少年時代
――小沼社長は鉄道が趣味とうかがっていますが、いつからお好きだったのでしょうか。
たぶん、まだ乳児のころからです。自分で憶えているわけではなく後に親に聞いた話ですが、会社を起業したばかりの父は非常に多忙で、家では僕の祖父が父親代わりをしてくれていたそうです。その祖父が、僕をおんぶして、自転車で都電の荒川線を見せに行っていたんです。当時は荒川区の町屋と新三河島の間あたりに住んでいて、おんぶして行ける、子供が喜びそうなところというと都電の駅だったんですね。そこへ毎日のように僕を連れて行ったという話を聞いています。このときからすでに鉄道が好きだったのだと思います。理屈じゃなくて、ただ何となく都電が見たかったのでしょう。都電のガタンゴトンという音が、どこか自分の周波数と合ってしまったのかもしれません。
――ご自身で記憶されている思い出はどのあたりからでしょう。
小学生のとき、祖父からカメラを貰ったんです。上から覗く二眼レフカメラでした。自分であちこち出かけられる年齢になると、そのカメラを持って都電を撮りに行ってました。いまは新幹線の車庫になっていますが、昔、田端の操車場という機関庫がありました。現在だったらあり得ませんが、そのころは子供たちが勝手に入って行けて、機関士が「こっちに来い」なんて呼んでくれたりしたものです。はつかり、ひばり、やまびこ等、当時の列車の写真をいろいろ撮りはじめていました。
――今でいう「撮り鉄」ですね。鉄道模型を集めたりもしたのですか。
一時、本格的に集めようとしましたが、小学生のころ主流だったHOゲージっていうのは、とても高価だった。一台何万円もしてとても子供には買えないんです。普通の電車っていうのは6輌編成とか10輌編成なのに、僕は1輌か2輌しか持てない。そのせいかも知れないけどほどなく飽きてしまって模型はやめました。その代わり次に好きになったのが時刻表です。本当の旅行はできないけど、ダイヤグラムを見て、頭のなかで在来線の各駅停車を乗り継いで乗り継いで名古屋まで行ってみる。そういう空想トリップを楽しむわけです。いま思えば地味な趣味でしたが、これが夢中になれるんですよ。
――実際に鉄道で旅行することもありましたか。
父は仕事が忙しかったけれど、家族で旅行することはあって鉄道にも乗りました。中学生になると、自分たちだけで乗るようになります。中学3年のときに同級生と二人で越後中里まで行ったのですが、それも鉄道がらみです。新幹線に切り替わることになって、特急の「とき」がもうすぐなくなっちゃうっていうんで、撮影するのが目的でした。2月か3月でしたね。まだ上越新幹線の越後湯沢駅ができていない時代でした。他の人たちはほぼ全員スキー目的なのに、僕たちだけカメラを持って、民宿に泊まって、1時間ぐらい吹雪の中を撮影ポイントまで歩いて撮りました。
昭和57年だったと思いますが、高校生のときに、この特急「とき」の本当の最終日があって、これも群馬県の渋川まで最後の姿を撮りに行きました。宿賃がないので、東京から終電に乗って行って、渋川で降りて駅のベンチで寝て(笑)。4時ごろ起きて、線路脇を渋川橋梁まで歩きました。その大きな鉄橋が撮影ポイントなんです。11月で寒かったんだけど、1日ずっと突っ立って撮影しましたね。
――当時撮影したのはどのような写真だったのですか。
初めは、やはり機関車のクロースアップです。子供って列車を「どアップ」で撮りたいんです。でもそのうちだんだん空を入れて、山を入れて、川を入れて......風景の中の鉄道を撮りたいと思うようになってきました。
――その後も鉄道の趣味は続けられたのでしょうか。
大学生のころは一時クルマに凝っていて、鉄道の趣味は休止していました。会社に入ってからも初めのうちは仕事を覚えるのに精一杯で、趣味に向かう余裕はありませんでしたね。本社に1年間で次が新宿営業所、3年後には大阪へ行って、それから転勤族でしたから、何かと忙しくて鉄道写真の趣味はほぼ忘れていました。
実は飛行機よりも経済的な寝台車の旅
――鉄道の趣味が復活したのはいつごろですか。
2005年に結婚してからですね。いまでは仕事でも出張に寝台車を使うことがあります。寝台車は運賃が高いと思われがちですが、実は経済効率が良いんです。羽田から朝いちばん早い飛行機に乗るより、もっと早く現地に着けます。たとえば朝8時の現地での朝礼に間に合わせたいと思ったら、飛行機なら前泊しないとならない。そうなると宿代に食事代といろいろ支出することになりますから、トータルでは寝台車のほうが安いんです。
時間も節約できます。たとえば僕はよく四国の高松へ行くんですけれど、前日出発だとすると、高松行きの最終便は羽田を19時55分発で、羽田までの交通や搭乗手続きもありますから、オフィスを18時過ぎには出なくてはなりません。寝台車の「サンライズ瀬戸」なら目の前の東京駅を22時発ですから、こちらでお客様との夜の会食を終えてから駅に向かうということもできます。
――効率面の他にも、列車だからこその魅力も多いですよね。
寝台車は自分のプライベート空間になるから、ゆっくり英気を養えるのもいいですね。寝台なので乗るときは真っ暗ですが、夏は朝4時半には明るくなります。日が昇るころにちょうど瀬戸大橋を渡るんです。車窓からそういう素晴らしい景色が見えることも魅力ですよ。そして、日本では常にどこかで工事をしています。車窓から工事現場といろいろな建機が見えます。その中にはアクティオのシンボルカラーである赤い色も見つけることができます。日本中でアクティオの建機が稼働していて、完成した建物や橋梁も建設時にきっとアクティオが使われています。そう考えると我々の使命の大きさを改めて認識しますし、次代の事業イメージにも思い巡らせることができます。
――財界にも熱狂的な鉄道ファンは多いようです。鉄道の何がそこまで大人を惹きつけるのでしょう。
魅力はいろいろだと思いますが、ひとつはダイヤグラムでしょう。日本の鉄道システムの完成度の高さだと思います。これほど1分1秒単位まで正確に電車が着くのはおそらく日本だけです。昨年、展示会でヨーロッパに出かけたときにTGVに乗ったのですが、いつ出発するか誰にも分からない。添乗員さんにきくと、10分前にならないと表示が出ないということでした。TGVのような高速鉄道でさえそういう状態です。日本の鉄道は事故で遅れることはあっても、鉄道会社の間違いで遅れることはめったにありません。新幹線の車内清掃の技術もすごい。あれだけの短い時間であそこまで完璧な清掃をするシステムも素晴らしいです。日本人の気質と工夫や努力が結晶したものが鉄道だから、そこに魅力を感じるのだと僕は思います。
それに、基本的に人は動く大きなものが好きなんです。いちばん身近に見られる、動く大きな物体が鉄道でしょう。飛行機は大きいけれど近寄れません。鉄道じゃなくバスが好きな人もいる。皆さん少年時代に本能的に好きになって、いまでもそれが残っているのではないでしょうか。それから、僕の場合は音です。あの線路の繋ぎ目で生まれるリズムです。だからどちらかというと新幹線よりも在来線が好きです。祖父の背中で聞いていた都電の音が心の原風景として残っているのかもしれませんね。
――いま乗ってみたい鉄道はありますか。
僕は基本的に日本の鉄道が好きなのですが、スイスの氷河特急(グレッシャー・エクスプレス)には乗ってみたいと思っています。氷河やマッターホルンを見ながら走る鉄道です。車窓から見える山も好きなので、日本にはない山の景色を見てみたいですね。
次回は創造の源泉となる健康と発想力の維持について、アクティオ社長・小沼直人流のノウハウをお話しいたします。
「特急とき」 撮影:小沼直人(1981年、当時中学3年)
※記事の情報は2019年2月20日時点のものです。
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【PROFILE】
小沼直人(こぬま・なおひと)
株式会社アクティオ代表取締役社長COO。1966年東京都生まれ。1992年株式会社アクティオ入社。2004年取締役副社長、2007年業務本部長、2008年代表取締役副社長、2013年株式会社アクティオホールディングス取締役副社長。2017年より現職。
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