日本の美を映し出す「和ばら」で、新たな花の価値を創造する

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國枝健一さん ローズファームケイジ(株式会社Rose Universe)代表取締役〈インタビュー〉

日本の美を映し出す「和ばら」で、新たな花の価値を創造する

滋賀県守山市の琵琶湖のほとりにあるバラ農園「ローズファームケイジ」は、国内のみならず、海外からも高い評価を得ている「和ばら」(WABARA)の生産農家です。「ローズファームケイジ」(株式会社Rose Universe)代表取締役 國枝健一さんへのインタビュー【前編】では、健一さんが創造したフラワービジネスや「和ばら」誕生の背景などをうかがいました。

國枝家は3代続くバラ農家で、はじまりは1965年に健一さんの祖父が興した「國枝バラ園」から。1976年には健一さんの父、啓司さんが同園に就農。啓司さんは海外視察で学んだ技術をもとに、1981年に「バラの育種家」として活動を始めた。1993年、今上天皇陛下と皇后陛下のご結婚に際して、雅子さまに選んでいただいたバラ「プリンセスマサコ」をはじめ、オリジナル品種の創造に励んだ。

國枝啓司さんが2003年に独立し、「ローズファームケイジ」を設立。息子である健一さんは2006年からパートナーとして事業に参加している。その後健一さんが経営を継承し、現在では「和ばら」を中心に、日本国内だけではなく海外へも幅広く展開している。



華やかなイメージ、殺伐とした現場。このギャップをどうにかしたかった

ローズファームケイジ 代表取締役 國枝健一さん
――健一さんが事業に参加されたきっかけをおうかがいしたいのですが、経歴を拝見すると、学生のころサッカーに打ち込まれ、海外に挑戦もされていたのですね。

そうなんです。学生のころはとにかくサッカーで、バラのことは全く興味がなかったですね(笑)。大学在学中に、ドイツでプロサッカー選手を目指すというプログラムがあって、そのセレクションに受かったのでドイツに行きました。約一年行ったんですが、結局帰ってきて。でもどうしてもドイツにもう一度行きたくて、今度は交換留学生に応募して、またドイツに行ってサッカーばかりしていました(笑)。

――帰国されてから大学卒業後は、一般企業に入られたそうですが、それはなぜですか。

学生時代に留学した経験から引き続き海外と関わる仕事がしたいと、海外と取引のある大手企業の子会社で働きました。でもそこは半年ほどで辞めて、次に何をしようか迷いました。

もともと小さい頃から起業したいと考えていたこともあり、自分で事業をやってみたいと、何か面白いコンテンツがないかと考えた時、家業のバラ園のことを改めて見つめ直したんです。そしたら驚くほど昔と変わってなかった。祖父の代からバラ栽培農家をやっていますが、花を市場に出荷して、返ってくる伝票だけを見て、売れた、売れなかったと一喜一憂する。その光景が昔のままだったんです。

生花を扱っているので外から見ると華やかで素敵だなと思われがちなんですけど、実際は逆で、朝と夕に花を摘んで出荷する、日々同じ作業の繰り返しで、自分たちの仕事に対する評価やレスポンスが伝票だけという状況で、現場は暗く殺伐としていました。


就職して東京に住んでいたころ、お呼ばれした時やお祝い事などで、実家から取り寄せたバラを手土産に持って行くと、すごく喜ばれたんです。産地から直接届けている新鮮さもあって、長持ちすると褒めていただいたり。手渡しすることで、喜んでくださる方の感情がストレートに伝わってきて嬉しかった。

その時の高揚感と、実家の変わらない風景のギャップに、これは何かやりようがあるんじゃないかと思ったんです。それもあって、少し前に父が独立したことをきっかけに、帰って事業を一緒にやることにしました。



人の心の中の言葉にできない部分を代弁するのが花

人の心の中の言葉にできない部分を代弁するのが花
――じかに喜んだ顔が見れたというのが大きかったんですね。

そうですね。半年だけですが一般企業に勤めて、自社の商品やサービスを販売していくために、さまざまな工夫をするという経験をしたことも大きかったです。

でもバラ生産はそうではなくて、育てて市場に渡してしまえばそこでおしまいでした。そこから先は完全に委託するかたちになってしまいます。どんなお客さまが買っていったのか、良かったのか悪かったのか、これから先も需要がありそうかといった判断も難しい。既存の流通の仕組みでは、自分たちがやっていることに意義があるかどうか、本当の意味で認識できないと思いました。


――出荷したら売れても売れなくても、返ってくるのは伝票だけということなんですね。


はい。ひとたび流通にのってしまうと市場から先のお花の行方を追うのが難しく、どのような方がどんな意図で購入され、どのように販売されたのかを知らないまま、市場内での需要と供給のバランスの結果が「伝票」というかたちになります。

そうすると流通の中で良しとされる基準で花を「生産」する、ということになりますので、そのものさしの中で価値を見出さなくてはいけません。しかしながら、その価値基準が時代の流れや変化の中で、また自分たちが目指す「和ばら」のかたちとして、必ずしもエンドユーザーに伝えたいものと合致するかと言われると、特に昨今さまざまな情報があふれ嗜好性が多様化する中で差が開いていくのではないかと感じていました。

僕たちの場合は逆に、顧客に合わせるというよりは、逆に自分たちの価値観や哲学にフォーカスして花を突き詰めていく方が、嗜好性が高まる結果となると考えています。ですのでそこを強調して真っ直ぐに届ける、生産と販売の体制を整えようと考えました。


――生産と販売、その架け橋の部分を健一さんがやられているんですね。でも、農家さんにとっての直接お客さまは生花店などのフローリストで、エンドユーザーは消費者です。どちらのことを意識されているのですか。


どちらともです。流通の上位にある生産者として、フローリストに対しても、エンドユーザーに対しても、その両者に多様な価値を提案しないといけないと思っています。バラにはすごく多種多様な魅力があるのに、意外とみなさんの頭の中で画一化したイメージが浸透していると思っています。今までにないようなもっと新しい価値を創造していきたいと思いました。

――確かにバラは特別な"ハレの日"用のお花というイメージが強いです。

そこに普段使いでバラを楽しむ方法など、新しい価値や、魅力を提案していくのはすごくやりがいがあって面白いです。ちょうど僕が参加したころは、SNSやブログが盛んになり始めた時期だったので、今までは市場に集約されてコントロールされていた情報が、オープンになり自分たちで発信していけるようになった。今までと違う価値を訴求していくには、タイミングが良かったと思います。

「ばらの生体水」など切り花以外の商品開発も進めながら、「和ばら」の魅力を直接感じていただくために「WABARA Cafe」を作ったり(2019年11月10日閉店。12/1より直売所としてFarm内にOPEN予定)、ファームツアーの企画、百貨店やPOP UP STORE出店など、じかにフローリストやユーザーと触れ合うかたちで「和ばら」を知っていただく機会を少しずつ広げていきました。



「生きているばら」ならではの変化や香りを重視

「野に咲く、風にたなびくようなばらを作りたい」そんな思いで生まれた「和ばら」。健一さんの父、國枝啓司さんが手がけるオリジナルの品種は現在約60品種。野山の環境に倣い、過剰な手を加えず、育つことをバラに任せる。

特徴は花弁の柔らかさ、たおやかな茎葉、優しい中間色の花色。そして見た目の繊細さからは想像できないたくましさ。自然に限りなく近い環境で生育されることで、野に咲く草花のように、どんな空間や花種と合わせても調和を乱さない。花瓶に挿してからも刻々とうつろう表情や香りが、従来にはないバラの魅力と評価され、「WABARA roses」として世界中で人気が高まっている。

「生きているばら」ならではの変化や香りを重視
――「和ばら」シリーズのブランド誕生について教えてください。

もともと僕が生まれた1981年に父が育種を始めて、日本だけじゃなくて、世界中のお花屋さんに並ぶオリジナルのバラを作りたいというのが父の夢だったんです。「風にたなびくようなバラを作りたい」という思いで、父が長い年月をかけて育種を続けてきました。僕が事業に入ることになった時に、そんな父の想いや夢を聞いて、単に日本の、という意味だけでなく、日本語の「和」のもつ様々な意味を込めて「和ばら」と名付けました。

――名付けたのは健一さんなのですね。

そうですね。世界に通用する日本のバラにしたいという思いがありました。「和ばら」の「わ」は「和」なんですが、「和」というのは本当に、すごく意味が深い言葉だと思うんですけど、「調和する」とか「和を以て貴しとなす」といった、日本の文化や美意識の根源にある精神があると思うんです。

もちろん背景には、過剰に手を加えず、環境に対応すること、調和することを重視したバラ作りをしてきた父のこだわりがあります。

「調和する」ということは、お互いを引き立て合いながら、そのもの自体もしっかりと存在する、ということではないかと思いますので、「和ばら」は一輪でも、他の花と合わせても主張しすぎない中間色や柔らかな花形、大きさを重視して栽培しています。

和ばら
――一般的にバラというと豪華で気高い美しさが印象的ですが、「和ばら」はどこか安心できるような、丸みがあってかわいらしく愛らしい印象です。ホームページやインスタグラムを拝見すると、同じ「和ばら」の品種でも色が違っていたりすることもあるんですね。

季節とか栽培する場所によって、色が変化します。咲いてくるうちにどんどん色が変わってきたりすることもあります。外花弁と内花弁の色が違う品種もあります。そういった"生きているばら"ならではの、変化すること、香ることなどを重視しています。


※記事の情報は2019年11月19日時点のものです。


後編に続く】

取材協力:Rose Farm KEIJI
Rose Farm KEIJI

  • プロフィール画像 國枝健一さん ローズファームケイジ(株式会社Rose Universe)代表取締役〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    國枝健一(くにえだ・けんいち)
    1981年、國枝啓司の長男として生まれ、幼少よりばらに親しむ。2年のドイツ留学、一般企業での就業経験を経て、25歳で父が営む「ローズファームケイジ」に就農。その後、2014年に「株式会社Rose Universe」を立ち上げ、CEOに就任。國枝啓司が理想とする栽培環境や栽培手法の確立をサポートする。一方でWABARAの思想を体現するプロジェクトや想いを同じくするパートナーとのコラボレーションを世界各国で推進するほか、琵琶湖の再開発事業や花育プログラムの提供なども精力的に行っている。

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