【連載】イノベーション創出のためのグラフィックレコーディング
2021.04.06
三澤直加(株式会社グラグリッド)
自分の"かなえたい"をグラフィックレコーディングしてみませんか
ビジネスシーンでグラフィックレコーディングを使った事例や、イノベーション創出のためのヒントをたくさんご紹介いただいた本連載もこれで最終回となります。最後は、2021年2月に「ビジュアル思考大全」(翔泳社)という本を上梓された、ビジョンデザイナーの三澤直加さんにオンラインでグラフィックレコーディングのやり方を直接指南いただきつつ、アクティオノート編集部員が実際にやってみました。テーマは「2021年にかなえたいこと」です。
テンプレートは「ビジョンブリッジ」を使用
<参加者>
今回は以下の4名で実施。アクティオノート編集部から3名が参加し、三澤さんにオンラインでグラフィックレコーディングを指南いただきます。
三澤直加(株式会社グラグリッド代表取締役、ビジョンデザイナー)
編集部I(50代男性)、編集部S(40代女性)、編集部K(30代女性)
三澤:今日は2021年の自分の目標やビジョンを明確にする会です。かなえたいこと、目標は仕事のことでもプライベートのことでもかまいません。自分のビジョンがどんなものか、実際に手を動かして描いて、この場にいるみんなと共有して話す、今日はそこまでみなさんとできたらよいなと思っています。
使うのは「ビジョンブリッジ」という、グラフィックレコーディングに便利なテンプレートです。これは左下に自分、右上の方に未来のことを描くという位置関係で、未来へ向かって延びている道を歩いていくという配置としてはオーソドックスなタイプで、世界共通でいろんなところで使われているビジュアルのテンプレートになります。ここまで描いてあるので、ぬり絵感覚で描いていけると思います。
先に手順だけ説明しますね。
ステップ1:まず何をやるのかという、テーマをリボンのところに入れましょう。今日であれば「2021年の目標」とかですね。
ステップ2:左下に自分を描きます。自分に似せた感じで描いてみてください。今日着ている服の色にしたり、髪形を描いてみたり。
ステップ3:右上の島のところに何をかなえたいか、目標を描きます。
ステップ4:それを繋ぐ道です。マイルストーンとか目標をかなえるためのアクションを描いていきます。これを描くことで、やらなくてはいけないことがだんだん分かってきます。
ステップ5:右下には進めるにあたって大事なことを描いてみてください。
3~4色ぐらいサインペンを用意して、直接描いていただけたらと思います。自由に塗って、好きなように描いてください。リボンや島に色をつけてみたりすると気分が上がると思います。
実際にやってみる編集部員たち
編集部員が実際にトライ。ワイワイと和やかな雰囲気の中で三澤さんに質問したり、ブツブツ独り言をつぶやきながら、思い思いにペンで描きます。質問で多かったのが「目標までのマイルストーンは何を入れたらいいのか?」「何カ月ぐらいのスパンで考えればいいのか?」といった、目標までのマイルストーンの部分です。
三澤:島に行くまでに必要なマイルストーンは、例えば目標を「ダイエットをして5kg痩せる」にした場合、いつ頃から食事制限を始めるとか、ジムに入会するといった、具体的なことを入れます。自分で計画していくタイミングですので厳密なルールはありません。今年中にやることと考えると、残りは約9カ月ですよね(3月時点)。4月から6月、7月から9月、それ以降と3カ月ずつで区切ってもいいし、夏までに何kgと季節で設定してもOKです。右下の大事にしたいことは、実行する上でのポイントとか留意点ですね。注意したいことなど自由に入れてください。
いよいよ発表!
三澤:それではみなさんできたようですので、1人ずつ発表していきましょう。まずはSさんから。
編集部S:今年の目標はズバリ「英語力アップ」です。年々衰えていく英語力をどうにか頑張って向上させたい。アメリカに友だちが住んでいるので、もっと英語でカジュアルに話したいし、オンライン上でもチャットをスムーズかつスマートにできるようになりたいです。
マイルストーンは6月にTOEIC®の試験を入れました。テストで高得点を稼ぎたいというわけではなく、自分がいかにできないか、という自分の実力を知るために受けようかなと。9月頃、秋には海外の友だちとZoom飲みを決行したいです。今は中学生レベルの英語をカタコトで話す程度なので、もう少し自分に力をつけてから臨みたいです。実際に会えば身振り手振りも交えて話せるので、感情も伝わりやすいですが、Zoomとか画面越しとなるとどうしても同じようにはいかないですよね。大事にすること、ポイントはやはり継続ですね。楽しくないと続かないので、面白く学ぶための方法をいろいろ試してみています。
三澤:右上の島に亀が歩いているのがいいですね。続いてKさんいかがでしょうか。
編集部K:目標の書き方を間違えてしまったのですが、アロマテラピー検定を受けたいなと思って、それに向けて描きました。アロマ検定を受けるのは、アロマを日常的に取り入れて心に余裕を持ちたいからです。全体的に緑をイメージしました。絵が壊滅的に下手なのであらかじめイラストが描いてあるのに助けられました。試験が5月にあるので、ここでいきなり目標みたいな感じになってしまいますが、自分だけではなく、友だちや家族のためにアロマをブレンドしてあげたいので、練習して秋ぐらいにはできるようになりたいです。
大事にしたいのは、毎日アロマオイルに触れてほっとできる時間を作ること。あとは試験に向けて週に1回はテキストを開いてコツコツ勉強できたらいいな、という希望的観測で入れています(笑)。今まであまりコツコツできたことがないので自戒も込めて。
三澤:ハーブも描いてあって、全体的にアロマっぽい色合いがいいですね。次はIさんどうですか。
編集部I:人生の混沌がそのまま出ている感じで......最初に目標を3つ描いてしまいました。断捨離とか健康とか、ばらばらなことを描いたので、最終的に具体的な目標として1つに絞りました。私はトランペットをやっているので、ジャズのスタンダードを20曲吹くことを目標に設定。具体的なマイルストーンは非常にシンプルで、選曲する、楽譜を集める、そして9月にはライブハウスをブッキングしてメンバーを集める。年末のライブ直前にリハ設定という感じです。大事にすることはていねいに生きる、というめちゃくちゃなことになってしまいました(笑)。昔、ジャズのスタンダードを100曲やるっていう目標を立てたので、1年で20曲やればあと5~6年ぐらいあればいけるかなって。
三澤:なるほど。今回の主旨とは少しずれますが、100曲というその大きな目標を設定してみてもよかったですね。左下に描かれたIさんが楽しそうでいいと思います。では最後に私ですね。
私だけ真面目に描き過ぎちゃったかなと思っているんですけど、仕事面での今年の目標を立てました。私はデザイナーであり経営者でもあるので、どこかの会社さんとデザイン経営のパートナー契約を結びたいと思っています。これはしっかりセルフブランディングしないとできないと思って今年の目標にしました。
今日はオレンジの服を着ているのでオレンジに塗っています。マイルストーンは3月までに自分のやってきた実績をまとめて発信します。発信したら、誰かその情報を待っていた人を見つけて、相談に乗るという流れにしたいです。ポイントはセルフブランディングするぞ! という気合、でも欲張らずに丁寧にやっていこう、あとは自分が楽しくないと全然進まないだろうから楽しんでやっていこうと入れました。工夫したところでは、島の上にパートナーになりたいという象徴として、私と誰かが手を繋いでいる絵も追加しています。
1つの目標に絞って、欲張らずに丁寧に描く
今回編集部員がやってみて実感したことや感想を、以下に箇条書きでまとめてみました。
・目標は1つに絞らないといけない。最初に選択すること、それが何気に難しい。
・下描きナシで描く、やり直しができないため思ったより緊張感がある。そのせいで「人生はやり直しがきかない!」という名言(?)も飛び出す。
・最初に自分のキャラクターを描くプロセスが重要だと感じた。その後の目標やマイルストーンが“自分ごと”としてきちんと入ってくる。
・絵でいつまでに何をするかという道筋をつけると、何となく考えていたことが分かりやすく整理できる。
・パソコンのキーボードで文字をタイピングするだけより、手を動かすことで頭が働いている感じがする。
・色を塗ることで、やりたいことの輪郭が見えてくる。
・絵を描いて発表という形式、複数人でワイワイやるのが楽しい。1人でやっても味気ないしコッソリやり直しをしてしまいそう。
・仕事のプロジェクト単位でのビジョンとか、目標を設定するときに使えそう。議事録のテキスト代わりになりそう。
三澤:みなさんからの感想にもありましたが、まずは1個の目標、それを欲張らずに丁寧に描くことが大事です。みなさんいろんな目標を持ってらっしゃると思うんですが、一番かなえたいことを描きます。選ぶということもポイントですね。あと、今回はオンラインも交えていますが、こうして複数人で行うことで、みんなで話している間に考えが具体的になったり、クリアになったりすることもありますね。絵で描くと、今と少し先の未来がきちんと繋がっているというのも実感できると思います。描くときの色も大事です。Kさんの絵はすごくアロマが香ってくるような感じがして、ハーブの絵があることで目標としての姿がイメージできました。
また、会を実施する時間を決めておくのもポイントです。5分でやりましょう、10分でやりましょうといったふうに、短い時間の中で発表して共有すること、ちょっとしたプレッシャーがあることでビジョンや目標がいい感じにみんなに浸透していきます。
感想でも出てきましたが、今回のテンプレートは仕事のプロジェクト単位でも使えます。例えば編集部のみなさんでこの「アクティオノート」をどう運営するか、どう目標設定するか、そういったビジョンを共有するのに最適だと思います。内部だけのことにせず、広くアウトプットができるのも良いところです。アクティオノートでかなえたい目標を描いて、SNSで発信することもできます。そういうところでも、ビジュアルにする意味がありますよね。
「ビジュアル思考」を知って欲しい
三澤さんは2021年2月に「ビジュアル思考大全」(翔泳社)という本を上梓されました。その本についてご紹介いただきつつ、今年1年アクティオノートで連載されてきた感想などもうかがいました。
三澤:これまでのグラフィックレコーディングという文脈でいうと「記録」の側面しか光があたっていないのですが、この本は自分のための思考や、チームのための思考など、記録ではない部分にフォーカスしています。俯瞰する、要約する、対話する、内省する、探究する、なかなか自分1人だけでやるのは難しいことですが、仲間たちと絵を描くことで自分が見えてくる、どんどん深堀りできる、そういった部分から創造やイノベーションが生まれたり、ビジネスパーソンに必要な思考が活性化します。ただの記録ではないグラフィックレコーディングを知ってほしいと思って作りました。
ですので、本のタイトルにもあるように、グラフィックレコーディングというよりは「ビジュアル思考」なんですね。いわゆる言葉を中心に考えることとは違いますが、言葉も絵と組み合わせることで効果的に使う方法を入れています。本を購入していただくと、今回のビジョンテンプレートの他にもさまざまなテンプレートをダウンロードしてお使いいただけます。
アクティオノートの連載では、実際にいくつかのシチュエーションで私たちが行ったプロジェクトをご紹介する機会をいただいたので、私たち自身も改めて価値を捉え直すことができた貴重な体験でした。それに、昨年お話をいただいた頃は新型コロナウイルスの流行もなく、以前の普通の生活が送れていました。それがあっという間にコロナ禍になってしまい、世の中に必要とされていることがどんどん変化していったという状況があります。
その中でリモートでも絵にすることでお互い意思疎通できるんじゃないか、というのも記事を書きながら改めて思ったり、「記事がすごく分かりやすかったのでやってみました」といった声、反響もいただきました。仕事での意思疎通やビジョンの共有など、実際に会うことができなくなって困惑している人たちに、1つのやり方として提示できたのはすごく良かったと思います。短い間でしたが、お付き合いくださりありがとうございました。
※記事の情報は2021年4月6日時点のものです。
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【PROFILE】
三澤直加(ビジョンデザイナー)
株式会社グラグリッドは、デザイン思考やさまざまな手法を効果的に活用しながら、ともに戦略をつくり出す「共創型サービスデザインファーム」。「企業と、行政と、学校と、明るい未来をつくり出すためにプロジェクトに伴走する」活動を行っている。
事業戦略やブランド力の強化を支援する「ビジョンづくり」から、イノベーション創出を支援する「商品づくり」、クリエイティブな組織文化醸成を支援する「組織づくり」まで、幅広くサポート。主な事業内容は、商品企画支援、事業戦略支援、コンサルティング業務、デザイン支援、会議活性化支援、 プログラム開発、イベント活性化支援、人事育成支援、 グラフィックレコーディング、ファシリテーション、 地域交流支援、サービスデザインなど。
株式会社グラグリッド
https://glagrid.jp/
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