パーソナルスタイリスト 政近準子 | マインドが服を着る時代

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政近準子さん パーソナルスタイリスト〈インタビュー〉

パーソナルスタイリスト 政近準子 | マインドが服を着る時代

「パーソナルスタイリスト」という言葉をご存じでしょうか。スタイリストといえば、テレビや雑誌、広告などでタレントさんやモデルさんのファッションをコーディネートする仕事ですが、パーソナルスタイリストは著名人だけでなく、主婦や会社員、学生などの一般の方のスタイリングを手掛けるお仕事です。政近準子さんは2001年に日本で初めて、一般の個人を対象としたファッションスタイリングを行う「ファッションレスキュー」を設立。現在はテレビ出演や講演、書籍執筆などの傍ら、後進を指導する学校も設立するなど八面六臂でご活躍中です。パーソナルスタイリストを始めた理由や、装うことの意味、さらにコロナ禍における服飾の現状についてうかがいました。

ファッションで救われたから「ファッションレスキュー」を立ち上げた

――パーソナルスタイリストを始めたきっかけを教えてください。


もともとファッションデザイナーとして服飾の業界にはいたのですが、パーソナルスタイリストを始めるきっかけとなったのは私自身の難病です。29歳で当時不治の病と言われた難病になってしまいました。しかもお薬が合わなくて、全身がケロイドとなり、人に会えない状態になってしまい、仕事にも行けず毎日泣いて暮らしていたんです。そうしたら主人や家族まで「かわいそうだ」と泣いてしまって、ああ、自分が周りを不幸にしていると思ったんです。それでとりあえず仕事を再開しようと思いました。


それまでは何で自分がこんなめにあわなくちゃいけないんだ、鏡を見れば皮膚もただれ落ちた自分、確かに酷い状況で、人に見られることを避けていましたが、実際は自分が思っていたほど人は気にしなかったんです。自分はかわいそうだという被害妄想が強かったことに気がつきました。服を着ようとすると皮膚に張り付いて痛いのですが、それでも服を着れば気がまぎれていく自分がいました。だんだん外に出られるようになった頃、ある日病院に行くときに主人がバイクの後ろに乗せてくれたんですけど、その時急に「私は服に救われて外に出られるようになったんだ」と思い、「私、ファッションレスキューやるわ」ってバイクの後ろで言ったんです。それが始まりでした。そして2001年にパーソナルスタイリングを行うための「ファッションレスキュー」を立ち上げました。


パーソナルスタイリスト 政近準子さん


――その頃日本にはまだ、パーソナルスタイリストという職業はなかったわけですよね。


欧米には個人を対象としたスタイリングの仕事はあって、ニューヨークだったらパーソナルショッパー、ヨーロッパにも上流階級には買い物をアテンドし、アドバイスする仕事があります。でも日本では個人のスタイリングをする人はいませんでしたし、パーソナルスタイリストという言葉すらありませんでした。ですからパーソナルスタイリストを始めたときは「服を選んでもらうなら販売員さんにお願いすればいいじゃないか」とよく言われましたし、1時間1万円という料金設定をお伝えすると、「ふざけるな。ゼロ1個間違えているだろう」と電話口で怒鳴られたこともしょっちゅうでした。最初はそんな感じだったのですが、この仕事が動き始めたきっかけになったのは、保育園のママ友でした。


――保育園のママ友ですか?


子どもが通う保育園のお迎え時に、ほかのママから「もしかしてファッション関係のお仕事の方ですか? 服のこと相談に乗ってもらえたりします?」って聞かれたんです。私こんな格好で目立ってたので(笑)。「あ、それ、仕事でやろうと思ってるんだけど」って言ったら、「やってやって」って言われて。その頃の保育園のママって、公務員とか学校の先生とか、ビジネスウーマンとか、世の中でがっつり戦っていた人たちだったので、「1時間1万円で、お買い物に行ってお話をしたらざっくり5万円ぐらい」って言ったら、「プロに選んでもらえるんだったらお安いわ!」と言われました。彼女たちは子育てと仕事で、じっくり服を選ぶ時間もなく、少しお洒落からも遠のいていました。私の存在から、疲れきった日々に潤いが持てる!と感じたのではないでしょうか。




カウンセリングに力を入れるのは単なるビフォー・アフターにならないため


――ファッションレスキューでは、ショッピングのアテンド、オーダー、ワードローブの構築、ファッションコンサルティング、パーソナルブランディングなど様々なサービスを展開されていますが、特徴的なのは常にお客さまとの対話、カウンセリングを重視している点です。これはなぜですか。


おっしゃるとおりファッションレスキューでは採寸、顔立ち、体型などの診断とともにテイスト、ペルソナなどの診断にも時間をかけます。このカウンセリングスタイルも最初は想定していませんでした。当初は、わりとササッとお買い物に行っていたんです。でもあるときに気づくんですよ。これじゃあ単なるビフォー・アフターになっちゃうだけだって。もちろん素敵にはなるんです。「感激しました」とか「来てよかったです」という感想もたくさんいただきました。でも1年ぐらいして「どうですか」って連絡すると、「楽しかったです」って。過去形なんです。これでは本当のレスキューになっていないのではと思い、より深くお客さまと関わるためにカウンセリングを重視するようになっていきました。


カウンセリングに力を入れるのは単なるビフォー・アフターにならないため


――「レスキュー」ですから、ここに来る時点でみなさん、お悩みがあるわけですよね。


みなさん服の悩みだと思っているんですよ。ここに来るまでは。でもカウンセリングしていくと単に服の問題ではないことが分かってきます。どんなことかというと、外見と中身が一致している人ってほとんどいないんです。
表層的に似合うかどうかを診断することは誰でもできるし簡単なことなんです。背が高いとか、顔立ちがはっきりしているからとか、骨のタイプがこうだからと色やデザインで表面の似合うスタイリングを作ることは、スタイリストを名乗る以上あっというまにできてしまうことだと私は思います。


先ほどあげた診断のなかにペルソナ、と書いたのは、人間の中身のことですね。診断はその方の基本的な傾向をあぶり出しますが、私は診断は目安とし、もっと深くお客さまの内面に迫ります。どういう人か?どんな生き方をし、どのような価値観なのか? 何が好きで何が得意なのか? あるいは逆に何が苦手なのか、誰にも言えないダークな部分はあるか? 「その人自身」を表現するには、みかけのグレードを上げるだけでは真に相応しいものは手に入らないのです。


内面や外見のギャップに苦しむ人の多さは尋常ではありません。その人の職業や生き方、内面が外見と本当にリンクしていることって10%ぐらいしかないと私は思っています。パーソナルスタイリストは、お客さま自身でも気がついていない魅力に気づき、自分を生きる姿に導く仕事だと思っています。自分を生きる、自分軸で、これほんとうに大切なことなのですが、多くは他人軸でマインドレスな状態で生きているうえに、そんな服を着て苦しんでいるのです。


パーソナルスタイリストは、お客さまとお話をしながら、内面と外見のギャップを見つけて、そこを埋めていく仕事でもある


――ファッションという外見だけではなく、メンタルな部分も含めたレスキューなんですね。


はい。ですからかなり肝を据えてやっています。実際、今から樹海に行くのできれいにしてくださいという方も何人かいました。あとジェンダーの問題も多いです。今はLGBTがオープンになってきましたが、以前は本当に悩んで、苦しんで、命がけでいらっしゃった方もたくさんいました。私が「あなたが性を決めればいい」と言っても、見えているものしか人は分かってくれないからと何回も泣かれました。


話し合ってカミングアウトを決めた方もいるし、隠し続けることを決めた方もいますが、大切なことはファッションを通じてお客さまに心から寄り添うことです。そういう方々は本当に寄り添ってくれているのかをすぐ見抜きますから、こちらも真剣勝負です。




パーソナルスタイリストの育成では「マインドが服を着る」ということを伝えたい

――政近さんはご多忙にもかかわらず、パーソナルスタイリストを育成する「パーソナルスタイリストジャパン」を立ち上げ、後進の育成にも尽力されています。それはどうしてですか。


2001年にパーソナルスタイリストという職業を作ったわけですが、プロと呼べる人材を増やしたいと思ったからです。パーソナルスタイリストの本物を世に出しておきたい。私が今日倒れても、誰かいるという状態にしておきたいんです。そんな思いでパーソナルスタイリストジャパンを始めて、今18期目、これまでにプロパーソナルスタイリストを400名ほど育成してきました。


パーソナルスタイリストジャパンの授業やパーソナルスタイリストの一部業務は現在リモートで行われているパーソナルスタイリストジャパンの授業やパーソナルスタイリストの一部業務は、現在リモートで行われている


――パーソナルスタイリストジャパンだけではなく、一般の方も学べるよう「装力」や「マインドフルファッション」を新しく教えているのですね。


今まで私が培ったパーソナルスタイリストに必要とされる知識や技術は、パーソナルスタイリストジャパンで教えることによってプロを育成しています。今はさらにアカデミーオブスタイル&アート校を併設して、累計で1000名を超える生徒さんたちが学んでいます。「装いは本人と周囲、双方にとってのギフト」ということを考えるメソッドと、最近はもっと本当に深いレベルまで進み「自分のマインドが服を着る・服がマインドを創る」ということを教えています。


――「マインドが服を着る」とはどういうことですか。


素敵だと思ったら、なぜそれがいいと思うのか。外からの情報ではなく、自分で軸を持つこと。自分が買った服は、本当に自分が決めきって買ったのか。今、自分の中に軸がなく、情報に対して服があると信じ込んでいる人がいっぱいいるんですね。外からの情報に惑わされるのではなく、自分の価値観、自分軸をもつこと。マインドフルな状態で服を選びきれることが重要なんです。
また服がマインドを創る、ということも有効で、例えば仕事で大きなプロジェクトを動かすようなプレゼンで、何を着ればマインド軸がぶれないで佳きプレゼンができるのか。服はいざというとき、自己の可能性を大きく拓いてくれる可能性があるものです。マインドが服を着る、そして服がマインドを創る。トライ&エラーを繰り返すことで、真の自分らしさを表現できるようになっていきます。


一時期IT系の人で、Appleのスティーヴ・ジョブズやFacebookのマーク・ザッカーバーグをまねして黒いTシャツしか着ない人がいました。自分で決めたジョブズやザッカーバーグはいいんです。でも「かっこいい」とか「流行ってる」と思った時点で、それはマインドレスです。


また断捨離(だんしゃり)も流行しました。断捨離で心の整理ができてよかった人も多いと思うんですが、ファッションレスキューに駆け込んでくる方もいます。失敗した人、疑問を持つ人、やっぱり物を捨てなければよかったという思いに駆られた人も多いんです。流行に乗って断捨離をし過ぎて、マインドを失った例もあります。


――ブランド品のバッグを月ごとにレンタルしたり、ワードローブのリースなどもはやっていますよね。


借り物人生って、私はあまりよくないなと思います。高級なカバンを1週間安い価格で借りて、それでデートに行っても借り物の自分ですよね。安く借りたもので自分の価値を上げてもらっているわけです。モノには、手入れをしたり慈しむ行為もあり、そのモノにまつわる思い出もあります。そして大切なモノは親から子へと引き継いだりしますよね。モノを大切に慈しむことはマインドを大切にすることにつながっていると思います。


政近準子氏の著書はすでに9冊を数える政近準子氏の著書はすでに9冊を数える


服は、あなた。


チャンスをつかむ男の服の習慣




ウィズコロナ時代のファッションとは

――コロナ禍の終わりがなかなか見えない状況です。ファッションにもやはり、大きな影響が出ているのでしょうか。


アメリカを代表する米ブルックス ブラザーズが経営破綻*1するぐらいですから、ほんとうにひどい状況です。日本でも有名どころの20ブランドぐらいは終了しています。今はこのようにどん底ですけど、世の中が動き出せば着るものは必要になりますから、先を見据えた人たちは動き始めてますね。


*1 米ブルックス ブラザーズが経営破綻:2020年7月8日、新型コロナウイルス感染症の流行による長期間にわたる店舗営業の休止が響き、米連邦破産法11章の適用を申請し経営破綻。ちなみに、日本のブルックス ブラザーズはブルックス ブラザーズジャパンが運営しており、本国での経営破綻による経営面での影響は限定的と言われた。


ウィズコロナ時代のファッションとは


――具体的にはどんな動きがあるのですか。


老舗でいえば、テーラードスーツで有名なロンドンのサヴィル・ロウ*2通りのテーラーが高級パジャマのオーダーを受けていて、7万~8万円のパジャマが好評のようです。これは絶妙な値段で、30万円ぐらいのスーツを買う人は、シルクのオーダーパジャマを3着買ってもいいわけです。そのような努力でスーツの需要が減っても売り上げは保っているようです。


あとは、若い人を中心にした小さいメゾンですね。例えば、「地球のためにこんな試みをしています」といったメッセージを打ち出したり、動物の毛皮を絶対に使わないとか、土に還る素材しか使わない、といったメッセージ性を持ったデザイナーたちが今はやっぱり強い。あなたの考えに沿ったブランドであればどうぞ、共感しないお客さまは結構です、というところが新しい思想でよいと思いますし、若い人を中心にそういったコンセプトに敏感になっています。


今はサステナブルを意識していないブランドはダメだと言われ、リサイクルや古着、さらに古着を今風にアレンジするアップサイクルを主に展開するブランドも生まれていて、東京では(古着屋が集中する)高円寺なんかも今、すごく動きがありますね。


*2 サヴィル・ロウ(Savile Row):イギリス・ロンドン中心部のメイフェアにある通りの名称。オーダーメイドの名門高級紳士服店が集中していることで有名。


東京では(古着屋が集中する)高円寺なんかも今、すごく動きがありますね


――コロナ禍でいくつかの老舗ブランドが退場する一方、新しい動きが出てきているということですか。


そうなんです。私の世代からすれば、米ブルックス ブラザーズの倒産や、1990年にオープンしたバーニーズ ニューヨーク新宿店の閉店(2021年2月28日)などは本当にショックな出来事でした。でも10代の子たちの感度で言えば、「ブルックス ブラザーズってなに?」、「新宿のバーニーズニューヨークにはドアマンがいたんですか?」って感じです。今の基準で改めて検討してみれば、コロナで衰退する以前からアパレル業界全体が変わる必要がありました。また提供する側以上に、消費者側の服を選ぶ力を養う教育が必要であると考えています。そのために一般の方が学ぶスクールに力を入れているのです。


私が最終的に目指しているのは、装うことを家庭で浸透させること


私が最終的に目指しているのは、装うことを家庭で浸透させることです。お味噌汁の作り方は親から学ぶのに、服装に関してはそうではないですよね。かなり優秀な人でも、服装に関しては何も知らないことが多いです。例えば急なお誘いがあったとき、お誘いを断る理由の80%は服とも言われているんです。いつでも常にヨーイ、ドンができるかどうか。これを私はファッションのリラックス状態と呼んでいます。

たとえばパーティーに誘われたとき、頑張らなきゃいけない、負けちゃいけないなどと考えずに、普段から装うことが身に付いていればもっと自然にどこへでも行けるんです。お子さんの保護者会に、まぁジーンズ「で」いいや、なのか、ちゃんと考えて選んだジーンズなのかで与える印象は全く変わるのです。


また装うことは生きることでもあります。衣食住といいますが、服を着なければ人間は生きていけません。今日は何を選び、どう着るのか、その選択の積み重ねが最終的にはどう生きて行くかを決めていくのだと思います。ですからパーソナルスタイリストの仕事やパーソナルスタイリストジャパンでの教えを通じて、まず基本を身に付け、その上でその人らしさが表現できる装いを多くの人に伝えていきたいし、さらに装いで周囲に幸せや気づきなどを与えられるような人を増やしていきたいと思います。



今後のさらなるご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。


※記事の情報は2021年6月15日時点のものです。

  • プロフィール画像 政近準子さん パーソナルスタイリスト〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    政近 準子(まさちか じゅんこ)
    パーソナルスタイリスト、有限会社ファッションレスキュー代表取締役社長、パーソナルスタイリストジャパン学院長。日本を代表するアパレル企業、株式会社東京スタイルでファッションデザイナーとして活躍後、イタリア・フィレンツェでの生活を経て、「その人を輝かせる服を提案できるパーソナルスタイリング」の必要性を提唱。2001年、日本で初めてとなる個人向けスタイリングの会社、ファッションレスキューを設立。“パーソナルスタイリスト”という職業を普及させた。政治家や経営者をはじめ、これまでに延べ1万人以上をスタイリング。百貨店にパーソナルスタイリングスキルの導入も行っている。著書に「『似合う』の法則」、「働く女性のスタイルアップ・レッスン」他。近著「一流の男の勝てる服 二流の男の負ける服」は、ファッションジャンルで異例の売り上げを誇るベストセラーを記録。

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