【連載】SDGsリレーインタビュー
2021.09.24
坂口真生さん エシカルディレクター〈インタビュー〉
"エシカルな暮らし"につながる毎日の選択肢を広げたい
SDGsリレーインタビュー第2回は、エシカルディレクターの坂口真生さんにご登場いただきます。日本において早くから「エシカル」に注目し、主催する合同展示会で人や環境に配慮したアイテムを扱うなど、新しい市場を創造されてきました。「エシカルコンビニ」のプロデュースや「エシカルアンバサダー」の育成など幅広く活動されている坂口さんに、活動を支える思いや、エシカルな暮らしがもたらす豊かな未来についてうかがいました。
英語で「倫理的な」を意味するエシカル。昨今では経済活動において社会課題や環境問題の解決を意識することも指し、人や地球環境に配慮されたモノを購入することは「エシカル消費」とも呼ばれます。例えば、廃材を利用したバッグや蜜ろうからつくったラップなどを買うことは、地域の雇用促進や資源の循環といった課題に取り組む事業者を応援することにもつながります。坂口さんは今から約10年前、日本ではまだ馴染みのなかった「エシカル」という考え方を広め、エシカルなアイテムを流通させるため、新しいビジネスモデルの構築に取り組み始めました。
エシカルは宝の山。ワクワクしかない
――エシカルディレクターという珍しい肩書きをお持ちですが、どのようにしてエシカルディレクターになられたのでしょうか。
高校時代からアメリカに留学し、大学もアメリカでファッションマーケティングを学びました。卒業後はニューヨークでファッションや音楽の仕事に携わり、03年に帰国してアッシュ・ペー・フランス*1に入社。"新規事業の立ち上げ屋"として、セレクトショップやECサイトの立ち上げなど、いろいろやりました。そういう立ち位置で2012年、クリエイティブなブランドが集まる合同展示会「rooms」(ルームス)*2のチームに入ることになりました。
roomsは毎回テーマを設けて「新しいこと」や「これからくる未来」を提案しています。次は何をしようかと考えていたとき、たまたま本屋で見つけた「まだ"エシカル"を知らないあなたへ」*3という本で、エシカルという言葉と出合い、雷に打たれたような衝撃を受けたんです。ビジネスを通して社会課題の解決に貢献することができるなんて、と。その時にエシカルをライフワークにしようと決めました。
それでroomsに社会課題に取り組むブランドを集めたエシカルエリアをつくり、そのコンセプトを考えたり出展者をアレンジしたりするエシカルエリアディレクターとなったのですが、そのうちrooms以外のことも手掛けるようになり、エシカルディレクターと名乗るようになりました。
*1 アッシュ・ペー・フランス:アクセサリーやバッグなどのファッション雑貨、家具・照明などのライフスタイルインテリア、絵画・写真のアートなど生活と文化に関わる様々な商品を販売する会社。
*2 rooms(ルームス):「クリエイションで人と社会を豊かにすること」 をビジョンに掲げ、2000 年に誕生した国内外のクリエイターを独自の視点で発信するプラットフォーム。年に2回開催される合同展示会には毎回300~400ブランドが出展する。
*3 「まだ"エシカル"を知らないあなたへ」:デルフィス エシカルプロジェクト編著、2012年3月、産業能率大学出版部発行。
――どうしてエシカルに惹かれたのでしょうか。
ニューヨークにいた頃に、「自分は何者なのか」「何のために生きているのか」を仲間と散々語り合ってきて、自分が生きる理由を求め、自分がしていることが社会のためになっているか自問自答してきました。
そんな折にエシカルに出合って、すごく腑に落ちたんです。マーケティングや新規事業の立ち上げなど自分が得意としていることと社会課題の解決を目的とするソーシャルビジネスを両立できるなんて、それこそ自分が求めていたものでした。
――当時、多くの人にとって「エシカル」は聞き慣れない言葉であったと思います。それを広めることには、ご苦労もあったのではないでしょうか。
それが、大変だと思ったことは一度もありません。宝の山しかないという感覚で、ずっとワクワクしています(笑)。
エシカルエリアをつくる前に、エコロジーやオーガニックをテーマとするほかの展示会も見に行きましたが、まだ手つかずのことだらけで、やれることがたくさんあると思いました。ニッチなマーケットで、当時は物質的なところに対してあまり社会的・環境的配慮がされていませんでした。もっと手を掛けたら価値が上がって、共感を得られるのに。そう思いました。
ただ、エシカルエリアをつくった当初は「なんじゃこりゃ?」という反応もありました。「エシカルって何?」「そんなことに手間をかける必要ないし、余裕もない」と言われたこともあります。
それでも、ある程度まで規模を広げることができました。日本では2017年頃からSDGsの認知度が上がり、その流れでエシカルに積極的ではなかった人も話を聞いてくれるようになりました。
――エシカルエリアをつくるにあたり、どんなことを意識されましたか。
クリエイティブのフィルターをかけることです。もともとエシカルというと野暮ったいとか土臭いなどといったイメージが強かったと思いますが、僕はエシカルブランドのつくり手はクリエイターだと思っていて、クリエイティブなブランドを僕らの視点で編集して見せているのがroomsです。
インパクトのある大企業の取り組みは、大きな推進力になる
――現在、力を入れている活動について教えてください。
B to BとB to Cで大きく2つあります。1つ目はB to Bで、企業の中にエシカルな活動の推進役となる「エシカルアンバサダー」を育てるというコンサルティング的な活動をしています。大手百貨店などに向けて半年~1年のプログラムをつくり、さまざまな部署の社員の方を対象に進めていきます。
まず私がレクチャーを行い、その後に社会課題に取り組むプロフェッショナルによるセミナーを開催。体験を重視して、エシカルなアイテムを扱うショップを一緒につくってみるなど実践の場も設けます。最後にエシカルテストを実施して、合格者にはバッジを贈呈します。
大企業によるインパクトは大きいので、その中でアンバサダーを育成することは、非常に意味があることだと思っています。
――エシカルアンバサダーを思いついたのは、何かきっかけがあったのでしょうか。
この2年ほどSDGsに関する相談が増えていたことが背景にあります。今まで点でやっていたことを、もっと継続的にやっていく必要があると考えました。気候危機ですから、できるだけスピードを上げて取り組まなければいけません。
そこで思いついたのが、企業向けの施策でした。プログラムをしっかり組めば、横展開もできます。今までどちらかというと裏方だったCSR(企業の社会的責任)推進部署が、今やSDGsとして花形の部署となり、CSV(共通価値の創造)として結果につなげることもできるんです。
目指すは"空海"。千年続くビジネスモデルをつくりたい
――B to Cではどのようなことをされているのでしょうか。
2021年に本格始動したエシカルコンビニです。身近なものを扱いつつ、倫理と向き合うコンビニです。安心・安全をモットーとし、自動車のシートベルトなどをアップサイクルしてつくるバッグや、害獣とされる鹿の肉を活用したペットフードなど、購入することで何かしらの貢献につながる商品を扱っています。
実は5年前のrooms開催時に構想して、すでにビジネスプランもつくっていたのですが、その時はまだ早過ぎると思ったんです。このコロナ禍で人々を取り巻く環境や意識が変わったことで、あたためていたプランを実行に移すことにしました。エシカルコンビニは、エシカル事業を共に運営する早坂奈緒がディレクターとなり、彼女の世界観を反映して構成されています。
実店舗もありますが、メインはWebショップです。ゆくゆくは大手ECモールのような、エシカルなアイテムを集めたプラットフォームになれたらと考えています。
――「コンビニ」としたのはなぜですか。
僕は、コンビニは資本主義の象徴だと思っています。効率至上主義の代名詞とも言えますが、POSシステムなど仕組みとしては素晴らしいものがある。ただ、コミュニケーションや人の健康は軽視されているところがあると感じていて、そのアンチテーゼとしてコンビニと名付けました。
エシカルコンビニでは「Creativity」や「Experience」もコンセプトに掲げていて、物を扱うだけでなく、一緒に海岸のゴミ拾いをする「ビーチクリーン」や瞑想プログラムを行う「メディテーション」といったコミュニティーもつくっていきたいと思っています。
――ほかにも進行中のプロジェクトなどはありますか。
瀬戸内で「SETOUCHI Re-Sort Project」をスタートします。2025年の大阪・関西万博に向けて、瀬戸内が秘める魅力をグローバル視点の新基準で再整理(Re-Sort)し直すプロジェクトです。地中海・モナコをロールモデルとして瀬戸内をリ・ソートし、クリエイティブでサステナブルな視点で「国際基準」のブランドに編集し発信します。
目指すは"空海"です。空海はお遍路や熊野古道など1200年以上続くマーケティングを行った人。僕も千年続くビジネスモデルをつくりたいと思っています。
「日本独自のエシカル」をつくりたい。成功事例をアジアへ
――J-WAVEのラジオ番組「ETHICAL WAVE」のナビゲーターもされていますね。
コロナ禍で、ある日急に「ラジオをやるべき」と思い立ったんです(笑)。すぐに自分で企画書をつくって提案しに行きました。土曜日の18時~というゴールデンタイムにエシカルをテーマにした番組を放送するのは、J-WAVEにとってもチャレンジングだったと思います。
――社会課題への意識が高いZ世代*4を中心に、若い人ほどエシカルに関心が高いと聞きます。世代による意識格差ってあるのでしょうか。
若い人たちの方がエシカルが身近になっていますね。上の世代の人ほど腰が重かったのが、SDGsの流れもありようやく課題として捉えてくれるようになってきたと感じています。
エシカルに対する意識や考え方は人によって異なりますし、自由であっていいと思います。意識を変えるのって難しいですし、意識格差を埋めるのは簡単ではありません。
ただ僕自身は特定の世代を意識することなく、あらゆる世代に向けて活動しています。先日も高齢のリスナーさんから「今からでも自分にできることをやっていきたい」というメッセージをいただいて、うれしく思いました。
エシカルコンビニでやっていることもそうですが、毎日の選択肢を広げていきたいという思いで活動しています。
*4 Z世代:1990年代中盤から2010年代終盤までに生まれた世代。幼少期からネット環境があり、日常的にスマホやSNSを使ってきたデジタルネイティブの始まりの世代とも言われる。
――坂口さんが思い描くエシカルな未来について教えてください。
僕の目標は「エシカルやサステナビリティーという言葉をなくすこと」です。それくらい当たり前になってほしい。
それから、これは前々から言っていることですが、「日本独自のエシカル」をつくりたいと考えています。そもそもエシカルという言葉自体、英国で生まれたものです。産業革命で最も豊かになった国ですが、歪み(ひずみ)も生まれました。
アジアで1番豊かになったのは日本です。でも、自殺や貧困の問題を抱える今の日本は本当に豊かと言えるでしょうか? もはやモノで幸せになれる時代ではありません。エシカルな視点でも日本がアジアの中で先陣を切って豊かになるべきです。
――日本独自のエシカルとは、どのようなものでしょうか。
脱炭素の流れで欧州ではグリーンエネルギーに関心が向かいがちですが、職人技や伝統文化の継承など日本流のエシカルがあるはずで、それはアジアのほかの国にも応用できると思います。日本で成功事例をつくって広めていきたいですね。
考えている企画はたくさんあって、ワクワクしているところです。これから一つずつカタチにしていきます。
――すでに進行中の企画もあるとのことで、エシカルというフィルターを通してどのような新しい未来を見ることができるのか楽しみです。お話を聞かせていただき、ありがとうございました!
※記事の情報は2021年9月24日時点のものです。
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【PROFILE】
坂口 真生(さかぐち まお)
高校からアメリカへ渡り、大学卒業後ニューヨークにて音楽業界に携り、自社音楽レーベルを設立。2003年、日本に帰国しアッシュ・ペー・フランスにプレスとして入社。セレクトショップ、アート事業、Eコマースの立ち上げに参画。2013年、日本最大のファッション・デザイン合同展示会「rooms」で日本初となるエシカルをテーマとしたエリアを立ち上げる。その後、銀座三越、ルミネ、東急百貨店、阪急百貨店など商業施設にてエシカルキャンペーンを企画・プロデュース。2017年、エシカル事業部を立ち上げディレクターに就任。 その後、SDGsやEGS等の関心の高まりから、多角的なエシカル/サステナブルのビジネスコンサルティングを行っている。日本エシカル推進協議会発起人・アドバイザー。GENERATION TIME代表。
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