旗、のれん、法被、手ぬぐい。伝統の染色技術を未来につなぐ

仕事

株式会社太田旗店〈インタビュー〉

旗、のれん、法被、手ぬぐい。伝統の染色技術を未来につなぐ

1866(慶応2)年に創業し、大分県大分市で、伝統の印染(しるしぞめ)から最新のデジタルプリントまで幅広く展開する「株式会社太田旗店(おおたはたみせ)」。今年で156年の歴史を持つこの染め物の老舗企業に、ものづくりの哲学についてうかがいました。

創業慶応2年、守り続ける染色技術

「印染」は、古くから祭りというハレの場で使われてきた法被(はっぴ)や手ぬぐい、そしてお店ののれんなどに家紋や屋号を染め抜く手法。鮮やかに染め抜かれた印染は、それに触れる人、見る人の心に沁み込みます。守り続けてきた伝統の技法と今後の発展について、営業部の伊藤亮さんにお聞きします。


──「おおたはたみせ」という社名は独特な響きがありますね。


おそらく創業当初から手ぬぐいなどのほかに、旗やのぼりなどを受注していたのだと思います。いまでは、取り扱う商品は多岐にわたり、伝統的な旗、幕、のぼり、法被、浴衣(ゆかた)、のれん、手ぬぐいなどに加えてTシャツ、雑貨、看板などさまざまです。最近は、サッカーなどの競技場で見かける、一辺が何十メートルにもなるビッグフラッグなども扱っています。


一枚一枚、手作業で染めていく一枚一枚、手作業で染めていく


──創業が慶応2年。大変な歴史ですね。


明治維新、太平洋戦争、新型コロナウイルスなど、さまざまな社会情勢の影響を受けながらも、法被や手ぬぐいを156年にわたってつくってきました。


──新型コロナウイルスの影響といいますと?


法被や手ぬぐいなどは、お祭りに用いられるものとして発注されることがほとんどです。この2~3年、新型コロナウイルスの流行で全国的にお祭りが中止になることが多かったのですが、いま徐々に祭り復活の動きが出てきているので、今後の動きには大いに期待しています。


──そんな中でも、企業努力で営業を継続されているわけですね。


そうですね。染色業界の中では珍しく自社一貫生産体制を整備しているのが当社の特徴です。染め物工場が多い場所としては京都などが知られていますが、たいていは分業制になっています。生地を仕入れて印刷をするのはA社、そのための版をつくるのはB社、仕立て・縫製はC社、といった感じですね。当社はそれらの工程を全て自社工場で行っていますので、高品質で低コスト、短納期対応可能といった強みがあります。


独特の風合いを出す始めの工程、手作業での型どり独特の風合いを出す始めの工程、手作業での型どり


もち米などを配合してつくるのりもち米などを配合してつくるのり


型に従ってのりを生地にのせていく型に従ってのりを生地にのせていく


のりをのせた生地を乾燥させるのりをのせた生地を乾燥させる


一筆ずつ丁寧に染め抜いていく一筆ずつ丁寧に染め抜いていく


「スキージ」というへらを使って染める手法も伝統的だ 「スキージ」というへらを使って染める手法も伝統的だ


機械を導入して大量のプリントが可能になった部門もある機械を導入して大量のプリントが可能になった部門もある


染めた生地を二人の息を合わせはがす、緊張の一瞬染めた生地を二人の息を合わせはがす、緊張の一瞬


染められた生地を水洗い、湯洗いし、のりを洗い流す。のりがのっていたところは白地として残る染められた生地を水洗い、湯洗いし、のりを洗い流す。のりがのっていたところは白地として残る




デジタル社会の心に沁みる、手作業の風合い

工場を見学し、印染の作業を拝見していると、各工程を担う職人さんたちの無駄のない所作や染め上がった旗やのれんに言葉にできない魅力を感じます。鮮やかな発色、素材の手触り、和の書体・紋様──。あらゆるものが電子化され、誰もがスマートフォンを手放せない現代社会にあって、忘れられがちな手作業のぬくもりがそこにあるからでしょうか。


──伝統的な染め方では、機械でのプリントと何が違ってくるのでしょう。


相撲のぼり・神社のぼり・大漁旗など、こだわりの少ロットものは、刷毛(はけ)を使い、昔ながらの手作業でつくります。何が違うかといえば、まず色味が醸し出す風合いと言いましょうか。また裏透かしというのも大きな特徴です。機械ですと片面だけのプリントになりますが、手作業で行うと、生地の裏まで染め上げることが可能となります。ほかに、綿生地へのこだわり、印刷面でのキワの仕上がりなど、常日頃から努力しているところです。


──確かに色がすごく鮮やかですね。


ただ、手染めの場合ですが、色の再現が難しい面もありまして。この色味というのは、温度、湿度、職人の違いによって若干色が違ってきます。例えば最初にご注文いただいてから数カ月後にまた同じものをご注文いただくことがありますが、その際に前と同じ色味を出すことが難しい場合があります。そこを補正して同じ色を再現できるように、機械などを使った仕組みづくりにも腐心しています。


縫製部門縫製部門


染め抜かれたのれんの生地に手際よくはさみを入れる染め抜かれたのれんの生地に手際よくはさみを入れる


縫製は旗づくりの最終工程だ縫製は旗づくりの最終工程だ


大分営業部、西新地アトリエの社屋の前で大分営業部、西新地アトリエの社屋の前で




「印染」を通して世界に貢献したい

──太田旗店では、雑貨の製作や販売にも力を入れているとか。


私たちの染色業では、日々多くの端切れが出てきます。その端切れを利用した和雑貨を企画して、「エコロジー=地球に優しい」「エコノミー=お手軽な価格で」「笑心=お客様もつくる人も楽しみながら」というコンセプトに基づいて「笑心太(エコータ)」というブランドをつくりました。


また、消防法被で使われてきた伝統的な生地「刺子(さしこ)」の軽さや丈夫さに私たちの染色技術を加えたバッグなども開発・販売しています。消防法被は、その製法に関して昭和初期に特許を取得するなど太田旗店が商品としてきたもののひとつです。


──将来的な展望についてお聞かせください。


「印染」は「自分や自分たちの存在を示す」ために生まれました。私たちは、均一的な世界ではなく、それぞれの個性やオリジナリティーを表現できる世界に、染色やものづくりを通して役に立ちたいと考えています。


特に、染色やものづくりを大分で行っていくこと、そして最新技術への挑戦とともに、職人たちのものづくりを大切にしていきたいと考えています。大分は、染色の地としてはまだ全国には知られていませんが、これから大分を染色やものづくりの町にしていければと考えており、ものづくりに関わる多くの職人たちを育てていきたいと思います。


大分市街の店舗「府内 笑心太」で、法被姿のスタッフ。右が伊藤さん大分市街の店舗「府内 笑心太」で、法被姿のスタッフ。右が伊藤さん


笑心太2階の店内笑心太2階の店内


※記事の情報は2022年8月8日時点のものです。

  • プロフィール画像 株式会社太田旗店〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    株式会社太田旗店(おおたはたみせ)
    従業員数190名。JR大分駅近くに本社・ショールームを構え、大分市内に3工場を展開。営業拠点には福岡支店、東京支店がある。1866(慶応2)年、大分市坂ノ市にて「太田染工場」として創業。大分の営業所・工場の建物はコーポレートカラーの黄色に塗られている。黄色の社用車が営業に走り回る。
    https://www.ootaflag.co.jp/

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