女性ベーシスト特集|音楽シーンを支えるファンキー・ベース・ウィメン

【連載】創造する人のためのプレイリスト

スーパーミュージックラバー:ケージ・ハシモト

女性ベーシスト特集|音楽シーンを支えるファンキー・ベース・ウィメン

クリエイティビティを刺激する音楽を、気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドする「創造する人のためのプレイリスト」。今回はさまざまなジャンルで活躍する女性ベーシストたちを紹介します。

かつてはガールズバンドを除けば、ロックやジャズのバンドに女性がいるケースは希だった。しかし最近は、女性ベーシストの活躍が目立つようになってきた。


今回はさまざまなジャンルで活躍し、素晴らしい音楽を届けてくれている女性ベーシストに注目してみた。



【女性ベーシスト 目次】

1. エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)
2. タル・ウィルケンフェルド(Tal Wilkenfeld)
3. ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)
4. ティナ・ウェイマス(Tina Weymouth)
5. キャロル・ケイ(Carol Kaye)



1. エスペランサ・スポルディング

小柄な体で大きなウッドベースやエレキベースを圧倒的な技量で弾きこなし、美しいボーカルまで聴かせてくれる才媛、エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)。


エスペランサは奨学金を得て世界的な音楽学校、バークリー音楽大学に入学し飛び級で卒業、20歳にして講師に迎えられたという逸話を持つ実力者だ。今や卓抜したベースプレイヤーというだけではなく、プロデューサー、アーティストとして高い評価を得ている。


まずはネオソウルサウンドのこの曲を聴いてほしい。まさに最上級のグルーブ。歌も素晴らしい。


Black Gold by Esperanza Spalding [OFFICIAL]



そして、こちらはオバマ大統領時代のホワイトハウスでの演奏である。ウッドベースを弾きながら歌っている。曲はスティービー・ワンダー(Stevie Wonder)の「Overjoyed」。ベースと歌、それぞれの圧倒的な技量が堪能できる。


Esperanza Spalding: "Overjoyed"



エスペランサの最新作はブラジル音楽界の至宝、ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)とのコラボレーション・アルバム「Milton+esperanza」。このようなアルバムを企画し、実際にリリースできるプロデュース力を持つエスペランサは、もはや世界の音楽シーンをリードする存在と言える。


このアルバムには、サイモン&ガーファンクル(Simon & Garfunkel)のポール・サイモン(Paul Simon)も参加したトラックがあるので紹介する。ミルトンとポール、2人の世界的なボーカリストを単に共演させただけでなく、その魅力をマリアージュさせることで、円熟の先にある枯淡の境地を聴かせたのは、さすがエスペランザだ。


Milton Nascimento, esperanza spalding - Um Vento Passou (para Paul Simon) [Official Audio]




2. タル・ウィルケンフェルド

近年、女性ベーシストでまず思い出すのが、ジェフ・ベック(Jeff Beck)のバンドでの演奏で脚光を浴びたタル・ウィルケンフェルド(Tal Wilkenfeld)だろう。まるでティーンエイジャーのようなあどけない表情の女の子が、大きなベースをガンガン弾いて、ベックと互角に戦う姿が鮮烈だった。まずはベックの難曲「Led Boots」を笑顔でこなすこの演奏を聴いてほしい。


Jeff Beck performs "Led Boots" Live



そしてこちらはジェフ・ベックのバンドでのライブの一コマである。ベックとの二人羽織でベースソロを弾いている。ベックがどれほどタルを寵愛していたのかがよくわかる。


Tal Wilkenfeld & ‪JeffBeck‬ Bass Duet - New York 2009‬‬‬‬‬‬



その後はソロアーティストとしても活躍し、歌も披露している。太くうねるようなベースラインは健在だ。


Tal Wilkenfeld - "Killing Me" Opening for ‪‬‬‬‬‬‬The Who at TD Garden



タルはYouTubeで活動するソウルファンクユニット、スケアリー・ポケッツ(Scary Pockets)にもゲスト出演している。カナダのシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェル(Joni Mitchell)の名曲「Big Yellow Taxi」をジャズやファンクにアレンジしてカバー。どっしりとしたベース、そしてボーカルも太い声で、もはや重鎮ともいうべき貫禄を感じさせる演奏だ。


Big Yellow Taxi | ‪JoniMitchell‬‬‬‬‬‬‬‬ | funk cover ft. ‪TalWilkenfeld‬‬‬‬‬‬‬‬




3. ミシェル・ンデゲオチェロ

ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)も、小さな体にフェンダージャズベースを抱えて、強烈なスラップやダークでヘビーなサウンドをグルーブさせる名ベーシストである。今やネオソウルのゴッドマザー的存在であり、同時にボーカリストとしても素晴らしいアーティストである。


まずは初期の作品を紹介する。イントロの重厚なスラップが迫力だ。


MESHELL "BOYFRIEND" Live 95 (Rare) From my VHS.



ンデゲオチェロはセッション・ミュージシャンとしても活動しているようで、いくつかのアルバムに客演している。有名なところでは、ザ・ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の「Bridges to Babylon」に収録された「Saint of Me」でベースを弾いている。派手なフレーズを一切排した非常に重いグルーブでストーンズのサウンドを支えている。


The Rolling Stones - Saint Of Me - OFFICIAL PROMO



最近のンデゲオチェロの演奏を紹介する。深いグルーブのネオソウル的なサウンドから、より深く思索的な音楽性に進展している。


筆者は2024年2月に開催された、ンデゲオチェロの来日公演を観に行った。派手な演出は一切無く、照明も暗く、複雑で美しくグルーヴィーな曲を淡々と演奏する姿は「ブラックミュージックの聖人」という言葉を連想するものだった。


Meshell Ndegeocello - Love




4. ティナ・ウェイマス

ティナ・ウェイマス(Tina Weymouth)は、ニューウェーブバンド、トーキング・ヘッズ(Talking Heads)の紅一点のベーシストである。バンドウーマンで、非常にカッコよくてしかもとてもキュートだ。まずは音楽史における最高峰のライブ映画とも称される「ストップ・メイキング・センス 4Kレストア」の予告編を紹介する。


『ストップ・メイキング・センス 4Kレストア』本編映像_Burnig Down the House_2024年2月2日(金)公開



ティナはトーキング・ヘッズのメンバーとしてだけでなく、ドラマーで夫のクリス・フランツ(Chris Frantz)とともに、トム・トム・クラブ(Tom Tom Club)という派生ユニットを1981年に結成した。


このバンドはヒップホップやレゲエを取り入れたアフロリズムとチープなエレクトロ・サウンドで、ダンス・ミュージック界に革新をもたらし、「おしゃべり魔女(Genius of Love)」はビルボードのダンス・チャートで1位を獲得した。その音楽性の高さは単に「バンドの紅一点の女性ベーシスト」という粋を超えたものだ。


Tom Tom Club - Genius Of Love (Official Music Video) [4K]



「Genius of Love」の影響力は非常に大きかった。その一例を挙げると1995年にリリースされたマライア・キャリー(Mariah Carey)の代表曲「Fantasy」で大胆にサンプリングされ大ヒットを記録した。もしトム・トム・クラブを聴いたことがなくてもこの曲を知らない人はいないだろう。


Mariah Carey - Fantasy (Official 4K Video)




5. キャロル・ケイ

女性ベーシスト特集の最後に満を持して紹介したいのが、キャロル・ケイ(Carol Kaye)だ。彼女は1950年代から1970年代半ばにかけて、セッション・ミュージシャンとしてアメリカ音楽史に深く刻まれた伝説的な女性ベーシストである。


これまで紹介してきたアーティストのように、大舞台に立ってスポットライトを浴びて演奏することはほとんど無かったかもしれない。しかしキャロルは間違いなく世界一の女性ベーシストだろう。


キャロルは、もともと早熟な天才ギタリストで、若くして西海岸のレコーディングセッションにギタリストとして参加していた。ところが、ある日ベーシストが来なかったセッションで代わりにベースを弾いたら大評判となり、その後ベーシストとしての仕事が増えていったそうである。


そんなキャロルは、ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)、サイモン&ガーファンクルなど、偉大なアーティストたちのレコーディングセッションに数多く参加して、数多の名曲のベースを支えた。


2020年にはローリング・ストーン誌が選ぶ「史上最高のベーシスト50選」でポール・マッカートニー(Paul McCartney)、ジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)、ラリー・グラハム(Larry Graham)、ジャック・ブルース(Jack Bruce)といった名ベーシストを抑えての歴代5位に輝いている。


キャロルが参加したいくつかの曲を紹介する。


まずはポップスの金字塔であるビーチ・ボーイズの「Good Vibrations」。冒頭のベースラインが印象的である。


The Beach Boys - Good Vibrations (Official Music Video)



次はアメリカンポップスの不朽の名作、ザ・モンキーズ(The Monkees)の「I'm a Believer」。


I'm a Believer (2006 Remaster)



そして誰もが聴いたことがあるはずのモータウンの名曲、ザ・スプリームス(The Supremes)の「You Can't Hurry Love」。


The Supremes - You Can't Hurry Love (Official Lyric Video)



続いてこちらもモータウン。不朽の名曲、マーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)とタミー・テレル(Tammi Terrell)のデュエット「Ain't Nothing Like The Real Thing」。モータウンといえば、ベースの神様といわれるジェームス・ジェマーソン(James Jamerson)であり、この曲もジェマーソンだと勝手に思っていたが、今回調べてみてこのベースもキャロルだったので驚いてしまった。


Ain't Nothing Like The Real Thing



それからフランク・シナトラの「My Way」までもキャロル。歌を生かすベースの真髄だ。


My Way (2008 Remastered)



キャロルが参加した曲の一部がApple Musicの公式プレイリストにあるので、こちらも紹介しておく。99曲のプレイリストだがこれもほんの一部だろう。


Carol Kaye:セッションミュージシャン


キャロル・ケイの参加曲は1万曲とも、4万曲ともいわれていて、正確な曲数は不明だが、膨大であることは間違いない。アメリカンポップスの王道をベースで支えてきたキャロル・ケイの偉業は、もはや男性、女性というジェンダーを超えた「偉大なベーシスト」として称賛されている。


とはいえキャロル・ケイの全盛期だった1950~70年代の音楽業界で、女性のスタジオミュージシャンが活躍できる場は極めて限定的だったはずだから、ここまで重用されたのはジェンダーギャップを跳ね飛ばすほどの圧倒的な実力があったからだろう。



今回は5人のベーシストを紹介したが、まだまだたくさんの女性ベーシストが、今の音楽シーンのグルーブを支えている。そして今後もファンキー・ベース・ウィメンはさらに影響力を広げていくだろう。楽しみにしている。


※記事の情報は2024年8月6日時点のものです。

  • プロフィール画像 スーパーミュージックラバー:ケージ・ハシモト

    【PROFILE】

    ケージ・ハシモト
    あるときは音楽ライター、あるときはミュージシャン、あるときはつけ麺研究家と正体不明の超音楽愛好家。音楽の趣味もジャンルレスでプライスレス。

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