【連載】いま家で観ておきたい映画
2020.06.02
深田晃司さん(映画監督)
世界が注目する日本の新世代監督が選んだ「家族」を見つめ直す珠玉の3本
テレワークに加え休日の外出もままならない昨今。こんなときこそ、見逃していた作品や、未知の秀作など、自宅で映画をじっくり観るチャンスです。このコーナーは各界の映画通に、おススメの映画や、ご自身が好きな映画を紹介していただくリレーコラムです。最初にご登場いただくのは「淵に立つ」でカンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞するなど、日本の新世代監督として世界から大きな注目を集める深田晃司監督。「家にいる」私たちに向けて、まさに現在の状況にピッタリな、「家族」のありかたをテーマにした三作品を選んでいただきました。
東京物語
1953年 日本
監督:小津安二郎
出演:笠智衆、東山千栄子、原節子、杉村春子、山村聡
日本映画は家族を描く。欧米の映画は家族の前に個を描く。
ヨーロッパの映画祭である外国の映画ジャーナリストからこんなことを言われた。確かに、日本映画は良くも悪くも家族を主題にした映画は多いと感じる。
そんな家族映画大国の日本であるが、今なお日本の家族を描いたもっとも芸術性の優れた作品として世界中で高い評価を得ているのは、70年近くも前に撮影された小津安二郎監督による『東京物語』である。しかし、小津安二郎によるこの世界的傑作が描くのは決して安穏とした家族の絆ではない。尾道から東京に出てきた老父婦は娘息子たちからはどこか邪険に扱われ、一番優しく接するのは血のつながらない死んだ息子の妻なのである。ここでは家族の繋がりは無条件に肯定されることなく、むしろ個の孤独と孤独により結びつく魂が描かれている。だからこそ、この映画は極めて現代的な家族の映画として愛され続けるのだ。
息子の部屋
2001年 イタリア
監督:ナンニ・モレッティ
出演:ナンニ・モレッティ、ラウラ・モランテ、ジャスミン・トリンカ、ジュゼッペ・サンフェリーチェ
白い布に落とされた一滴のインクが静かに広がっていくように。ある残酷な「喪失」がその周縁にいる人間に確実に及ぼしていく不可逆的な影響を、これほど誠実にこれほど優しく、しかし決してセンチメンタルに逃げることなく描けることに深く感動した。傷つき今にもバラバラになりそうでありながら、それでも最小単位のコミュニティとして人生の時間を前に進めていかざるをえない家族の姿を捉えたラストショットがあまりにも素晴らしい。こういう映画を撮りたい。
フレンチアルプスで起きたこと
2014年 スウェーデン、デンマーク、フランス、ノルウェー
監督:リューベン・オストルンド
出演:ヨハネス・バー・クンケ、リサ・ロブン・コングスリ
最後は北欧。スウェーデンの映画(正確には、スウェーデン・デンマーク・フランス・ノルウェーの合作)。フレンチアルプスの高級ホテルのそばである朝、雪崩が起きる。ホテルに滞在していたある夫婦とその子どもたちは朝食をとりながらテラスでその雪崩を目撃するが、雪崩が引き起こした雪煙がテラスを包み込み視界がホワイトアウトしていくなか、父親は咄嗟に、家族の誰もが期待しなかった行動に及んでしまう。
結局何事もなかったのだが、何事もなかったかのように再開した朝食の気まずさたるや!
家族の絆が、いかに危うい薄氷の上に築かれたものであるかを、この映画は悲喜劇のうちに描きつつ、しかしそれでも家族としてあり続けようとする彼らの姿は滑稽でありながらも胸を熱くする。
※記事の情報は2020年6月2日時点のものです。
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【PROFILE】
深田晃司(ふかだ・こうじ)
1980年生まれ。99年映画美学校に入学。長・短編3本を自主制作。06年テンペラ画アニメーション『ざくろ屋敷』でパリ第3回KINOTAYO映画祭新人賞受賞。08年映画『東京人間喜劇』でローマ国際映画祭正式招待、大阪シネドライブ大賞受賞。10年『歓待』が東京国際映画祭日本映画「ある視点」作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞受賞。13年『ほとりの朔子』でナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。15年『さようなら』でマドリッド国際映画祭 - ディアス・デ・シネ最優秀作品賞受賞。16年『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査委員賞受賞。最新作『よこがお』はロカルノ国際映画祭コンペティション部門正式招待。特定非営利活動法人独立映画鍋共同代表。
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