「リサイクル率日本一」を15回も達成。鹿児島県大崎町は"リサイクルの町"から"世界の未来をつくる町"へ

【連載】SDGsリレーインタビュー

井上雄大さん 一般社団法人大崎町SDGs推進協議会〈インタビュー〉

「リサイクル率日本一」を15回も達成。鹿児島県大崎町は"リサイクルの町"から"世界の未来をつくる町"へ

鹿児島県の東南部、大隅半島に位置する大崎町は、約1万2000人が暮らす自然豊かな町です。志布志湾に面し、農畜水産物に恵まれているほか、「リサイクル率日本一」に15回も輝いた「環境にやさしい町」でもあります。なぜ、そのような偉業を達成することができたのか。リサイクルを起点に、どのような社会の未来を描いているのか──大崎町のリサイクルに関するさまざまなプロジェクトを進めている、一般社団法人大崎町SDGs推進協議会のメンバー、井上雄大さんにお話を聞きました。

住み続けられるまちづくりを つくる責任 つかう責任 パートナーシップで目標を達成しよう




ごみの埋立処理場の逼迫問題から始まった、大崎町のリサイクル

──鹿児島県曽於(そお)郡大崎町は2006年からこれまでに15回も「リサイクル率日本一」を達成しています。自治体のリサイクル率の全国平均が約20%といわれる中、大崎町は2020年度の時点で83%を超えました。そこまでリサイクルに力を入れるようになったのは、何がきっかけだったのですか。


町内のごみの埋め立て地が逼迫(ひっぱく)してきたことです。ごみ処理という目の前の課題を解決するため、1998年にリサイクルに取り組み始めました。


都市部ではごみ処理を焼却に頼りがちですが、焼却はCO2を排出するとともに、ものすごくコストがかかります。そのため、大崎町では「一般ごみ」という区分のごみは埋め立てて処分しています。


現在使用している埋立処分場(曽於南部清掃センター)は、1990年から使い始めたのですが、数年使ったところで、そのままのペースで使い続けると、予定していた使用期限よりもだいぶ早く使い切ってしまうことが判明しました。そこで、リサイクルによってごみの減量化を図り、処分場の残余年数を延ばすことにしたのです。


1990年から使っている埋立処分場1990年から使っている埋立処分場


──どうして想定よりも早いペースで埋まってしまったのでしょうか。


以前の大崎町では一切ごみの分別をしておらず、ごみを減らそうという意識はありませんでした。家庭から出るごみは全て袋に入れて埋め立てていたので、あっという間に埋まってしまったというわけです。


リサイクルに取り組み始める前は、生ごみを含めて全てのごみを同じ場所に埋め立てていたので、処分場からはすごい悪臭がして、近づけないほどだったと聞いています。


一般社団法人大崎町SDGs推進協議会で、大崎町のリサイクルに関わるプロジェクトを進めている井上さん一般社団法人大崎町SDGs推進協議会で、大崎町のリサイクルに関わるプロジェクトを進めている井上さん




ごみの分別は28品目。細かく分けて、資源として循環させる

──現在は、どのようにごみの分別・リサイクルをしているのですか。


2024年8月現在、大崎町では「28品目のごみ分別」を実施しています。昨年までは27品目でしたが、新たに紙おむつのリサイクルの取り組みを始めたので、今年から1品目増えました。細かく分別することで、ごみではなく、資源として循環させるような仕組みを作っています。


大崎町の家庭ごみの出し方をまとめたポスター(令和4年度版)。現在はここに1品目(紙おむつ)増えて、全部で28品目。詳しいごみの分別方法については、冊子のほかアプリもあるという(画像提供:大崎町役場)大崎町の家庭ごみの出し方をまとめたポスター(令和4年度版)。現在はここに1品目(紙おむつ)増えて、全部で28品目。詳しいごみの分別方法については、冊子のほかアプリもあるという(画像提供:大崎町役場)


回収頻度は、埋め立て処分する「一般ごみ」は週に1回、大崎有機工場に持って行って堆肥化する「生ごみ」は週に3回、そおリサイクルセンターで資源へと循環させる「資源ごみ」は月に1回です。


──28品目とは驚きです......! 「紙」だけでも、8種類あるのですね。当初からこれほど分別の品目があったのでしょうか。


リサイクルを始めた当時は、缶・びん・ペットボトルの3品目からのスタートでした。2000年に一気に16品目に拡大し、2002年に生ごみを別に回収するようになりました。水分を多く含む生ごみは処理が大変で、失敗を重ねながら、発酵や堆肥化の技術を確立してきました。


リサイクルの品目は、「一度決めたらそれでおしまい」ではありません。町民の意見を聞いて、品目を減らしたこともありました。さまざまな技術の進歩もありますので、その時々でベストな方法を模索しています。


■大崎有機工場

大崎有機工場には、1日に約3tの生ごみが運び込まれる。集落ごとにバケツで集められた生ごみは、まず破砕機に入れられる。なるべく汚水を出さないように、粗く破砕するのがポイント大崎有機工場には、1日に約3tの生ごみが運び込まれる。集落ごとにバケツで集められた生ごみは、まず破砕機に入れられる。なるべく汚水を出さないように、粗く破砕するのがポイント


破砕された生ごみは、外のピットで約5カ月かけて堆肥化。1カ月ごとにピットを移動し、混ぜながら少しずつ発酵させる(上左)。湯気が出ているのは、微生物が活動する際に生じる発酵熱によるもの(上右)。完成した完熟堆肥は、町民向けに5㎏100円、15kg300円で販売している


■そおリサイクルセンター

そおリサイクルセンターには、回収された資源ごみが集まってくる。プラスチックは、人の目と手によって異物が混入していないか、細かくチェック。ペットボトルや空き缶など、品目ごとにまとめてリサイクルする


包丁ややかんといった金属製品や、そのままでは分別が難しい道具類などは、スタッフが一つひとつ手作業で、素材ごとにパーツを分けている


回収した食用油でバイオディーゼル燃料を作っており、リサイクルセンター内の重機やごみ収集車の燃料として使っている




住民との丁寧な対話で作り上げた"大崎リサイクルシステム"

──今でこそ環境意識の高まりで積極的にリサイクルに取り組む人が増えましたが、これだけの品目の分別を日々行うのは簡単なことではないかと思います。特にリサイクルを始めた当初はいろいろな意見もあったのではないかと推察しますが、どのように住民の理解を得てきたのでしょうか。


私は当時その場にいたわけではありませんが、住民との丁寧な対話で合意形成を進めてきました。分別開始前に住民向けに実施した説明会の回数は、約450回。大崎町には約150の集落があるので、1集落につき平均3回です。リサイクルの取り組みを"浸透"させるために、役場の方が丁寧に説明して回りました。


集落ごとにキーパーソンにお願いして、なるべく住民が集まりやすい日に説明会を設定してもらうなど、人を集める工夫をしたそうです。役場の方は、事前に各集落のキーパーソンと一緒に、大変な状況にある埋立処分場の視察に行ってごみ問題に対する危機感を共有するなど、かなり意思疎通を図っていました。


──トップダウンで強引に決めてしまうのではなく、丁寧にコミュニケーションを重ねながら進められてきたのですね。


大崎町を舞台にした "大崎リサイクルシステム"は、住民・企業(大崎有機工場とそおリサイクルセンターは民間企業が運営)・行政の3者が協力することで成り立っています。ですから、住民との丁寧なコミュニケーションは欠かせません。


ただ、立ち上げから3年ほどは大変な時期もあったと聞いています。事前の住民向け説明会で声を荒らげる方や、取り組みがスタートした後にわざと分別せずに野原や谷に不法投棄を繰り返す方もいたそうです。


大崎町には、衛生自治会という、ごみを出す世帯は原則的に加入する行政から独立した組織があるのですが、初代の衛生自治会の会長が、不法投棄されたごみを見つけるたびに自ら拾って分別し、辛抱強くリサイクルの必要性を説いてきました。"大崎リサイクルシステム"を作ることができたのも、当時の会長のご尽力があってこそです。




鹿児島県大崎町は、なぜ15回もリサイクル率日本一になれたのか

──リサイクルに取り組み始めて26年。"大崎リサイクルシステム"は現在もきちんと継承されているだけでなく、素晴らしい成果を上げています。これほどうまく機能している秘訣(ひけつ)は何でしょうか。


役場では、ごみ出しの曜日などシステムの前提となる部分しか決めません。全体で共有するのは最低限のルールのみで、それ以外の細かい建て付けは、各集落で決めてもらっています。


例えば、資源ごみの出し方。役場で決めたのは「月1回の資源ごみの日は朝8時までにごみステーションに出す」というルールのみで、当日の朝に出す集落もあれば、前日の夜に出すことをOKしている集落もある。ごみ出しの際に立ち会いをする集落もあれば、立ち会いはしない集落もあります。続けるためには「やりやすい」ことも重要なので、その辺りは各集落で話し合って決めてもらっています。


月に1度の資源ごみ回収の様子(写真提供:一般社団法人大崎町SDGs推進協議会)


品目が多岐にわたる資源ごみの立ち会いは、住民同士のコミュニケーションの場にもなっています。そうした"大崎リサイクルシステム"には、環境面以外での副産物があるのではないかと考え、国立環境研究所と協業して、環境面のみならず社会面や経済面でも評価できないかと研究を進めているところです。


──井上さんは2022年に大崎町に移住されたと聞きました。実際に分別の当事者となってみて、いかがですか。


移住して2年が経つので今はもう慣れましたが、最初の3カ月は分からないことが多く、苦労しました。でも、立ち会いの場はすごく勉強になって、分別の仕方やシステムについて住民の方から直接学ばせてもらいました。


井上さん自身も大崎町在住。協議会の仕事に携わるために引っ越してきた


──リサイクル率日本一を15回も達成されています。「日本一」というのは、目標とされていたのでしょうか。


最初から日本一を目指していたわけではありません。そもそもリサイクルを始めたのも、「環境に良い取り組みだから」ではなく、「課題解決の手段として」でした。2006年に初めて日本一となったのですが、住民が日々淡々とリサイクルに取り組む中で、そうした評価は後からついてきたものです。


「日本一」という対外的な評価をいただいたことで、シビックプライド(地域に対する誇り)につながるという、うれしい副次的な効果が生まれました。住民にとっては「当たり前」だった"大崎リサイクルシステム"が注目され、外の視点によって「すごいことだ」と再定義されることで、その可能性がさらに広がりました。




リサイクルの町、鹿児島県大崎町が描く未来ヴィジョン

──井上さんが所属されている一般社団法人大崎町SDGs推進協議会とはどんな組織で、どのような活動をされているのでしょうか。


一般社団法人大崎町SDGs推進協議会は、⼤崎町が積み重ねてきたリサイクルの取り組みを土台に、循環型のまちづくりを、より多面的に展開するために、2021年4月に設立されました。大崎町をはじめ地元の放送局や信用金庫など多様な主体がパートナーシップを組み、それぞれのステークホルダーが強みを⽣かすことで、ひとつの自治体だけでは解決が難しいさまざまな課題に取り組んでいます。


「リサイクルの町から世界の未来をつくる町へ」をヴィジョンとして掲げ、全ての資源が循環する持続可能な社会をつくるための「OSAKINI プロジェクト」を運営しています。大崎町を舞台に、住民や循環型社会づくりに取り組む人、企業と一緒に、世界に新しい社会のカタチを実装していくことを目指しています。


循環型社会をつくる大崎町のヴィジョンマップ(写真提供:一般社団法人大崎町SDGs推進協議会)


──「OSAKINI プロジェクト」では、具体的にどのようなことに取り組まれているのですか。


「循環」をテーマに、4つのカテゴリーでのプロジェクトを進めています。「循環を研究する」「循環を生み出すサービスをつくる」「循環を支える建物をつくる」「循環を世界に広げていく」の4つです。


1つ目の循環の研究は、「OSAKINI プロジェクト」の一丁目一番地です。研究機関などと連携し、エビデンスベースドな(科学的根拠に基づいた)取り組みを進めるための調査研究を進めています。


例えば、国立環境研究所と共同でGHG(温室効果ガス)排出量に関する調査を行いました。その結果、ごみを焼却処分している自治体に比べて、リサイクル率が83%を超えている大崎町では、GHG排出量/人が38.5%削減できていることが判明しました。つまり、"大崎リサイクルシステム"を導入することで、脱炭素効果を見込むことができます。


──リサイクルによってどれくらい環境に貢献できるのかがデータで分かると、ほかの自治体や企業にとっても参考になりますね。


「循環を生み出すサービスをつくる」ためにも、これからは企業との連携が欠かせません。大崎町でできることは、消費してごみを分別するという、ものの一生の下流部分のみで、そのリサイクル率はすでに83%を超えており、ひとつの自治体だけでできることには限界があります。


「もっと上流の部分でもできることがあるのでは」と考え、メーカーなどと連携して、循環を生み出すサービスの創出に取り組んでいます。例えばユニ・チャームとは、使用済みおむつをリサイクルしたおむつの開発に取り組んでいます。


──保育や介護の現場で欠かせないおむつのリサイクルが進めば、環境的にも社会的にもインパクトがありそうです。


自治体として使用済みおむつの回収に協力し、協議会として普及・啓蒙(けいもう)活動を行っています。使用済みおむつのリサイクルには抵抗のある人も多いので、オゾン処理して活用していることを認知してもらうことで安全性をアピールし、忌避感を低減していきたいと考えています。学校への出前授業では、工作の材料として、使用済みおむつから取り出したパルプで作った紙粘土を使ってもらいました。


──3つ目のカテゴリー「循環を支える建物をつくる」では、具体的にどのようなことに取り組まれているのですか。


第1弾として、2024年4月に、「circular village hostel GURURI(サーキュラー・ヴィレッジ・ホステル・グルリ)」をオープンしました。これは、サステナブルな未来の生活を体験することができる宿泊施設です。


大崎町には年間約600人が、ごみ処理施設の視察に訪れます。施設を見学することでいろいろな学び・気づきにつなげていただいていますが、リサイクルシステムの根幹にあるのは、住民の日々の暮らしです。大崎町での生活を体験してもらう機会を作りたいと考え、宿泊施設を作りました。実際にごみの分別も行ってもらうことで、よりリアルな学びを持って帰っていただけたらと思っています。


2024年4月にオープンした体験型宿泊施設「circular village hostel GURURI(サーキュラー・ヴィレッジ・ホステル・グルリ)」(写真提供:一般社団法人大崎町SDGs推進協議会)


ホステル内の家具・家電製品は、循環型の定額レンタルサービスによる製品を利用するなど、積極的にリユース製品を取り入れている(写真提供:一般社団法人大崎町SDGs推進協議会)


──私も実際にごみの分別を体験させてもらいましたが、分別の仕方を「知っている」のと「実際にやる」のでは、全然違うなと感じました。ごみとして出した後のリサイクル方法までイメージできると、物を買うときの意識が変わりそうです。 


うれしい感想をありがとうございます。体験することで深い学びにもつながりますので、そうした個人の気づきが広まって、少しでも行動変容につながれば、と思っています。


リサイクルは我々だけでやっていては大きなインパクトにならないので、「循環を世界に広げていく」ために、"大崎リサイクルシステム"の展開にも力を入れているところです。すでにいくつかの自治体との取り組みも始まっています。例えば静岡県西伊豆町は、魚のアラの処理に困っているという漁師町ならではの課題があり、大崎有機工場のやり方をベースに仮設の堆肥舎を作って、住民の生ごみに加えてスーパーなどから廃棄されたアラの堆肥化の実証実験に取り組みました。


"大崎リサイクルシステム"は海外からも注目されており、昨年は海外メディア向けのプレスツアーを実施したほか、今年は韓国の高校生が視察に来てくれました。国際協力機構(JICA)を通じて、すでに2011年から、ごみ問題が深刻化しているインドネシアにも展開しています。


2023年に行った海外メディア向けプレスツアーの様子(写真提供:一般社団法人大崎町SDGs推進協議会)


──注目されるようになったことで、リサイクルに興味を持って引っ越してくる方もいるのではないでしょうか。


私自身も移住者ですが、ほかにも「OSAKINI プロジェクト」に関わっているメンバーで、大崎町にUターンしてきた人間がいます。町外から通っているメンバーもいて、こうした移住者や関係人口をもっと増やしていけたらと思っています。


長野県出身の井上さんは山登りが趣味。大崎町に引っ越してきてからは、九州の山に登るのが楽しみのひとつだそう


──最後に、井上さんは協議会の活動のどんなところに魅力を感じていますか。


ちょっとマニアックな視点になってしまいますが、大学で社会学を専攻していたので、社会制度の設計に興味があり、協議会の仕組みの作り方や座組に面白さを感じています。大崎町SDGs推進協議会の座組はかなり練られていて、官民連携事業のやり方として、とても興味深いです。


官と民が一緒にやると、お互いの仕事の文脈や進め方が違う中で一筋縄ではいかないケースもありますが、大崎町SDGs推進協議会は企業版ふるさと納税を活用した資金作りなど、活動を持続的に続けていくための土台となる仕組みがしっかり作られていて、すごいなと感じています。


──お話を聞かせていただき、ありがとうございました。井上さんをはじめ、取材でお会いした協議会やリサイクル施設の方が皆さん情熱的で、自分の仕事に誇りを持って取り組まれているのが伝わってきました。28品目の分別を日々当たり前に行っている住民の皆さまにも敬意を表したいです!


※記事の情報は2024年8月20日時点のものです。

  • プロフィール画像 井上雄大さん 一般社団法人大崎町SDGs推進協議会〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    井上雄大(いのうえ・ゆうだい)
    長野県安曇野市出身。大学で社会学を学び、社会課題に対する関心を深める。臨床検査会社での経理・財務業務を経て、移住と起業の促進を通じて地域活性を目指す「Next Commons Lab 南相馬」に参画。3年半、コーディネーターとして起業家の移住・伴走支援や行政との折衝、広報など広く事務局業務を担う。2020年よりオンライン講義と地域留学を通じて学ぶ教育プログラム「さとのば大学」に携わり、地域事務局と受講生伴走を担当。多様な関係者と協働してプロジェクトを進める仕事に魅力を感じ、2022年1月より大崎町に移住、合作株式会社入社。一般社団法人大崎町SDGs推進協議会ディレクター。

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