軽やかに全力で。多彩なプロジェクトを推進

JAN 29, 2021

廣瀬俊朗さん 元ラグビー日本代表〈インタビュー〉 軽やかに全力で。多彩なプロジェクトを推進

JAN 29, 2021

廣瀬俊朗さん 元ラグビー日本代表〈インタビュー〉 軽やかに全力で。多彩なプロジェクトを推進 ラグビーワールドカップが日本で開催された2019年は、廣瀬さんにとっても大きな転換点となりました。同年2月に(株)東芝を退社すると、すぐに起業(株式会社HiRAKU)。そしてTBSテレビの連続ドラマ「ノーサイド・ゲー厶」に出演したり、ラグビーワールドカップ2019アンバサダーとして、また後述する「スクラムユニゾン」の活動などでワールドカップを盛り上げました。その後もラグビーの枠にこだわらず、実に多彩な事業・プロジェクトを展開していますが、とにかくその幅広さには驚かされます。廣瀬俊朗さんインタビュー後編では、この多彩な活動についてうかがいます。

ドラマ「ノーサイド・ゲー厶」では"だまされて"準主役に?

2019年のラグビーワールドカップ開催の前、大会の認知度がいまひとつ上がらないなかで、TBSテレビの連続ドラマ「ノーサイド・ゲー厶」は放送された。ラグビーについて真正面から取り上げたこのドラマが好視聴率をマークし、ワールドカップの盛り上がりに大きく寄与した。そのドラマのなかで社会人チーム「アストロズ」のベテラン選手「浜畑譲」として、準主役級のインパクトある演技を披露したのが廣瀬さんだった。


──放送が進むにつれて、ご自身が感じられた反響・手応えはいかがだったでしょうか。


普段あまりラグビーに興味ない方々が、あのドラマを通して、ラグビーに興味を持っていただくようになったという体感が回を増すごとにありました。僕個人も、街でいつも声をかけられましたし。


撮影時に「浜畑っぽい厳しい表情」をお願いしてみたが、これが限界。実際の廣瀬さんはいつも笑顔が印象的だ撮影時に「浜畑っぽい厳しい表情」をお願いしてみたが、これが限界。実際の廣瀬さんはいつも笑顔が印象的だ


──廣瀬さんの予想以上の出番の多さは、ラグビー界でも話題になりました。


最初はラグビーシーンに関しての監修程度で関わるという話だったんですけど、それがいつのまにか出演することになっていて、アストロズの主力選手役だという。だまされましたよ(笑)。


──それにしても浜畑は強烈なキャラクターでしたね。ラグビー界にはよくいる感じの人柄なのでしょうか。


あんなの実際はいませんって!(笑)


──テレビではその後も、日本テレビのニュース番組「news zero」パートナーとして木曜日レギュラーに。ドラマとはまた違った挑戦ですね。


いろいろなニュースを取り上げるので、そこに対する自分自身の意見をきちんと持たないといけないとか、どうやって情報を入手しようとか、難しい面がありますね。それから5秒とか10秒ぐらいで何かをお伝えしなければならないという制約の中で、どうすれば一番分かりやすく伝えられるか、といったことは面白くて、勉強になっています。




「スクラムユニゾン」では"トシツァルト"役も

そして日本中を沸かせたラグビーワールドカップ2019。このとき、廣瀬さんが発起人となって、「みんなで肩を組んで国歌やラグビーアンセム(*注)を歌ってその国をおもてなしする」というプロジェクト、「スクラムユニゾン」が各地で実施されたのをご存じだろうか。ミュージシャンの村田匠さん、田中美里さんと廣瀬さんが中心となって始まったこのプロジェクトは、ワールドカップ大会期間中に話題となり、実は、今も継続中だ。



(*注)ラグビーアンセムは国の代表チーム同士の試合前などに歌われる歌。多くは国歌が使われるが、スコットランド代表の「スコットランドの花」のように、非公式な国歌などがラグビーアンセムとして定着している場合も。イングランドの「スウィング・ロウ・スウィート・チャリオット」のように観客が応援歌として歌うアンセムもある。

スクラム・ユニゾンは今もなお活動中。こちらは2020年12月末に投稿されたツイート。円内が廣瀬さん扮するトシツァルト



──「スクラムユニゾン」では、廣瀬さんはモーツァルトの扮装で"トシツァルト"というキャラクターになっていましたけど、ちょっとびっくりしました。


あれは指揮者役がいたほうがいいだろうということで始めたのです。が、もはや指揮もせず遊びになっちゃいました(笑)。堅苦しく真面目にやるものでもないのかな、自分たちが好きでやってることだし、歌を歌っておもてなしって楽しいことなんで、そんな雰囲気とかニュアンスが伝わればいいなと思って。


──「スクラムユニゾン」の活動は、ワールドカップ開催で日本のファンを巻き込みながら話題になりました。また海外のメディアにも、自国の代表以外の歌を歌ってもてなすなど過去のラグビーワールドカップではなかった光景だと、大きく取り上げられました。


はい。この活動に賛同していただいたファンの方、子どもたち、スポンサーさんなどのおかげですごくいい活動になって、それを海外のメディアが記事にしてくれて拡散し、本当にたくさんの方に活動が広まったのは良かったなと思います。それに実際やっているみんながすごく楽しかったし友達ができたしっていうところが、いちばん良かったかなって思います。


──海外メディアはどんな反応でしたか。


取材はめちゃくちゃたくさん受けましたね。英国のガーディアン紙とか、フランスの新聞メディアとか、いわゆるスポーツ紙ではない、一般によく知られているメディアが取り上げてくれたので、取材を受けても楽しかったですね。彼らにとっては国歌でおもてなしという行為が、すごく新鮮だったようです。イングランドの人がスコットランドのアンセムを歌うことなどないので、何やってんだ、どういうメンタリティーなんだと。不思議だったのだろうと思います。


──各地で老若男女が参加する、素晴らしい広がりでした。


誰にとっても、予想を超えた広がりだったと思います。最初はみんな、何で他の国の国歌を歌うのみたいな感じだったんですよね。でもやってみたらめっちゃ面白いし、いろいろな国のことを知ることができるし。子どもたちの活躍も大きかった。試合前に国歌斉唱するときに、キャプテンの横で歌うんですけど、フィジー対ウルグアイの試合が釜石で行われたとき(2019年9月25日、岩手・釜石鵜住居復興スタジアム)、ウルグアイのキャプテンの横で歌ってくれた子がめちゃくちゃ表情や雰囲気が良かったんです。これでまた海外メディアに火がつきました。


──歌った彼にとっても特別な体験になりましたね。


本当にそう思います。あの場にただ立って国歌を聞いているのとキャプテンの横で一緒に歌うというのはものすごい違いだと思う。なんか彼らはもう一生の友達ぐらいになっていると思いますよ。言葉はしゃべれなくても友達になれる。そういう経験が若いうちにできるって、すごくいいなと思ってます。


──もしかしたら次のフランス大会(2023年)でも、そういうムーブメントが起きたりしますか?


いや、フランス人はイングランドのアンセムを歌わないですね(笑)。ただ一部でそういうことがあるもしれない。昔相手国の植民地だった流れで言語に馴染みがあるからその相手の国歌を歌うとか、もしかしたら出てくるかもしれないですけど。だから僕たちが行って、日本人がいたら歌おうみたいなそんな空気が作れたら面白いですね。少なくとも日本代表の試合会場には日本からも結構な人数が行くと思うので、そのとき相手の国歌を歌おうよみたいな。で、他国の人がジャパニーズ面白いなあ、みたいになればいいですね。


もしくは日本でのテストマッチでは、これからは相手の国歌も歌うっていうのが当たり前になっていくとか。それがラグビーから波及して、もしかしたら他のスポーツにも横展開して、例えばサッカー日本代表とコートジボワール代表が試合する時に、コートジボワールの国歌も歌おうよみたいな。試合前はそこにリスペクトを持とうよって。もちろん試合中は戦いだけど、また試合終わったら友達だねみたいな。そんなことを日本発で作れたら面白いと思いますし、「スクラムユニゾン」はオリパラに向けても進めているんです。


──オリパラ(東京五輪・パラリンピック)でも。楽しみですね。


ラグビーワールドカップのものを含めると、もう50カ国ぐらいの国歌の撮影を終えてます。どんどんYouTubeのチャンネルに上げているので、皆さんにどれだけ観ていただけるか分かりませんが、僕らとしてはブレずにやっていこうと思ってます。さらには2025年万国博覧会とか、ワールドマスターズといったものともすごく相性がいいので、しっかりと作っていきたいと思っています。それにさまざまな局面で「分断」が危惧される今の世の中にあって、絆とか、つながる良さというものが伝わっていくといいなと思っています。


絆とか、つながる良さというものが伝わっていくといいなと思っています




柔軟な発想から次々と繰り出されるプロジェクト

ラグビーは15人制とセブンズ(7人制)だけではない。車いすラグビー、10人制ラグビー、タグフットボール/タグラグビー、タッチラグビー、ビーチラグビー、ブラインドラグビー、デフラグビー等さまざま。「これら全てがラグビー」だという見地から普及活動、研究、情報交換の場の提供を行い、地域交流を図ることで広く社会に貢献することを目的としたNPO法人が「ONE RUGBY(ワン・ラグビー)」だ。2020年2月に設立されたこの法人の理事長を、廣瀬さんが務めている。


──「ONE RUGBY」には、車いす、ブラインド(視覚障害)、デフ(聴覚障害)と、障害者スポーツも含まれていますね。


いわゆる一般のラグビーより知られていなかったり、大変な環境の中でスポーツに取り組んでいるところ、そういった人たちをもっとサポートしたいという気持ちは強く持っています。


みんな同じラグビーじゃないか、という思いがあります。みんなが日本代表15人制と同じジャージを着るようになったらいいなっていうのが一つの夢ですね。そしてお互い助け合う。15人制とは違うラグビーの場に僕たちも行って一緒にやるとか、もしくはトップリーグの試合に車いすラグビーやブラインドラグビーのブースが出るとか、そういった形で普及と認知のところで広まっていってほしいなと思ってます。


廣瀬さんの活動は、ラグビーの範疇に収まるものではない。例えば2020年10月1日には、プロバスケットボールの「B.LEAGUE応援キャプテン」に就任した。


──具体的にどんな活動をしているのですか。


ひとつには、まだ「B.LEAGUE」のファンになっていない人へのアプローチですね。スポーツは好きで「B.LEAGUE」のこともちょっと知ってるけど、という人に「B.LEAGUE」に対してより興味を持っていただくようなきっかけづくりをしていく。それから既にファンになっていただいている方には、ラグビー界から見たバスケの魅力といいますか、ファンの皆さんにとって新鮮な視点でバスケの魅力を伝えられるのかな、というところも大きなミッションです。


それから僕自身の興味として、「B.LEAGUE」は今どうやってスポーツビジネスを運営しているのかというところを勉強したいとも考えています。そしてもしかしたらバスケットとラグビーのなんらかの共同イベントを企画するとか、そうすることでお互いのファンが増えるみたいなことをやれたらいいのかなと思っています。


──「B.LEAGUE」が短期間のうちに成功できた理由についてどう感じますか。


ちゃんとビジネスにしたことではないでしょうか。プロ化に踏み切ってお金を稼いでそれをいろいろなところに還元していく、というところにきちんと振り切れた。あとは選手の人数が少ないこともあって、チームの運営にそれほどお金がかからない。ラグビーと比べると1桁ぐらい違う。それに試合をたくさんできる。しかもアリーナなので天候に左右されない。そして競技人口がすごく多い。そういった条件もあったのかなと思います。


また、アスリートの価値を最大限に高め、その価値を社会へ還元するプラットフォーム「アスリートオープンイノベーション構想」の実現を目指す一般社団法人アポロプロジェクトが2020年7月に設立された。廣瀬さんは専務理事を務める。2021年1月にはアスリート向けマインドセットプログラム「A-MAP(ATHLETE-MINDSET APOLLO PROGRAM)」が開校する。


──こちらはどのような活動をする団体なのですか。


ラグビーに限らずアスリートのセカンドキャリア、現役のうちからもう一つのキャリア=デュアルキャリアをどう作っていくのか、がテーマです。自分自身の人生をかけて何をやっていきたいのかというところが見つかれば、それでもう半分くらいは成功したようなものかなと思っています。


──すごく大きなテーマですが、アスリートの皆さんには関心が高いところではありますね。


ラグビーは企業の社員として働く社員選手とプロ選手がいますが、今は企業がいつどうなるか分からない時代ですし、選手を辞めた後のキャリアで苦しまないためにも、社員だから、プロだからというところの固定観念をまず外さないといけないと思っているところです。プロ選手のほうが危機意識を持っているので、学ぶ意欲は高い。感度が高く危機意識や課題感を持っているアスリートはもう動き始めてます。


そういった「学びが当たり前」という考え方をアスリートの中で醸成し、ひいてはアスリートがこれだけ学んでいる中で、ビジネスパーソンの皆さんはどうなのですか、学び続けてアップデートし続けながら働くことが大事じゃないですか、というようなところに持っていきたいなと考えています。


学び続けてアップデートし続けながら働くことが大事じゃないですか


廣瀬さんが携わる事業・プロジェクトについての語りを聞いていると、話は尽きることがない。廣瀬さんは他にも次のような活動を継続中だ。

  • 新型コロナウイルスの影響から大会が中止となり、進学に向けたアピールの場を失った高校生アスリートを支援しようということでSNS上で始まった「スポーツを止めるな」。その後競技の垣根を越えて設立された「一般社団法人スポーツを止めるな」共同代表理事
  • スポーツの楽しさと喜びを分かち合える「スポーツボランティア」の活動を広め、誰もが幸せになれるスポーツのあり方を提案していく目的で設立された「一般社団法人スポーツボランティア協会」代表理事
  • ケニアの子ども達の教育支援や、雇用の支援などに取り組む「認定NPO法人 Doooooooo」理事
  • キャプテンの成長がチームの成長を促し、チームの成長がスポーツやさまざまな活動の成長に、さらには日本のスポーツ界や社会全般の成長に繋がっていくという理念で活動する「一般社団法人キャプテン塾」代表理事


「スポーツがもっと世の中に根づくことを人生の大義にしている」と語る廣瀬さんの、競技の枠を越えた今後の活動から、目が離せない。


2013年、秩父宮ラグビー場で行われた対ウェールズ代表戦で、日本代表は歴史的な勝利をあげる。中央が主将としてチームを引っ張った廣瀬さん。写真(c)長岡洋幸2013年、秩父宮ラグビー場で行われた対ウェールズ代表戦で、日本代表は歴史的な勝利をあげる。中央が主将としてチームを引っ張った廣瀬さん。写真 ©長岡洋幸



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取材協力:湘南藤沢フィルム・コミッション、藤沢市秋葉台公園球技場


※記事の情報は2021年1月29日時点のものです。

  • プロフィール画像 廣瀬俊朗さん 元ラグビー日本代表〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)
    元ラグビー日本代表(代表キャップ28)。トップリーグでは2016年まで東芝ブレイブルーパスに所属。ポジションはウイング、スタンドオフ。1981年10月17日大阪生まれ。5歳から吹田ラグビースクールでラグビーを始め、豊中市立第14中学校、大阪府立北野高校、高校日本代表、慶應義塾大学、東芝ブレイブルーパス、日本代表とキャリアを積む中、あらゆるカテゴリーでキャプテンを歴任。2016年に現役を引退(2018年までは東芝ブレイブルーパスコーチ)、10月にビジネス・ブレークスルー大学大学院 経営学研究科 経営管理専攻に入学。2019年9月に修了(MBA)。2019年に(株)東芝を退社後はTBSテレビの連続ドラマ「ノーサイド・ゲーム」に浜畑譲役で出演するなど活動の幅を広げ、現在ではラグビー、スポーツの枠を越えてさまざまな事業・プロジェクトに携わる。2020年から慶應義塾大学大学院に入学、キャプテンシーをテーマに研究。著書に『なんのために勝つのか。』(2015年、東洋館出版社)、『ラグビー知的観戦のすすめ』(2019、角川新書)

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