「人間としての成長がチーム力を高める」ことを学んだ中学時代〜前編〜|西堀健実

【連載】Beaches! ビーチバレーと私

西堀健実

「人間としての成長がチーム力を高める」ことを学んだ中学時代〜前編〜|西堀健実

ビーチバレー選手の西堀健実さんが、バレーボールとビーチバレーにかけた青春の日々を綴ります。連載第2回は厳しい練習から何度も脱走を試みた、という中学1、2年生時代のお話です。

このメンバーでもう一度日本一を目指そう!

バレーボールと出会い、夢中になり、優勝候補として挑んだ小学校最後の全国大会で、自分の不甲斐なさで負けてしまったことから、なかなか立ち直れずにいた私に、その思いを払拭するチャンスが訪れます(詳しくは前回の記事をご覧ください)。


「このメンバーでもう一度日本一を目指そう!」


長野県内の中学校で全国大会の常連校、裾花(すそばな)中学の監督から入部のお誘いをいただき、即答で裾花中学校への進学を決めました。裾花中学校の卒業生の中には、後輩になりますが、日本代表にも選出されている田代佳奈美選手や石川真佑選手などもいます。


私の住んでいた地域は裾花中学校の学区外だったので、両親が裾花中学校の学区内に一軒家を借り、そこで小布施スポーツ少年団の同期のメンバーと共同生活を送ることになりました。




入学から3カ月後に受けた洗礼

入学前からさっそく練習に参加することに。私も同期メンバーも、これから裾花中学校で地獄の練習が待ち受けていることなど露知らず、共同生活に胸を躍らせ、練習初日は川や野原で道草をしまくり、練習時間に大遅刻し、体育館に到着するのでした。


しかし、まだゲストであった私たちは遅れたことを咎められず、初日は終了。小学生気分が抜け切らないまま、ゲスト気分で過ごす日々が入学から3カ月ほど続きました。そして、そこからいよいよ先輩からの指導、厳しい練習の洗礼が待ち受けていました。


まず、部のルールを覚え、先輩後輩という上下関係を知り、敬語の存在を知り、朝練の時に唱える「成功の哲学」「必勝信条」「バレーボールは人間を作る」の3つを暗記させられます。練習は、朝6時から授業が始まる前ギリギリまで、授業が終わったら19時まで、ときには24時まで。今だったら考えられません。とにかくプレーの精度の高さが求められました。




「できない」ということが許されない厳しい練習

コートを何十分割かにして、それぞれに番号が振られます。バスケットボールのゴールも的の一つ。そして、瞬時に指定された番号に正確に攻撃する、返球するという練習を50本、100本と連続で行います。できないということは許されず、49本、99本でミスをしたら、容赦なくゼロからスタート。


とにかくできるまでやる。ひとりがミスをしたら、連帯責任で全員最初から。こういう練習をしていると、どうやったら効率よく入るかを考えて工夫して、体と頭を使うようになります。そして、誰ひとり残すことなく達成できるように励まし合い、カバーし合います。すると当たり前に、自然とできるようになるんですよね。ほかにも、ジャンプ力を向上させるためのトレーニングで、30段の階段を300往復というメニューもありました。


とまどう暇もなく、とにかく必死で練習について行きました。そんな状況でしたが、小布施スポーツ少年団から一緒に入学したメンバーのほとんどがレギュラーに抜擢されます。必然的に、今までレギュラーだった先輩はコートには立てないということになります。間もなくして、事件は起こりました。




誰かのために勝ちたいと思う気持ちが力になる

レギュラーから外された3年生のほぼ全員が退部してしまったのです。とてもショックでした。退部の理由は、ほかでもない自分達の存在だと感じたからです。しかし監督は、来るもの拒まず、去る者追わず。そんな人でした。


事件を引きずる間もなく厳しい練習は続きます。あっという間に、初めての全国大会出場をかけた予選大会を迎えました。この頃、長野県内にライバルといえるチームがありました。勝率は五分五分。この予選直前の試合は負け。不安要素を払拭できないまま、勝てば全国大会という決勝戦でぶつかりました。


しかし、もう小学生の時のような弱気な自分はいません。そんなことを考える隙もないほど厳しい練習をしてきました。こんなところで、負けるわけにはいかない。絶対に勝つ! そして、もう一つ勝たなければいけない理由がありました。この大会に退部していった先輩たちが大会の応援に駆けつけてくれたのでした。私たちが入部したことで、さまざまな葛藤を抱え、退部という選択をしたはずです。恨めしい気持ちもあったはず。それなのに来てくれたのです。


恩返しは勝つ姿を見せること。試合に入る前は、良くない結果も脳裏によぎりましたが、先輩たちの姿を見てからは、気持ちが高揚して、何をしても上手くいくと思えました。結果は見事に県大会優勝。試合が終わった後に先輩たちに良い報告ができたこと、全国大会に向けて激励してもらえたことが、とてもうれしかったです。誰かのために勝ちたいと思う気持ちが、こんなにも力になるということを知った試合でした。


北海道で行われた全国大会は、力及ばずベスト8。中学で初めての夏は終わりました。


中学2年生の時の西堀さん。双子の妹、育実さん(右)と




厳しい練習をいかにしてサボるか

慣れというのは怖いもので、2年生になると、厳しい練習をいかにしてサボるかということを考えるようになりました。そして、あろうことか何度も練習からの脱走を企てるのでした。


そのたびに連れ戻され、監督の逆鱗に触れるということを繰り返していました。そんな時にまた事件が。選手として試合に出られず、マネージャーの役割を担う先輩から衝撃的な言葉を言われました。


「試合に出たくても出られない、ユニフォームも着られない、そんな私の気持ちなんて分からないよね?」


1年生の時に先輩が辞めてしまった時のような衝撃でした。マネージャーはやるせない気持ちで、私たちの愚行を見ていたのでしょう。とにかく練習から逃げたい、とにかく辛い......ただただそれだけの気持ちで起こした行動が、とても自分本位だったことに気づいたのです。




次こそは日本一に! 改めて心に誓った2度目の夏

この後も練習の厳しさは増し、何度も逃げたいと思いました。練習についていけなくて「お前はハートが弱い」と何度も言われましたが、もう逃げることはしませんでした。


こうして迎えた中学校2度目の夏。全国大会へ出場しましたが、結果は3位。優勝には手が届かず、夏が終わりました。引退する先輩たちから最後に、「日本一は託した!」そんな言葉を受け、次こそは日本一に! と、改めて心に誓うのでした。


監督や先輩との関わりの中から少しずつ、人間としての成長がチーム力を高めるということを学び、厳しい練習に耐えることで忍耐強さを身につけ、技術と心を鍛えられながら過ごした中学生時代、次回はいよいよ私の中学生活最後のお話です。


つづく


※記事の情報は2025年4月15日時点のものです。

  • プロフィール画像 西堀健実

    【PROFILE】

    西堀健実(にしぼり・たけみ)

    1981年生まれ、長野県中野市出身。身長171㎝。
    所属:biid株式会社
    経歴:小布施スポーツ少年団→裾花中学校→古川学園高等学校
    得意なプレー:相手選手の観察
    好きな言葉:一意専心

    【2023年国内大会】
    ・ジャパンビーチバレーボールツアー2023
    第2戦平塚大会 ガラナ・アンタルチカ杯 3位
    第3戦渋谷大会 3位
    ・ジャパンビーチバレーボールツアー2023サテライト
    第1戦横浜大会 3位

    【2023年国際大会】
    ・アジアツアー
    サラミオープン9位
    ・FIVB Beach Pro Tour 2023
    Futures/Satun(サトゥーン) 9位
    Futures/Seoul(ソウル) 5位
    Futures/Geelong(ジーロング) 5位

    【2024年国内大会】
    ジャパンビーチバレーボールツアー2024
    第8戦JBG須磨大会 3位
    第9戦マイナビ松山大会旭食品杯 3位

    【2024国際大会】
    ・アジアツアー
    ヌバリオープン 9位
    天津オープン 9位
    ヌバリチャンピオンシップ 19位
    ・FIVB Beach Pro Tour 2024
    Futures/Mollymook  9位
    Futures/Coolangatta 9位
    Futures/NUVALI 3位

RELATED ARTICLESこの記事の関連記事

バレーボール人生のはじまり|西堀健実
バレーボール人生のはじまり|西堀健実 西堀健実
日本全国にビーチバレーコートが増加中! ビーチバレーの始め方
日本全国にビーチバレーコートが増加中! ビーチバレーの始め方 ビーチバレーボール選手:坂口由里香
二人でボールに食らいつく。転んでもすぐに立ち上がる。それがビーチバレーの醍醐味
二人でボールに食らいつく。転んでもすぐに立ち上がる。それがビーチバレーの醍醐味 坂口由里香さん ビーチバレーボール選手〈インタビュー〉
チアリーマンズ|会社員が魅せるチアで、世界中に元気を届けたい
チアリーマンズ|会社員が魅せるチアで、世界中に元気を届けたい Cheer Re-Man's(チアリーマンズ)〈インタビュー〉
山内鈴蘭|ゴルフの素晴らしさをもっと伝えたい!
山内鈴蘭|ゴルフの素晴らしさをもっと伝えたい! 山内鈴蘭さん タレント〈インタビュー〉

人物名から記事を探す

公開日順に記事を読む

ページトップ