【連載】マインドを整える「コーチング」

石見幸三

行動の質を高めるコーチング

企業の人材育成において注目を集める「コーチング」。現代人のマインドを整えるためのコーチングとは何か。コーチングができる人、できない人。コーチングが効く人、効かない人。現場のエピソードを盛り込んでコーチングの最前線を紹介します。

ティーチングとコーチング

石見幸三(いわみ こうぞう)

前回の記事でも触れていますが、コーチングは「相手に答えがある」という前提で、コミュニケーションをしながら、その人の中にある答えに気づいてもらう、あるいは掴んでもらう、というスキルなので、直接的に何かを「教える」ということではありません。ただ職業としてのコーチの役割には、コーチングだけではなくてテクニックや、やり方そのものを教える「ティーチング」というものも含まれます。

コーチの役割

スポーツの世界を例にするとわかりやすいですが、オリンピックのような世界的な競技会に出場するトップアスリートには必ずコーチがついていますよね。コンマ何秒を争う世界で生きている人は、自分のちょっとした変化がとても重要になります。夢中になると、知らず知らずのうちにフォームが崩れて―――右肩がほんの少し外側に開いている―――とか、その程度でも結果に影響を及ぼします。
そういった自分では気づけないフォームの崩れや体調の変化などを指摘するのがコーチの役割です。ただ、その場合も「フォームが崩れているから直せ」という言い方はしません。「崩れている」と事実を伝えるだけ。選手はそれを聞き、それがもたらす結果に気づいて、自ら修正する。ですからこの場合のコーチの役割はモニタリングに近い感覚です。

これが競技レベルの低い、例えば学生スポーツの現場だとすれば、話が違ってきます。技術的に未熟な学生スポーツ選手に対しては、具体的なやり方を教えます。例えば野球でいうと捕球して素早く投げるためにはどのように体を使えばいいかを教える、といったふうに。これが「ティーチング」なんですね。

コーチは相手によって、このティーチングとコーチングの割合を変えます。相手が学生であればティーチングとコーチングの比率が7:3ぐらい。レベルが上がれば上がるほど、この比率は変わって、トップレベルのアスリートになると逆転して1:9くらいになります。ひと昔前はコーチといえばティーチングが主流だったのですが、いまはコーチングに重きをおくコーチが増えています。相手によってティーチングとコーチングを上手く使い分けることができるコーチが、名コーチと呼ばれたりします。



デキる上司、デキない上司

ビジネスの現場、組織の中でコーチ的な役割を果たさなくてはいけない人もいます。部下を管理したり指導したりする役職についた人=管理職にいる人ですね。「デキる上司、デキない上司」みたいな言い方をされたりもします。
先ほどのコーチの役割という視点で見ると、部下一人ひとりの資質を見て、ティーチングとコーチングを使い分けることができる人が「デキる上司」で、反対に「これをやっておけばいい」と誰に対しても同じことしか言わないとか、部下の資質にまったく気づけない人が「デキない上司」となります。


コーチングって年上の部下、年下の上司など人間関係的に言いづらいことも、話しやすいんです。具体的なアドバイスをしたり、こうしろって命令するわけでもない、ただその人に問いかけて気づいてもらう、というスキルなので、自分が言わなくていい。ラクなんです。コーチング的会話のコツみたいなことを知っているだけで、組織の中で生きやすくなるし、部下からも煙たがれないからWin-Winなんですよ(笑)。ですから管理職の方には気軽にコーチングの世界をのぞいてみてほしいと思っています。



コーチングで行動の質を上げる

ビジネスのコーチってどんな人が雇うの?と聞かれる時があるんですが、基本的にはスポーツの世界と同じです。会社の規模をもっと大きくしたい経営者といった人だけでなく、世界的な賞を目指す自営業(フリーランス)の人や、これからビジネスを始める起業家など、何かしら達成したい目標を持っていて、そこへ必ず到達したい人はコーチを雇うことが多いです。
コーチと話すことで自分の思考が整理でき、「取捨選択の基準を明確にする」「同じ失敗を繰り返さない」ことが身につく結果、目標に向かってダイレクトに行動できるので、行動の質が上がります。そうすると、短期間で目標に到達することができるんですね。


例えば、私のクライアントで7年ほど、長くコーチをさせていただいている経営者の方がいるんですが、まだ40代の若さで最近アーリーリタイアすることを決めました。出会った頃は本当に会社が青息吐息で経営的にはギリギリ、このままいくとつぶれるという状況だったんです。
どうにかして立て直したい、しかも短期間のうちに結果を出さないとマズい、という依頼でコーチングを始めました。もともと優秀なスタッフも多かったので、問題点に気づいて改善することを繰り返すうちに、どんどん上昇気流にのって成長しました。結果、会社が永続的に続くようなサイクルが作れたので、リタイアの決断をされました。7年は長いようでいて、短いですよね。目標が明確であればあるほど、そこへの到達スピードは上がります。


もう一つ、ここでの重要なポイントはやはり、自分たちで気づいて自主的に動く、ということなんですね。例えば外部のコンサルタントにマズいと言われたところを修正するだけ、という受け身のスタンスだと爆発的な上昇力は生まれません。社員一人ひとりの自主性や創造性、風通しのいい活発なコミュニケーションがあるほど自発的な気運が生まれやすくなります。

次回はこのビジネスにおける「創造性」や、「創造性を発揮するためのコーチング」について書いてみようと思います。



※記事の情報は2019年3月20日時点のものです。

  • プロフィール画像 石見幸三

    【PROFILE】

    石見幸三(いわみ・こうぞう)

    株式会社コーチングファームジャパン 代表取締役
    http://saikyou-team.com/

    <専門分野>
    ビジネスコーチング、経営者・エグゼクティブコーチング
    チームビルディング、チームコーチング(ファシリテーション)
    事業仲介(ファシリテーション)リーダーシップ

    <資格>
    ギャラップ社認定ストレングスコーチ
    ハーマン・インターナショナル認定ハーマンモデル・ファシリテーター
    米国NLP(TM)協会認定NLPマスタープラクティショナー

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