
仕事
2026.01.27
山田乳業 〈インタビュー〉
山田乳業|ふるさと納税でも人気沸騰! 白石市の小さな乳業メーカーによる"戦わずして戦う"勝ち筋
宮城県白石市、蔵王連峰の麓にある明治時代から続く乳業メーカー・山田乳業。「フロム蔵王」シリーズが人気を博し、2019年の発売以来、白石市のふるさと納税返礼品でも不動の地位を誇る「Hybrid NEOマルチアイス」などで一躍有名になりました。一方で、その長い歴史の中では、大手の進出や東日本大震災による風評被害など、多くの紆余曲折がありました。全国で中小乳業メーカーが数を減らす中、山田乳業はいかにして生き残ってきたのか。話題の商品の話とともに、代表取締役社長の山田泰(やまだ・ゆたか)氏にうかがいました。
写真:赤澤 昂宥
地元で唯一生き残った乳業メーカー
――まずは御社の歴史から教えてください。
当社は明治17(1884)年に創業して以来、140余年の歴史があります。ただ、創業時の詳しい資料は残っておらず、当時は牛を飼って搾乳し、販売もしていたのではないかと思われます。日本全国で農耕や肥料のために牛が飼われていた時代で、アメリカから牛乳を飲む文化が入ってきて、普及していった頃だと考えます。
私が小学生の頃も、この工場がある場所に牛舎があって牛を飼っていました。牛舎の裏には草っ原が広がっていて、夏休みになると「べこ運動」と称して、父親と牛を散歩させていたのを覚えています。
山田乳業の代表取締役社長の山田泰さん(右)と常務取締役の山田光彦さん
ただ、その牛舎も、周辺に徐々に住宅ができたことで白石市の郊外に移し、やがて蔵王に「山田蔵王高原牧場」をつくりました。山田蔵王高原牧場も工場から離れていることや、生産者として目が行き届く範囲に牧場がないこと、牛肉の自由化など、さまざまな要因もあって辞めてしまうことになります。
――昭和38(1963)年には、現在の山田乳業株式会社として法人化されていますね。
はい。当時は、地元の消費で成り立っているような小さな乳業メーカーが宮城県内に多数あり、白石市にも4〜5軒ありました。その後、冷蔵と輸送の技術が発展し、社会のシステムや流通が変わっていくと、大手乳業メーカーが地方に進出するようになり、コンビニの台頭とともにシェアを伸ばしてきました。
そうした中で、地元の乳業メーカーの多くは廃業せざるを得なくなっていきました。宮城県内にあったほかの乳業メーカーも廃業してしまいましたし、我々もいろいろ試行錯誤しながら、なんとか生き延びてきたと言えます。
JR白石駅から歩いて15分ほどの場所にある山田乳業
――ほかのメーカーが廃業する一方、山田乳業が生き残れたのはなぜでしょうか。
ひとつ大きかったのは、先代が昭和50(1975)年に仙台市に営業所をつくったことですね。白石市という小さい市場だけで戦うのではなく、市場と販路を広げたことは、会社が成長できるようになった転機でもあり、現在の礎にもなっていると思います。
毎朝牧場から新鮮な生乳が届く。搾乳から48時間後には店頭に並ぶ鮮度は地方の乳業メーカーの強み
もうひとつは、今から38年前に「フロム蔵王」というブランドを立ち上げたことでしょう。当時は、地元のスーパーでの販売や学校給食への提供を売り上げの主としていましたが、「それだけではいずれ駄目になる」という危機感があり、次の一手を打つ必要がありました。
大手さんが地方にも進出してきていましたので、攻められる一方でなく、「我々も東京に出ていこう」と。そのためには「山田牛乳」ではおそらくお客さんは興味を持ってくれない、買ってもくれないだろうと思いました。そこで立ち上げたブランドがフロム蔵王でした。
フロム蔵王「プレーンヨーグルト」。搾りたての生クリームを加えた、コクのある味わいが特徴
――ストレートなネーミングですね。「フロム蔵王」はどんなブランドなのでしょうか。
フロム蔵王には3つのコンセプトあります。「蔵王産の牛乳を使う」「地元の特産品を使う」「添加物を極力使わない」ことを柱に商品を開発しました。初めは、蔵王の牛乳と、地元のいちごやブルーベリーを使ったアイスクリームを開発し、販売を始めました。次にヨーグルトを作ったのですが、これが東京進出の大きな足がかりになりました。このヨーグルトが宮城県内のセブンイレブンで取り扱ってもらうようになると、宮城県内にある大手スーパーにも販路が広がり、「東京でも売りたい」という話に発展しました。
当初は、神奈川県のスリーエフというコンビニでフロム蔵王シリーズを取り扱っていただくことになりました。それと同時期に、東急ストアでもフロム蔵王の特設コーナーをつくっていただいたり、大々的に販売してもらいました。それが契機になって、ほかのスーパーやコンビニにも販路ができるようになっていきます。
ただ、当時はフロム蔵王ならではの苦労があったのも事実です。フロム蔵王は「添加物を極力使わない」がひとつのコンセプトでしたから、ヨーグルトにも安定剤や着色料を使っていなかったんです。なので、ヨーグルト自体が"ゆるい"んですね。それをとあるスーパーに納めると、お客さんから「ヨーグルトが固まっていない」というクレームがあって、一時そのスーパー全店から商品を撤去させられたこともありました。
添加物を使わないという概念もあまり浸透していない時代でしたので、「添加物を使っていないから、こうしたゆるいヨーグルトなんです」と何度説明してもご理解いただけない。そのために発酵方法を変えたりして、試作を繰り返し、少しずつ食感を変えていったこともありました。
なめらかでもっちりした食感が特徴のフロム蔵王「極 プレーンヨーグルト」
会社存続にも関わる危機。逆転の発想が窮地を救う
――試行錯誤しながらも、会社としては東京への進出は成功だったのではないでしょうか。
確かに、会社の売り上げ的には大きな割合を占めるようになったのは事実ですね。特にコンビニの売り上げは大きくて、関東のファミリーマート全店や、ローソンなど、いろんな店舗に納めるようにもなりました。
とはいえ、コンビニですから商品の入れ替えが激しく、とにかく忙しいんです。2~3週間のサイクルで新商品の入れ替えがあるので、開発も目まぐるしい。ヨーグルトも、いちごやブルーベリー、白桃、ラ・フランス、リンゴ、アロエ、梨など、いろいろなフレーバーの商品を次々と試作していったのですが、それでも開発が追いつかない。そのサイクルに我々のような中小のメーカーではついていけず、体力的にもかなり疲弊していきました。そんな事情もあって、2005年前後にはコンビニからは徐々に手を引いていきました。
今では、他社との差別化を図るため、コンビニ各社がPB(プライベートブランド)で独自に商品を開発するようになっていますので、我々のような中小が入る余地はまったくなくなりましたね。今考えると、コンビニから早めに撤退して良かったと思っています。
――大きな売り上げを占めるコンビニから撤退したとなると経営的にも厳しくなりますよね。次にどんな一手を打つのでしょうか。
コンビニから少しずつ手を引くとともに、2004年から始めたのが通販でした。初めは自分でホームページをつくって販売し始めたのですが、やってみると家庭用のアイスクリームの原料が少しずつ売れるようになって、商品を徐々に増やしていくとともに楽天とヤフーにも出店するようになりました。その後、チーズケーキがヒットしたり、通販事業も少しずつ知名度を上げていきました。
キャンペーンなどの企画の多くも、社長自ら発案することがほとんどだという
――東日本大震災でも、大きな風評被害があって売り上げが落ちたそうですね。
東日本大震災後、放射能の風評被害では、売り上げが4割くらい落ちました。それまで東京で拡大してきた市場のほとんどを失いましたし、すごく苦しみましたね。なんとか売り上げを確保しないといけないと、随分と安売りもしましたし、いろんな商品を取っ替え引っ替え開発したりしましたが、結果的には大失敗でした。利益が上がらないですし、忙しいばかりでした。
そんな中でさらなる追い打ちをかけたのが、配送業者による運賃の値上げと、大手さんによる学校給食での価格攻勢でした。震災後、厳しい中でも2008年にフロム蔵王シリーズとして発売した「スーパーマルチアイス*」は、通販でも売れていた商品でした。送料込みで24個入3,000円という価格で販売して、おいしさとともに「3,000円でこんなにもおいしいアイスがいっぱい食べられる」という驚きを与えるアイスを目指していました。
*スーパーマルチアイス:2008年に発売開始。その後改良を重ね、2019年にリニューアルして現在は「Hybrid NEOマルチアイス」として販売している。
ところが、主要配送業者による料金の改定があり配送料が値上げ。アイスクリームもその分を値上げして3,480円で販売せざるを得なくなると、売り上げが激減してしまいます。20個入りにして価格を3,000円にしても、売り上げは元のようには戻りませんでした。さらに、当時入札によって獲得していた県内の学校給食の牛乳も大手の価格攻勢によって、一部の地域が受注できなくなると、年間数千万円の売上減少にみまわれて、会社としても大変厳しい状況になりました。
どのようにこれらの売り上げ分を戻すか、すごく悩みました。考え抜いた結果、最終的にたどり着いた答えが、アイスクリームを送料込みで24個入3,000円に戻すことでした。
6種のフレーバーがそろう「Hybridスーパーマルチアイス」
これまでの配送では、アイス24個とドライアイスを詰めて80サイズの発泡スチロールで梱包していましたが、それを60サイズにすれば配送料も削減できるという算段でした。しかし80サイズから60サイズに落とせば、発泡スチロールには24個のアイスが入らない。ならば、発泡スチロールを段ボールに変更し、箱のサイズ自体を小さくしてはどうか。ただ、それではドライアイスが入らなくなりますし、保冷性もありません。「だったら"溶けにくい"アイスを作ればいい」そうひらめいたのです。そうすれば、段ボール箱にアイスと蓄冷剤を入れて発送できるだろうと思いました。
そうして生まれたのが、「Hybridスーパーマルチアイス」でした。するとこれが爆発的に売れるようになったんです。
「Hybridスーパーマルチアイス」。溶けてムース状になると、また異なる食感が楽しめる
――現在は、白石市のふるさと納税返礼品でも人気ナンバーワンを誇る商品ですね。どのようなアイスなのでしょうか。
アイスクリームとして特徴的なのは、「溶けにくい」ことと、「溶けてもおいしい」ということです。詳しくは言えないのですが、ゼラチンを使った新製法で、この2つを実現しました。溶けにくいアイスなのですが、溶けたとしてもムース状になって、おいしく食べられるようになっています。
フロム蔵王シリーズとして蔵王の生乳を使うのはもちろん、「仙台いちご」といった地元の素材などを使った6種類のフレーバーを用意しています。
40年来のロングセラー。社長が作画したイラストも味わいもどこか懐かしい
――一方で、地元で47年間愛されている「山田フレンドヨーグルト」も、地元はもちろん観光客にも密かに人気のようですね。商品について教えてください。
簡単に言えば昔ながらのヨーグルトです。47年前の発売から製法もほとんど変えていません。発酵条件を変えて食感をなめらかにしたり、少しずつ時代に合わせたアップデートはしていますが、山田フレンドヨーグルトだけは昔ながらのままにしています。お陰様で県内の多くの小学校や中学校にも提供させていただいています。
味だけではなくパッケージも40年変わっていません。その懐かしいデザインが観光客の方々にも好評で、昔ながらのレトロなパッケージが目に留まるんだそうです。そして、実際に食べると昔懐かしい味がするといってファンになってくれています。
宮城県民のソウルフードでもある山田フレンドヨーグルト
――パッケージのイラストも随分レトロですよね。
パッケージに描かれた男の子のキャラクターは、「山田フレンドヨーグルト坊や」といって、実は私が描いたキャラクターなんです。私が入社して間もない40年前、パッケージのデザインを一新することになったのですが、デザイナーさんやイラストレーターさんとのつてもなければ、外部に依頼できるほどの予算もありませんでした。ですので、私が「カップデザインを変えたい」という強い想いだけで描いたキャラクターです。
「山田」の文字が筆文字である一方、「フレンドヨーグルト」の文字はフォントを使っていたり、デザイン的にはめちゃくちゃなんでしょうけど、今となってはそれが味となって「懐かしい」と喜んでいただいております。
――3個入ヨーグルトの台紙に描かれた4コマ漫画も心温まるエピソードが多いですね。これはどのように作っているのでしょうか。
発売45周年をきっかけに、山田フレンドヨーグルトにまつわるエピソードを募ったキャンペーンを行ったところ、300件近くの応募があったんです。「高熱を出して何も食べられない子どもが、このヨーグルトだけは食べられた」「東日本大震災の避難所で支援物資として届けられて癒やされた」など、内容はさまざまだったのですが、商品に対する思い入れが伝わるものばかりでした。
月に一度ほどのペースで更新される山田フレンドヨーグルトの4コマ漫画
以前、Jリーグのベガルタ仙台とコラボして「ベガルタ牛乳」という牛乳を作ったことがあります。ベガルタ仙台が地元ではすごい盛り上がっているので、牛乳を出したら売れるだろうと思ってやったところ、ほとんど売り上げにつながりませんでした。それは一例ですが、我々メーカーは、時として自分たちの思い込みだけで商品を作って失敗することも少なくありません。
けれど、このキャンペーンは、商品に対するお客様の思いが直接伝わるんです。作る方としてはすごくありがたいお話で、商品開発の参考になります。
価格競争には加わらず、大手とは戦わない
――地元の乳業メーカーとして、今後どのような方向性を目指すか、描いているビジョンはありますか。
価格競争に巻き込まれる類いの商品は、開発しない方針としています。そのためにもしっかりと差別化を図ることが大切です。それを模索していますが、数年前から業務用にも力を入れるようになって販路を広げています。秋保温泉や山形蔵王の旅館などの朝食で提供していただいているヨーグルト「フロム蔵王 極ヨーグルト」や「蔵王三十六景牛乳」などは良い例ですね。スーパーやコンビニに卸すのとは異なり、価格競争に巻き込まれません。
同じヨーグルトでも、例えば機能性ヨーグルトを作っても、我々には宣伝力がないので、大手さんには太刀打ちできません。ですが、フロム蔵王 極ヨーグルトは違います。蔵王の新鮮な生乳を使い、低温で長時間発酵させるなど、手間をかけることで、もっちりとしていてなめらかな独特の食感のヨーグルトとして付加価値をつけられます。また、搾乳して最短で48時間後には飲むことができる牛乳の鮮度も、我々の強みのひとつです。このように大手メーカーとは同じ土俵には立たずに"地産地消"で勝負することが、我々のような中小のメーカーが生き残るための道だと考えています。
――最後に、今後開発したい商品がありましたら、教えてください。
将来的には究極の地元産ヨーグルトを作ってみたいですね。そのポイントとなるのが乳酸菌。乳酸菌は、地域ごとにどこにでも存在しているのですが、蔵王産の乳酸菌でヨーグルトを作ってみたいと考えております。大手さんですと独自に培養した幾つもの乳酸菌を開発していますが、現在のところ我々は海外から買った乳酸菌を使用しています。
乳酸菌ひとつでヨーグルトの個性は全然違うものになりますので、地元蔵王から採取して培養した乳酸菌を使ってヨーグルトを作ったらどうなるか。現在は、つながりのある東北大学の教授ともお話ししており、「面白いですね、ぜひやりましょう」と賛同いただいています。
※記事の情報は2026年1月27日時点のものです。
-

【PROFILE】
山田乳業(やまだにゅうぎょう)
宮城県白石市・蔵王連峰の麓で明治17(1884)年に創業。昭和38(1963)年に法人化した老舗の乳業メーカー。蔵王の牛乳×地元素材×添加物を極力使わないを軸に「フロム蔵王」ブランドを展開。 2004年から通販にも挑戦し、震災後の風評被害などを乗り越えながら商品を磨く。 2019年発売の「Hybrid NEOマルチアイス」はふるさと納税返礼品でも注目を集め、近年は旅館朝食向けヨーグルトなど業務用にも広げている。
公式サイト https://from-zao.com/fromzao/index.html
RELATED ARTICLESこの記事の関連記事
-
- 成分? 食感? 味? 自分に合ったヨーグルトの選び方【ヨーグルトマニア・向井智香さんおすすめお... 向井智香さん カップヨーグルト研究会〈インタビュー〉
-
- 和のスピリッツの挑戦(前編)|日本古来の麹の良さを活かし世界でも高評価 岡本晋作さん「WAPIRITS TUMUGI」クロスオーバーセンター チーフ〈インタビュー〉
-
- 手軽で安いものという価値を転換|「海苔弁いちのや」の高級のり弁 海苔弁いちのや 代表取締役 風間塁さん 総料理長 井熊良仁さん〈インタビュー〉
-
- ラーメン業界を長時間労働から救う。スープ供給の革命、世界への挑戦 本間義広さん クックピット株式会社 代表取締役社長〈インタビュー〉
-
- 稲垣貴彦|三郎丸蒸留所の革新は、ジャパニーズウイスキーの未来を形づくる 稲垣貴彦さん 三郎丸蒸留所〈インタビュー〉
NEW ARTICLESこのカテゴリの最新記事
-
- 山田乳業|ふるさと納税でも人気沸騰! 白石市の小さな乳業メーカーによる"戦わずして戦う"勝ち筋... 山田乳業 〈インタビュー〉
-
- CGOドットコム総長 バブリー|「ギャル式ブレスト」で日本の会議を変える バブリーさん CGOドットコム総長〈インタビュー〉





