CGOドットコム総長 バブリー|「ギャル式ブレスト」で日本の会議を変える

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バブリーさん CGOドットコム総長〈インタビュー〉

CGOドットコム総長 バブリー|「ギャル式ブレスト」で日本の会議を変える

「上司が偉い」「空気を読む」「波風を立てない」──そんな日本的な会議文化を、会議に"ギャル"を入れるという前代未聞のサービス「ギャル式ブレスト」で変えようとしているCGOドットコム。率いるのは、元ギャルのバブリーさんです。「忖度(そんたく)のない場をつくるには、ギャルマインドが必要」と語る彼女の言葉には、ユーモアの奥に確かな論理と情熱があります。ギャルマインドは社会を変える──その信念に迫りました。

文:鴨井 里枝 写真:山口 大輝

優等生から家出少女に。ギャルとの出会いで知った初めての"自由"

――"バブリー"というお名前からしてインパクトがありますが、その由来から教えていただけますか。


本名の竹野理香子(たけの・りかこ)から、名字の"竹(バンブー)"と名前の"理"を合わせてバブリーと名乗ることにしました(笑)。


――バブリーさんも元々ギャルだったのですか。どのような学生時代を過ごされていたのでしょうか。


はい、元ギャルです(笑)。でも中学生時代は、生徒会長も務めた成績オール5のいわゆる"真面目な優等生"でした。山梨県で生まれて両親は公務員。高校は進学校へ進みましたが、入学初日から「東大を目指しなさい」と言われて、「あ、私の将来は決められているんだ」ってモヤモヤしたんですよね。「私は何がしたいんだろう」「なんで東大に行くんだろう」って。やがて不登校になって、16歳で退学。家出して、ネットで知り合った友達が住む大阪に行きました。


CGOドットコム総長のバブリーさん


――若いながら大きな行動に出ましたね。


でも何がしたいのかはまったく分からなかった。そんな時に出会ったのが、同世代のギャルたちでした。超かわいかったんです! 県外から来た私のことも自然に受け入れてくれて、次第に打ち解けて、憧れを持つようになりました。


彼女たちは、"他人ウケ"より"自分ウケ"。明るくて自由で、自分の好きなことにまっすぐに生きていた。そんなアティチュードやスタイルがすごくキラキラしていて、「彼女たちのようになりたい」と初めてつけまつげやカラコンに挑戦しました。すると、初めて自由を知った気がしたんですよね。それまであまり意識していなかった自分の好き嫌いもよく分かった。自分らしさや生きる力を感じるようになって、前向きな気持ちになりました。


バブリーさん愛用のスマホケース。身に着けるものからも「自分の好きなもの」を追求するギャルマインドが伝わってくる




「ギャルは絶滅しない」。自力で証明した学生時代

――その後、学業に復帰されるのですよね。


19歳の時に、親から「大学に行くか、就職するか決めなさい」と言われたんです。それで進学することにしました。自分は親が援助してくれて選べたけど、周りには将来の選択肢がないギャルもいました。


その時に、世の中って意外と不平等だなって思ったんです。ギャルってすごく賢くて、私はギャルに救われたのに。世の中の尺度が間違っているから、いつかそれを変えたいって思いました。


――大学時代もギャルとして活動されていたのですか。


ギャルには卒業というものがありまして(笑)、私自身は19歳でギャルを卒業したのですが、引き続きギャルに対する憧れは持ち続けていました。そしたら当時、私もよく着ていた、ギャルファッションを代表するブランド「セシルマクビー(CECIL McBEE)」が大人向けに路線変更すると発表して、「ギャルは絶滅した」なんていう記事がネットで話題になったんです。もうびっくりしました。「ギャルは絶滅していない。するわけないじゃん!」って。だから、渋谷のハチ公前でギャル探しを始めました。


「ギャル絶滅」といわれる要因には、ファッションの衰退が間違いなくあったと思います。でも、ギャルは消えない。マインドや生き方は時代を超えて存在し続ける。その点ではギャルの解釈を変える必要があると思いました。それを社会に証明しないと、このままファッション文化として終わってしまうなって。


それでギャルにアンケートを取って、彼女たちの心の部分を定義しようって考えたんです。その結果、「自分軸」「直感性」「ポジティブ思考」という3つのキーワードに集約することができました。ちなみにこれは大学の研究ではなく、完全に個人の探究心から始めた活動です(笑)。ギャルは絶滅していない──ただただそれを証明したかった。


CGOドットコム総長のバブリーさん


――そこからどのようにCGOドットコムの構想が生まれていったのでしょうか。


ギャルマインドを言語化できたとき、「これは社会に役立つかもしれない」と思いました。ギャルたちが持つ"直感で動ける力"や"ポジティブさ"は、実は組織や企業が今一番必要としているものなんじゃないかなと。


でも当時の私はまだ大学生で、会社をつくるなんて現実的ではありませんでした。それでも、ギャルを研究するうちに「これを文化で終わらせたくない」という気持ちが強くなっていったんです。私がやりたいことはギャル文化を復活させることではなくて、"ギャルマインド"を世の中に広めることだなって。「ギャルマインドを社会に実装する」というテーマが私の中で明確になり、2020年にCGOドットコムを立ち上げました。




ギャルマインドを構成する「自分軸」「直感性」「ポジティブ思考」

――あらためて、"ギャルマインド"の軸となる3つの要素について教えてください。


他人の目よりも自分の感情を大切にする「自分軸」、「それいいじゃん!」「かわいい! 」など思ったことを素直に言葉にする「直感性」、そしてどんな状況でも前向きに楽しむ「ポジティブ思考」の3つです。


これらは全て、停滞した日本の会議文化に欠けているものなんです。上司の顔色をうかがって誰も発言しない。前例を踏襲して"無難な結論"で終わる。そんな会議を変えるには、忖度のない"ギャルマインド"が役に立つと感じました。


――会議という場に目を向けたのはなぜですか。


鉄道会社に勤める中間管理職の元ギャル男の知り合いとの会話がヒントになりました。彼が「部下に気を遣って、部長にも忖度して......俺はもうギャル男じゃない」と言っていたことがあり、「ギャルマインドでこの人を救うことができたら、これから私がやりたいと思っているギャルマインドの実装も上手くいくかも」と思い立ちました。


それで「ギャルと話せる会議をやってみませんか」と提案し、実施したところ「いいじゃん!」と言ってもらえて、ほかの企業まで紹介してもらうことができました。それが「ギャル式ブレスト」の始まりです。


――「ギャル式ブレスト」のクライアントは、どういった悩みを持つ企業が多いですか。


クライアントは、さまざまな世代のいる大企業が大半を占めるのですが、異なる世代でなかなかコミュニケーションが取れず、新しい発想が出てこないという声が多いですね。肩書や役職に縛られて会議室に重い雰囲気が漂い、若手は発言したくてもしづらい、なんていうこともあるみたいです。




「それアゲじゃん!」で"忖度のない会議"をつくる「ギャル式ブレスト」

――大企業も採用する「ギャル式ブレスト」は、どのように行われるのでしょうか。


企業の会議にギャルが入り、社員と一緒にアイデアを出し合います。忖度をなくし、フラットに意見を言える場をつくるために、以下の5つをルールとしています。


  1. ため口で話すこと
  2. お互いをあだ名で呼び合うこと
  3. 役職や肩書は公開しないこと
  4. 5分以上沈黙しないこと
  5. 持っている服の中で一番好きな服を着ること


これを守ると、会議室の空気が驚くほど変わるんです。上下関係を忘れて"人と人"として会話ができるようになり、社長をニックネームで呼ぶことも(笑)。最初は戸惑っていた社員さんも、ギャルたちの「それアゲじゃん!」というリアクションで、次第に表情がほぐれていく。空気が軽くなると、発想もどんどん自由になっていくんです。


ギャル式ブレスト「ギャル式ブレスト」の様子。最初は緊張した面持ちだった参加者たちも、「いいじゃん!」「それイケてる!」などギャルのポジティブな声掛けによって気持ちがほぐれ、笑顔になっていく(画像提供:CGOドットコム)


だいだい20人ほどの社員に対して4人のギャルが入ります。ギャルとは別に、ギャルと企業の架け橋役となるファシリテーターも同席し、会議を盛り上げ、スムーズに進むように活性化します。


ブレストをするだけでなく、前後1.5カ月をかけて課題のヒアリングからテーマ設定、フィードバックまで行うのも特徴です。


――ギャルが入るだけで、いきなり会議の空気が変わるものでしょうか。


最初はめちゃくちゃ気まずい雰囲気になることもあります。ギャルと話すのが初めての方はドギマギしてしまいますよね。そんな時は、会議のはじめに「祈りの時間」を設けて、みんなで「ギャルは怖くない」と唱えるんです(笑)。それだけで場の空気が軽くなります。


場が和んだところで会議をスタートし、ギャルたちのポジティブなリアクションが、さらに空気を変えていきます。笑いが生まれ、発言数が増えたり、アイデアもまとまりやすくなったり。さらに頭を柔らかくするために、会議の途中でみんなで輪になって体操をすることもあります。


ギャル式ブレストギャルへの恐怖心を和らげる「祈りの時間」(画像提供:CGOドットコム)


――ギャルたち自身にとっても、何か変化はありましたか。


参加したギャルたちは「初めて社会の中で自分が価値を生めた」と感じるようです。多くのギャルは、これまで「社会人と真面目に話す場」に立ったことがない。でも、会議で「あなたの意見は新鮮だった」と言われることで、"自分の感性にも意味がある"と気づくんです。


中にはこの活動をきっかけに、キャリアを考え直したり、新しい仕事に挑戦したりするギャルもいます。ギャルが輝くことで、社会が少し明るくなる。それが私の一番の喜びです。


ギャル式ブレスト会議で活躍するギャルは「世の中の役に立ちたい」という思いを持っていて、本職はアーティストやダンサーなどさまざま。現在、CGOドットコムと業務委託契約を結んでいるギャルが全国に約30人おり、将来的には1,000人に増やしたいという(画像提供:CGOドットコム)




「ギャル式ブレスト」はリピートや口コミで広がっている

――「ギャル式ブレスト」は、事業としてはどのくらい広がっているのですか。


これまでに100社以上と取り組みました。業種はさまざまですが、製造業やインフラ系が多いですね。市役所など行政機関も増えています。リピート率は約30%で、部署単位で継続導入する企業も増えています。実は営業はほとんどしたことがなくて、リピートや口コミ、問い合わせをいただいたお客様がほとんどで、ありがたい限りです。


最近、ブレストで生まれたアイデアを実際のプロダクトに落とし込むサービス「ギャル式スタジオ」も始動。岩手にある老舗の酒蔵「南部美人」と一緒に、「クラブでも飲みたくなる日本酒」をテーマに、パッケージから味までギャルがディレクションした新製品「YUICHU(ゆいちゅ)」をつくりました。従来の日本酒市場にはなかった"バイブスの合う酒"が完成し、Z世代や海外層にも届くようなカルチャー発信型商品として注目されています。


――今年、日本最大級のピッチコンテスト「IVS2025 LAUNCHPAD」に参加し、特別賞「インベスターZ賞」を受賞されましたね。


いわゆるスタートアップ業界で、目に見えない"マインド"や"カルチャー"を軸にした企業が評価されたこと自体、すごく印象的でした。私たちは人と人の関係性をデザインしている会社。それでも、社会課題の本質にアプローチしていると認めてもらえたのがうれしかったですね。 "ギャルマインド"を理論的に定義し、100社以上で成果を積み重ねてきたユニークな試みを、ビジネスとして成立させてきた点を評価してもらえたのだと思います。


CGOドットコム総長のバブリーさん家出をした時は険悪な関係だった両親も、今ではCGOドットコムの事業を誰よりも応援してくれているという




本当の意味での「ギャルマインドの社会実装」を目指して

――「ギャルマインドの社会実装」を掲げていますが、手応えはいかがですか。


少しずつですが、確実に変化を感じています。当初は「キャバクラと何が違うの?」と言われることもありましたが、今はギャルマインドについて理解していただき、問い合わせがどんどん増えています。それだけ各社が「マインドを変革するにはどうしたらいいか」で悩んでいるし、社会が「違いを面白がる」方向に動いている。


私たちは「分断ではなく共創」を目指しています。上司と部下、ジェンダー、世代──違う立場の人が混ざり合って笑い合える場をつくる。「ギャル式ブレスト」は、その縮図のような存在なんです。


――最後に、バブリーさんが思い描くこれからのビジョンを教えてください。


人って、本来は誰でもポジティブで、素直に生きたいと思っているんですよね。でも、環境や社会の枠組みの中で、それを表に出せなくなっていく。その殻を軽々と破っているギャルたちから、私は"自分を信じること"の大切さを学びました。


一方で、まだ社会に認められていないけれど、確かな感性やエネルギーを持つ若い子たちは無限にいる。ギャルたちが社会に合わせるのではなく、社会のルールのほうを変えて、ギャルたちが稼げる仕組みをつくりたいと思っています。それが本当の意味での「ギャルマインドの社会実装」だと思うから。


最終的な目標は、「誰もが"他人ウケ"でなく、"自分ウケ"で生きられる社会」をつくること。子どものころ泥だらけになって遊んでいたように、"やりたい"と思ったことに素直に飛び込める大人を増やしたい。その勇気こそ、ギャルマインドの本質だと思っています。


※記事の情報は2025年12月2日時点のものです。

  • プロフィール画像 バブリーさん CGOドットコム総長〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    バブリー
    合同会社CGOドットコム 総長
    人生で3回学校を中退。 高校中退後は大阪へ家出しギャルマインドに感銘をうける。「ギャルマインドで世の中のバイブスをアゲる↑」ことを目指し、合同会社CGOドットコムを設立。企業や団体にギャルを送り込む「ギャル式ブレスト®︎」を展開する。2023年「Forbes Japan 世界を救う希望100人」に選出。2025年「IVS2025 LAUNCHPAD」にて特別賞「インベスターZ賞」を受賞。

    CGOドットコム 
    https://cgo-gal.com/

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