喜びや感謝を伝える、リビングフォト

JUN 11, 2019

INTERVIEW リビングフォト主宰 フォトグラファー 今道しげみさん 喜びや感謝を伝える、リビングフォト

JUN 11, 2019

INTERVIEW リビングフォト主宰 フォトグラファー 今道しげみさん 喜びや感謝を伝える、リビングフォト 「創造」をキーワードに、各界のクリエーターへのインタビューを行う「創る」のコーナー。第4回はフラワーアレンジメントと写真の教室「リビングフォト」を主催するフォトグラファーの今道しげみさんです。ご自宅を兼ねた教室にお邪魔してお話をうかがってきました。

花がきれいと思えることは、一瞬の喜び

前職は旅客機の客室乗務員をしていたという今道さん。客室乗務員になったのは「おもてなし」に興味があり、いろいろな国に行けて楽しそう、という理由からだった。ただ客室乗務員はかなりのハードワークであったため、家庭を持って仕事を続けるのは難しいと、25歳で結婚出産を期に退職。その後ご主人の転勤でロンドンへ。海外で子育てをしながらでき、かつ自分の好きなことを仕事にしたいという気持ちで、子どもの頃から好きだったフラワーアレンジメントの技術を習得。フラワーデザイナーとして、自宅でフラワーアレンジメント教室を開き、在ロンドン駐在員の奥様たちに教えるようになった。

リビングフォト主宰 フォトグラファー 今道しげみさん


――写真はいつ頃から始めたんですか?


「写真はロンドンの時代から。花のポストカードを作って、生徒さんたちにプレゼントするために始めたんです。最初はコンパクトデジカメを使っていたんですけど、帰国した際にフィルムの一眼レフカメラを購入して、本格的に始めようと本や教室を探しましたが、その当時は自分が撮りたいような花の写真の撮り方を教えてくれる人や情報に出会えなくて、独学のまま10年ほどカメラを続けました」(今道さん)

――それで花の撮影テクニックを教える写真教室をはじめたキッカケは何だったのですか?

「2003年にデジタル一眼レフカメラを手に入れてからです。『光』を大切に撮影したいのですが、フィルムカメラでは現像してみないと狙い通りに撮れているのかどうかわからなかったんです。それがデジタル一眼レフカメラになったら、試行錯誤していたことがモニターでリアルタイムに見られるようになって、簡単に調節できるようになりました。それでブログに自分の撮った写真を載せていたら、こんな写真を撮りたいっていう人がたくさん出てきて、すごく反響がありました。それで花が好きな女性たちときれいな花の写真を撮る、そういったお稽古スタイルの教室をやろうと『リビングフォト』を商標登録して2005年に始めたんです」(今道さん)

野に咲く花ではなく、スタジオでプロが精密に撮る花でもなく、家に自分が飾った花を美しく撮ろう...今道さんの写真教室は、「こういう写真が撮りたかった」という女性たちの心をつかみ、それまで日本にはなかった写真ジャンル「リビングフォト」が立ち上がった。独学で写真を勉強し、手探りで活動をスタートしてから約20年、受講者は口コミで増え続け、今では日本全国にファンと生徒を持つまでになった。日本語で「リビング」というと「部屋」を指すイメージだが、英語では「生きている、生きているもの」という意味の方が強く、花や料理など消えてしまうものの、生きているその瞬間を撮る、という意味もある。


――花や料理など身近なものを美しく切り取る、それが「リビングフォト」でしょうか?


「そうですね。さらにいうとその写真で『感謝を伝える』ということも欠かせない要素です」(今道さん)

――それはどういうことですか。

「きれいにスタイリングした花を撮影する、というのはとても恵まれていて、幸せなことなんですよ。花を買って、カメラを準備してって、お金もかかるし、環境がないとできません。でも人って恵まれた生活で、自分が幸せな時間を過ごせていることに無自覚だったり、すぐに忘れてしまうんです。花がきれいと思えることは、まさに一瞬の喜びです。でも、それを写真に撮ってかたちにすることで、何度もその時の気持ちが蘇ってくるし、写真を見た人にも伝わります。リビングフォトはただ身近なものを撮る、というだけではなく、豊かな時間を過ごせたことに対する感謝を表現したり、喜びを伝えるものでもあります」(今道さん)



人を喜ばせたい気持ちが一番のこだわり

人を喜ばせたい気持ちが一番のこだわり


――今道さんが作品を作る時のこだわりを教えてください。


「作品というとやっぱり色彩でしょうか。自分が表現したい色、自分が撮りたい色にこだわっています。ただ自分の好きな色や表現にこだわってはいるけど、私は自分が好きなものは、他の多くの人も好きに違いないって思ってるんですよ(笑)。だから自分が撮った写真はたくさんの人に喜んでもらえると思っていて、人を喜ばせたいというのが、一番大きな動機というかこだわり、でしょうか」(今道さん)

――作品を作ってどうだ!というより誰かを喜ばせたい、というのは、なにか「おもてなし」の精神を感じます。

「そうですね。リビングフォトの教室は花を見て、わーきれいって思った幸せな時間をかたちにする場所です。写真そのものも大事なんだけど、みんなで花を愛でて、撮影している時間も、くつろいでお茶を飲んでる時間もすべてを大切にしています。その過程も含めて、リビングフォトは楽しさに何層ものレイヤーがあるんです」(今道さん)



ジョセフィーヌの花束

花にも"写真映え"する花とそうではない花があり、リビングフォトでは花のセレクトも大切なポイント。教室のある日は、朝5時に今道さん自ら市場で花を仕入れ、自宅で花のスタイリングを行う。初級・中級さらに上級者向けの「ブーケドフォト」というクラスなど、一カ月に約20クラスを一人で教える。


ジョセフィーヌの花束

――長く通っている生徒さんもいらっしゃるんでしょうか?

「もう20年以上になる生徒さんもいますよ。お稽古ごとって、あるところまでいくとコミュニティが楽しくなるんです。生徒さん同士がお友だちになったり。私は長く続けてくださっている人たちにも、何かしら新しい情報を入れて共有したいと思っているので、毎回必ず『テーマ』を提案しています。上級クラスの『ブーケドフォト』では私も常に新しいことにチャレンジしていけるので、楽しいんです」(今道さん)

――例えばどんなテーマでやっているんですか?

「基本的には『花と歴史』とか『花とアート』とか、花を中心にして何かを掘り下げるかたちです。まず自分で本を買って勉強するんですけど、これがすっごく面白い。例えば今月(2019年5月取材時)は『ジョセフィーヌの花束』というテーマを考えています」(今道さん)

――ジョセフィーヌというと?

「皇帝ナポレオンの最初の妻で、大変なバラ愛好家でも知られています。私はもともとボタニカルアートにすごく興味があって、昔から勉強しているんですけど、ジョセフィーヌが植物宮廷画家に描かせたものを本にして出版していて、ここに架けてある絵はその時代、200年前に描かれたオリジナルのものなんです。

ここに架けてある絵はその時代、200年前に描かれたオリジナルのものなんです

「この絵に描かれているバラは今でもあるんですよ。2~3千年前からある品種で、ガリカ ローズ オフィキナリスという名前がついています。教室ではみんなに絵を見てもらって、バラの歴史を振り返りつつ『ジョセフィーヌの花束』をテーマに、好きなバラを使ってブーケ作ってもらいます」(今道さん)

――それは"生きている化石"のようで面白いですね。

「そうなんですよ。そしてジョセフィーヌがバラを絵にして残そうとした気持ちは、まさに私が写真に撮って残したいっていう気持ちとまるきり同じなんですよね。花の姿を残したい気持ちはそれこそ何百年も昔からあった。花を巡る歴史に触れることで、大きな流れの中に自分たちがいるのを感じることができるのも楽しいです」(今道さん)

ブーケドフォトのクラスで作った「ネアンデルタール人の花束」。最近の研究で、ネアンデルタール人の埋葬場所から「矢車菊」の花粉が大量に発見されたことを受け、人類以前の、はるか古代の文化にも花を愛でる気持ちがあったのかもしれないと、テーマに取り上げた。ブーケドフォトのクラスで作った「ネアンデルタール人の花束」。最近の研究で、ネアンデルタール人の埋葬場所から「矢車菊」の花粉が大量に発見されたことを受け、人類以前の、はるか古代の文化にも花を愛でる気持ちがあったのかもしれないと、テーマに取り上げた。Ⓒ今道しげみ



写真に撮ることで大事なものに気づく。

今道さんは独学でカメラを学び写真を撮りはじめたが、一方で持ち前のバイタリティーと探求心で、ソニーやニコンなどのカメラメーカーに企画を持ち込み、広告の仕事も次々と成功させてきた。現在、広告フォトや外部のイベントなどに招かれての講師活動、通信スクールのカメラ講座での執筆業など、その活動は多岐にわたる。

今道さんが撮影している化粧品ブランドのカレンダー今道さんが撮影している化粧品ブランドのカレンダー


――ちょっとお聞きしただけでもすごい仕事量ですよね...。

「私すごい働きものなんですよ(笑)」(今道さん)

――リビングフォトにいらっしゃる生徒さんは、写真の撮り方を学んで、どんなふうに変化していかれるのでしょうか。


「人生が変わったっていう人がすごく多い。いざカメラを持って何かを撮ろうと思った時、なんとなく、ぼんやり好きだったものにピントを合わせると思うんですけど、それを繰り返すことで本当に大事だと思ってたことに気づくんですよね。花でも料理でも、家族、ペットでも。人って大事なものを残そうとするんです」(今道さん)

――まさに"フォーカスする"ということですね。

「そうですね。今までなんとなく見ていたモノを、写真に撮ることで意識的に見るようになって、さらに好きになったり大事だと思えたり。今は撮影した写真をSNSに載せることで、たくさんの人に褒められることもありますよね。褒められるということは、認められたということで自己肯定感にもつながるんです」(今道さん)

――今道さんご自身の今後の目標や夢、叶えたいことはありますか?

「今は、ライフステージが次の段階にきたなっていうのを感じていて、新しいことに挑戦したいと思っています。先日はリビングフォトの講座をはじめてニューヨークで、ぜんぶ英語でやってみました。でも、体力勝負かなって思うので、身体に気をつけながら、元気にリビングフォトを続けたい、という気持ちが一番ですね。これから先も楽しんでやれればハッピーです!」(今道さん)

――ありがとうございました。

やりたいと思ったことに突き進む強い気持ちと、行動力、フットワークの軽さで次々とアイデアを実現していく今道さんは、まさにスーパーウーマン!な印象を受けました。花の歴史や生育についても大変興味深くお話をうかがえましたので、いずれ違ったかたちでご紹介できればと思います。

  • プロフィール画像 INTERVIEW リビングフォト主宰 フォトグラファー 今道しげみさん

    【PROFILE】

    今道しげみ(いまみち・しげみ)
    リビングフォト主宰 フォトグラファー
    神戸女学院大学を卒業後、全日本空輸の客室乗務員として勤務。
    1990年よりLondonでフラワーデザイナーとして活動を始める。
    2005年より、東京・久我山でサロンスタイルの写真教室『LIVING PHOTO』を主宰し商標登録も取得。
    全国からの受講生は3000人を超え、New Yorkでもフォトスクールを開催。
    ニコンカレッジ講師。APA日本広告写真者協会正会員。

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