もっと野菜を食べてほしい。美味しくてキレイで、クリエイティブだから。

庄司いずみさん 野菜料理家〈インタビュー〉

もっと野菜を食べてほしい。美味しくてキレイで、クリエイティブだから。

多様性の尊重が求められている今、さまざまな分野で変化が起こっています。料理の世界でも、世界的にベジタリアン(菜食主義者)が増え続けており、日本でもベジタリアンに向けたレストランメニューの開発や対応が急務とされています。これまでベジタリアンへの関心が比較的薄かった日本で、10数年前から野菜を中心としたヴィーガン*向けの料理を提案し続けてきた野菜料理家の庄司いずみさんに、野菜料理の魅力や、世界のベジタリアン事情、おすすめのメニューなどのお話をうかがってきました。

バラエティ豊かで美味しい、野菜料理への目覚め

バラエティ豊かで美味しい、野菜料理への目覚め
――庄司さんがベジタリアンになったのはいつ頃だったのですか。

ベジタリアンになったのは20年ぐらい前です。出産をきっかけに「食」を考え始めたのと自身の体調の変化もあって、徐々に野菜中心の生活にしていって、完全に菜食に切り替えてから20年以上、ヴィーガン生活を送っています。

――ヴィーガンとは単なる菜食主義ではなく、卵、乳製品も含む動物性の食品を一切食べないベジタリアンだそうですが、庄司さんは最初からそうだったんですか。

最初からでしたね。ベジタリアンでいこうって決めた時に、中途半端に卵や乳製品をとる気持ちは特になかったです。

――野菜料理のどういったところに魅力を感じたのでしょうか。

子どもの頃からもともと野菜が好きで、肉や魚はそんなに好きではなかったんですが「食べなきゃいけない」と思って大人になったんです。おかげで何でも食べられるようにはなったけど、私の体には野菜の方が良さそうだなってことで、野菜中心の食生活にしてみたらすごく面白くて。
素材としての野菜の魅力は、まず見た目。野菜は色鮮やかでキレイだし、可愛いですよね。そしてもちろん美味しいところ。野菜料理の魅力はバラエティ豊かで、何よりクリエイティブなところです。

家庭料理って肉じゃがとかカレーとか、ある程度決まったレシピになりますよね。料理本を見ながら作る楽しさはありますが、創造する楽しさはあまりないわけです。ベジタリアンやマクロビオティック、精進料理といった野菜だけで作る料理のジャンルも20年以上前からありましたが、簡単に手に入るレシピは存在してなかった。

――レシピがないから自分で新しく作ったということでしょうか。

そうです。だからハンバーグや餃子を、肉じゃないもので美味しく作るにはどうしたらいいんだろうって考えるのがすごく面白くてハマったんです。いつも脇役の野菜を主役にして野菜だけで作ってみようとした時に、いろんなアイデアが浮かびました。



野菜だけで作るという制限があるから、「創造」が生まれた

野菜だけで作るという制限があるから、「創造」が生まれた。


――料理家になりたいという目標は当初からあったのですか。


私もともとフリーライターだったので、自分の本を出したいという目標があったんです。ベジタリアンの料理が面白いと思って始めて、これが本になったらきっと良いはずだと、毎日ヴィーガンレシピを掲載するブログを始めました。人気ブロガーにならないと本は出せないと思って。

そんな目的でレシピを考える日々だったので、特に料理家になろうって思ったことは一度もありませんでした。料理を習ったこともなければ誰かの弟子についたこともない。だからこそというか、料理の基礎を知らないからこそ突飛なアイデアでも、何でも挑戦できたわけです。

でも大変だったんですよね。簡単にできるメニューじゃなくて、みんなが"おぉ"ってビックリするようなレシピをのせなきゃいけないから。たとえば、玉ねぎだけでハンバーグを作ってみようとか。肉の代わりにジューシーなところを出すために、茄子をみじん切りにしてハンバーグを作ったらどうだろうとか。今これを言うと恥ずかしいのですが、余った春巻きの皮を集めてぎゅっとまとめて、ケチャップに浸して固めて焼いたらフランクフルトのようになるんじゃないだろうかとか(笑)、料理の基礎があったら絶対しないようなことを自由にできた。毎日思いつきを試す感じでやっていました。

――玉ねぎだけのハンバーグは美味しかったのでしょうか。

ものすごく美味しかったですよ。たくさんの読者から美味しいと評価をいただけた、私の出世作でもあります。フランクフルトに見立てた春巻きはどうだったか覚えていませんが(笑)。

玉ねぎだけのハンバーグ玉ねぎだけのハンバーグ レシピはこちら

――毎日が実験みたいな感じでお料理されていたんですね。

まさに実験です。でもそれは野菜だけで作るっていうマイルール、制限があるからこそ生まれた創造だったと思います。

――野菜料理は素材が大事だと思うのですが、庄司さんが使用する野菜はなにか特別なもの、契約農家さんのような決まった購入ルートがあるのですか。

料理教室でも本でも、特別な野菜じゃないと作れないものは紹介しません。スーパーの野菜で美味しく作れるものを基本としています。ただ、きちんと美味しい野菜を作っている農家さんは尊敬されてしかるべきだと思うので、取材に行ったりはします。



ヴィーガンオプションがスタンダード。世界のベジタリアン事情

ヴィーガンオプションがスタンダード。世界のベジタリアン事情

――農家さんへ取材などもされているんですね。

もともとライターだったのもありますし、皆さんにヴィーガンのことをもっと知ってもらいたいので、面白いものやトレンド情報などを仕入れたら発信しています。プラントベース(植物由来)のハムを発売する企業があるという情報を聞いたら、取材を申し込んでお話を聞きに行ったり。私は野菜料理が好きだからベジタリアンになったわけですが、ベジタリアンじゃなくても野菜は食べた方がいいと思っているので、それを広げることが世の中のためになると思っているんです(笑)。

――料理教室に来る生徒さんはみんなベジタリアンなのですか?

いいえ、教室に来る生徒さんや本を買ってくださる方ってほとんどベジタリアンではないんですよ。最近のデータでは、日本のベジタリアンは総人口の約4.5%と言われています。実際、教室に20人いたら、その中でベジタリアンは1~2人ぐらいで、ほんとに人口比ぐらいの割合です。特にベジタリアンではないけれど、野菜料理のバリエーションを広げたい、日常にもっと野菜料理を取り入れたいと思っている人がほとんどです。

――アメリカでは6%くらいの人がベジタリアンだと何かで読んだことがあります。

アメリカは地域差もあると思います。たとえばニューヨークと全米平均ではだいぶ違いがあります。ただフレキシタリアン**といわれる、柔軟にベジタリアンライフを楽しむ方は3人に1人ぐらいと言われています。そういう層は世界的にも増えていて、日本でも追々そうなるだろうと思っています。今後の食糧問題として、肉の供給が追いつかなくなると言われていますので、いずれ植物性に頼らざるを得ない状況は来そうですよね。

私は動物愛護運動家とか環境活動家ではないので、肉や魚を食べることを否定する立場ではありません。食は生きる楽しみだから、好きなものを食べるのがいいと思っているんです。ただそういう人にとっても、野菜を摂るのは絶対いいことですよね。週に1~2日とか、ベジタリアン的な生活をしてみるのは誰にとってもいいことだと思っています。ヨーロッパは特に、アメリカもたぶんそうだと思うんですが、ベジタリアン専門店ではない普通のレストランでも、ヴィーガンオプションといってヴィーガンメニューが最低一品あるのが当たり前なんですね。
**積極的に肉や魚は食べないが、外出時に肉を出されたら食べる、どうしても肉が食べたくなったら食べるなどフレキシブルに対応する「ゆるいベジタリアン」のこと。

――専門店でないレストランのヴィーガンメニューは、ちゃんと美味しいのでしょうか?

美味しいところもあればそうでないところもあります。やらざるを得ないからやっているところもある。でもヴィーガンオプションがあるのがスタンダードです。日本もそうなるといいなっていうのが私の活動目標です。健康意識が高い人だけが食べるものではなくて、誰もが日常的に取り入れることができる、たとえば昨日焼肉を食べたから今日はヴィーガンランチにしようぐらいの感じで、気軽に取り入れられるのが一番いいことだと思っているので、日本でも欧米なみにヴィーガンオプションが広まるようにすることが、私の活動目標の一つでもあります。

少しずつ変化は表れていて、去年の11月ぐらいにベジ議連という議員さんたちの会が発足して、国としても動き始めたところです。訪日する外国人へ向けたベジタリアン、ヴィーガン対応を推進する会で、党派を超えた活動で、欧米なみに食の多様性に向けて取り組もうとしています。



子どもと一緒に楽しめるのも野菜料理の魅力

子どもと一緒に楽しめるのも野菜料理の魅力


――子どもたちに向けた食育の視点からは、野菜が料理にどのように取り込まれるべきだとお考えでしょうか。


子どもの食事は、その後の味覚を決める大事な時期ですから、そこで野菜嫌いになってほしくないですね。ヴィーガンにこだわる必要はなく、野菜たっぷりの給食だったらいいなと思います。東京大田区にヴィーガン給食に取り組んでいる保育園があるんです。そこにも取材に行ったんですが、すごく良かったんです。楽しいベジタリアン料理で、子どもたちもそれが大好きみたいでした。

特にベジタリアンの家庭の子どもたちが集まった園じゃないですよ。肉や卵のアレルギーがあるからという理由で、そこを選ぶ親御さんもいるかもしれませんが、基本的には普通に近所に住む子どもがほとんどです。野菜料理にもいろいろあるんだなってことを知ってもらえる、良い取り組みだと思っています。

――野菜の苦みや食感が苦手な子どもは多いですよね。

いろいろ工夫の仕方はありますが、干して食感を変えてみるとか、素材そのものをちょっと変化させるのがお勧めです。「シャキシャキしたピーマンは、どんなに小さく刻んでも必ずよけるのよね」とおっしゃるお母さんも多いです。しんなりした干し野菜をチキンライスにすると食べられたりします。

でも子どもって自分で採ったもの、自分で作ったものって何でも食べるんですよ。なかなかお忙しいとは思いますが、お子さんと一緒に野菜を育てて、一緒に料理をするということでもだいぶ変わりますよ。

――ピーマンも自宅で干せるんですか?

干せますよ。3日ぐらい干せば道の駅で売っているような切り干し大根や、干し人参も作れます。1日干すだけでもいい。1日だと少し生っぽさが残っていて保存性は高くないですが、料理に使ったら美味しいんです。おつゆの具にしたり。うまみがぎゅっと詰まっているので味が変わります。

――子どもと一緒に切って干して、作ったものが美味しいと思ってくれるといいですね。

干す日数も野菜によっていろいろ変えてみたりと実験ができるので、本当に楽しいですよ。魚や肉で実験すると食当たりするかもしれませんが、野菜なら大丈夫。子どもと一緒にできる安全な食体験ですね。干してみよう、料理してみようって。野菜って生でも食べられるから、大失敗がないんです。そこが野菜料理の魅力でもあります。



美味しいと思って食べるものが栄養になる

――庄司さんが考案されたレシピの中で人気のメニューはなんですか?

ヴィーガンラーメンは人気ですね。ラーメンレッスンの日はプロのシェフが来たりもします。あとはさっき言った干し野菜。それに乾物。乾物はベジタリアン料理のパートナーだと思っているのでよく使いますが、水で戻さないで調理するレッスンが人気です。高野豆腐もお麩もひじきも、戻さないでそのまま煮ちゃう。

野菜炒めに、水で戻していない切り干し大根や、芽ひじき、カットわかめなどを入れると野菜から出る水分を吸ってくれるんです。野菜はシャッキリするし、乾物はふっくら。お互いにうまみが行き来してとんでもなく美味しいものができるわけです。

あと日本の代表的なメニューと言えば寿司だと思うんですよね。でも魚を使った寿司って、私たち料理研究家にとってもハードルが高い料理です。せっかくの和食の代表料理を世界中の人が楽しめないのはもったいないと思って、野菜の寿司を新しい和食の代表にしようと力を入れてやっていますが、それも人気です。見た目がキレイだし美味しいし、作るのも楽しいし。

色鮮やかな野菜のお寿司色鮮やかな野菜のお寿司



――すごく綺麗ですね。食べたくなる、美味しそうに見えるって大事ですよね。

華やかですよね。魚はもちろん日本の重要な文化だと思いますが、野菜の寿司は誰でも簡単に出来る。野菜料理の魅力がぎゅっと詰まっていると思います。可愛くて美味しくて、簡単で、酢飯に合わせる野菜は煮ても焼いても生でも美味しい。

――スポーツ選手にもベジタリアンが増えてきていると聞きます。トライアスロンの選手もいらっしゃるとか。

持久力が必要な競技はベジタリアン率が高いと思います。教室にもパートナーがアスリートで、急に「ベジタリアンの料理作ってよ」と言われて習いに来る方もいます。グルテンフリーを実践している人は、ヴィーガン料理を取り入れたりもしていますし。スポーツ選手は身体が資本なので真剣ですよね。

――スポーツ選手には肉っていうのももう古いんですね。

古いですよ。でも競技によっては肉を食べた方がいい場合もあるかもしれません。最近ではボディビルダーもヴィーガンの人が増えているみたいです。脂肪をあまり摂取したくないから、動物性じゃなくて植物性の大豆タンパク質をとっている人が多い。いい筋肉がつくらしいですよ。これからどんどん伸びていく分野だと思いますね。

――では最後に、健康的で美味しいものを食べたいと思っている方へメッセージをお願いします。

健康的で美味しいといえば野菜ですよね。どう考えても野菜(笑)。私食いしん坊なので、食べることを我慢するのが嫌なんですよ。今はもうカロリーなんて気にしないけど、野菜料理を始めた30代はダイエットを意識していた頃でした。でも野菜料理はたくさん食べても太らないし、身体のコンディションは良くなりました。

でも肉を食べないという選択までしなくていいとは思うんです。食は人生の楽しみですから、いくら身体にいいと思っても、美味しくなかったら、楽しくなかったらそれはその人にとって栄養にはならないわけです。ただ通り過ぎていくだけのものです。美味しいと思って食べることが栄養になると思うから、肉や魚を否定するわけではありません。

でもやっぱり美味しく食べて健康でいたかったら、食生活に野菜を増やすのは絶対にいいことだと思うので、嫌々じゃなくて、「野菜料理は美味しいから食べたい」と思ってもらえることの手伝いをしています。ぜひ本やサイトなどでレシピを見て、野菜料理を日々の生活に取り入れてもらえればと思います。

ぜひ本やサイトなどでレシピを見て、野菜料理を日々の生活に取り入れてもらえればと思います。


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庄司いずみ(著)


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※記事の情報は2020年4月14日時点のものです。

  • プロフィール画像 庄司いずみさん 野菜料理家〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    庄司いずみ(しょうじいずみ)

    野菜料理家。日本ベジタリアン学会会員。かんぶつマエストロの資格を持つ。日本で初めての本格的なヴィーガン料理教室である「庄司いずみ ベジタブル・クッキング・スタジオ(http://shoji-izumi.tokyo)」を主幸し、野菜やヴィーガン料理の魅力を発信中。累計21万部を突破した『デトックス・ベジシリーズ(主婦の友社)』をはじめ70冊以上の著書がある。

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