アウトドアーズマンの"ステイホーム"

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ホーボージュンさん アウトドアライター〈インタビュー〉

アウトドアーズマンの"ステイホーム"

なかなか収束の兆しが見えないコロナ禍。好きな場所に気軽に出かけられるようになるには、まだまだ時間がかかりそうです。そんなウィズコロナの時代に、アウトドアの達人たちはどのように過ごしているのでしょうか。今回は世界を股にかけて活動するアウトドアライターのホーボージュンさんに、「ウィズコロナとアウトドア」についてお話を伺いました。

アウトドアーズマンが遭遇する圧倒的な天災のひとつ

――コロナ禍が続いています。屋外での活動が好きな人たちはステイホームの時期にはかなり強いストレスを感じていたのではないでしょうか。


それが全く逆なんですよ。アウトドアーズマンは今回のコロナ騒動にはすごく強かった。僕はいま、それを実感しています。


――アウトドアーズマンはどんな点が強かったのでしょうか。


僕は3つポイントがあると思っています。まず新型コロナウイルス感染症というのは地球規模の災害で、都市生活者にとっては信じられないほど大きな災害ですよね。でもアウトドアーズマンにとっては、これも天災のひとつだということです。


アウトドアーズマンは今回のコロナ騒動にはすごく強かった。僕はいま、それを実感しています。


――コロナ禍が天災、とはどういうことですか。


コロナ禍をこの世の終わりみたいな考え方はしていなくて、干ばつとか台風とかと同じように考えています。例えば1995年の阪神淡路大震災もそうだし、2011年の東日本大震災もそうでしたが、この地球には人間の力をはるかに超えるものが存在して、とても太刀打ちできません。そういう状況って、都市で暮らしている人にとっては、10年に1回、あるいは100年に1回の災害に感じられるかもしれませんが、アウトドアーズマンにとっては、毎回なんですよ。大自然の奥深くへと出かけるたびに毎回人間をはるかに超える存在に出会っています。


――アウトドアーズマンは自然が圧倒的に強い状況に、日常的に遭遇するということですか。


例えばカヤックで外洋にいるときに風速15メートルの風が吹いたら木っ端みじんですよ。転覆して海に飲み込まれてしまう。雪の中でも氷点下30度を下回ったら、リアルに生存の危機にさらされる。高地だって酸素が無くなったらもう行動できません。僕たちはそういう人間の力ではどうしようもない脅威にしょっちゅう、さらされています。


部屋にはパリ・ダカールラリーに出場していた当時のサハラ砂漠の様々な場所の砂が飾られている。部屋にはパリ・ダカールラリーに出場していた当時のサハラ砂漠の様々な場所の砂が飾られている


――ジタバタしてもしょうがない圧倒的な存在があることに慣れているということですか。


そうなんです。ですから台風が来たり、地震でライフラインがなくなっても、普通の人ほどパニックにならないんですよね。色々な危険の中の一つで、なおかつそれはもうどうしようもない。コロナもそうです。圧倒的な相手だと分かっているんです。




風は川ではない。コロナ禍もいつか止まる時が来る

それから2つ目のポイントですが、ステイホームの時期は、自由に外を出歩けませんでした。その「外に出られない」ストレスが溜まって体に変調をきたしたり、コロナ鬱になったりする人が多いと思います。また家族間でも、家に籠もることでのストレスが引き金になって、コロナ別居やコロナ離婚など家族の関係が崩れてしまうことも多いようです。でもこの状況に関してもアウトドアーズマンはわりと平気でした。


――コロナ禍の中で、自由に外に出られなくて、なぜ平気だったんですか。


アウトドアで旅していると、低気圧や吹雪とかで何日間もテントから出られない、なんていうことがよくあるんですよ。その時の忍耐力はステイホームどころじゃないレベルです。登山用の1人用テントの幅は1メートル×2メートル程度ですよ。高さだって1メートルしかない。山に登る人とか、極地に遠征する人はそんな極限状態を当たり前のように経験しています。ですから家に籠もるといっても、家の中で立てるし、歩けるし、水も出るし、自炊もできるし。ベッドに寝られるしテレビも観られるし、正直、楽勝なんです(笑)。


――アウトドアーズマンの強さのポイントの3つ目はなんですか。


アウトドア経験者だけでなく、農家の方も、漁師の皆さんも、狩人でもきっと同じだと思うけど、そういう自然と共に暮らしている人は、天災はいつか終わることを知っています。コロナ禍も、いつか終わることを体験的、肉体的に理解している。


イヌイットの言葉に「The Wind Is Not a River」というのがあります。これは北の海が大荒れになって何日も風がやまない極限状況だと、アザラシ猟に出られなくて、飢え死にするしかなくなります。でも風は川のようにずっと流れ続けるわけではない、風はいつかやむ。それまで耐えようと。


今のコロナ禍は、普通の人には川に見えちゃう。目の前にある辛い日々、これがずっと続くと感じてしまう。それでめげちゃったりするわけです。でも川ではない。今は途切れなくずっと吹き続けているように見えるけれども、いつかはやむんです。ちょっと長いかもしれないけれども、いつか終わる。だから焦らずにいられます。「明けない夜はない」とか「やまない雨はない」って簡単に言っちゃうのとは少し違いますけどね。


風は川のようにずっと流れ続けるわけではなくて、風はいつかやむ。それまで耐えようと。


――都会では、圧倒的な力に立ち向かうような機会がないですからね。


いや、アウトドアーズマンは自然に「立ち向かわない」んです。圧倒的な相手であることをよく知っていて、耐える、我慢するしかない経験を積んでいるので、我慢することが苦痛じゃない。なおかつそれが未来永劫続くものじゃないということを知っている。こういうことが、自然と向き合ったことのある人が、今の、このコロナ禍の中でも強い理由だと僕は思っています。



アウトドアの道具は家でも楽しめるし、災害時の備えにもなる

――ホーボージュンさんはテントなどのアウトドア用品のプロデュースもされていますが、コロナ禍の今、自宅でアウトドアの道具を使って楽しむとしたら、どんな楽しみ方があると思いますか。


アウトドアの道具はシンプルですが、1つのものがいろんな用途に使えるのが魅力です。例えば、飲み物を入れるシエラカップも丈夫な金属製のカップに過ぎませんが、そのまま火にかけられるから調理具にもなるし、小皿にもなる。川での水汲みの道具にもなるし、土を掘る時のシャベルの代わりにもなります。このようなツールは普段の暮らしでも、アウトドアでも、そして、災害などのいざという時にも役立つので、ぜひそろえておくといいと思います。


テーブル中央下がシエラカップ。
家庭用ガスボンベが使えるように工夫されたアウトドア用バーナーで湯を沸かす。シェラカップ(奥)と、落下しても割れにくい樹脂製の珈琲ポット(手前)


――今日は撮影のためにテラスにタープを張っていただきましたが、これはテラスの雨よけにもなってとても便利だと思いました。


今日ここに張ったタープって、2.6メートル四方のただのナイロンの布です。そこに8カ所ループが付いているだけ。それにヒモを結ぶだけで、屋根の高さも変えられるし、形も変えられる。日よけにもできるし、風が強かったらそっち側を平らにして風よけにもできる。雨だったら真ん中を下げると雨樋のようにそこから水が落ちて行くという、たった1枚の布とヒモで、色々なことができるんです。


このタープって、2.6メートル四方のただのナイロンの布です。そこに8カ所ループが付いているだけ。このタープって、2.6メートル四方のただのナイロンの布です。そこに8カ所ループが付いているだけ。


――タープは収納時はとても小さいですよね。


小さいです。しかも極細の繊維を使った薄いポリエステル製なので軽くて、たとえ濡れてしまってもパンパンと叩けば、ほぼ吸水しないのでいろんなシーンで使えます。


――このご自宅のテラスにハンモックかけられるようになっていますが、ハンモックで寝るのも気持ちが良さそうですね。

これはブラジリアンハンモックと言って、アマゾン流域の人たちが使っているハンモックです。アマゾンはとても暑いところですが、ハンモックなら涼しく寝ることができます。


――ハンモックは床で寝るより涼しいんですか。


腰が冷えるので寒いくらいです。ですからいつも冷え過ぎないように腰の下にマットを敷いています。それともう1つ、ハンモックのコツがあって、ハンモックに対して斜めに寝るんです。そうすると体を水平にして寝ることができるんですよ。


ブラジリアンハンモックと言って、アマゾン流域の人たちが使っているハンモックです。アマゾンはとても暑いところですが、ハンモックなら涼しく寝ることができます。

――ハンモックって体を丸めて寝るのだと思っていました。


違うんですよ。それから、ハンモックなら狭い場所で何人も寝られます。


――どうしてですか。


1つの柱に高さを変えて3つぐらい張れる。空間を立体的に使うことができるんです。例えばアマゾンの川の上に住んでいる人達は狭い舟の中で、それぞれの高さでハンモックを吊って寝ています。そうすればジャングルでも涼しく過ごせるし、川の上の風が吹いているところだと蚊が来ませんから。


――ハンモックは自宅でもよく使うのですか。


僕は毎日でもハンモックで寝られます。もう12年間ベッドでは寝ていないです。キャンプ用のエアマットで寝るか、ハンモックで寝るか。夏はハンモックが気持ちいいですね。


――将来的にテントが欲しい人も多いと思います。ホーボージュンさんがプロデュースしたテント「ホーボーズネスト2」について教えてください。


ホーボージュンさんがプロデュースした「ホーボーズネスト2」。


ホーボージュンさんがプロデュースした「ホーボーズネスト2」。

このテントは、とにかく疲れ切った時、極限状態でも設営開始から100秒で入れるように作ったんです。なおかつ、撤収にかかるの時間は30秒。作ったきっかけは瀬戸内海300kmを自力で漕ぐという瀬戸内カヤック横断隊という遠征でした。無人島を渡り歩きながら300kmを漕ぐというものです。その時は本当に大変で、寒いし、風も強いし、環境も悪いし、疲れ果てていたんです。くたくたでずぶ濡れでドロドロで、腹が減って。そんな時に1秒でもいいから早く建てられて、しかも完全防水で、どんな嵐やどんな寒さからも守ってくれて、身の安全が確保できるテントが欲しかった。だからすごいプロっぽい機能があるんだけど簡単に張れて、どんな所で使っても間違いないテントです。


――私もテントを持っていますが、初めて使った時、人間ってどこでも寝られるんだなと思いました。


その感覚が大事だと思います。それこそ最近は災害が多いですが、家のないところで寝た経験があれば、パニックにならずに冷静に生きていけるはずです。ですからテントで寝てみるのは教育にも良いと思います。



コロナ禍は天災のひとつ、そしていつかは終わるもの、というホーボージュンさんの一言には、圧倒的な力の自然に向き合い続けてきた、リアルアウドドアマンの叡智を感じました。


※記事の情報は2020年7月28日時点のものです。

  • プロフィール画像 ホーボージュンさん アウトドアライター〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    ホーボージュン
    全天候型アウトドアライター。「ホーボー」とは英語で「放浪者」の意。23才でユーラシア大陸を横断以来、サハラ砂漠横断、アフリカ大陸縦断、南米大陸縦断、南太平洋一周など世界各地を放浪しアウトドア各誌に寄稿する。現在は湘南葉山をベースにシーカヤックによる外洋航海から6,000m峰の高所登山までフィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。公式Twitterアカウントは「@hobojun」https://twitter.com/hobojun

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