暮らし
2020.08.20
YOJI ONUKIさん ライター、フリープロデューサー〈インタビュー〉
アフターコロナの時代に世の中は完全に変わり、その変化は定着する
いま、世界中の経済活動が危機に直面し、企業は大きな変革を迫られています。働き方や企業の事業展開はどのように変化していくのでしょうか。「ウィズコロナの企業活動」について、経済、企業関連の著書も多い、ライター、フリープロデューサーのYOJI ONUKIさんに、お話をうかがいました。
テレワークが変える日本人の働き方
――ONUKIさんはこれまでに多くの企業を取材されたり、事業をプロデュースなさった経験をお持ちですが、この半年間の日本企業を見て、どのようにお感じですか。
昨年から今日まで、そしてこれからの期間、世界はビフォアコロナ、ウィズコロナ、アフターコロナという3つの時代に区分されるようになると思います。今はまさにウィズコロナですね。
とはいえ幸いなことに、日本のウィズコロナは比較的緩やかにやってきました。従順な国民性故なのかもしれないし、他にいろいろな要因があったのかもしれません。理由は分かりませんが、医療体制にとってはその方が助かります。イタリアやニューヨークみたいに大きな波が来て手に負えなくなるという事態にはならずに今に至っています。
そこから、企業のありかたが変わってきました。変わらざるを得なかった。大手企業を中心にテレワークが始まりましたし、中小企業も、1日おきの出勤などで工夫しています。
このテレワークですが、それまでは認知はされていたけれども、ビフォアコロナの時代に実施していたところはごく一部のIT企業くらいしかなかったんです。それが一気に定着してしまった。ウィズコロナの期間だけでなく、アフターコロナの世の中でも定着しそうです。ウィズコロナで養ったワークのやりかたで行けるのではないかと、企業は考え始めています。このテレワークの定着で変わってくるのが、日本の「地方」です。
進展する地方の活性化
――地方が変わるというのは、どういうことですか。
どうしたら東京一極集中を緩和して地方を活性化できるのかという問題は、30年前から盛んに言われてきました。1988年には「ふるさと創生事業」、2014年からは「地方創生」の政策が進められています。その後いったんは忘れ去られた感もありましたが、ウィズコロナのいま、再び大きく注目されています。
山梨県の八ケ岳の麓に住んでいても、東京都内に通勤していた時と同じように仕事ができる。月に1回か2回、出勤すればいいということが、分かってきたのです。
企業とすれば、電気代がかからない、大きなビルも借りる必要がない、交通費も圧倒的に削減できる。給料が手取り20万円の人に対して、企業はだいたい42万2千円支出していると言われます。これは手取りの倍以上です。この中にはオフィス代も入っている。これが、テレワークによって10万円以上は削れる。とても大きなコスト削減になります。
――確かに、企業にとっても働き手にとっても良いことが多そうですね。
ただ会社はOKでも、家庭での問題はあります。首都圏をはじめとする多くの企業がテレワークを実施したことで、家庭に今までなかったストレスがかかって、ドメスティックバイオレンスなども頻発しました。これは都市圏の狭い家の中でテレワークを余儀なくされたことも、大きな要因だったと思います。
東京の通勤圏だったら月に10万円あっても広い家には住めません。しかしさらに都心から離れて、北関東や山梨県なら10万円も出したら広い家が借りられるでしょう。仕事のための執務室も確保できるかもしれません。既にそのような移住に補助金も出る制度もあるようです。そうなると、将来ウイルスが落ち着いたとしても、そちらの方がいい、ということになります。
いままでは「田舎暮らし」というくくりで語られていた事が、今後はリモートワークを前提としたリアルな生活になってくる。ついこの間まで「ふるさと納税」の制度で揉めたりしていましたが、地方への移住者が増えれば、税収も自然と増えてきます。
深刻な農業問題。進むスマート農業への転換
働き方だけではありません。さまざまな点で、コロナ後の世界はこれまでの常識を大きく超えたものになるだろうと予測されています。それに則った産業のありかたというのが模索されてきます。
地方の活性化が進むと、そのための基盤整備が必要になってきます。最も急を要するのは農業です。「スマートシティ」に付随して、「スマート農業」の確立が議論されています。
地方はいま、深刻な農業問題に直面しています。いまの農業人口の70パーセント以上が団塊の世代とそれ以前の生まれで、それ以降の若い世代の農業従事者はわずか20数パーセントに過ぎません。ということは、10年経ったら農業をやる人は激減しますから、農地をどうするのかという問題が必ず持ち上がります。それを考えると農業は、いやおうなしにスマート農業に転換せざるを得ないのです。
農業は国防にも大きく関わる問題です。いま日本の食料自給率は38%程度で、この数字は国を維持するには「限界」だといわれています。
日本は守らなきゃいけないが農業の担い手はいない。この困難な事態はしかし、一方で新たなアグリビジネスの創造という、大きなチャンスでもあります。地方創生、地方旗揚げ、地方の蜂起。そういう動きを、ウィズコロナを機に加速させることができると私は思います。
――テレワークで地方に人が戻ったとしても農業人口はまだ足りませんね。
そうですね。現在の3割弱の人だけで農業を行おうとすると、いまのままでは到底無理ですから、省力化を推し進めるための新しい技術が必要になってきます。
大きく注目される「センサービジネス」
――例えばどのような技術革新があるのでしょうか。
例えばいま、都会では携帯電話が当たり前のように使えますが、農地では全くつながらないことも多い。人のほとんどいないところにアンテナを立てていたら電話会社は採算が合いません。ではどうするかというと、LPWA (Low Power, Wide Area)という、簡易な低消費電力の無線の技術を使ってカバーします。
そして、注目されているのは「センサービジネス」です。たとえばセンサーを使って農地の監視を行います。センサーと一口にいっても、電波、光、熱などいろいろあります。少し前までクルマのセンサーは車間距離だけを計るもので、横から来たものには対応できなかったりしたのですが、いまはセンサーが発達して横方向の動きにも対応できるようになっている。センサーに代表されるような、IoT、ICT分野が新たな黎明期を迎えているのです。
農地のセンサーに使う電力もその場で作る、いわゆる自立型のシステムが進むでしょう。少し前なら大規模な太陽光発電施設や巨大な風車を建てていたでしょうが、これらもどんどん変化しています。いま注目されているのは、マイクロ水力発電や、同じ風力でもプロペラではなくて垂直の軸に板が付いているような風力発電機です。センサーが農地を常時自動計測して、そのデータを役所なりに送信して確認して出来高などを確認するわけです。そういう新しい技術を持ったベンチャー企業が育っていて、大手企業も買収に動いています。
――センサーといえば体温の測定も、いまやレストランなど至るところでやるようになっていますね。
多くの外食産業が、店の入り口で利用者が発熱していないかを計測していますが、これもセンサーです。そういった温度計を開発しようとしているベンチャーがたくさんあります。
テレビの液晶画面の生産量の面で日本はアジアの他国に抜かれましたが、敗因のひとつが、品質管理を厳しくしすぎてコスト高となり価格競争で敗れた、ということにあります。他国は品質チェックで9割OKのものを市場に出して、ダメだったらすぐに取り換えます、という方針でやった。この差は大きい。
体温計にしても、36.3度と36.4度との違いを検知しなくてもいいというのであれば、比較的簡単に参入できるのです。国が体温計として認可するものでなくとも、ある程度まで自動測定できる機器を飲食店が入り口の扉に付ける。手をかざすとどれだけ汚れているか分かるセンサーもあります。こういう計測器で警報が鳴った人だけ、今度は正確に計ってもらえばいい。はじめは大ざっぱでもいいという考え方です。そういう方向を探っている企業がたくさんあります。
アフターコロナの時代に備えて、こうした新しい事をウィズコロナの間に企画しておこうと、企業は動き出しているのです。これから就職する学生さんも、アフターコロナの時代を見据えたうえで就職活動していくようになると思います。
防災や災害対策も大きな改善を迫られる
ウィズコロナの今は、防災や災害対応も大きな改善を迫られています。災害時の避難所などは「三密」そのものです。これをなんとかしないとならない。避難所そのものだけでなく、マスクや手袋、段ボールベッドなどは、起きてから持っていくのではなくて、常時備えておかなければならないから、現状の生産能力の4倍くらい必要になると言われています。
復興災害からの回復でも、例えば高波が来たら、川を海水が逆流して塩害が起きます。農地を塩害から回復させるためには、ただひたすら水で洗うしかないのですが、その作業を監視するのも、先ほど話に出たセンサー、ということになってくると思います。
コンソーシアム(事業共同体)が進める改革
――さまざまな改革を進める方法も変わってきますか。
スマートシティやスマート農業、こうした改革を進めるには、多数の企業同士が、そして政府も含めて、ネットワークを組まなくてはいけません。大きいところは単独でできるかもしれませんが、小さいところはネットワークが必要です。またニッチな分野の事業においては、大きな企業であっても企業間のネットワークが組まれるでしょう。そのように多くの分野において、企業間、そして行政機関がコンソーシアム、つまり共同事業体を作って事業を推進していくことになると思います。
行政機関には日本の頭脳集団が集まっていますが、その人たちも、今のような予期しなかった危機に対しては必ずしも強くない。これからは、民間シンクタンクが考え、それを専門的なコンサルタントが吸収して、知見を集めた策をコンソーシアムに持ち込む、というように事業が進められるようになるでしょう。
コンソーシアムにおいては共同体のまとめ役となる企業の存在が重要です。一時期「システムインテグレーター」という言葉がもてはやされましたが、はじめに言葉が流行ったときは単なる上っ面の言葉にすぎませんでした。これからが本当の時代です。
――企業にとってアフターコロナの時代とは、どんな時代になるのでしょうか。
アフターコロナの時代は、世の中は完全に変わっているでしょう。そしてその変化は一過性のものではなくて、定着すると思います。今後ウィズコロナがどうなるのかは分かりません。ワクチンの開発がいつかによりますが、終息が1年以内だったら、V字回復もあり得ると思いますが、そうでない場合、スペイン風邪のように、大きな波が2回3回と来て突然終息する、ということにはならずに、小さい波が来て、退いて、また来てというのがずっと続くのかもしれません。
そんな状態でも経済を止めるわけにはいかず、感染者が居るのが日常になっていくとしたら、東京都の預貯金などはほとんどなくなっていますから、防御はおのずと民間でやらざるを得なくなります。
従来の既成概念とは違う世界が展開されると思います。ただしこれは決して悪いことだけではなく、さまざまなムダが排除されるなど、良い方向に向かうものもあると思います。IoT、教育、教育支援業務、輸送機器関連などは好調でしょう。自宅や風通しの良い屋外で過ごすことが多くなりますから、家庭用品やアウトドア用品なども、どんどん良いものが要求されて進歩していく。
そして、建設業です。地方創生の加速は、建設業の活性化を伴います。ウィズコロナ下の災害対策のためにも基盤整備をしなくてはいけない。土木、住宅、娯楽。いずれも建設産業がカギを握ります。雨後の筍のようにコンソーシアムが出来てくると思いますが、地方自治の発展に則って地元のためになるかどうかが問われます。本当の意味での地方創生が始まるわけです。それが日本の経済を牽引し、日本の産業人口の4分の1を占めると言われる建設関連産業は、その中心を担っていくと思います。
――今日は、お忙しいなか貴重なお話をありがとうございました。
※記事の情報は2020年8月20日時点のものです。
お悔やみ
YOJI ONUKI さんは2023年12月19日、御病気のため亡くなられました。本記事にご登場いただいた際は、時代を読む慧眼でコロナ禍とその後の社会を的確に予測していただき、その穏やかなお人柄とともに、私共編集部にとって深く心に刻まれる大切な出会いとなりました。編集部一同、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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【PROFILE】
YOJI ONUKI(ヨウジ・オヌキ)
“Like A Rolling Stone” 渓流でのワイルドキャンプが好き! 新聞記者・代議士秘書を経てフリーライターに。一方、ベストセラーとなった『小沢一郎の逆襲』など政治・経済関係書籍の企画に携わる。その後、広告業界でマーケティングディレクターに転身。景況見通しをもとに多くの有名企業のセールスプロモーションに関わる。3.11以降、放射能対策や復興に関わる企業と研究機関との共同研究を推進するプロデュース業務へ。現在、フリープロデューサーとして活動中。ペンネーム他で21冊の著書がある。
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