【連載】食べて、学んで、楽しめる!道の駅
2024.09.17
守屋之克
バーの出店からジビエの加工まで! 地域のニーズに寄り添う"課題解決型"の新しい道の駅5選
連載「食べて、学んで、楽しめる!道の駅」の最終回のテーマは、「新しい道の駅」。最新型の道の駅ではどんなことが体験できるの? どんな機能があるの? など、道の駅キュレーターの守屋之克(もりや・ゆきかつ)さんに、2023年から2024年にかけてオープンした道の駅の最新事情について教えていただきました。
近年は休憩機能だけでなく、観光振興や防災機能、子育て支援機能までありとあらゆる役割が付け加えられている道の駅。地域の重要な拠点になっている場所も少なくありません。2024年8月7日には新たに8駅が登録され、その数は1221駅となりました。
これだけあったらもう新しい道の駅は要らないのでは? と思うかもしれませんが、ひと昔前の施設を中心とした地域活性化策とは一線を画す、課題解決型の道の駅が次々に誕生しています。今回は2023~2024年にオープンした道の駅を例に、多様な機能を備えた最新型の道の駅の魅力を紹介します。
温浴施設や鮮魚センターもある"多機能型"の「道の駅 まえばし赤城」
新しい道路の開通を機に道の駅が整備されるケースは以前からありましたが、2023年3月にオープンした群馬県前橋市の「道の駅 まえばし赤城」も国道17号上武(じょうぶ)道路の整備をきっかけに計画された道の駅です。道路が開通するのは便利になる半面、通過されてしまうリスクもあり、道の駅がその地域のゲートウェイ(玄関)としての機能を果たすことで、地域の観光振興を図ろうという意図も見えます。
広々とした敷地を見渡すと、地元の農産物を扱う直売所やさまざまな地元グルメが楽しめるフードコートがあり、地域の生活に根ざした複合施設になっています。
芝生広場やふわふわドーム、遊具、ドッグラン、温浴施設まであり、まさに多機能型。大人から子どもまで3世代で一日中楽しめる施設です。
さらに、海のない群馬県なのになぜか鮮魚センターがあります。道の駅というと地域産品に特化しているイメージがありますが、実は地元の人に日常使いしてもらいたいという思いが含まれています。交通の便の良さを生かして、太平洋側と日本海側両方の鮮魚が並ぶので、種類も豊富。スーパーマーケットに行かずとも道の駅だけで用が済むのは便利です。来場者数も好調で、着実にファンを増やしているようです。
全国でも珍しいバーもある! さまざまなニーズに応える集いの場「道の駅 若狭美浜はまびより」
豊かな自然と海産物に恵まれた、福井県美浜町。しかし、人口減少や高齢化といった社会課題は、この町も例外ではありません。コンパクトなまちづくりが叫ばれる中、「道の駅 若狭美浜はまびより」は2023年6月、町の中心であるJR美浜駅前に建てられました。2024年3月に北陸新幹線が敦賀まで延伸。敦賀駅と美浜駅はJR小浜線でおよそ20分で、車でも鉄道でも行ける交通結節点の道の駅として機能しています。
建物は近年トレンドになっている2階建て。農林水産物の直売所のほか、美浜産の米粉を使ったパスタやパンケーキが味わえるカフェもあります。さらに屋内のキッズスペースには、一時預かり専門の託児所があるのも特徴。地域の子育て世代にとってはありがたいですね。
また、飲食店はランチタイムだけでなく、夜も営業。周辺に夜も開いている店舗が少ないことから、お酒も楽しめます。加えて、全国でも珍しいバーも出店しています。道の駅ができるまでは、お酒を飲みに行くには電車で敦賀まで行かなければならなかったそうで、町の中心地にある道の駅ならではの施設です。観光客を含め、さまざまなニーズに対応できる集いの場になっています。
オリジナル商品が充実している食のテーマパーク「道の駅 常総」
2015年9月。関東から東北にかけて降り続いた猛烈な雨で鬼怒川が決壊。茨城県常総市では浸水で大きな被害が出ました。「水害からの復興」という目標の下、市が取り組んだのが基幹産業である農業を生かした新たな産業拠点を生み出す「アグリサイエンスバレー構想」。その新たな「産業団地」の中核を担うのが、アピール施設ともいえる「道の駅 常総」の存在です。
2023年4に開業した「道の駅 常総」の建物は2階建て。水害に遭った過去を教訓に2階部分に防災倉庫などを配置し、浸水時の防災拠点として機能するよう配慮されています。店舗内に入ると、驚くのが商品数の多さ。常総市にとどまらず、茨城県の名産であるメロンやさつまいもなどを使ったお菓子や調味料などの道の駅オリジナル商品が並びます。さらに、オープンに合わせて開発したブランド卵「天てり卵」を使った親子丼やパンケーキが味わえるレストランも人気です。まさに食のテーマパークといえる充実ぶりです。
さらに、周囲には大型書店「TSUTAYA BOOKSTORE」や日本最大級の空中イチゴ園「グランベリー大地」があります。2024年11月には日帰り温泉施設のオープンが予定されるなど、道の駅を含めて1日滞在が楽しめるエリアになりそう。道の駅の来場者数も当初の目標の倍である200万人を超えており、"復興"がより目に見える形で実現しそうです。
野菜の収穫など"体験型"の「道の駅 グリーンファーム館山」
千葉県館山市の「道の駅 グリーンファーム館山」も常総同様、災害復興の象徴として整備されました。2019年に上陸した令和元年房総半島台風で、大きな被害が出た館山市。観光産業も打撃を受ける中、手を差し伸べたのがZOZO創業者の前澤友作(まえざわ・ゆうさく)氏でした。ふるさと納税で20億円を寄付し、道の駅建設費のおよそ半分はこの資金を元にしています。
館山市としては2つ目の道の駅ですが、千葉県南部は道の駅がひしめく激戦区。滞在型から農水産物が豊富なところまでさまざまなタイプが揃っています。そんな中で、こちらは "体験型"を前面に打ち出しています。2024年2月にオープンしたばかりで内容はまだ定まっていないようですが、すでに野菜の収穫体験などが実施されていて、さらに拡充していきそうです。
もうひとつの目玉はジビエ。近年、獣害は全国各地で社会問題になっていて、館山も例外ではありません。そこで、多額の寄付をしてくれた前澤氏の基金を活用し、2021年に誕生したのが加工施設「館山ジビエセンター」です。こちらで加工された精肉を、テイクアウトのジビエバーガーやレストランのポットパイなどで提供しています。こうした課題と道の駅グルメが結びつくと、より地域性を帯びてくるので、注目したい取り組みです。
イベントスペースや芋煮広場などで交流拠点としての役割も果たす「道の駅 やまがた蔵王」
蔵王は山形県内有数の観光地ですが、その玄関口の山形市に2023年12月にオープンしたのが「道の駅 やまがた蔵王」です。2024年7月には、来館者数が100万人を突破。東北中央自動車道 山形上山IC(インターチェンジ)と国道13号の結節点に近く、立地的にも申し分ない場所にあり、これまで道の駅がなかったのが不思議なくらいです。
実はこの場所には山形県観光物産会館「ぐっと山形」があり、年間50万人を超える来場者のある観光スポットでもあります。県内のお土産売り場やフードコート、農産物直売所があり、道の駅と同じような機能を果たしていますが、隣接して道の駅ができたことで観光インフォメーションや屋内イベントスペースが拡充され、観光拠点としての機能が強化されました。
高速バス利用のためにパークアンドライド*用駐車場があったり、芋煮広場があるのも「道の駅 やまがた蔵王」ならでは。車中泊スペース(5区画)もあります。交流拠点としての要素が加わったことで、既存施設を知っている県内の利用者にも足を運んでもらう拠点になっています。既存施設を道の駅に登録するケースは昔からありましたが、このように足りない機能を付加していく手法は今後も増えていきそうです。
*パークアンドライド:自宅から最寄りの駅や停留所、目的地の手前まで自家自動車で行って駐車し、そこから公共交通機関を利用して目的地まで移動する方法。
※記事の情報は2024年9月17日時点のものです。
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【PROFILE】
守屋之克(もりや・ゆきかつ)
道の駅キュレーター。地図会社ゼンリン発行の「道の駅旅案内全国地図」の編集長を2006年から2021年まで務め、全国の道の駅の特色や魅力を発信。誌面の編集だけに飽き足らず、プライベートでも愛車の軽キャンピングカーで現地に足を運ぶ。2022年に独立。「道の駅キュレーター」と名乗り、道の駅の専門家としてテレビ、ラジオなど多数のメディアに出演。念願だった全駅走破も果たし、その数は1200駅を超える。
■X(旧Twitter):https://x.com/moriyayukikatsu
■YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC5dzBUllIgFMBHVZMn607gQ (道の駅兄弟)
■Stand FM:https://stand.fm/channels/61f11851299c4d500504ac1e (道の駅 for the Day)
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