【連載】仲間と家族と。
2025.01.14
ペンネーム:熱帯夜
かけがえのない出会い
どんな出会いと別れが、自分という人間を形成していったのか。昭和から平成へ、そして次代へ、市井の企業人として生きる男が、等身大の思いを綴ります。
中学1年生の時にかけがえのない友人K君と同じクラスになった。友人の少ない私にとって今でも付き合いが続いている貴重な友人だ。
当時の私は小学校5年生の時に出会った洋楽ロックに日本の歌謡曲よりも夢中になっていた。小学校の5年生、6年生の時、男子にはKISSというバンドが圧倒的な人気を誇っていて、私も暇さえあればレコードを聴いていた。一方、女子にはベイ・シティ・ローラーズやクイーン、デビッド・ボウイが人気で、クラスでも洋楽派の男女はそれぞれの贔屓のバンドの良さをけんか腰で語っていた。
中学から男子校に進学したので、男女での贔屓のバンドのことで言い争うことは皆無になったが、今度は当時流行っていた歌番組に夢中の邦楽派と私のような洋楽派でクラスは二分していた。
その中でK君と出会った。K君はとても音楽のセンスに優れていて、私が洋楽でもアメリカンロック一辺倒の中、実に様々なロックに出会わせてくれた。どちらかというと凝り性の私は一度好きになった音楽やバンドを飽きるまで聴き続ける傾向があり、一つのことを掘り下げることばかりになってしまい、音楽ジャンルや、ジャンルの中のいろいろなバンドを知るということは苦手だった。K君は私の苦手なことが得意で、往復の通学路の中で多くの音楽を勧めてくれた。
例えば私がKISSというバンドを好んでいると伝えると、彼はエアロ・スミスやグランド・ファンク・レイルロードも聴いてみたらとLPを貸してくれた。アメリカンロックの中でもハードロックが好きだったら、ブリティッシュロック(英国)も聴いてみたらと、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルを教えてくれた。アメリカンロックの中でもハードロックではなく、AOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)に属するものも結構良いよと、TOTOやドゥービー・ブラザースやクリストファー・クロスを教えてくれたり。気が付くと私はかなり広いジャンルのロックを聴いていた。その中でもまたまた夢中になるバンドがいくつも出てきて、彼と過ごした中学3年間の音楽人生はとてもパワフルで充実した時期だったと思う。
いまだに彼がなぜそこまで音楽に詳しかったのか良く分からないのだが、数年に一度久しぶりに一献交えると、今でも当時と同じように私の知りえないジャンルの音楽の話になる。ハワイアンやジャズ、ボサノバなど、彼の知識はとどまるところを知らない。今でも彼と過ごす時間は私を異次元の音楽空間に連れて行ってくれて、日常から解き放ってくれる。思い返してみると、私が好んで聴いている音楽の8割は彼と出会えたことで知りえた音楽のような気がする。
当時、私があこがれていたバンドのメンバーも年を取った。鬼籍に入ったアーティストも多くなってきた。不謹慎だが、来日公演があるとこれが最後の来日かもしれないと、チケットを手配してしまう。まだまだオリジナルメンバーで頑張っているバンドもあれば、オリジナルメンバーが数人しか残っていなくても踏ん張っているバンドもある。中にはオリジナルメンバーが亡くなり、その息子をメンバーに迎えて活動しているバンドもある。本来はオリジナルメンバーで来日公演を楽しみたいが、それでもバンド自体が残っていることで、私自身の何かが動く。そんな気持ちを味わいたくて、私は来日公演に行き続けている。
あと10年もすれば、きっと私が贔屓にしていたバンドはほとんどなくなってしまいそうだ。音楽自体は配信があればいつでも聴ける。でもスタジアム、アリーナ、ホールなど、アーティストと同じ空間を共有する"ライブ"というものは何物にも代えがたい。
数年前に東京ドームで行われたKISSのファイナルコンサートにも行き、私と洋楽を結びつけた記念すべきバンドとの別れを目に焼き付けてきた。気が付くと自然と歌詞を口ずさむ私は11歳の時と何も変わらないような感覚になり、これで終わりなんだという悲しみよりも、また次のコンサートに来たいなという感覚に包まれていた。
これからもきっと私はK君に教わった音楽を聴き続けていくと思う。そしてK君はいつまでも私よりも先に先に進んで、こんな曲も絶対聴いた方が良いよ! と教えてくれるだろう。私はそのたびに「えー?」と抵抗を示しつつも、こっそり後で聴いて、すっかり魅了されていくのだろう。そんなK君との関係が私は嬉しい。
※記事の情報は2025年1月14日時点のものです。
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【PROFILE】
ペンネーム:熱帯夜(ねったいや)
1960年代東京生まれ。公立小学校を卒業後、私立の中高一貫校へ進学、国立大学卒。1991年に企業に就職、一貫して広報・宣伝領域を担当し、現在に至る。
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