
【連載】ワクワクの宝庫! ご当地スーパー
2025.10.28
菅原佳己
南国ムード満点! 沖縄とアメリカの食文化を"チャンプルー"したご当地スーパー「ジミー那覇店」(沖縄県那覇市)
その土地ならではの食材やローカルフードなどが並ぶ「ご当地スーパー」。ディープな「地元食」のあるスーパーマーケットは、地域住民だけでなく観光客も買い物に訪れる人気スポットになっています。連載「ワクワクの宝庫! ご当地スーパー」第3回は、沖縄ならではの食文化を楽しめる「ジミー那覇店」をご紹介します。
写真:菅原 佳己
沖縄の青空に映える赤レンガの建築
旅好きの方のなかには、那覇空港の出発ロビーで「ジミー」の焼き菓子をお土産に買ったことがある方がいるかもしれませんね。「ジミー」は沖縄県内に、ケーキや焼き菓子を専門に扱う店、パン・デリ(惣菜)・グロサリー(調味料や缶詰などの加工食品)などを扱うスーパー、さらにスーパーにレストラン「アイランドグリル」を併設する店舗(那覇店、大山店、美里店の3店)、合わせて18店舗を展開しています。
青い空にヤシの木、「Jimmy's」のロゴが映える赤レンガが、なんとも異国情緒あふれる風景
今回は、那覇空港から車で約15分、那覇市内にあるレストラン併設のスーパー「ジミー那覇店」をご紹介しましょう。目印は、沖縄の青い空に映える赤レンガの建物と「Jimmy's」のロゴです。
駐車場側の建物周辺も緑がいっぱい
「アメリカの豊かな食を沖縄の人に届けたい」
「Jimmy's」のロゴが素敵なスーパー「ジミー」。一見すると外資系スーパーに見えますが、創業者は沖縄で生まれ育った稲嶺盛保(いなみね・せいほう)さん。戦後、米軍基地で働いていた当時のニックネームが「Jimmy」でした。
Jimmyと呼ばれた稲嶺さんは、基地内で見たアメリカの豊かな食を、基地の外の焼け野原となった沖縄で生きる人たちに届けたい、と強く願ったのです。そこで、沖縄がまだ米軍統治下にあった1956(昭和31)年、食品や日用品などを扱う店「ジミーグロセリー」をオープン。その2年後に、パンやケーキを製造販売する「ジミーベーカリー」となりました。
「赤いレンガ造りのジミー」で地元で愛される存在に
ジミー発祥の地は、宜野湾(ぎのわん)市大山。米軍統治下で、アメリカ文化を取り入れながら戦後復興の道を歩む沖縄の風景の中で、「ジミーグロセリー」から「ジミーベーカリー」へと発展していきました。

1960年代の「ジミーベーカリー」(上)、米国兵が買い物をする店内(左下)、パンやドーナッツが並ぶショーケース(画像提供:ジミー)
1972(昭和47)年の沖縄の本土復帰を経て、コンクリートの壁にペンキを塗った店舗だった「ジミーベーカリー」は1976(昭和51)年に会社組織となり、新店舗「ジミー大山店」として、赤レンガ造りの建物に建て替えられました。
当時、公共の建築物以外で赤レンガを外装に取り入れた建物は沖縄では初めてだったため注目を集め、「赤いレンガ造りのジミー」というキャッチフレーズが生まれました。実はジミーがレンガを外装に取り入れた理由は、メンテナンスがほとんど不要で、長い目で見ると経済的だったから。
また、使われた赤レンガは沖縄産だったことも、地元を愛するジミーらしい選択でした。米国の食文化に彩られたジミーの「沖縄生まれであることへの静かな思い」が秘められているように感じます。
1976年にオープンした「ジミー大山店」と創業者の稲嶺盛保さん(左)、現在の「ジミー大山店」(画像提供:ジミー)
ジミーの新たな歴史が始まった「ジミー那覇店」
「ジミー那覇店」は1号店の大山店に続いて、1982(昭和57)年に開店した2号店です。大山店と同じロゴと赤レンガの建築を継承した店舗デザインは、現在も変わらない美しさを保っています。グロサリー、ベーカリー、レストランが一体となった店舗で、開店時に参考にしたのはアメリカのスーパーでした。
「ジミー那覇店」のオープン当時の駐車場の様子。アメリカのスーパーを見習って広くした
沖縄都市モノレール「ゆいレール」が開業する2003(平成15)年まで、軌道系交通機関*がなかった沖縄。当時、自家用車が急激に増加した時代背景もあり、アメリカのスーパーのように店の前に広めの駐車場をつくることで、利便性の高さを先取りした店舗となりました。
*軌道系交通機関:路面電車など、車輪を備えた車両がレールの上を走行する、都市内移動を目的とした公共交通システム。
オープン当時から変わらない赤レンガ造りの「ジミー那覇店」
「ジミー那覇店」の開店を機に、長男の稲嶺盛一郎(いなみね・せいいちろう)さんが社長に就任してからは、ジミーの新たな歴史が始まります。1994(平成6)年、「Jimmy's」のロゴに、現在のオレンジ色で囲んだ2代目ロゴマークが誕生。2022(令和4)年には、スタッフのユニフォームをアロハシャツから沖縄の「かりゆしウエア」に変更しました。
「より自社らしく」を追求して誕生した、オレンジの枠付きの2代目ロゴマーク(左)。オリジナルグッズにつけた初代ロゴマークも、レトロかわいい名デザインだ
現在のユニフォームは、赤いボタニカル柄のかりゆしウエアにベレー帽
こんな風に建物やデザインから知るジミーの歴史もドラマチックではないでしょうか。実際の「ジミー那覇店」は、南国らしい植栽で、遠くから見ても美しい佇まい。華やかで生き生きとした花々と緑が、心を晴々とさせてくれます。つまり、植栽にも、隣接する公園にも手間をかけてジミーの風景をつくりだしているということなのです。隣の公園から建物を眺めるのもおすすめです。
隣接する公園側から眺めた「ジミー那覇店」の建物。草花と調和している
オリジナルのケーキや焼き菓子は贈り物の定番
ジミーの看板商品は数多くありますが、創業当時からつくられている人気商品といえば、アップルパイです。創業者の稲嶺さんも愛した、米軍基地の職人直伝のアメリカンスタイルで、ヨーロッパ式の何層にも折りたたんだ繊細なサクサク食感のパイとは違い、練りパイ生地を使ったふちのザクザク感と、しっとりしたアップルパイフィリングが一体化する食感が特徴。アイスクリームとも合うカジュアルな味わいが魅力です。
ジミーの看板商品のアップルパイ。創業当時から変わらないアメリカンスタイル
シグネチャー商品のアップルパイをはじめ、ジミーオリジナルのケーキや焼き菓子は、沖縄の人たちの毎日のおやつとしてだけでなく、お祝いやお礼の気持ちを込めた贈り物の定番となっています。
「ジミー那覇店」内のケーキ売り場(左)と人気のバナナパイ
紅いものほか、キャラメルやチーズなど8種が入った「マフィンセット」(左)、チョコチップやナッツ、レーズンなどが入ったアメリカンなソフトタイプの「スーパークッキーミニ」
ジミーの代表的な焼き菓子とジミーグッズが並ぶコーナー。かわいいロゴ入りエコバッグなど、思わず欲しくなるアイテムがずらり
デリは「食文化の交差点」を感じるラインナップ
ケーキや焼き菓子など、ジミーには数多くの人気商品があることはすでにお伝えした通りですが、「ジミー那覇店」には、さらに魅力がいっぱい。缶詰や調味料といったグロサリーの棚は、まるで海外のスーパーのよう。焼きたてのパンが並ぶベーカリーのほか、野菜やデリもそろいます。
海外の缶詰や調味料がそろうグロサリー(左)、焼きたてのパンがおいしそうなベーカリーコーナー
ジミーのデリで名物といえるのが、「ガーリックチキン」。たっぷりのにんにくを使って低温調理でじっくり香ばしく焼き上げた、ジミーオリジナルです。昨年12月、原料のチキンを沖縄県産特別飼育ハーブ鶏「ピュアやんばる」に変更し、沖縄カラーが強まり、ますますおいしくなっています。
看板商品のひとつ「ガーリックチキン」
デリコーナーでは、注文のタイミングにより焼きたてのピザを購入できる。スタッフに声かけを!
デリの品揃えは、一般的なスーパーとは少し違います。つくりたてのほか、真空パックになった冷蔵品があり、いざというときのために、多めに家にストックする家庭も。アメリカンなスペアリブから沖縄郷土食まで「食文化の交差点」を感じるラインナップになっています。
左上から時計回りに郷土料理の中味汁(なかみじる)、ジミーのスープ、てびちなど沖縄の豚料理、ジミーオリジナルの自家製スペアリブ(バーベキュー味)
ジミーのケーキやデリも楽しめる! 併設レストラン「アイランドグリル那覇店」
「ジミー那覇店」に併設されているレストラン「アイランドグリル那覇店」では、ビュッフェを楽しめます。
スーパー内でつながるレストランには、駐車場から直接入る入口もある。席から眺める緑の美しさは、極上のスパイス
サラダバー、スープ、肉料理、パスタ、パン、デザート、ソフトドリンクが食べ・飲み放題。ローストビーフなどおなじみの洋風料理のほか、季節によりゴーヤチャンプルーや沖縄ぜんざいなど沖縄料理も用意されているのがうれしいポイント。
ドランゴンフルーツ(ピンク)やマンゴー(黄)のドレッシングに南国を感じるサラダバー。ローストビーフは何度もおかわりしたい!
さらにケーキは、スーパーのケーキ売り場で買える人気商品がほぼ全て並びます。「あのケーキ、どんな味だろう?」と思ったら、まずはビュッフェでお味見するのがおすすめ。スーパーで売られているデリもビュッフェに並ぶことがあるので、「お金を払う試食会」と考えて、おいしかったらスーパーで買って帰るのもいいですね。"ジミーの真骨頂はビュッフェにあり"です。
ケーキはスーパーの人気商品がほぼ全て食べられる。温かいアップルパイも!
異文化を取り入れ、沖縄の伝統の食と混ぜ合わせて、独自の地元食を発展させてきたジミー。ジミーの食はアメリカだけでも、沖縄だけでもない、チャンプルー(混ぜる)精神の生きた沖縄の食卓そのものです。
次の沖縄旅行では、赤レンガ造りの建物を目で味わえ、レストランでお腹いっぱいに名物を味わえる「ジミー那覇店」へぜひ!
【SHOP DATA】
■ジミー那覇店
電話:098-861-1110
住所:沖縄県那覇市銘苅3-8-5
営業時間:9:00~21:00
定休日:なし
車でのアクセス:那覇空港から約15分
駐車場:85台
■アイランドグリル那覇店
電話:098-861-2171(レストラン予約専用)
住所:沖縄県那覇市銘苅3-8-5
営業時間:【ランチタイム】11:00~15:30(LO.14:30)
【ディナータイム】17:30~21:00(LO.20:15)
定休日:旧盆期間、12月31日、元日は休みになる場合あり
※記事の情報は2025年10月28日時点のものです。
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【PROFILE】
菅原佳己(すがわら・よしみ)
スーパーマーケット研究家
1965年生まれ。東京・御徒町で育ち、駅前のスーパー「吉池」で「奥さん」と呼ばれる小学生時代を過ごす。子育てしながら書いた「日本全国ご当地スーパー掘り出しの逸品」(2012/講談社)の出版後、TBS「マツコの知らない世界」に出演すると、紹介した飛騨の日常食「あげづけ」が大ブレイク。2019年に一般社団法人全国ご当地スーパー協会を設立。5月11日ご当地スーパーの日に、ご当地スーパーブランプリを発表。著書7作目の最新刊は朝日新聞で7年続く連載「お宝発見 ご当地食」をまとめた「47都道府県 日本の地元食大全」(2025/平凡社)。日夜、全国のご当地スーパーを巡り、隠れたご当地食を掘り起こしている。
公式サイト:https://www.gotouchisuper.online/
Instagram:https://www.instagram.com/i_love_supermarket/
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