
【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る
2026.02.17
小田かなえ
法隆寺1,300年、ロシアの木造教会300年、ヒトは100年
人生100年時代、「あなた」はどう変わるのか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。自分に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。各世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。
イラスト:岡田 知子
経年劣化は仕方ないとも言えますが......
この世のすべての事象は時間と共に変化する。カタチのあるものも、目に見えないものも、すべて。そして、その大半は経年で劣化する方向に行ってしまう。
たとえばカタチのあるもの。人間を含めた動植物をはじめとして、絵画などの芸術作品や古今の建造物、日常生活に欠かせないさまざまな製品など、地上のあらゆるモノ......そしてそれらが乗っかっている地球だって有形だ。
これら有形物の劣化はすべてに共通する出来事なので、ある程度は受け入れるしかない。
20歳の若者は40年経つとシワができて還暦を迎える。ピカピカだった新居も30年ぐらいで煤(すす)けてくる。さらに、吟味した素材で調理したご馳走なんぞも、経年どころか翌日または翌々日あたりには腐敗する。悲しい。
とはいえ、物質的なものは僅かながら劣化を防ぐことも可能だ。住宅はていねいな掃除と定期的なメンテナンスにより、良い状態を維持できる。老化だってシワ取り注射やフェイスリフトで若さを保てるはず......たぶん少しは。
そして、前日のマグロのお刺身を食べると高確率でお腹が痛くなるわけだが、残ってしまったマグロを薄味で煮付け、ネギを加えた葱鮪(ねぎま)にすれば翌日も安心して食べられる。残ったのがマグロじゃなくても構わない。サケ、ブリ、カツオ、それぞれに美味しくて、私は脂の乗った中トロや寒ブリが好きだが、あっさりしたタイやイカなども......っと、話が脱線した。こうして本題からはずれて要らんことを喋るのも脳の経年劣化に違いない、うん。
さて、続いてカタチのないものの代表として、たとえば人間の気持ちなどはどうだろう。いちばんわかりやすいのは恋心や向上心、何かに対する興味などで、それらが時とともに薄れてくるのはほとんどの人が経験しているはず。
そういった感情は、人によって、あるいは状況に応じて劣化までの時間が異なるという側面を持っている。加えて、モチベーションが下がってきたことを他人に悟られぬよう取り繕うことも可能だ。恋愛感情が消えても"消えていないフリ" をしたことのあるヒト、けっこういるんじゃないかな? 向上心や興味が低下した場合も、再び引っ張り上げることはできる。
つまりカタチのあるものもカタチのないものも、私たちの工夫や努力で経年劣化を遅らせるのが可能だということだ。しかしそれだけで良いのだろうか?
人間だって"経年良化"できるはず
経年劣化の対義語として経年良化という言葉がある。これは時を経るごとに良くなっていくことを表し、不動産関係で遣われることが多い。この経年良化を人間の感情など目に見えないものに当てはめて考えよう。
たとえば真っ先に思い浮かぶのは教育だ。私たちは年月をかけて色々なことを学び、失敗と成功を経験しながら育つ。勉強嫌いの私も昭和の末から社会生活を営んできたのだから、"年を経ることで良化した"と言えるのかもしれない。
......と、ここまで書いたところでスマホが鳴った。発信者を確認しながらアタマをよぎったのは電話の進化。携帯電話の登場で固定電話をほとんど使わなくなり、さらに携帯からスマホに変わり、今ではスマホの着信も激減して手軽なメッセージばかり。これは経年良化にあまり関係ないけれど、わずか100年で生活が便利になったのは良化だな......と考えつつ電話を受けた。
用件は30秒で終わるものだったが、たまたま相手が不動産系に詳しい男性だったのでついでに聞いてみる。
「ねえ、アナタの実家は材木屋さんよね? 経年良化って知ってる?」
「ああ、よく親父がお客さんに説明してたな。ヒノキとかケヤキなんかは年月が経つと乾いて強度が増すんだって。1,300年も建ってる法隆寺はヒノキだし、江戸時代からある古民家はケヤキが多いらしい。クリなんかもいいみたいだよ」
ヒノキ、ケヤキ、クリ......とメモしながら重ねて聞く。
「それでね、その経年良化を建築だけじゃなく、カタチのないものに当てはめて考えられないかなと思って。単に劣化を遅らせるだけじゃなくてさ、時間の経過を逆手にとって良化させられたら素敵だと思わない?」
「......カタチのないもの? よくわからん」
「たとえばね、人間はカタチがあるからトシをとると変化するでしょ? ツヤツヤの黒髪にチラホラ白いものが混ざって、そのうち真っ白になる......それは経年劣化だけど、捉えようによっては白髪のほうがビジネス面で押し出しが利くとか、そういうことないかな?」
「ああ、そうかも! 女の人だって若くて綺麗ならいいってワケじゃないし」
「でしょ? アタシだって昔より体重が10キロ以上増えたから印象がまあるく優しくなって......」
「プッ......わははは! まあるくなったのは印象じゃなくて体型だろ。それって自分を美化しすぎ! まさに経年勘違い美化だな」
「な、な、なんですって? ひどい! そういう傷つくことを平気で言う鈍感な人は経年鈍化オトコだわね! 」
美化と鈍化に関する不毛な会話はさておき、1,300年以上も経つ法隆寺は世界最古の木造建築だ。海外に目を向ければ、私が大好きなロシアのキジ島にある凝ったデザインの木造教会。300年以上前の建造物なのに、写真だけ眺めていても見飽きない美しさだ。こちらはポプラで出来ているらしい。
とはいえ人間は1,300年も生きられないから、身体の頑丈さを法隆寺と競い合っても仕方ない。求めるべきは100年間の経年良化・経年進化である。
暇だとロクなことを考える?
人生100年......経年良化しながら老いる秘訣はあるのだろうか。
個人的な意見としては"こうすれば良い"という万人に当てはまる方法はほとんど無いと思っている。あるとすれば「健康に気を配る」「他者を傷つけない」というような当たり前のことだけ。よく言われる「あなたの生き甲斐は?」「友達は必要よ」「老後は趣味を楽しみましょう」......等々の言葉にまったく興味を持たない人も多い。
「生き甲斐っていう概念がそもそもメンドクサイ」
「友達付き合いする時間があるなら寝てたほうが元気になるわ」
「オレは趣味を持たないのが趣味だ」
これらは身近な人たちから実際に聞いたセリフである。
さらに、いみじくも私の従姪(いとこめい)がこんなことを言っていた。
「人間は暇だとロクなこと考えないって言うじゃない? でもさ、そのロクでもないことからメチャ面白いものが生まれたりするでしょ? だからね、暇を思いっきり楽しめる人が勝ち組ってヤツなんじゃないかと思うの」
(我が従姪ながら慧眼である)
「自分のやりたい事をしてきたお年寄りは、よく『ありがたい、皆さんのおかげです』って言うよね。かなえちゃんのママみたいに」
(たしかに母の口癖は"ありがとう"だ)
「自分の心が病んでいなければ他者にも優しく、希望を与える存在になれる。経年劣化のシワなんか、自身がイキイキと輝く光で見えなきゃいいんです」
(私は最後の1行がとくに気に入った)
このエッセイは【人生100年時代 生き甲斐を創る】というのがメインテーマである。にもかかわらず私がいつも考えていることは "生き甲斐を押し付けてはいけない"ということ。「さあみんな、頑張って生き甲斐を見つけよう!」なんて言いたいわけでは決してないのだ。
アクティオノートを通じてご縁を得た皆様へ。「ゆるゆると流れる時間を楽しみながら、好きなことをしましょうよ」。人間が100年生きても不思議じゃない時代だからこそ、お伝えしたいことは、ただそれだけである。
※記事の情報は2026年2月17日時点のものです。
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【PROFILE】
小田かなえ(おだ・かなえ)
日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。
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