夏の終わりに聴きたいプレイリスト

AUG 31, 2021

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ 夏の終わりに聴きたいプレイリスト

AUG 31, 2021

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ 夏の終わりに聴きたいプレイリスト ゼロから何かを生み出す「創造」は、産みの苦しみを伴います。いままでの常識やセオリーを超えた発想や閃きを得るためには助けも必要。多くの人にとって、創造性を刺激してくれるものといえば、その筆頭は「音楽」ではないでしょうか。新企画「創造する人のためのプレイリスト」は、いつのまにかクリエイティブな気持ちになるような音楽を気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドするコーナーです。

猛暑と豪雨が記憶に残ったこの夏もそろそろ終わり。しかし、まだまだ暑い日が続きますね。今年も夏らしいアクティビティを何もしていませんが、2度と戻らぬ2021年の夏を惜しみ、いつもとは趣向を変えて夏に聴きたい曲を思いつくままに選んでみました。心躍るアップテンポのナンバーから、ゆったりと時の流れを味わうかのようなスローな曲まで11曲。南米、北米、アフリカ、ヨーロッパ、インド洋から大西洋まで、音楽の世界旅行に出かける気分でどうぞお楽しみください。




1.ヴァネッサ・モレーノ「アズール」


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ブラジルのシンガー・ソングライター(以下SSW)、ヴァネッサ・モレーノ(Vanessa Moreno)の最新作「SENTIDO」は、声とギターの弾き語りアルバム。ジャズのインプロビゼーションにも長けたモレーノが小気味よいバチーダ奏法にのせて歌う「Azul」は、ブラジルのスター、ジャヴァン(Djavan)の楽曲です。ミドルテンポの原曲イメージを塗り替えるような快速カバーは、舌を鳴らすパーカッシブなアクセントの付け方も、スキャットの美しさも抜群。アルバムには他にもジョイス(Joyce Moreno)の「Feminina」のカバーなども収録されていて夏の休日にぴったりです。



2.ブルーノ・マーズ、アンダーソン・パーク、シルク・ソニック「スケート」


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2021年の夏を代表する曲の1つがこの「スケート(Skate)」ではないでしょうか。1970年代のフィリー・ソウルが持っていた高揚感と華やかさをそのまま今のこの時代に宅配してくれるデュオ、シルク・ソニック! 曲も映像もゴキゲン、ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークの徹底したサービス精神には脱帽するしかありません。シルク・ソニックといえば、グラミー賞授賞式で流れた「リーヴ・ザ・ドア・オープン(Leave the Door Open)」のミュージック・ビデオも最高でした。今一番ライブが観たい2人ですが、コロナ禍のせいで映像を見るしかありません(涙)。アルバムのリリースを世界が待っています。



3.バラケ・シソコ「ナン・シラ・マディ ~ア・カラーズ・ショー~」

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雰囲気は一転して、マリ共和国のバラケ・シソコの最近の映像を。「アフリカのハープ」ともいわれる伝統的な民族楽器コラの名手ですが、心洗われるような清涼感のある弦の響きが印象的で、いつまでも聴いていられそうな美しさです。バラケ・シソコはクラシックのチェリストであるヴィンセント・シーガルとの共演をはじめ、ヨーロッパやアメリカのアーティストとの演奏活動も積極的に展開しています。私がバラケ・シソコを知ったきっかけは、とある音楽バーで流れていた彼のアルバム「At Peace」(2009年)を聴いたこと。その爽やかな音色に耳が釘付けになり、その夜のうちに海外にレコードを注文しました。



4.グウェンドリン・アブサロン「VANGASAY」


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マダガスカル島の東にあるフランス領レユニオン出身のSSW、グウェンドリン・アブサロン(Gwendoline Absalon)のセカンド・アルバムのタイトル曲です。彼女のキュートな歌声と洗練されたサウンドには、夏に聴きたくなる清涼感があります。


この作品、同じくフランス領であるマルチニーク出身のジャズ・ピアニスト、エルヴェ・セルカル(Hervé Celcal)が参加しています。アフロ要素と欧州の白人文化の要素が混交するカリブ海、大西洋、インド洋にわたる広範なクレオール*文化を意識し、ユニークなジャズを展開するセルカル。彼の幅広い音楽性が加味されたこのアルバムは、伝統音楽をはじめ、R&Bやラテン、ジャズ、ファンク、ブラジル音楽、アフロ・ポップなどの様々な要素が融合し、しかもコンテンポラリーな魅力にあふれています。


* クレオール:フランス植民地において、フランスに同化し、フランス市民権を取得した植民地出身者の呼称。



5.ノラ・ジョーンズ「アイム・アライヴ」


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続いて、ご存じノラ・ジョーンズ(Norah Jones)の最近の曲を。ジェフ・トゥイーディ(ウィルコ)との共同プロデュース作で、フォーキーな味をもった佳曲です。"She's alive"の歌詞に呼応してピアノで奏でられる和音が印象的で、夏から秋にかけての夕暮れ時に似合う曲だと感じるのは私だけでしょうか。歌詞の主人公である女性の、いろいろな悩みや葛藤を抱えながらも強く生きていこうとする姿勢にもグッときます。この曲の動画には、この他にも、日本の漫画「めぞん一刻」とのコラボ版をはじめ、ピアノ弾き語り、ギター弾き語りなど、様々なバージョンがあります。


ちなみに、映像の中でウールの帽子を被ってギターを弾いているのが共作者のジェフ・トゥイーディです。前回の創造する人のためのプレイリスト(記事はこちら)の中で、ネルス・クラインが父親を亡くしたウィルコのフロントマンにギターを贈る話がありましたが、その人こそジェフ・トゥイーディです。



6.ヴィク・ミラージャス&マロ「ミ・コンデナ」


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次はイベリア半島出身の2人。キーボードを弾き、歌うヴィク・ミラージャス(Vic Mirallas)は、スペイン・バルセロナ出身の若きシンガーであり作曲家、マルチプレーヤー。米国のバークリー音楽大学に進み、歌、サックス、クラリネット、ピアノの知識を深め、卒業後はそのボーカルとパフォーマーとしての確かなスキルを発揮し、バルセロナを拠点に活動中。自身の作品を発表しながら、音楽に多彩な要素を加味する存在としてラテン系レジェンド達のバンドメンバーとして活躍しています。


また、低く陰影を帯びた魅力的なハスキーボイスを持つマロ(MARO)は、ポルトガル出身のSSWです。彼女もまた2017年にバークリー音楽大学を卒業。その後はロサンゼルスを拠点に自作の曲を次々と発表します。2019年にはジェイコブ・コリアーのツアーにボーカリスト兼キーボーディストとして帯同し、その後も数多くのアーティストと共演。残念ながら中止になりましたが2020年には来日公演も予定されていました。これからの活躍が期待される新世代アーティストの1人だと思います。2人の共演曲である「ミ・コンデナ(Mi Condena)」は、軽妙なメロディーラインとアレンジが耳に残る小品。スペインとポルトガルの明るい空と海が目に浮かぶような1曲です。



7.ジェブ・ロイ・ニコルズ「キャント・チート・ザ・ダンス」


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この夏、ジェブ・ロイ・ニコルズ(Jeb Loy Nichols)の新譜「JEB LOY」のアナログ盤を繰り返し聴いていました。休日の午後などに、完全に気持ちを解放したいときにぴったりのチルな魅力があるのです。ジェブ・ロイは、かつて自身の音楽を「サザン・ソウル、カントリー、ブルース、ファンク&ソウルが強力に混ざったガンボ・スープにヒップ・ホップとダブを味付けした音楽」と表現しましたが、その通りに自由で、特定のジャンルや型にはまることなく、格好つけずに、どことなく飄々とした魅力があります。映像はアルバム「JEB LOY」のラストを飾る「キャント・チート・ザ・ダンス(Can't Cheat The Dance)」。人間臭く、優しい雰囲気が音楽から漂って来るようです。



8.アマーロ・フレイタス「サンコファ」


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この夏、ジャズやブラジル音楽のリスナー達の間で話題になったのが、ブラジル出身のジャズ・ピアニスト/作曲家のアマーロ・フレイタス(Amaro Freitas)の新譜「サンコファ(Sankofa)」でした。収録された8曲は、いずれも展開は予測不能。繊細なタッチで美しい和音を重ねたかと思えば、次の場面ではベース、ドラムスと一体となり複雑なポリリズムを刻み、また旋律の反復などの手法を駆使して大きな音のうねりを生み出していきます。アマーロ・フレイタスは1991年ブラジル北東部のペルナンブーコ州レシフェの生まれ。アフロ・ブラジリアンとしての自己のルーツを深く掘り下げ、アフリカ音楽の魅力であるリズムの流動性と現代ジャズのハーモニー感覚を融合し、新しいピアノ表現を成立させました。



9.メロディ・ガルドー「セ・マニフィークfeat. アントニオ・サンブージョ」


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現在はフランスに拠点を置く米国のシンガーSSW、メロディ・ガルドー(Melody Gardot)の「サンセット・イン・ザ・ブルー」(2020年発表)。そのタイトルとジャケットの通り、夏の夕陽の残照が空と海を輝かせ、1曲ごとに刻々と変わる青の世界を楽しむような、大人の味わいを持つアルバムです。2曲目に収録された「セ・マニフィーク(C'est Magnifique)」のミュージック・ビデオからはシネマティックな世界観とともに、ジャズとブラジル音楽からの影響、優美なオーケストレーションといった様々な要素が感じ取れると思います。彼女の優しさと憂いを含んだ歌声も魅力的ですが、その佇まいは俳優のようで昔のフランス映画を観ているようですね。



10.グレッチェン・パーラト「許してあげよう」


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的確なタイム感、正確なピッチ、囁くような独特の唱法でNYの現代ジャズ・シーンを代表するボーカリスト、グレッチェン・パーラト(Gretchen Parlato)。スタジオ録音盤としては約10年ぶりの待望の新作「Flor」のリリースは2021年の大きな話題をさらいました。これは冒頭曲の「É Preciso Perdoar(邦題:許してあげよう)」。ジョアン・ジルベルトの録音でも知られるボサノバの名曲を、ギターとチェロ、パンデイロ(ブラジルの打楽器)の小編成をバックに英語とポルトガル語で歌い上げています。グレッチェン・パーラトは、米国ロサンゼルスの出身ですが、幼少期からスタン・ゲッツとジョアン・ジルベルトの共演作をはじめ、ブラジル音楽に親しんで育ったといいます。原曲およびブラジル音楽へのリスペクトが感じられるこの曲は、アルバムの中でも特に印象的なナンバーです。



11.アントニオ・ロウレイロ「サウダーヂ」


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以前にもプレイリスト記事でご紹介(記事はこちら)したブラジルの作曲家・マルチプレーヤーのアントニオ・ロウレイロ(Antonio Loureiro)。最後に、彼が今年制作した「サウダーヂ(SAUDADE)」のミュージック・ビデオをご覧ください。


明るく希望に満ちた彼の新曲にあわせて、人びとが心を解放し、歌い踊るという企画で、参加しているのは、ブラジルのアーティストとその恋人や家族が中心です。ロウレイロ(眼鏡をかけて髭をたくわえたのが本人。短パンをはいて自宅で踊っています)と彼の家族をはじめ、SSWのハウル・ミストゥラダ、ベーシストのフレデリコ・エリオドーロ、ドラマーのフェリペ・コンティネンティーノ、ボーカリストのタチアナ・パーハなどの姿を見ることができます。コロナ禍で直接会えなくなった大切な友人、家族、世界中のファンを自分の曲でつなぎ、勇気づけたい。そうした彼の温かい気持ちが表れたこのミュージック・ビデオを視聴していると、私まで楽しい気持ちが盛り上がってきましたよ。オブリガード、アントニオ!

  • プロフィール画像 ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

    【PROFILE】

    シブヤモトマチ
    クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、特に新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。

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