ウィスパー・ヴォイスの歌姫たち(洋楽編) Part2

【連載】創造する人のためのプレイリスト

音楽ライター:徳田 満

ウィスパー・ヴォイスの歌姫たち(洋楽編) Part2

クリエイティビティを刺激する音楽を、気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドする「創造する人のためのプレイリスト」。今回は、「ウィスパー・ヴォイスの歌姫たち(洋楽編)」のPart2です。1980年代から現在に至るまで、時代を代表するウィスパー・ヴォイスの歌姫をセレクトしました。

カバーフォト:池谷 恵司

Part1はこちら

ウィスパー・ヴォイス(Whisper Voice)とは文字通り、「ささやき声」のことだ。 音楽の世界では、ささやくような声で歌う歌手および歌唱法を指すが、いわゆる「声を張って」歌う通常の唱法とは違い、得も言われぬ魅力を伴ってリスナーに響く。


その理由として、歌い手が物理的に近く感じられ、繊細な感情や、微妙な息遣いゆえの色気やセクシーさも伝わるということが言えるだろうが、同じウィスパー・ヴォイスでも歌い手の声質や歌い方、曲調、時代などによって、その印象は全く異なるところが面白く、また奥深い。


もちろん、ウィスパー・ヴォイスは女性だけの特権ではないが、今回は外国人女性による名曲・名唱を、年代を追って紹介する。その魅惑の歌声を存分に堪能していただきたい。


日本人女性によるウィスパー・ヴォイス作品もなかなか充実しているので、そちらも別の機会に特集できればと思う。



〈目次〉

  1. ミカド「Par Hasard」(1982年)
  2. イザベル・アジャーニ「Pull Marine(邦題:マリン・ブルーの瞳)」(1983年)
  3. ヴァネッサ・パラディ「Walk on the Wild Side」(1990年)
  4. カーディガンズ「Lovefool」(1996年)
  5. タトゥー「All the Things She Said」(2002年)
  6. ビリー・アイリッシュ「BIRDS OF A FEATHER」(2024年)

7. ミカド「Par Hasard」(1982年)


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1980年代に入ると、全世界的にニュー・ウェイブやテクノ・ポップが流行する。そんな時代の先端を走っていたのが、クレプスキュール(Crépuscule)というベルギーのレーベルだ。


ここにはザ・ドゥルッティ・コラム(The Durutti Column)やイザベル・アンテナ(Isabelle Antena)など、その後のネオアコブームの先駆け的なバンドやユニットが集まっており、中でもレーベルの「顔」として知られていたのが、このミカド(Mikado)である。


ヴォーカルのパスカル・ボレル(Pascal Borel)と、シンセサイザー&パーカッション担当のグレゴリー・チェルキンスキー(Grégori Czerkinsky)によるフランス人の男女ユニットで、この「Par Hasard」がデビュー・シングル(タイトルはフランス語で「たまたま」という意味)。リズム・ボックスとシンセのみという素朴なサウンドに、同じく素朴なウィスパー・ヴォイスが乗っているだけなのだが、これがなんとも心地よく、いつまでも聴いていたくなる。


当時、YMOの熱心なファンだった筆者は、彼らの紹介でミカドを知り、やはりファンになった。ミカドはその後、細野晴臣(ほその・はるおみ)が立ち上げたレーベル、ノン・スタンダードからレコードをリリースし、来日公演も行っている。


現在では、そのノン・スタンダードからの作品も、クレプスキュール在籍時のベストも復刻されているので、興味のある方はぜひ。

8. イザベル・アジャーニ「Pull Marine(邦題:マリン・ブルーの瞳)」(1991年)


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お気づきのように、このプレイリストでは圧倒的にフランス出身の歌手が多い(ちなみに前編で紹介したジェーン・バーキンはイギリス生まれの英国人)。意図したわけではなく結果的にそうなってしまったのだが、これはそもそも、息を吐きながら話すフランス語という言語と、ウィスパー・ヴォイスの親和性が高いということではないだろうか。


ここで紹介するのも、フランス生まれの女優、イザベル・アジャーニ(Isabelle Adjani)。彼女はパリ生まれだが、父親はトルコ系移民で母親がドイツ人と、生粋のパリジェンヌというイメージとは少し異なる出自で、そのせいか女優として選んできた役柄も(特に若い頃は)やや特異なものが多かった。


筆者が最も好きな彼女の出演映画は「ポゼッション(Posession)」(1981年)なのだが、その役というのは、なんと「怪物」と不倫する人妻。こればかりは実際に作品を観ていただくしかないが、最初に観た時の衝撃は、彼女の凄惨なほどの美しさとともに今でも忘れられない。


一方、歌手としての力量は、可もなく不可もなくといったところだろうか。代表曲であるこの「Pull marine」もセルジュ・ゲーンズブールのプロデュースらしく、ジェーン・バーキンにも似たウィスパー・ヴォイスが聴けるが、ジェーンよりもリアルな(生々しい)感じがあり、これはこれで一つの個性だと思う(ちなみにタイトルの本来の意味は「マリン・ブルー色のセーター」であり邦題の「瞳」ではない)。


なお、フランスの女優としては、あのカトリーヌ・ドヌーヴ(Catherine Deneuve)も、「Alice hélas(邦題:かわいそうなアリス)」(1981年)という楽曲で、大人の魅力が堪能できるウィスパー・ヴォイスを披露している。

9.ヴァネッサ・パラディ「Walk on the Wild Side」(1990年)


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次に紹介するのも、やはりフランス生まれの歌手・女優であるヴァネッサ・パラディ(Vanessa Paradis)で、デビュー・シングルの「Joe le Taxi(邦題:夢見るジョー)」(1987年)がいきなりフランス国内で11週1位を続けるという大ヒット。当時まだ17歳だったヴァネッサの可愛らしさとロリータ・ヴォイスは日本でも評判となった。


この「Walk on the Wild Side」は、彼女にとって2作目となるアルバム「Variations sur le Meme T'Aime(邦題:ヴァリアシオン)」のラストに収められている。言わずと知れたルー・リード(Lou Reed)の代表曲のカバーだが、アイドルを手がけさせたら右に出る者がいないセルジュ・ゲーンズブールがアルバムごとプロデュースしているだけあって、彼女のロリータ性を活かしつつ、少し背伸びした大人の雰囲気も感じさせる仕上がりになっている。


ヴァネッサは1992年、レニー・クラヴィッツ(Leonard Albert Kravitz)と組んで世界的な大ヒットアルバム「Vanessa Paradis(邦題:ビー・マイ・ベイビー)」を送り出すが、彼女のウィスパー・ヴォイスを堪能するには、ヨーロッパやフランスを感じさせる、この時期の方がおすすめである。

10.カーディガンズ「Lovefool」(1996年)


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カーディガンズ(The Cardigans)は、スウェーデン出身の5人組。クラウドベリー・ジャム(Cloudberry Jam)やメイヤ(Meja)など、1990年代中期に流行した「スウェディッシュ・ポップ」の代表的存在である。


1994年にデビューした彼らの3枚目となるアルバム「First on the Moon」が世界的に大ヒットし、日本のオリコンチャートでも最高6位となったことから、しばしば来日公演も行っていた。この「Lovefool」はそのアルバムからシングルカットされた曲で、アルバム以上の大ヒットを記録している。


当時22歳のヴォーカル、ニーナ・パーション(Nina Persson)が、愛が離れてしまった恋人への真摯な思いを軽快なサウンドに乗せて歌っているが、基本的には普通の歌い方と言える。ただ、ところどころでウィスパー・ヴォイスを織り交ぜていて、そこがなんとも切なく、かつ効果的なのだ。


なお、このアルバム「First on the Moon」のプロデュースは、前作の「Life」に続いて「スウェディッシュ・ポップ の生みの親」とも呼ばれるトーレ・ヨハンソン(Tore Johansson)。原田知世(はらだ・ともよ)やBONNIE PINK(ボニー・ピンク)も彼のプロデュースでアルバムを発表している。

11. タトゥー「All the Things She Said」(2002年)


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日本でも話題となった、ロシア出身の少女2人がヴォーカルを務めるプロジェクト、それがタトゥー(t.A.T.u)である(プロデューサーやソングライターチームも含むので「バンド」ではないそうだ)。


結成は1998年、タトゥー名義でのデビューは2000年だが、広く世界に知られるようになったのは、同年にロシア語で発表したシングル「ヤー・サシュラー・ス・ウマー(Я сошла с ума)」を2002年に英語で歌い直した「All the Things She Said」が、世界中のヒットチャートで1位を記録して以降である。


興味深いのが、ロシア語バージョンでも英語バージョンでもウィスパー・ヴォイスの部分があるのだが、ロシア語の方がよりセクシーに感じるということ。これは筆者がロシア語に慣れていないからかもしれないが、そうだとすれば聴く側によって印象が変わるというのもウィスパー・ヴォイスの魅力かもしれない。


タトゥーはこの翌年の2003年に初来日し、生放送の歌番組をドタキャンするなど「お騒がせ」のイメージが強いが、改めて個々の楽曲を聴くとガールズ・ポップとして一定の完成度があると筆者は思うので、今後再評価されることを期待したい。

12. ビリー・アイリッシュ「Birds of a Feather」(2024年)


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本プレイリストの掉尾を飾るのは、2001年にアメリカ・ロサンゼルスで生まれたビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)。2015年、13歳で自作曲をSound Cloudにアップしたことから翌年、シングルでデビュー。現在までに3枚のアルバムと2枚のEPを発表している。一般的には、史上最年少の19歳で、映画「007」シリーズの主題歌に抜擢されて話題になった「No Time to Die」(2020年)が有名かもしれない。


この「Birds of a Feather」は、2024年のサード・アルバム「Hit Me Hard and Soft」に収録され、USENの「2025 年間USEN HIT洋楽ランキング」部門で1位を獲得するなど、日本でも人気を得ている楽曲。ビリー・アイリッシュは思いの届かない相手への複雑な心情を、切なくも優しいウィスパー・ヴォイスで歌っている。


なお、彼女のようなZ世代周辺の、女性ウィスパー・ヴォイスの楽曲としては、同じくロス出身のインディー・ポップ・バンド、マリアス(The Marias)が2024年に発表した「No One Noticed」や、カナダのインディー・ポップ・バンド、メン・アイ・トラスト(Men I Trust)の「Show Me How」(2018年)も魅力的なので、ぜひチェックしてみてほしい。


※記事の情報は2026年2月6日時点のものです。

  • プロフィール画像 音楽ライター:徳田 満

    【PROFILE】

    徳田 満(とくだ・みつる)
    昭和映画&音楽愛好家。特に日本のニューウェーブ、ジャズソング、歌謡曲、映画音楽、イージーリスニングなどを好む。古今東西の名曲・迷曲・珍曲を日本語でカバーするバンド「SUKIYAKA」主宰。

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