隅田川は橋の展覧会! 復興橋梁めぐりパート2〈前編〉

【連載】ドボたんが行く!

三上美絵

隅田川は橋の展覧会! 復興橋梁めぐりパート2〈前編〉

遊びは創造の源泉。身近にあるコトやモノ、どんなことにも遊びを見出してしまう。そこに本当のクリエイティビティがあります。このドボク探検倶楽部、略して「ドボたん」はさまざまな土木構造物を愛でるコーナー。土木大好きライター、ドボたん三上は関東大震災にまつわる建造物をめぐるツーリズムで何を見つけたのでしょうか!

旧安田庭園の「汐入の池」と復興記念館

年が明けて2024年がスタートしました。昨年2023年は1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災から100年ということで、震災当時を振り返る特集番組などが多く見られました。"ドボたん"ことドボク探検倶楽部でも、私ミカミが案内人となり、隅田川の復興橋梁をめぐるプチ・インフラツーリズムを実施しました。昨年2023年5月に開催した道ism(ミチズム)ツアーの模様はこちらから→前編後編

昨年の5月は隅田川下流の越中島から上流へ向けて両国まで歩きました。今回は、11月にふたたび実施した「復興橋梁めぐりパート2」のレポートです。前回の終点・両国から再び隅田川のほとりを歩き、蔵前橋(くらまえばし)、厩橋(うまやばし)、駒形橋(こまがたばし)、吾妻橋(あづまばし)といった復興橋梁のほか、東武鉄道の橋梁に添架された遊歩道「すみだリバーウォーク」などのおしゃれスポット、地下鉄のトンネル湧水の噴水といったレア案件など盛りだくさんに見学しました!


また、ツアーを主催した「Team Action 道ism」の代表で、古街道研究家の宮田太郎さんによる「浅草のヒミツ」の説明も大変興味深く、参加者さんと一緒に私も大いに楽しませていただきました。


道ismツアーのフライヤー道ismツアーのフライヤー


今回のツアーで巡った隅田川周辺のスポット今回のツアーで巡った隅田川周辺のスポット
出典:国土地理院ウェブサイト「地理院地図」に加工(番号表記)して作成



今回は、JR両国駅(東京都墨田区)の近くで集合し、両国国技館を右手に見ながら隣の旧安田庭園(①)へ。この日本庭園は元禄時代に築造されたと伝えられ、明治時代には安田財閥の祖・実業家の安田善次郎氏の所有を経て、現在は墨田区が管理しています。


この庭園のドボたん的見どころは、何と言っても「汐入(しおいり)の池」。庭園内の池に隅田川の水を引き入れ、潮の干満によって変化する景観を楽しむという、何とも粋なコンセプトです。ただ、現在ではポンプで水位を調節し、人工的に汐入を再現しているのだとか。


旧安田庭園は入場無料(撮影:三上美絵。以下、特記以外は三上美絵)旧安田庭園は入場無料(撮影:三上美絵。以下、特記以外は三上美絵)


汐入の池が人工的に再現されている(撮影:宮田太郎)汐入の池が人工的に再現されている(撮影:宮田太郎)



旧安田庭園を通り抜けると、交差点の向かい側に横網町公園(②)があります。場所が両国なだけに、私はずっと「横綱(よこづな)」だと思い込んでおりました。「横網(よこあみ)」と気づいたのは、わりと最近のことです。その話をすると、参加者の皆さんも大きくうなずいておられたので、私だけじゃなかったと思います(笑)。


「よこづな」じゃなくて「よこあみ」ですよ~、と。入口の表札にはローマ字表記が(撮影:松本猛)「よこづな」じゃなくて「よこあみ」ですよ~、と。入口の表札にはローマ字表記が(撮影:松本猛)



ここには、関東大震災と第2次世界大戦中の東京大空襲によって失われた計約16万3,000人の被災者を祀(まつ)る慰霊堂や鐘楼、被災状況や遺品などを展示する復興記念館があります。慰霊堂の設計は、築地本願寺の設計者として知られる伊東忠太。外観は寺院のようですが、内部は中世ヨーロッパの教会に見られる「バシリカ様式」で、両側に列柱で仕切られた側廊があるのが特徴です。


慰霊堂の内部を見学(撮影:宮田太郎)慰霊堂の内部を見学(撮影:宮田太郎)


バシリカ様式の特徴である側廊には、被災状況を描いた油絵が展示されていた。当時の様子が生々しく実感され、鎮魂の気持ちが高まる(撮影:宮田太郎)バシリカ様式の特徴である側廊には、被災状況を描いた油絵が展示されていた。当時の様子が生々しく実感され、鎮魂の気持ちが高まる(撮影:宮田太郎)



復興記念館の設計者ははっきりしないものの、ファサードの付け柱の上には、伊東の得意とする"怪獣"が付いています。旧両国橋の親柱や復興計画の模型など、展示物も見応え十分でした。


復興記念館の意匠もみごと。外壁にはこの時代に流行したスクラッチタイル(表面を櫛引きして細かい筋を付けたタイル)が使われ、柱頭には怪獣がいる(撮影:宮田太郎)復興記念館の意匠もみごと。外壁にはこの時代に流行したスクラッチタイル(表面を櫛引きして細かい筋を付けたタイル)が使われ、柱頭には怪獣がいる(撮影:宮田太郎)


2階には、帝都復興計画の断面模型などが展示してあり、興味深い。路面電車の下には地下鉄、車道の下には上下水道の配管が見える(撮影:宮田太郎)2階には、帝都復興計画の断面模型などが展示してあり、興味深い。路面電車の下には地下鉄、車道の下には上下水道の配管が見える(撮影:宮田太郎)


復興記念館の横には、関東大震災の火災によって溶けた建物や車両の一部などが屋外展示してある(撮影:宮田太郎)復興記念館の横には、関東大震災の火災によって溶けた建物や車両の一部などが屋外展示してある(撮影:宮田太郎)




ジョウロ・チュウロ・カロって何? アーチと路面の位置関係

横網町公園を後にして、隅田川へ向かったところに架かっているのが、国が手掛けた復興橋梁「隅田川六大橋」のひとつである蔵前橋(③)です。形式は、アーチが3つ連なった「3径間連続上路式アーチ橋(さんけいかんれんぞくじょうろしきあーちきょう)」。「上路式」とは、構造の上に路面がある橋梁形式のことで、橋の部材に視界を遮られないのが特長です。

隅田川の復興橋梁では、都市景観に配慮して、できるだけ上路式にする方針が立てられたといいます。ただし、橋下を船が通ることを考えると、路面の下にアーチをつくるためには、水面から路面までの十分な高さが必要。蔵前橋は、復興計画で現在の蔵前橋通りができた時に架けられた橋で、橋台部分の路面を比較的に高くできたことから、上路式のアーチ橋が可能になったのです。


江戸時代、この地に幕府の米蔵があったことにちなみ、架橋当時から稲籾(いなもみ)を思わせる黄色に塗装されている(撮影:宮田太郎)江戸時代、この地に幕府の米蔵があったことにちなみ、架橋当時から稲籾(いなもみ)を思わせる黄色に塗装されている(撮影:宮田太郎)



蔵前橋を渡り、ここからは右岸・台東区側の隅田川テラスを歩きます。ほどなく、厩橋(④)が見えてきました。当時の東京市が建設した震災復興橋梁です。アーチが3つ連続している点は蔵前橋と同じですが、こちらはアーチの下に路面がある「下路式(かろしき)」です。両岸に幹線道路の交差点があり、橋台部分の盛り土が十分にできなかったといいます。


厩橋はアーチの下に路面がある下路式の橋。後ろに東京スカイツリーが見えている(撮影:宮田太郎)厩橋はアーチの下に路面がある下路式の橋。後ろに東京スカイツリーが見えている(撮影:宮田太郎)



厩橋の次の橋は、「隅田川六大橋」のひとつ、駒形橋(⑥)。こちらは、3つのアーチのうち両サイドは上路式ですが、中央はアーチの中間を路面が貫く「中路式(ちゅうろしき)」です。路面の下から上、さらに下へと変化するアーチが優美な景観をつくり出しています。個人的には、前回見た清洲橋(きよすばし)と同じぐらい、推したい橋です!


駒形橋は、写真向かって左側から上路式、中路式、上路式と、異なる形式が組み合わされている。リズミカルな景観が楽しい駒形橋は、写真向かって左側から上路式、中路式、上路式と、異なる形式が組み合わされている。リズミカルな景観が楽しい



私が「上路式」「中路式」「下路式」などの説明に夢中になっていると、参加者のお一人が小さなホワイトボードにマジックでキーワードを書いて、全員に見えるように掲げてくださいました。たしかに、耳慣れない土木の専門用語は、漢字でお見せすると分かりやすい。ありがとうございました!


参加者さんが、ホワイトボードにキーワードを書いてくれました。多謝!(撮影:松本猛)参加者さんが、ホワイトボードにキーワードを書いてくれました。多謝!(撮影:松本猛)


このあたりには、東京都が推し進める川沿い飲食店の川床「かわてらす」(⑤)がいくつかある(写真左上)。川に近い屋外空間、気持ちよさそう! 写真はツアー前に撮ったものこのあたりには、東京都が推し進める川沿い飲食店の川床「かわてらす」(⑤)がいくつかある(写真左上)。川に近い屋外空間、気持ちよさそう! 写真はツアー前に撮ったもの



※記事の情報は2024年1月30日時点のものです。

後編に続く
  • プロフィール画像 三上美絵

    【PROFILE】

    三上美絵(みかみ・みえ)

    土木ライター
    大成建設で社内報を担当した後、フリーライターとして独立。現在は、雑誌や企業などの広報誌、ウェブサイトに執筆。古くて小さくてかわいらしい土木構造物が好き。
    著書に「かわいい土木 見つけ旅」(技術評論社)、「土木技術者になるには」(ぺりかん社)、共著に「土木の広報」(日経BP)。土木学会土木広報戦略会議委員。
    建設業しんこう-Web 連載「かわいい土木」はこちら https://www.shinko-web.jp

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