風を読んで味方につける、ビーチバレーの魅力とは。

スポーツ

吉田亜衣さん「ビーチバレースタイル」編集長〈インタビュー〉

風を読んで味方につける、ビーチバレーの魅力とは。

2020年を前にスポーツ界全体が盛り上がる中、ビーチバレーも日本代表を決める基準にもなる「マイナビジャパンビーチバレーツアー2019」が5月の平塚大会を皮切りに開幕しました。開幕戦の舞台となった湘南ひらつかビーチパークで、長年ビーチバレー界を見つめ、その魅力を発信し続けてきた雑誌「ビーチバレースタイル」編集長の吉田亜衣さんにインタビュー。【Vol.1】ではビーチバレーの魅力についてうかがいました。

初めて見た試合が面白くて、すぐボールを買ってやってみた。

「ビーチバレースタイル」編集長 吉田亜衣さん
――吉田さんがビーチバレー雑誌「ビーチバレースタイル」の編集長になるまでのことをおうかがいしたいのですが、ビーチバレーを知ったのは何がキッカケだったんでしょうか?

私はもともと中学から大学までインドアのバレー部でプレーしていて、バレーボール雑誌もよく読んでました。バレーが好きで、好きな選手がいて、試合を見に行くっていう。普通にファンだったんです。ある時応援していた選手が、ビーチバレーに出たんですよ。で、見に行ったら面白くて。試合が終わった後すぐにボールを買って、友だちと2人で波打ち際でパスをやったのが一番初めの、私のビーチでのバレー体験です。

――そこからハマった感じなんですか?

ですね。もう、すごくすごーく面白かった(笑)。それで、ビーチバレーができるところを探しました。今はだいぶコートも増えてきたんですけど、私が始めた1996年頃は鵠沼、江の島、平塚とか数えるくらいしかなくて。自分でコート探しに行ってやってましたね。レベルは全然低いですけど、趣味で楽しめるくらいにはやって、試合にも出てました。

――雑誌の編集者になろうと思ったのはいつ頃なんですか?

昔からバレーの専門雑誌を読んでいたこともあって、中学校3年生ぐらいの時から編集者になりたかったんです。ある日、雑誌を読んでいたら編集の制作スタッフの社員募集が載っていたので受けたら受かっちゃった。インドアのバレーボール雑誌ですが、編集者としてのキャリアはそこからです。今は紆余曲折を経て、独立して「ビーチバレースタイル」を作っていて、あとは日本バレーボール協会の仕事を含め、ビーチバレーに関連することもいろいろやっています。



同じことの繰り返しがない、刺激的な競技の虜に。

同じことの繰り返しがない、刺激的な競技の虜に。
――インドアのバレーと比べてどこが楽しいのでしょうか?

大きく違うのは、まずボールが来る回数ですよね。2人しかいないのでほぼ必ず毎回ボールに触るんですよ。目立ちたがり屋には、もってこいなんです(笑)。勝てば自分とパートナーのおかげ。自分の貢献度が高いっていうところが魅力です。

――外で、ビーチでやるっていうのも気持ちよさそうですよね。

そう。単純に太陽の下で動けるっていうのが気持ちいいのもある。試合の駆け引きも面白いです。相手の動きを読んで、ウラをかく、騙すっていう。試合運びの巧さ、テクニックが有効な場面が多いので、経験がある人ほど強かったり。一般的なスポーツでは重要視される"若さ"もあまり関係なく、競技者の年齢層も幅広いんです。過去には、海外の選手ですが40歳を過ぎてメダルを獲った人もいます。今の日本の男子の最高年齢は45歳。一面でそういう人がいまだトップを走っていて下が育っていない、という問題もあるんですが。

――雨でも試合は行われると聞きました。実際に試合を拝見すると、自然、特に風にすごい影響されそうですよね。風下か風上にいるかで戦法も変わるんですか?

はい。それも駆け引きに使うんですよ。インドアではそういう要素は絶対ありません。実際、風に向かってボールを打つと、ボールの変化がすごいんです。それに2度と同じ風は吹かないじゃないですか。大げさかもしれないけど自分の人生に置き換えてみたりもできる、同じことの繰り返しがない競技なんです。そういう部分も、ビーチバレーの虜になっちゃった理由かもしれませんね。

――似たようなところで、サーフィンも同じ波が2度とないっていいますよね。常に変化していく自然に対応する、合わせるのが魅力だという感じでしょうか。

そうですね。ある程度の攻撃・守備パターンはあるにしても、イレギュラーなこと、不確定要素がとても多いので、インドアのバレーみたいな緻密なデータ分析、戦略みたいなものは役に立たないことも多いんですよ。ビーチバレーの選手はインドアのバレーボールから流れてくる選手がほとんどですけど、ちょっとアウトローというか道から外れてみて、その面白さに気づいた選手が多いです。



優秀なブロッカーがいるとゲーム展開にメリハリが生まれる。

優秀なブロッカーがいるとゲーム展開にメリハリが生まれる。
――コートはインドアのバレーより1メートル小さいだけで見た目はほぼ同じ。よく2人で守れるなぁと思います。攻める方からすればたくさん空いているところがあるように見えるんですけど...

そこで重要なのはブロッカーなんですよ。優秀なブロッカーがいるとゲーム展開もメリハリがあって面白いんです。ブロッカーの動きで試合の流れが変わる、レシーバーの駆け引きも見られますよ。

――ブロックするふりをしてやらないとか、そういう戦法もありますよね。

あります。フェイクブロックですね。逆にブロックにつかなくて、2人とも最初からレシーブに下がっちゃうパターンが多い試合は単調で、戦略性もあまりなくて、面白くないですね。

――でもブロックに一人ついてしまうと、レシーバーはたった一人で大変なんじゃないですか?

いえ、逆に攻撃する方から見ると、ブロックがつくことでスパイクを打つコースは限られちゃいますよね。かといって、レシーバーのいる方向に打てば拾われる可能性が高い、となるとコートの中で空いてる場所って思ったほど広くないんですよ。風も吹いていて、砂に足を取られる不安定な体勢で、狙ったコースに打てるテクニックが要求される。さらにラリーが続いて疲れてくると打つコースも甘くなりますよね。その辺を踏まえた駆け引きが見どころなんです。どこに打つか、向きやフォームで見破られないようにしなくちゃいけないし。

――なるほど。その駆け引きや読み合いが、わかればわかるほど面白そうですね。



2020年に向けて。注目の選手は女子の石井・村上ペア。

――2020年の東京で活躍しそうな、吉田さんの注目の選手は誰ですか?

やはり女子の石井・村上ペアですね。

2016年のアジア大会で銅メダルを獲得した(左)石井美樹(右)村上めぐみペア2018年のアジア大会で銀メダルを獲得した(左)石井美樹(右)村上めぐみペア
――平塚大会でも優勝しましたね。2人とも、特に村上選手は背がそんなに高くなくて、素人目には決勝戦であたった長谷川・二見ペアのほうが背も高くて体格もいいし、有利に思えました。

いやー。村上選手はほんとに素晴らしいプレーヤーで、小さな巨人なんです。抜群のセンスがあります。それにビーチバレーはインドアほど背の高さとか、フィジカルはそこまで重要じゃないんです。スタミナはもちろん必要ですが。

――2人ともすごく細くて、華奢ですよね。

そうですね。フィジカルの能力を上げるのはやっぱり限界があるので、彼女たちは無駄な動きを削って、削って、非常に効率よく動くということを徹底してるんです。だから一切無駄がない。試合を見ているとわかってもらえると思います。2018年のアジア大会でも銀メダルでしたし、世界のトップに挑める数少ない日本人選手です。

――なるほど。たしかにコンビネーションという部分で、チームとしての強さを感じました。

やはり、個の力がずばぬけた2人が組むといいところまで行けます。過去にはインドアのバレーで日本代表選手だった朝日健太郎さん(現参議院議員)もそうでした。やっぱり世界を舞台に活躍していた選手は、お互いのカバーリング方法もよくわかってる。朝日さんはビーチバレーでオリンピックに出場しましたし。でも、そこまで実力のあるトップアスリートのペアというはなかなかいなくて、そうなると個の力に頼らない、2人のチームプレー、コンビネーションがもうほとんど全てなんです。

――2人だと関係がうまくいかなかった時の逃げ場もなくて、衝突することもあるでしょうね。

そうですね。だからある意味、究極的な人間関係力が問われます(笑)。嫌になって口をきかなくなって、試合中にペアの相方が何をしようとどうでもよくなる、みたいなこともよくあるんですよ。けどそれが一番ダメなパターン。喧嘩しても何をしても、勝つためにコミュニケーションをとることできるか。嫌でも腹が立っても、とにかく向き合わなきゃいけない。世界のトップチームは、相方の調子が悪かったりするとそれをカバーするために、都度作戦を変えたりするんです。それによって動きが読みづらくなり、逆転勝ちすることも多い。ほんとにすごいな、って思いますね。勝負を捨てないというか。

2人だと関係がうまくいかなかった時の逃げ場もなくて、衝突することもあるでしょうね。

――すごいですね。どんな状況でも最後まで諦めない。2人がそう思ってないといけないんですね。

そう。ビーチバレーって次の瞬間に何が起こるかほんとにわからないスポーツです。自然の中でやっているので、風向きが一気に有利に吹くかもしれないじゃないですか。


※記事の情報は2019年6月18日時点のものです。


Vol2へ続く



〈FIVBビーチバレーボールワールドツアー2019 4-star 東京大会〉

日程:

7月24日(水) 予選
7月25日(木) プール戦
7月26日(金) プール戦/Lucky Loser Round of 16
7月27日(土) Round of 16/準々決勝/準決勝
7月28日(日) 3位決定戦/決勝戦

会場:
潮風公園(東京都品川区東八潮)


〈マイナビ ジャパンビーチバレーボールツアー2019〉 日程


「マイナビジャパンビーチバレーツアー2019」

【BVT1】※オリンピック、国際大会出場を目指す選手が参加

第1戦 平塚大会:
5月18日(土)・19日(日)
湘南ベルマーレひらつかビーチパーク(神奈川県平塚市)

第2戦 立川立飛大会:
6月8日(土)・9日(日)
TACHIHI BEACH(東京都立川市)

第3戦 沖縄大会:
7月6日(土)・7日(日)
豊崎美らSUNビーチ(沖縄県豊見城市)

第4戦 東京大会:
7月20日(土)・21日(日)
潮風公園(東京都品川区東八潮)

第5戦 松山大会:
8月24日(土)・25日(日)
松山城 城山公園(愛媛県松山市)

第6戦 都城大会:
9月21日(土)~23日(月・祝)
霧島ファクトリーガーデン(宮崎県都城市)

第7戦 名古屋大会:
9月28日(土)・29日(日)
名城公園 tonarino(愛知県名古屋市)

ファイナル:
10月12日(土)・13日(日)
グランフロント大阪 うめきた広場、毛馬桜之宮公園 大阪ふれあいの水辺(大阪府大阪市)

*株式会社アクティオはマイナビジャパンビーチバレーボールツアー2019に協賛しています。

  • プロフィール画像 吉田亜衣さん「ビーチバレースタイル」編集長〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    吉田亜衣(よしだ・あい)
    埼玉県出身。ビーチバレーボールスタイル編集長、ライター。
    バレーボール専門誌の編集 (1998年~2007年)を経て、2009年に日本で唯一のビーチバレーボール専門誌「ビーチバレーボールスタイル」を創刊。オリンピック、世界選手権を始め、ビーチバレーボールのトップシーンを取材し続け、国内ではジュニアから一般の現場まで足を運ぶ。その他、スポーツナビ、ビクトリーなどのWEB媒体の執筆、実業之日本社、メイツ出版などのバレーボールや他スポーツの実用書の編集も行っている。また、公益財団法人日本バレーボール協会のオフィシャルサイト、プログラム、日本ビーチ文化振興協会発行の「はだし文化新聞」などの制作にもかかわっている。
    ビーチバレーボールスタイル:https://bvstyle.net/

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