【連載】Beaches! ビーチバレーと私
2025.08.19
西堀健実
海外ツアー編がスタート。初回は中国で体験した衝撃的なできごとから|西堀健実【連載⑥】
ビーチバレー選手の西堀健実さんが、バレーボールとビーチバレーにかけた青春の日々を綴ります。連載第6回からは、ビーチバレーに転向してからツアーで訪れた海外でのエピソードを書いていただきます。初回は中国からです。
足の切断の危機?! 試合をキャンセルし、上海から緊急帰国!
いつもご覧いただきありがとうございます。前回までは、私の学生時代のお話をしてきましたが、今回からビーチバレーに転向してからのこと、主に海外ツアーのことを書いていきます。それではスタート!
海外ツアー編第1回は中国です。中国は間違いなく一番訪れている国だと思います。なぜなら、中国で開催されるビーチバレーの大会がとても多いから。記憶にある場所だけでも、上海、福州、北京、杭州、広州、武漢、南寧(なんねい)、南京、天津、厦門(あもい)、三亜(さんあ)......などなど、中国国内には沢山のビーチバレーコートが存在していることも、開催数の多さを誇る要因なのでしょう。しかも、そのほとんどが立派なスタジアム付きなのです。流石ですね!
今年も行ってきました。「Beach Pro Tour 2025 Futures 武漢大会」にて
今回は、特に思い入れのある場所、福州と上海をご紹介します。
まずは、福州のことを簡単に。福州市は中国の東南部にある福建省にあり、海に面している地方都市です。福州はビーチバレーで初めて、オリンピック出場の権利を獲得できる「アジア大陸予選(コンチネンタルカップ)」が導入された場所で、そのアジアコンチネンタルカップに出場させていただき、ワールドツアーで初めて中国のチームに勝利した思い出深い場所でもあります。
2015 FIVB Beach Volleyball World Tour 福州大会会場の様子
お次は上海。上海は日本でもなじみ深い都市ですよね。中華人民共和国の直轄市の1つで、中国最大の経済都市です。上海タワーや上海ディズニーランド、上海蟹などなど、有名なものがたくさんあります。
ただ、私にとっての上海の思い出エピソードは、「足を切断するかもしれない恐ろしい感染症を発症してしまった」という衝撃的な体験です。みなさんには注意喚起という意味も込めてお送りします(涙)。
あれは、忘れもしない2013年のワールドツアーオープン 上海大会でのこと。最初は蚊に刺されたかな、と思うような小さな傷が左足の脛(すね)にできていました。少し痛痒いなと思いつつも、そのうち治るだろうと特に気にも留めていませんでした。
しかし、日に日に腫れが大きくなり、しまいには足先までパンパンに。試合直前までキャンセルは考えず、念のため上海の病院へ。この時もまだ、軽く考えていました。病院で処置をしてもらえば腫れも引くだろうと。
上海の病院で処方された薬
しかし、状態は悪化の一途を辿り、歩くのもやっとという状況になってしまいました。チームには迷惑をかけてしまいましたが、試合はキャンセルし、急遽帰国することに。日本に着いて、空港から大荷物を持ったまま病院へ直行しました。
失敗を糧に、次世代の選手たちに伝えるべきこと
深夜だったので夜間救急へ。そして、診察後すぐに手術をすることになり、なんの心の準備もできないまま手術はスタート。麻酔も効かないほど感染症がひどく広がっていたようで、結構な大きさの穴が脛に空きました(涙)。
先生「痛かったら言ってくださいね」
私「痛い!!! 痛いです!!! やばいです!!!」
先生「麻酔効かないけど頑張って」
という残酷でカオスなやり取りを繰り返し、無事手術は終了。
先生に、なぜこんな状態まで放置したのか、リンパまで感染が広がっていたら足を切断しなくてはいけなかった、とお叱りを受けました。そこから、先生や看護師さんの献身的な処置のおかげで、縫うはずだった傷口も驚異的なスピードで塞がり、10日後に退院することができました。
退院前夜の様子。すっかり腫れも引き元気に
この謎の感染症の正体は「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」というものでした。蜂窩織炎は皮膚にできた小さな傷などから細菌が皮膚の深部に侵入し、増殖することで起こる感染症で、人から人への感染はせず、免疫力が低下している時に発症しやすい、とのこと。ケガや皮膚炎、虫刺され、動物に噛まれる、水虫、皮膚のひび割れなどによって皮膚が傷つくと、細菌が侵入し発症のきっかけになることがあるそうです。
当時の私は、蚊に刺された程度の小さな傷だったので、すぐに治るだろうと洗浄や消毒をしっかりしませんでした。それに加え、海外ツアーでかなり体力を消耗し、免疫力も落ちていたため、 蜂窩織炎が発症する条件が揃ってしまっていました。なるべくしてなったのですが、当時は蜂窩織炎という感染症の存在を知らなかったため、悪化する前に処置ができませんでした。
今は身をもって経験した失敗で、知識と備えをすることができています。消毒剤と抗生物質は常備し、小さな傷でもまずはガシガシ洗浄、その後に消毒。消毒と同じくらい、洗浄は大切だと先生に教わりました。以来、少しの傷だと軽く考え放置しようとする選手がいると、私みたいになるぞと脅しながら洗浄と消毒を勧めています(笑)。
試合や練習以外のところでも、沢山のことを経験し自分の糧にしてきました。日本では揃えられても、海外では入手できないものもあります。そのことを次世代の選手たちに伝えていく。そして、事前に最悪の事態を回避する手助けになれば、麻酔が効かない状態で足をほじくることになった愚かな私の失敗も無駄ではなかったのかなと思えます。
海外ツアー編第1回、中国のお話はここまで。次回はどこの国のお話でしょうか。お楽しみに!
つづく
※記事の情報は2025年8月19日時点のものです。
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【PROFILE】
西堀健実(にしぼり・たけみ)
1981年生まれ、長野県中野市出身。身長171㎝。
所属:biid株式会社
経歴:小布施スポーツ少年団→裾花中学校→古川学園高等学校
得意なプレー:相手選手の観察
好きな言葉:一意専心
【2023年国内大会】
・ジャパンビーチバレーボールツアー2023
第2戦平塚大会 ガラナ・アンタルチカ杯 3位
第3戦渋谷大会 3位
・ジャパンビーチバレーボールツアー2023サテライト
第1戦横浜大会 3位
【2023年国際大会】
・アジアツアー
サラミオープン9位
・FIVB Beach Pro Tour 2023
Futures/Satun(サトゥーン) 9位
Futures/Seoul(ソウル) 5位
Futures/Geelong(ジーロング) 5位
【2024年国内大会】
ジャパンビーチバレーボールツアー2024
第8戦JBG須磨大会 3位
第9戦マイナビ松山大会旭食品杯 3位
【2024国際大会】
・アジアツアー
ヌバリオープン 9位
天津オープン 9位
ヌバリチャンピオンシップ 19位
・FIVB Beach Pro Tour 2024
Futures/Mollymook 9位
Futures/Coolangatta 9位
Futures/NUVALI 3位
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