ビーチバレーをして一番よかったのは人に思いやりを持てたこと

スポーツ

坂口佳穗さん ビーチバレーボール選手〈インタビュー〉

ビーチバレーをして一番よかったのは人に思いやりを持てたこと

スポーツ界全体が盛り上がりを見せている中、ビーチバレー界にも次世代を担う選手が育っています。今回はジャパンツアーでも表彰台に登る回数が増え、めきめきと頭角を現してきた注目の若手選手、坂口佳穗選手にビーチバレーを始めたきっかけや、ツアーのこと、来シーズンの目標などをうかがいました。

坂口選手はお父さんの影響で小学校から中学校までインドアのバレーボールをプレー。高校では一旦バレーボールから離れたものの、高校3年生のときに観戦した解放的でにぎやかなビーチバレーの試合に魅せられ、大学入学と同時に川崎ビーチバレースポーツアカデミーの門をくぐった。

大学に通いながら、アカデミーで練習を続け、2015年の大学3年生の時にはじめて日本ビーチバレーボール連盟(JBV)のプロツアーに参戦。大学卒業後もビーチバレーを続けることを決め、5年目のシーズンに突入。2019年は「FIVBビーチバレーボールワールドツアー 1-starテルアビブ大会」で金メダルに。今最も注目されている若手選手の一人である。




バレーボールのエリートじゃなくてもやれることを知ってほしい

バレーボールのエリートじゃなくてもやれることを知ってほしい

――ビーチバレーは大学に入ってからとのことですが、プロとして本格的にやっていこうと決めたのはいつ頃だったんですか。

大学4年生のときです。それまでがんばってはいたんですけどなかなか結果も出ず、このまま続けてもよいものか...と、周りが就活している中、悩んでもいました。私には何でも相談できる双子の弟がいるんですけど、そのときも彼に相談したら、「自分が本当にやり切ったと思えるならやめて違うかたちの幸せを探してもいいと思うけど、好きにプレーできる環境があって、応援してくれる人たちがたくさんいて、すごくいい環境にいるんだから勿体ない」って言われて。確かに、自分の中に勝てないことの悔しさと、まだまだやり切ってない消化不良な気持ちがあると思ったので、卒業しても続けていこうと決心しました。

――2019年は「マイナビジャパンビーチバレーボールツアー2019」の沖縄大会や東京大会、そしてファイナルのグランフロント大阪大会でも優勝するなど、たいへん活躍されました。ふりかえってみてどうですか?

今季はマイナビジャパンツアーでファイナルを含め3回優勝できて嬉しかったというのが率直な感想です。あと2019年は新しく年下パートナーの村上礼華選手と組んだシーズンでもありました。今までは先輩方と組んで勉強させていただいていましたが、これまで先輩に教えてもらったことを伝える立場になって、これまで考えなかったことを考えるようになりました。すごく勉強になったし、よりビーチバレーが好きになったシーズンだったと思います。

――11月の「FIVBビーチバレーボールワールドツアー 1-starテルアビブ大会」でも金メダルでしたよね。おめでとうございます。

ありがとうございます。1-star*ですがやっと優勝できて嬉しいです。

――Vリーグでプレーしてからビーチバレーに転向する、いわばバレーボールのエリート選手も多い中で、やっていこうと思えたのはビーチバレーが好き、という気持ちからでしょうか?

好きっていうのもありますけど、やっぱり勝ちたいっていう気持ちですね。「私も表彰台にのぼりたい」って。すごい負けず嫌いなんですよ(笑)。正直言うと大学1年生のときは学校と練習を両立する生活に疲れてしまって、あまり練習に身が入っていなかったんです。はじめて出場した公式戦も全然ダメで。でもそこで同級生が活躍しているのを見て、めちゃくちゃ悔しかった。同い年なのに足元にも及ばないレベルで。それで火がついて、卒業するまでに絶対この子たちに勝てるようになりたいって、そこからまじめに練習に取り組むようになりました。

――高校3年間のブランクがあって、大学で始めた頃は周りのレベルに全然追いついていないという状況から、ここまでやられているのはすごいなと思うんですけれど、その秘訣というか一体どんなことやられてきたんですか。

ビーチバレーを始めたときに、監督から日本で一番練習したら日本一になれるからって言われたんです。それを信じて練習してきたことですね。同世代の中では一番練習してる自信はあります。インドアでエリートじゃない私でもビーチバレーでここまでできるってことは、いろんな人に知っていただきたいです。

インドアでエリートじゃない私でもビーチバレーでここまでできるってことは、いろんな人に知っていただきたい


切り替えに大事なのは、次のプレーへの声かけと客観的な視点

――ビーチバレーの試合中はコーチや監督がベンチにいません。2人でどう考えて動くかっていうのは難しいと思うんですが、坂口選手が普段から心がけていることはなんですか。

パートナーとコミュニケーションがすごく大事なので、いかに話しやすい環境をつくるか、言い方、伝え方、捉え方、向き合い方などを常に考えています。コーチからは何があっても2人で乗り越えていかなきゃいけないから、練習メニューもスケジュールも全部自分たちで考えてやりなさい、と言われて最初は不安に思いました。

結果が全部教えてくれるよって言われて、きついなって。でも、そのおかげできちんと考えるようになりましたし、今何が大事で、何をやらなきゃいけないか、失敗してもいいから工夫しながらトライすること。トライ&エラーの繰り返しですね。よかった場合でもなぜよかったのかを後でふりかえります。

――試合中にミスが続いて、うまくいかない流れのときはどうやって切り替えますか。

パートナーとは「思ってることを正直に言おうね」って約束をしていて、例えば悪い流れにハマって何をすればいいかわからなくなってしまったときは、パートナーに「どうしたらいいかわかんない」と正直に言います。例えばどこに打っても決まらないときも、正直に話せば「今クロスにしか打ててないんで、一本だけストレートに打ってみてください」とか、状況を客観的に見てアドバイスしてくれます。もしどちらかに元気がなかったら、どちらかが助けるというスタンスです。切り替えに大事なのは、次のプレーへの声かけと客観的な視点を伝えることでしょうか。

――ビーチバレーは試合のテンポもはやくて、集中的に狙われるとキツそうです。

だから狙われてないほうが助けようっていう。2人しかいないので1人が倒れちゃうと、もう終わりなんですよね。私はパートナーは褒めて上げていくタイプです。試合中は褒めまくります(笑)。練習中はやるべきことができてないと、お互いにできてないって言い合いますけど。

――新しいパートナーが年下ということで、リードする立場として坂口選手がメインで練習メニュー考えるんですか。

そうですね。コーチからやったほうがいいと出された基本メニューはあるんですけど、そこから工夫したり、広げたり、繋げたりっていうのは私がやっています。すごく難しいです。

――フィジカルのトレーニングで気をつけていることはありますか?

フィジカルは専門のトレーナーがいるので、トレーナーに従うかたちでやっています。ウェイトトレーニングも重さを上げてバリバリやっていきたいんですけど、まだちょっとそこまでいけていなくて。今一番メインにしているのは、ケガをしない身体づくりです。まずはフォームの見直し、身体の使い方ですね。今シーズンは身体の使い方を教えてもらえただけで、全然動きが変わってきたので、オフから来シーズンにかけては、身体の使い方を覚え込ませた上でスピードとパワーをつけてくことが課題ですね。

今一番メインにしているのは、ケガをしない身体づくり


人に思いやりを持てるようになった

――憧れのプレイヤーや過去に影響を受けた人はいますか。

憧れのプレイヤーは、海外の選手でオーストラリアの一番手、マリアフェ・アルタチョ・デル・ソラール選手ですね。レシーバーなんですけどめちゃくちゃ動きが早くて、拾ってからのスパイクもパワーがある選手なんです。マリアフェ選手の試合はチェックしています。

――実際に対戦されたことは?

ないんですよ。この間の4-starの大会でも優勝していて、まだまだレベル的に追いついてないですが、いつか対戦してみたいです。影響を受けた人は、浦田聖子(元NECレッドロケッツ-レオパレス・ウィンズ)さんですね。インドアでもビーチでも活躍されていて、今はママさんをやっている先輩です。私がまだ大学生の頃ですが、試合に負けて泣いていたら、浦田さんに泣くのはまだ早いよって言われたんです。あ、私まだ泣くほどやってないなって、気づいてそこで涙がひきました(笑)

人に思いやりを持てるようになった

――これまでビーチバレーをやっていてよかったなと思う瞬間は?

試合に勝てたとか、そういった嬉しい瞬間はもちろんたくさんあるんですけど、やっていてよかったなと思うことは、人に対して思いやりを持てる人間になれるところですね。ビーチバレーは他者への思いやりがないと勝てないスポーツなので。ビーチバレーをやることでそのことが学べてよかったと思っています。

――それはパートナーに対してでしょうか。

そうですね。パートナーです。例えば、うまくいかないときに相手を責めるばかりだと潰れてしまいます。1人が潰れたら絶対に勝てないんですよ。それからもうひとつビーチバレーをやっていてよかったなと思うことは、ツアーで世界各地にいって、世界各地の美しい景色だとか、そういうものを見たり触れたりできることですね。

やっていてよかったなと思うことは、人に対して思いやりを持てる人間になれるところ


目標は東京、パリ、4-starや5-starの世界大会での表彰台

――世界中で試合が行われていて、移動も含めツアーは過酷だと思うんですけど、その中でどういうふうにコンディションを整えているのでしょうか。

やっぱり一番は睡眠ですね。飛行機の移動では眠ることを最優先しています。あとは身体を壊さないようにずっと気を張ってます。気合いです(笑)。食べものも、私は好き嫌いがあまりなくて、だいたいどこへ行っても食事で困ることはないんですけど、やっぱりバランスよく、たんぱく質、野菜中心の食事を心がけています。衛生面が心配な場合は、プロテインやサプリ、日本のゼリーを持って行きます。

――栄養管理も全部自分でやるんでしょうか。

そうですね。トレーナーさんが帯同してくれるわけじゃないので。

――飛行機のチケットや宿はどうするんですか?

全部自分で手配します。ビーチバレー選手は何でも自分たちでやるんですよ。格安チケットを取って行きます(笑)

――移動だけでも疲れるのに手配の何もかもをやる。その中でコンディションとメンタルをキープする、相当タフさが必要ですね。

めちゃくちゃ必要だと思います。控え選手がいるわけでもないので、1人が倒れてしまったら試合にも出られませんから体調管理の責任は重大です。シーズンが始まったら移動があって、時差があって、暑さがある。やっぱり疲れて、精神も肉体もぐちゃぐちゃになりそうなときもあるんです。だから、完全に落ち込んでしまう前に自分なりに落ち着かせる方法を持っていることも大事です。

――海外では言葉の問題もあるし、安全な国ばかりとは限らないので用心も必要ですよね。

言葉は難しいですね。英語は単語がわかるので単語を繋げて返したりできますけど、他の言語の場合はレストランとかでも指さしですね(笑)。治安の悪いところも多いので、夜は1人で出歩かない、外に出るときはなるべく2人で行くとか。事前に調べておいて、時間に余裕をもって行動することも学びましたね。もともとの性格的な部分で"なんとかなるっしょ精神"で生きてきたんですけど(笑)、それはよくない、そういうのもプレーに出るよってコーチに言われて。今は気をつけています。

――では最後に来シーズン含め今後の目標を教えてください。

2020年東京では自国開催での出場枠をかけた国内予選の大会が5月にあります。6チーム出場できるのですが、私たちが今ちょうど6番目で、そこさえ落とさなければ予選会には出られるので、まずそこを落とさないこと。少しでもポイントを縮めて、シーディング*に変化を与えたい。そこでやっぱり自国開催枠で優勝して、出たいっていうのがチームの目標です。個人的な目標としては、東京の後のパリオリンピックも出たいですし、4-starや5-starの世界大会で表彰台にあがることも目標にしています。がんばります。

――お忙しい中ありがとうございました。

充実したシーズンを終えて、次の目標に向かう坂口選手。2020年は2月からシーズンが始まり、5月にはオリンピック予選が行われます。会場に音楽が流れて、熱気と開放的な空気に包まれたビーチバレーの試合は、大声をあげて盛り上がるもよし、お酒を片手にのんびり観るもよし、思い思いに楽しめます。ぜひ会場に足を運んでみてください!

東京の後のパリオリンピックも出たいですし、4-starや5-starの世界大会で表彰台にあがることも目標にしています

*star:ワールド―ツアーのランク。1-star ~ 5-starまであり、1-starが一番ランクが低く上にあがるにつれてレベルが高くなる。獲得ポイントも高くなる。
*シーディング:トーナメントにシードを設定すること


※記事の情報は2020年1月7日時点のものです。

  • プロフィール画像 坂口佳穗さん ビーチバレーボール選手〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    坂口佳穗
    所属:マイナビ/KBSC
    生年月日:1996年3月25日
    出身地:宮崎県串間市
    学歴・経歴:武蔵野大学法学部政治学科卒
    身長:173センチ
    スポンサー:株式会社マイナビ、ダイキアクシス、アディダスジャパン、株式会社チッタエンタテイメント、ESS(Eye Safety Systems,Inc.)、BioreUVアスリズム
    父が少女バレーボールチームの監督をしていたことから、小学1年生~中学卒業まで9年間インドアバレーを経験。高校では一旦バレーから離れるが2013年10月父とビーチバレーの大会を観戦し、ビーチバレーの魅力にはまる。2014年大学入学とともに川崎ビーチスポーツクラブビーチバレーアカデミーに入校し、本格的にビーチバレーを始める。2018世界大学選手権日本代表。

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