100年に一度の改革期。社会に開かれた学校教育へ。【後編】

OCT 18, 2019

INTERVIEW 特定非営利活動法人「16歳の仕事塾」理事長 堀部伸二さん 100年に一度の改革期。社会に開かれた学校教育へ。【後編】

OCT 18, 2019

INTERVIEW 特定非営利活動法人「16歳の仕事塾」理事長 堀部伸二さん 100年に一度の改革期。社会に開かれた学校教育へ。【後編】 2022年から導入される高校生向けの新学習要領には、大きな柱として「社会に開かれた教育課程」と記載され、教育の現場が大きく変化しつつあります。「16歳の仕事塾」理事長 堀部伸二さんインタビュー【後編】では、今100年に一度の改革期と言われている学校教育についてお話をうかがいました。

担任制の見直しから廃止へ

――前編から続いて、学校においての担任制についてうかがいたいのですが、担任の先生によって、教室の雰囲気が大きく違いますよね。今回「16歳の仕事塾」のワークショップで、見学したクラスはとても賑やかで明るかったです。

本当にそうで、同じ学校でも教室によって全く雰囲気が違うのは担任の先生によるところが大きいんです。先日私がワークショップをやったクラスは賑やかだったでしょう。担任の先生が生徒と同じように座って、暖かい視線でにこやかに観ていたじゃないですか。あれすごくいいんですよ。笑顔で包んであげているので、生徒たちはなんとなく安心できるんです。生徒を一方的に上から押さえつける先生や、逆に生徒に全く無関心な先生は難しいですね。ワークショップの前に必ず先生とお話しさせていただきますが、それでどんなクラスなのかはだいたい分かります。それもあって、この担任制に見直しが入っている学校もあります。担任を決めない、学年の先生みんなで生徒一人一人を見るという学校もあるんです。

同じ学校でも教室によってまったく雰囲気が違うのは担任の先生によるところが大きいんです。
――自分が学生だった頃を思い返しても、クラス替えで嫌いな先生が担任になると毎日学校へ行くのが嫌になりました。

生徒や時には保護者までもが、今回は当たりだとか外れだと話すことがありますが、担任の先生によって当たり外れがあるとかいうのも、変な話なんですよね。

――先生の方も苦痛というか、負担が大きいですよね...?

そうなんですよ。お互いにとってよくない。担任制を廃止してみんなで一人一人を見ていこうというのは、生徒たちを学年の先生全員で見る、もしくは、先生たち何人かで3クラスを見る、6クラスを見るとかそういうイメージですね。先生も人間なので、誰しもがあるように、いい先生なんだけど、どうしてもこの子とは合わないっていう場合もあるんですよ。そんな子は合う先生に任せたほうがいいと思います。



明治以来100年に一度の改革期と言われる教育現場

――負担の分散はあったほうが良いのかなと思いました。そう考えると、「16歳の仕事塾」のように外部の大人が積極的に学校に入っていくのは良いことのように思えます。

でも10年前は全く違いましたよ。立ち上げ当初は国から助成金をもらったからやらなきゃ、とかたっぱしから学校に電話営業していました。でも反応はお粗末で、都立高校は予算が全くないので全然ダメ。私立高校の場合も進学するから不要ですって断られるのが8割、残り2割のうち半分は資料を送ってくださいで終わり、実際に話を聞いてもらえたり、ワークショップをやらせていただけたのは1割弱でした。電話もほとんどガチャ切りです。10年前は外部の人材が学校に入るなんてとんでもない、ありえないっていう風潮で、とにかく拒絶、拒否の嵐という感じでした。

明治以来100年に一度の改革期と言われる教育現場
――先生たちも望んでいなかったんですね。

先生側には、いわゆる「モンスターペアレンツ」と呼ばれる親御さんを筆頭に、学校に来る大人たちに対する恐怖心というか警戒心があったんだと思います。教育は自分たちのものだから乱されたくない、ある意味聖域のようなこだわりをお持ちの先生もいらっしゃるし、担任の先生は一国一城の主じゃないですけど、自分の意のままに生徒たちをコントロールしたいという方もいます。もちろんそうではない先生もいらっしゃいます。そのかたまりが学校だったんです。

だから当時は外部の大人が学校に入るなんてとんでもない、という風潮だった。そんな中でも、受け入れてくれる先生もポツポツ現れはじめて、平成25年度に東京都教育庁が「都立高校生の社会的・職業的自立支援教育プログラム事業」を立ち上げて、今では教育委員会が旗をふってやってくれているのもあって、がらっと流れが変わりましたね。

――高校では2022年から「社会に開かれた教育課程の実現」を掲げた新学習指導要領が始まりますが、学校教育の現場は今後ますます変わっていくのでしょうか。

教育は今まさに大きく変わろうとしているところで、明治以来100年に一度の改革期だと言われています。今までの教育っていうのは、画一的な一斉授業なんですよ。先生が教えて、ノートに書き写して覚える。生徒は同じ方向をむいて、同じ内容を同じペースで勉強して、先生はみんながどれだけできるかをテストする。それって同じ商品をどこかの工場で均一に品質を保つとか、そういう需要であればいいんだけど、今は多様性とか複雑性、創造力など、世の中が求めてることが全然違う。ですから今までの教育ではダメだということで、日本だけじゃなくて世界中で教育が見直されています。

先ほどお話したように担任制を廃止して一人一人をちゃんと見るというのもそうだし、勉強は家庭でやってから、学校で話し合いや答え合わせを行う、理解できなかったところを先生に教えてもらうなど、学習方法も時代に合わせて大きく変わりつつあります。



良くも悪くも一期一会だからこそのインパクトが大事

――これまで「16歳の仕事塾」を受講したことで、何かしら良い効果があったという例はありますか。

とある中退者が多い学校がありました。中退する生徒って8割強が高校1年生なんです。2年生になれる子は、友だちができたりして、学校の中に自分の居場所が見つけられる子たちなんですね。その学校には、私たちだけじゃなくて他の団体も入っていましたが、年に何回かワークショップを行いました。

行き始めて1年たった頃、中退する子がいなくなったと先生が喜んでいらっしゃいました。先生が言うには、見知らぬ大人たちがやってきて「いいね!それ面白いよ!」って褒められたのが嬉しかったんだと思いますと。うちの生徒は、誰かに褒められたり、認められた経験がなく、それがひょっこりやってきた大人に認められたことで、ここにいてもいいんだと思えるようになったのではないか、という話でした。キャリア教育といっても、いろんな意味や役割はあるんだけど、まずは最低でも高校を卒業してもらう。そこがスタートだと思っています。

良くも悪くも一期一会だからこそのインパクトが大事
――学校という閉鎖的な環境で、自分を認めてもらえないのは辛いですよね。先生では見きれない部分をカバーしているんですね。

そうだと思います。でも先生たちは毎日生徒に接していますが、私たちは良くも悪くも一期一会、ですから、ある意味、無責任さを伴います。ですがその瞬間だけの強みとかインパクト、影響力があるから、そういう意味ではイベント的でもある。旅行でも何でも今まで振り返ってみて印象に残っているのは非日常、イベント的なことが多いですよね。誰かにとって、そういうものになればいいなと思います。

今は学校ごとで学力のランク(偏差値)分けがハッキリしているので、勉強についていくのが難しい子が集まる学校は、ワークショップをしても何も反応してもらえないとか、しんどいときもあります。それでも「誰も見捨てない」という気持ちでやっていますし、生徒も一人の人間なので、子ども扱いもしません。



品質へのこだわり。見捨てないというポリシー

――「16歳の仕事塾」が活動する上でのこだわりやポリシーを教えてください。

私たちがミッションとして掲げているのは「啐啄(そったく)」です。「啐啄」というのは、雛が卵の殻をやぶるとき、雛が鳴いて内側からコンコンとたたくんですね。母鳥はそれを聞いて、外側からたたく。内側と外側で同時にやるんです。そんなイメージで、高校生が外へ一歩踏み出すときに社会がおいでよって迎えてあげられるような、そういう活動をしたいと考えています。

ワークショップポリシーとしては、品質を最も大事にしています。関わっているのが教育なので、丁寧さを心がけて、やみくもに活動エリアを拡大しようとは考えていません。例えば、お願いする社会人講師も「いい大人」を厳選しています。いい大人っていうのは、一所懸命に生きて、働いている、仕事や自分がやっていることに情熱を持って前向きな思考を持っている、そういう大人じゃないとダメなんです。心得という部分では、さっき言った「誰も見捨てない」こと、「子どもを子ども扱いしない」ことです。

――今後やりたいことや目標は?

今年ちょうど設立から10周年で、次の10年に向けて自分たちの立ち位置を再確認するための振返りをしています。ワークショップの前と後に生徒へのアンケートを集計すると、ワークショップ後は、「学校で学ぶことは社会や仕事の現場で役立つと思う」や「仕事は面白いものだ」「仕事は熱中できるものだ」といった項目が大きく伸びるんです。つまりそのような効果があったと言っていいと思います。

このようなことって学校の先生にはなかなか教えられないことなんですよ。私たちが行うキャリア教育の目的は、子どもたちが青年期から大人への発達段階で迎える職業的・社会的な自立を問題とする「トランジション」がスムーズに移行すること、また学校での学びが社会や仕事にどう生かされるのかの意義を問う「社会的レリバンス」といった面で、より良いサポートしていくことです。

そのために常に品質は高く保つこと、また自分たちの意図や思いが伝わっているかの効果測定もきちんと行います。10年前に私たちのワークショップを受けてくれた生徒を探してどんな効果があったかを検証するためのインタビューをしたいなとも思っています。

――では最後に、気になっていたのですが、冒頭でおっしゃっていた息子さんのお友だちは現在なにをされているんですか?

ロボットの開発をしているみたいですよ。進学した大学から介護ロボットなどの開発じゃないかと想像しています。

――それは素敵ですね。ショールームでの出来事はその少年の人生を変えたかもしれませんが、堀部さんご自身の人生を変えられたようにも思いました。時代によって変わっていくことはたくさんありますが、子どもたちが社会に出て行ったときに心のどこかに、「16歳の仕事塾」で学んだことが必ず残っている、と確信しました。


前編はこちら

取材協力:特定非営利活動法人 16歳の仕事塾

  • プロフィール画像 INTERVIEW 特定非営利活動法人「16歳の仕事塾」理事長 堀部伸二さん

    【PROFILE】

    堀部伸二(ほりべ・しんじ)
    日本キャリア教育学会員。第10期東京都生涯学習審議会審議委員。キャリアコンサルタント(国家資格)。CDA(Career Development Adviser)。JCDA(Japan Career Development Association)会員。青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラムeラーニング講師。
    ソニー株式会社デザインセンターCIグループ、広告宣伝部を経て、2006年デザイン・宣伝関係のH.B.コミュニケーションズ(株)を設立。2009年にNPO法人16歳の仕事塾を設立し、代表理事に就任。ソニー(株)で子供向け体験型科学館”Sony ExploraScience”を北京、台場に作った経験や、ロボット技術を紹介するイベント”ROBODEX”、本社ショールーム”Sony MediaWorld”の館長として大学生や高校生などを招待した経験が16歳の仕事塾設立のきっかけとなる。

公開日順に読む

人物名インデックス

最新の記事

記事分類

よく読まれている記事

タグ一覧

ページトップ