SDGsへの僕たちの想いを、 部活動を通じて大人たちに伝えたい

【連載】SDGsリレーインタビュー

浜松開誠館高校SDGs部〈インタビュー〉

SDGsへの僕たちの想いを、 部活動を通じて大人たちに伝えたい

出世城(しゅっせじょう)とも呼ばれた浜松城のすぐ近く、浜松市の中心地に位置する静岡県浜松市の中高一貫教育校 学校法人誠心学園 浜松開誠館中学校・高等学校。SDGsに積極的に取り組む浜松開誠館ですが、そこで中心的な役割を果たしているのが浜松開誠館高校SDGs部です。今回はSDGs部顧問の伊藤亮先生、影山晶一朗先生、そして部員のみなさんにお話をうかがいました。

飢餓をゼロに つくる責任つかう責任 気候変動 パートナーシップ



学校ぐるみでSDGsに取り組む浜松開誠館高校

2024年で創立100周年を迎える浜松開誠館中学校・高等学校は「誠心・敬愛」の校訓のもと、自立的学習者として、多様化する進路に対応できる「徳育教育」に力を注いでいます。2019年度からは徳育教育を進化させ、「SDGs(持続可能な開発目標)」を組み込んだプログラムを導入するなど学校ぐるみでSDGsに取り組んでおり、文部科学省 2020年度 SDGs達成の担い手育成(ESD)推進事業として金沢工業大学が募集する「SDGsイノベーション教育拠点校」にも選ばれています。


今回は浜松開誠館中学校・高等学校のSDGsへの取り組みにおいて、中心的な役割を担っているSDGs部の方々に、活動の内容や、それぞれの方々がSDGs部の活動を通じて目指していることなどをうかがいました。


学校法人誠心学園 浜松開誠館中学校・高等学校学校法人誠心学園 浜松開誠館中学校・高等学校



SDGs部ではテーマごとに分かれたグループで多彩な活動を実施

今回取材に応じてくださった浜松開誠館高校SDGs部SDGs部のみなさん今回取材に応じてくださった浜松開誠館高校SDGs部のみなさん
前列右:小杉太一さん(2年・部長)
前列左:山田裕翔さん(2年)
後列右端:浜松開誠館高校SDGs部顧問 伊藤亮先生
後列右側:松下倖大さん(2年)
後列左側:古川祐紀さん(2年)
後列左端:浜松開誠館高校SDGs推進課 影山晶一朗先生


――浜松開誠館中学校・高等学校について簡単にご紹介ください。


伊藤先生:本校は1924(大正13)年に誠心高等女学校として設立され、1998(平成10)年に浜松開誠館中学校・高等学校となりました。現在中学・高校と合わせて全校生徒は1,047名です。


浜松開誠館高校SDGs部顧問 伊藤亮先生浜松開誠館高校SDGs部顧問 伊藤亮先生


浜松開誠館は脱炭素を目指す「脱炭素チャレンジカップ2021」で環境大臣省・金賞を受賞浜松開誠館は脱炭素を目指す「脱炭素チャレンジカップ2021」で環境大臣省・金賞を受賞


影山先生:本校がSDGsに力を入れ始めたのは3年ほど前からで、「SDGs部」は創部2年目です。ボランティア部や英語部が合体してSDGs部となりました。部員は30名ほどですが、文化祭が終わって3年生が抜けたところなので今は14名です。ただ、先日本校で行われた「小中高全国気候サミット」で部員たちが頑張っている姿を見た1年生が興味を持ち、新たに入部希望者が集まり始めています。今日も2、3名の入部希望者が来ました。


浜松開誠館高校SDGs推進課 影山 晶一朗先生浜松開誠館高校SDGs推進課 影山 晶一朗先生


――SDGs部は日頃どんな活動をしているのですか。


小杉さん:普段は木曜日と金曜日に集まって活動しています。SDGsのいろいろな問題についてそれぞれグループがあり、グループごとにテーマを設けて討論をしたり様々な活動をしています。例えば食品ロスのチームだったら、JA(農業協同組合)の人たちに話を聞きに行ったり、食品ロスを考えるきっかけとして学校で畑を作って食料を作ろうという話になって校長先生に相談に行ったりしています。先日の「小中高全国気候サミット」のような大きなイベントがあるときはみんなで一緒にやっています。


小杉太一さん(2年・部長)小杉太一さん(2年・部長)


SDGs部活動の様子SDGs部活動の様子


――古川さんは、SDGs部でどんなことをしているのですか。


古川さん:食品ロスのグループに入っています。せっかく作ったものが食べられることなくそのままボンボン捨てられてしまうというのは、無駄だし、作った意味もないですし。世界中には飢餓で苦しんでいる人もいるので、作った食品はなんとか消費できるようになればいいなと思います。日本は特に食品ロスがとても多いので、例えば地産地消であったり、自分たちで食物を育ててみる、といったことを通じて僕たちで少しでも食品ロスを減らせないかと考えています。


古川祐紀さん(2年)古川祐紀さん(2年)


――山田さんはSDGs部でどんな活動をしているのですか。


山田さん:僕は中学生の時からボランティア活動が好きで、いろいろなところでゴミ拾いをしたり、外来種駆除などの活動にも興味を持っていました。ボランティア部がSDGs部になって「アップサイクル」*1という考え方があることを知り興味を持ちました。まだまだ使える中古品を捨てるのはもったいないので、なんとか循環させていきたい、そうしたことに関わることができればと思っています。


*1 アップサイクル:廃棄物や不要になったものに手を加えて、そのモノの価値を高めること。 例えばペットボトルをリサイクルして何か製品を作り出す場合は、ペットボトルを再生資源に分解するが、アップサイクルでは、不要品の素材・特徴をそのまま活かすところに大きな違いがある。


山田裕翔さん(2年)山田裕翔さん(2年)


――松下さんはSDGs部の活動でどんな点が良かったと思いますか。


松下さん:グローバル気候マーチは、(スウェーデンの環境活動家の)グレタ・トゥンベリさんが活動を起こした時に僕たちも一緒にやろうということでやりましたが、新聞やラジオにも取り上げてもらいました。先日の小中高全国気候サミットなど、今までいろいろな活動をして、ディスカッションもしてきて、自分としてはとてもいい経験になっています。


松下倖大さん(2年)松下倖大さん(2年)



SDGs部が関わる活動内容の5つの展開例

浜松開誠館SDGs部が関わっている活動内容を教えていただきました。


●グローバル気候マーチ


気候変動マーチ


伊藤先生:学校有志やSDGs部が全校に協力を呼びかけ、400名が気候変動や気候変動危機に関するプラカードを携えて、JR浜松駅から浜松市役所までの約1.5kmの道を行進し、浜松市長に提言書を手渡しました。コロナ禍でマーチができなかった期間にはオンラインでマーチを開催しました。オンラインマーチでは気候危機を訴える生徒のメッセージを一本の動画にしたものでYouTubeに公開しました。小泉進次郎前環境大臣にも一言メッセージをお願いしたところ、ご多忙の中、快く引き受けてくださいました。


▼浜松開誠館オンライン気候マーチ9.25



●売上の一部を開発途上国の子どもたちの学校給食支援に役立てる寄付型自販機の設置


売上の一部を開発途上国の子どもたちの学校給食支援に役立てる寄付型自販機の設置


伊藤先生:この自動販売機は、飲み物を購入するとその一部が開発途上国の子どもたちの給食費として寄付される仕組みになっています。これも社会課題を調べる授業で飢餓問題を学んだ生徒たちが「私たちで何かできることはないか」と調べ始め、「TABLE FOR TWO」という団体を通じて寄付が行える自販機が設置できることが分かったので、学内に自販機を設置していたコカ・コーラさんに提案して実現しました。


TABLE FOR TWO|アフリカ・アジアの子どもたちに給食を 公式サイト



●マイボトル運動


影山先生:本校には自販機があるのでいつでもペットボトル飲料が買えますが、やはり必要以上にペットボトルを消費すると廃プラスチックが出てしまい、マイクロプラスチックの原因にもなってきます。ですから、本校では「必要以上のプラスチックの消費をやめよう」というシンボルとしてマイボトルを持ち歩く運動を展開しています。ボトルデザインは全校生徒の公募と投票により決定し、校内には各フロアにウオーターサーバーが設置してあります。


マイボトル運動


生徒からの公募でデザインされた浜松開誠館のマイボトル生徒からの公募でデザインされた浜松開誠館のマイボトル



●アップサイクルの制服回収


アップサイクルの制服回収


影山先生:これはSDGs部の生徒が発案したんですが、卒業で不要になった制服やジャージなどを卒業式の帰りに卒業生に寄付してもらって、それを車の内装材などにアップサイクルする試みです。そのため学校には卒業生が私服で帰ることを許可してもらいました。



●フェアトレード啓発運動


フェアトレード啓発運動


影山先生:フェアトレード*2についてより多くの方に知ってもらい、多くの方に購買行動を起こしてもらうため、文化祭や「はままつグローバルフェア」などにブースを出展し、地元のフェアトレードショップの商品などを紹介して啓発活動をしています。


*2 フェアトレード:発展途上国の農産物や雑貨などを、適正な値段で継続的に輸入、消費すること。児童労働や社会的弱者、環境を守る取り組みとして知られる。


小杉さん:そのほかにも「STOP温暖化若者会議2021」「Energy Pitch!」などにも取り組んでいます。日頃の活動についてはSNSを活用して発信しています。ぜひ浜松開誠館高校SDGs部のページをご覧いただきたいと思います。


浜松開誠館中学・高等学校【公式Twitter】


浜松開誠館中学校・高等学校【公式instagram】


浜松開誠館 SDGs部【公式Facebook】




自分たちの世代、そして次の世代のためにもSDGsの考え方を広めていきたい

――浜松開誠館高校SDGs部が多岐にわたる活動をしていることがよく分かりました。部員のみなさんがSDGs部の活動を通じて、得たもの、感じたことがあれば教えてください。


小杉さん:学校で勉強するだけでなく、SDGs部を通じていろいろな大人の人たちと関わる機会がとても多いので、ここでの経験は、SDGs部でなければ得られない大切なものだと思っていますし、これからの人生に直結してくるだろうと感じています。SDGsには17個の目標がありますが、達成目標とされている2030年までに9年しかありませんから、このままで本当に大丈夫なのかなと思っています。2030年のSDGs、さらに2050年のカーボンニュートラルは、それこそ僕たちが社会に出て一番働いている時期です。ですから僕たちの世代、そしてその次の世代、もちろんそこで終わりではないので、今のうちからSDGsの考え方をできるだけ多くの人に広めていきたいと思います。


学校で勉強するだけでなく、SDGs部を通じていろいろな大人の人たちと関わる機会がとても多い


松下さん:個人的な話になりますが、僕は将来医療関係の仕事に就きたいと思っているので、SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」を重視しています。日本は医療技術が整っていて、自分たちはとても恵まれた環境で生きていると思いますが、発展途上国などの方々はまだまだ十分な医療を受けられていないことが多く、将来そういった方々にも貢献できる医療の進歩に貢献したいと思っています。


古川さん:僕は特に地球温暖化、気候変動問題に対して危機感を持っています。というのも、実は去年浜松が夏の最高気温を記録したんです。本当に暑くて死にそうになりました。本校には運動部の人がたくさんいるので、この夏の暑さは本当に大変だったと思います。このままいくと浜松だけじゃなくて、他の地域もどんどん最高気温を更新するんだろうと思いました。気候変動問題に関しては政府や国でもいろいろな動きが出てきてはいますが、まだまだ危機感がないように見える国会議員さんもいると感じますので、僕たち子どもがもっと声を上げて、国を動かす方々に想いを伝えていかなければならないと思っています。


学校で勉強するだけでなく、SDGs部を通じていろいろな大人の人たちと関わる機会がとても多い


山田さん:最初、ボランティア部にいた頃はボランティア活動のことだけを考えていました。それがSDGs部に変わってゴミ問題の本質にはSDGsの目標12の「つくる責任使う責任」があるということを知り、視野が広がりました。それがとても良かったと思います。もちろんボランティア活動に関してはこれからも続けていきたいなと思っていますし、特に災害ボランティアで人助けをしたいという気持ちは強いです。コロナ禍で行けませんでしたが、先日の熱海の土石流災害現場にも駆けつけたかったです。




SDGsは生徒が成長するためのツールでもある

――最後に、SDGs部を指導されている先生方のお気持ちをお聞かせください。


伊藤先生:私たちはSDGs部という名前ではありますが、今の時代、どうしてもSDGsという言葉自体が先行してしまっている印象があります。でも、実はそこで挙げられている課題自体は以前からずっとあったものなんです。ですからSDGsという言葉に必要以上にとらわれることなく、問題の本質を見てほしいと思っています。


またSDGsは、2030年までに解決しなければいけないゴールだと言われていますが、恐らく2030年を超えても残る問題も多いと思いますので、問題をさらに深掘りし長い目で課題解決に取り組んでいけるように、生徒たちを指導していきたいと考えています。


影山先生


影山先生:SDGsは政治的なアクションに見える面もありますが、我々教師としては、生徒たちが成長するためのツールと捉えています。そしてSDGsを通して見えてくる具体的な課題に対して、生徒たちが自らそこにアプローチできる、影響を与えられる、ということを感じてほしいと思います。


例えば、生徒にはまだ選挙権はありませんが、フェアトレード商品を買うことで、児童労働を助長する動きを止めようというアクションができるわけです。またSDGs部の活動として各政党にアンケートを送って「SDGsをどう考えていますか」と問うこともできます。そして、その回答をサミットのような場で公開し「ちょっと具体性がないんじゃないでしょうか」とか「ここをもうちょっと考えてほしいです」などといったコメントを出すことで、自分たちの意見を発信することもできます。


自分たちだけでは解決できない問題であれば、どうやって仲間を集めるのか。どうやって国のリーダーたちを動かすのか。そういった課題解決能力をSDGsの課題に向き合うことで身に付けてもらったらいいなと思っています。


とはいえ、我々も高校の教師であって決して社会問題の専門家ではありませんから、確固たる答えを持っているわけではありません。生徒たちと一緒に考え、ディスカッションしながら、我々も一緒に学んでいきたいと思っています。


我々も一緒に学んでいきたいと思っています



部活動のお忙しい中、取材時間を取っていただきありがとうございました。みなさんが考えていること、そして浜松開誠館SDGs部の活動について、より多くの方に知っていただけるよう、私たちも頑張ります。


浜松開誠館中学校・高等学校


※記事の情報は2021年11月30日時点のものです。

  • プロフィール画像 浜松開誠館高校SDGs部〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    浜松開誠館中学校・高等学校(はままつかいせいかん)
    「誠心・敬愛」の校訓のもと、自立的学習者として、多様化する進路に対応できる「徳育教育」に力を注いでいる。
    2019年度からは徳育教育を進化させ、「SDGs(持続可能な開発目標)」を組み込んだプログラムを導入するなど学校ぐるみでSDGsに取り組んでおり、文部科学省 2020年度 SDGs達成の担い手育成(ESD)推進事業として金沢工業大学が募集する「SDGsイノベーション教育拠点校」にも選ばれた。
    https://www.kaiseikan.ed.jp/

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