モノを捨てる「ミニマリスト」から、住まいを捨てる「アドレスホッパー」へ

JUN 9, 2020

よしかわけいすけさん 高校教師・アドレスホッパー〈インタビュー〉 モノを捨てる「ミニマリスト」から、住まいを捨てる「アドレスホッパー」へ

JUN 9, 2020

よしかわけいすけさん 高校教師・アドレスホッパー〈インタビュー〉 モノを捨てる「ミニマリスト」から、住まいを捨てる「アドレスホッパー」へ 「アドレスホッパー」という言葉、ご存じでしょうか。アドレスホッパーとは特定の場所に定住せず「アドレス=住む場所」を「ホッピング=飛び歩く」する人のこと。常に移動し続ける革新的なライフスタイルです。今回お話をうかがうのは「高校教師、住まいを捨てる。」(河出書房新社)という本を上梓された、よしかわけいすけさん。インタビュー【前編】では、なぜアドレスホッパーになったのか、そこにはどんな創造性があるのか、についておうかがいしました。

アドレスホッパーとは、移動し続けるライフスタイル

――よしかわさんは、アドレスホッパーとして書籍も出版されていますが、まず「アドレスホッパー」の定義があったら教えていただけますか。

1カ所に定住せず、居住地を転々と変える人のことをアドレスホッパーと言います。1カ所に留まる期間は人それぞれで、僕自身、日単位で宿を変えることもありますし、長い時には3、4カ月とか同じ場所にいることもあります。移動範囲にしても1カ月で1カ国ずつ国境を越えて移動する方もいれば、日本国内を回っている方もいます。

僕の場合は3月までは金沢市内の私立高校に勤務していたので、基本は金沢の市内で移動し、週末や夏休みや冬休みなどのまとまった休みの時には、海外を含めた遠隔地へと移動していました。そのようにアドレスホッパーといってもスタイルは人によって様々ですね。


高校教師、住まいを捨てる。

よしかわけいすけ (著)
出版社: 河出書房新社



よしかわけいすけさん


――よしかわさんは、どうしてアドレスホッパーになったのですか。


きっかけは、ミニマリストになったことでした。持ち物をどんどん減らすのに凝って、気がついたら、その時住んでいた16畳のアパートの実質2畳ぐらいしか使っていなかったんです(笑)。これだったら別に、アパートを借りてなくてもいいんじゃないかなって思って、1回手放してみようと思ったのがきっかけでした。

それで、試しに3日間ほど近くのゲストハウスで実際に生活してみたんですね。そしたら何の不便もなかったし、むしろ掃除もしてくれる、コーヒーや朝ごはんもある! 絶対こっちの方がいいって思って、すぐにアパートを解約してアドレスホッパーになりました。それからはずっとこういう暮らしになっています。



「ミニマリスト」の延長としての「アドレスホッパー」

――ミニマリストになったきっかけは?

もともと僕は物欲が強くて、部屋に物がたくさんあるタイプでした。当時は実家でしたが、サッカーが好きなので、壁にサッカーのユニホームを飾ったり、本好きでもあったので壁一面本棚みたいな感じにしたり。服も何年も着ていない服がクローゼットにたくさんあって捨てられない、という状況でした。

そんな状態で高校の英語科の先生として仕事を始めたんですが、先生の仕事が結構大変で、くたくたになって家に帰ってくると汚い部屋が待っている、という状態が辛かった。しかもそれを掃除しなくちゃいけない、というのが嫌になったので、いっそのこと物を1回全部手放してしまおうと思ったのがきっかけでした。

――それで、一気に部屋の物を捨てられたのですか。

いえ(笑)。いきなりすっぱり捨てられたわけではなくて、ここまで来るのに4年かかってます。
まず最初にやめたのは財布。当時財布だけでも5、6個持っていたんですが、出かける時にいつも財布が邪魔だなと思っていました。ちょうどマネークリップというものを知ったので、お金とカードを挟んで使うようになりました。今もお金はこうやってマネークリップで挟んでいるだけです。たいていキャッシュレスで済ませるので、全然不便はないですね。

今もお金はこうやってマネークリップで挟んでいるだけです。


その後、部屋にあった本を整理していって、服も処分して、集めていたサッカーのユニホームも売って、クルマも処分し、その頃すでに一人暮らしをしていたのですが冷蔵庫や電子レンジも処分して、と物をどんどん減らしていきました。

そして今は徹底的にミニマルで、カバンに入る程度の物しか持っていません。

現在のよしかわけいすけさんの持ち物
現在のよしかわけいすけさんの持ち物


――ミニマリストになって良かった点はどんなところですか。


物が減ってみると、今までいかに物に振り回されていたのかがよくわかります。例えば部屋にテレビがあると、帰ったらスイッチを入れちゃう。それで3、4時間とられてしまいます。冷蔵庫があると食品をパンパンに入れてしまう。結局腐らせてしまうんですけどね。お皿もいっぱいあるといろいろ使って、後で洗うのが嫌になってためちゃったり。そういうところが僕にはありました。その時間と労力がなくなって、とても快適になりました。


この3月末で僕は転職をして金沢から東京に引っ越してきました。僕の引っ越しはスーツケースとサブバッグ、あとはいつものカバンと、絵が好きなので購入した絵。これを持って新幹線で移動するだけでした。同じように東京に引っ越した友人に話を聞くと「引っ越し費用が10万円かかった」という話を聞いたので、やっぱり物があるのは大変だなと思いました。

よしかわさんの引っ越しは新幹線移動。荷物はこれだけ。
よしかわさんの引っ越しは新幹線移動。荷物はこれだけ



アドレスホッパーは、時間とお金と人との出会いが増える

――よしかわさんは持ち物を最小限にして住まいも手放したわけですね。定住場所がないことで、不自由や不便を感じたことはありませんか。

よく聞かれるんですけど、本当にないんですよ。

――免許証などに記載する、いわゆる「住所」はどうしているのですか。

最初は実家を住所にしていました。その後は住所が置けるゲストハウスがあるので、そういうところに置いて住所ごとホッピングしています。よくネットで「アドレスホッパーは住民税を払っていない」と言われることがあるんですけど、住民税はもちろん払ってます。ほかのアドレスホッパーの人も、かえってそのあたりはしっかりしていて、僕が知っている限り、みなさん住所は持っていると思います。

――帰巣本能というか、いつも同じ場所に帰りたいという欲求はありませんか。

そういう部分は僕の場合、職場の学校でした。それに金沢生まれ金沢育ちだったので、金沢でアドレスホッパーをやっていた時は、街自体が自分の家、という感覚でした。

金沢でアドレスホッパーをやっていた時は、街自体が自分の家、という感覚でした。


――アドレスホッパーになって良かった点はどんなところですか。


これも良かったことだらけなんですが、ざっくり言うと、時間とお金と人との出会いがすごく増えると思います。

まず経済面ですが、たいていの場合、ゲストハウスの料金には水道・光熱費はもちろん、小物や日用品、コーヒー代などが全部込みなので、ゲストハウスにいるとほとんど他にお金を使わないんですよ。

それから時間に関しても、普通なら職場から家に帰ってきたら掃除をしたり、足りない物を買い出しに行く必要がありますが、ゲストハウスでは掃除をしてもらえるし、日用品も補充してくれるので買い物に行く必要がありません。ですから帰宅したら自分の時間をフルにやりたいことに使えます。

人との出会いに関しても、ゲストハウスの9割以上は旅行者で、みんな旅が好きな人たちなので話せば盛り上がるし、外国人の旅行者とは英語でしゃべるじゃないですか。そうすると自分の英語力にもつながります。僕は英語の教師なので、それも狙いのひとつでした。さらにゲストハウスにはバーやカフェが併設されているところがあって、そういうところは結構地元の方も集まるんです。アドレスホッパーは積極的にそういうところに泊まる人が多くて、そのコミュニティにダイブしてしまうみたいな感じで飛び込んでいきます。あと、最近ではアドレスホッパーも増えてきて、「あ、自分もアドレスホッパーです」って話しかけられることもあります。

――アドレスホッパーになって、世の中の見え方は変わりましたか。

変わったと思います。私は教員ですが、よく「先生は学校のことしか知らない」と言われます。それってある意味それは当たっている面もあると思うんです。でも僕の場合は、毎日ゲストハウスで世界中の人たちと情報交換ができますし、アドレスホッピングを通じて知り合った方の会社で副業もさせていただきました。さらにご縁があってアドレスホッパーとして本を出版できたりと、普通の教員だったら多分経験できないことが経験でき、視野がずいぶん広がったと思います。


※記事の情報は2020年6月9日時点のものです。


【後編】に続く


取材協力
ネイバーズ立川

ソーシャルアパートメント運営会社
株式会社グローバルエージェンツ

  • プロフィール画像 よしかわけいすけさん 高校教師・アドレスホッパー〈インタビュー〉

    【PROFILE】

    よしかわけいすけ
    1993年、石川県金沢市生まれ。高校教師/ミニマリスト/アドレスホッパー。2015年に金沢大学 学校教育学類卒業後、金沢市内の私立高校で英語教師として赴任。2019年より教員として働く傍ら、ITベンチャーで新規事業チームに所属し、2020年からは東京の私立高校に拠点を移す。著書「高校教師、住まいを捨てる。」(河出書房新社)

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