暮らし
2020.06.16
よしかわけいすけさん 高校教師・アドレスホッパー〈インタビュー〉
ITで教育現場を革新し、質の高い教育ができる環境を整えたい
「高校教師、住まいを捨てる。」(河出書房新社)の著書、よしかわけいすけさんは、アドレスホッパーであると同時に英語高校教師でもあります。よしかわさんはなぜ教育者を目指したのか、アドレスホッパーであることは、教育にどんなプラスがあるのか。よしかわけいすけさんのインタビュー【後編】では、アドレスホッピングと教育の関係についてお話をうかがいます。
勉強の楽しさを伝えたくて教師になった
――インタビュー【後編】ではよしかわさんの教育者の側面についておうかがいします。どうして教員を目指されたのですか。
ひとつには父が教員だったのもありますが、僕は学生時代勉強が大好きで、高校生の時は部活もやらずに、まるでゲームで強い敵を倒すような感じで難しい問題を解くみたいな感じで、本当に勉強にハマっていました。でもまわりの友だちを見ると、みんな「勉強が辛い」「勉強が嫌い」などと言ってました。それが僕にはわからなくて、勉強の面白さを先生になって多くの人に伝えられたらいいなと思ったのがきっかけです。
――高校の先生は単に授業をするだけではなく、生き方というか、考え方のような全人格的な影響を生徒に与えますよね。そのあたりにもやりがいがあるのでしょうか。
生徒たちと話していて強く思うのは、普段子どもたちが話をする大人って、親以外は学校の先生しかいないんですよね。ですから生徒に与える先生の影響は本当に大きいんです。僕はそこにも大きなやりがいを感じています。
――アドレスホッパーであることは、教育者としてメリットがあるのでしょうか。
メリットは大きいと思っています。普通の教員なら、普段その教員が関わっているのは家族と校内の教員たちがほとんどだと思うのですが、僕はアドレスホッピングをしていることで毎日いろんな人に出会えます。そこにはいろんな価値観があるので自分自身の価値観もどんどん広げていくことができます。僕にとってアドレスホッパーであることが教育活動に与える影響は大きいと思います。
――よしかわさんにとって「アドレスホッパー」と「教育者」ではどちらの比重が高いのですか。
僕の基本は教育者です。アドレスホッパーはより良い教育活動を行うための手段だと思っています。
高校教師、住まいを捨てる。
よしかわけいすけ (著)
出版社: 河出書房新社
ITを駆使して教育現場を革新し、より質の高い教育を行いたい
――よしかわさんは、2020年4月から東京の学校に転職して生活拠点も東京に移したそうですが、新しい学校ではどんなことをするつもりですか。(本取材は2020年3月に行われました)
4月から東京の私立高校の教師をすることになり、拠点も東京に移りました。転職した理由は、より多くの学校の教育改革に携わりたいと思ったからです。1つの学校の中でどれだけ頑張っても、良くなるのは自分の担当のクラス、あるいはその学校だけです。新しい学校は全国に複数の校舎がありますので、その全ての校舎の改善に関わりたいです。
――その「改善」とはどういうことでしょうか。
一言でいうと、学校教育のIT化みたいなことです。僕はミニマリストなので、授業や学校の業務改善にすごく興味があります。今、学校という職場って、ブラックだ、大変な仕事だと言われてますよね。でもそれって業務改善の余地がすごくあると思うんです。金沢の学校では、僕は徹底的に業務改善をして毎日定時に帰っていました。仕組みを作ればどの教員でも同じことができると思います。
――具体的にはどんな改善をしたのですか。
例えば前の学校の教室では最初、普通に黒板にチョークで教科書の文章をそのまま書いていました。でもプロジェクターを使えばすぐ映せますよね。それでプロジェクターを導入したり、生徒に一人一台iPadを使えるように推進していきました。それで前職の学校が割と良くなったところが見えたので、これをもっと多くの学校に広めていきたいと思っています。
――先生の仕事の業務が改善されると労働環境が良くなるだけでなく、教える内容の質も向上しますよね。
そうなんです。学校っていろんなものがとてもごちゃごちゃしているんですよ。それを整理し、効率化することで教師の作業時間を減らすことができます。例えば放課後3時間残って仕事をしているのが1時間になったら、残りの2時間は生徒との時間や授業をより良くすることに使えます。それって結局生徒のためになるなって思うんです。
今後もアドレスホッパーでありながら、教師でもありたい
――よしかわさんが今まで先生をやってきて、良かったと思うのはどんなところですか。
もともと僕が先生になったのは、子どもたちが勉強好きになるようにしてあげたいと思ったのがきっかけでした。でも今はそこがもっと広がって「やりたいことが見つからない」と言っていた子が夢中になれることを見つけたり、熱中できる何かを見つける手伝いができるようになってきました。そこが楽しいです。
高校生って大人と違って短時間で急に変化するんですよ。例えば学校でアドレスホッパーで旅に出た話を生徒に熱く語ると、それまで海外に全然興味を持っていなかった子が急に「海外に留学したいです」って言い出して、本当に留学した子もいます。そんな子どもたちの変化を見るのが楽しいし、一番やりがいを感じます。
――Aktio Noteは「創造」と「革新」をテーマとしているのですが、今日の取材で定住するより移動し続けるほうが、はるかにクリエイティビティが高まるように思いました。
「クリエイティブ」という言葉からはデザイナーやアーティストをイメージしますが、自分は教師ですけど、移動することで創造性は高まりますし、それが自分の仕事ややりたいことに生かせていると感じています。
――よしかわさんは、今後もアドレスホッパーとして移動を続けていくのでしょうか。
そうですね、1つの場所にいる期間は以前より長くはなるかもしれませんが、全国に校舎がありますので、経験のためにいろいろな地で先生として働いてみたいなとは思っています。
――ありがとうございました。
ムダを徹底的に省いて本質を見つめ、創造的な時間を持とうとする「アドレスホッパー」と、ITで教育現場の効率化を進める「高校教師」。相反する2つの顔を持っているようにも見えるよしかわけいすけさんですが、その根底には古い考え方を革新し、より自由で効率の高い生き方を実践し、それを伝えていくという意志を感じました。これからのご活躍を心から期待したいと思います。
取材協力
ネイバーズ立川
ソーシャルアパートメント運営会社
株式会社グローバルエージェンツ
※記事の情報は2020年6月16日時点のものです。
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【PROFILE】
よしかわけいすけ
1993年、石川県金沢市生まれ。高校教師/ミニマリスト/アドレスホッパー。2015年に金沢大学 学校教育学類卒業後、金沢市内の私立高校で英語教師として赴任。2019年より教員として働く傍ら、ITベンチャーで新規事業チームに所属し、2020年からは東京の私立高校に拠点を移す。著書「高校教師、住まいを捨てる。」(河出書房新社)
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