【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る
2022.05.17
小田かなえ
あっちにもこっちにも遊び盛りの先輩たち!
人生100年時代、「あなた」はどう変わるのか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。2021年9月時点で100歳以上のお年寄りは8万6,000人を超えました。自分に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。各世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。
ネコと語り合う縁側も居心地は良いけれど
はじめに...... 今これを読んでくださっているアナタはお幾つ? 20代? 30代?
もし40代だったら既に「初老」を過ぎているということ。なぜなら「還暦(かんれき)」や「古希(こき)」といった長寿祝いの節目で最初に迎えるのが40歳の「初老」だから。
現在の感覚にはまるで合わないので知らない人のほうが多い気もするが、昭和前半まで普通に使われていた。
「40歳ぐらいの『初老』とおぼしきご婦人が......」
「我々も今年は『不惑(ふわく)』を迎えて老人の仲間入り......」
40歳は「不惑」とも言い、論語によれば心の迷いを無くさなければいけない年齢なのである。
続いて50歳は「中老(ちゅうろう)」。別名は「知命(ちめい)」で、論語曰く自分に与えられた天命を知るべき年齢とのこと。
しかし現代、特にここ数年は既存の価値観がガラリと変わり、論語に学ぶのが正解なのか否か分からない。「40歳にして迷わず50歳で天命を知る」と言われたって、何を知るべきか60代の私でさえ迷ってしまう。
ま、そういった難しい話は横に置いといて。
都心へ向かう私鉄の車内で周囲をぐるりと見回せば、未だに60代の自分より年長の人がたくさんいることに気付く。
都内のホテルやショッピングセンター、映画館、美術館に博物館、コンサートホール等、どこへ行っても高齢の方々を見かけるのだ。
流行りのレストランでは、ドレスアップしたシニア女性たちがワイングラス片手に女子会ディナーを楽しんでいたりもする。
少し前の時代だったら、皆さんネコと一緒に縁側で日向ぼっこしていても不思議はないお年頃じゃなかろうか? 40歳で老人の仲間入りをするなら、60歳を超えた頃には縁側とネコが似合うようになって当たり前だもの。
しかし今は「卒寿(そつじゅ・90歳)」を過ぎても海外旅行ができる時代になった。それは、お年寄りが元気だからということもあるが、バリアフリー化など社会全体が進歩したためでもある。
結果、自宅で愛猫とのんびり語り合っているお年寄りも、気が向けば馴染みの仲間を誘って好きなところへ遊びに出られるようになった。そして存分に楽しんだら、また愛猫の待つ縁側に帰ればよいのだ。まさに理想的な老後と言える。
とはいえ、高級レストランや海外旅行はハードルが高過ぎると感じる人たちも多い。健康に自信がなかったり、私のように懐具合に自信がなかったり......ね。
でも大丈夫! 全国各地には、そういう庶民的な高齢者が気軽に集まれるスポットもたくさん存在している。
例えば都内で真っ先に挙げるなら巣鴨の「地蔵通り商店街」だろう。高級レストランとは違い、普段着で行ける場所だ。
山手線の巣鴨駅から徒歩数分のその商店街は「江戸六地蔵尊」眞性寺(しんしょうじ)と「巣鴨庚申塚(すがもこうしんづか)」を結んでいて、真ん中には「とげぬき地蔵尊」で有名な高岩寺(こうがんじ)がある。
ここ2年ほどはコロナ禍で人出も減っているようだが、それ以前は高岩寺の縁日と休日が重なる日になると10万人もの参拝客が訪れていた。
中高年向きの洋服屋さんが多いこともあって、昭和の終わり頃から「お婆ちゃんの原宿」と呼ばれるようになり、今も同じ名称で親しまれている。
私の巣鴨デビューと、お店のビジネスチャンス
私自身の巣鴨デビューは40歳だった。生まれ育った町が近かったため「巣鴨のお地蔵さん」には子どもの頃から何度も行っているのだが、中高年としての自覚(?)を持ち、同学年の友人たちを誘って「お婆ちゃんの原宿」にデビューしたのが40歳。偶然にもちょうど「初老」を迎えた年である。
各店舗の店先には縁起物の真っ赤な下着が並び、推定年齢60~70歳の店員さんたちが話しかけてくる。
「奥さん奥さん、うちのパンツは日本製で色が出ないから洗濯機で洗えるのよォ」
「ワンポイントでかわいい干支が刺しゅうしてあるから見てって!」
私たちは赤いパンツこそ買わなかったが、店先に並ぶ安い服に釣られて中に入り、店員さんそっちのけでお互いに「これが似合うわよ、あれも似合うわよ」とオススメし合い、試着してはさらに褒め合う。それを店舗ごとにやったものだから、気がつけばみんな両手いっぱいに袋をぶら下げていた。
同じようなことはバス旅行でも起きる。
自宅の最寄り駅から送迎バスが出る旅行は高齢者に人気で、日帰りのグルメツアーや1泊の温泉旅行など、コロナ禍以前は老人会のイベントにもよく使われていた。
旅行費用が安いため、帰路に組み込まれている土産物店ではついアレコレ買ってしまう。誰かが買えば自分も買い、自分が買えば誰かにすすめる。私も友人に誘われて何度かバスツアーに参加したが、わざわざ買わなくてよいものまで欲しくなるのが不思議だった。
うがった見方をすれば、巷にオバさん向けのサービスが増えるのは、もしかするとコレが原因じゃなかろうか。もともと女性は群れる生き物だが、歳を重ねた女性たちはあらゆる娯楽を友だちと分かち合いたがるのだ。
「○○温泉に行きたいわ」
「あらいいわね、みんなで行きましょ!」
「○○のランチがおいしいんだって」
「アタシも食べたいな」
「アタシも食べてみたい、いつにしようか?」
「そのジャケットいいわね、欲しいなぁ」
「これは○○屋で買ったのよ、一緒に行く?」
「うん、みんなも行かない?」
「行く!」
「もちろん行く!」
まるで女子中学生のノリである。
女性たちも大人になればあまり群れたりはしない。それぞれ社会人として、あるいは主婦として忙しく、連れ立ってトイレに行く暇なんかなくなる。
だが各々の仕事を卒業すれば、大半の女子は友だちが恋しくなるのだ。そして旧友との友情を復活させたり、新しい友だちをつくったりして「みんな一緒、みんな同じ」という少女のような心地良さに再びひたるというわけ。
企業はとっくに知っているはずだが、そこにビジネスチャンスがある!
おひとりさまブームとは真逆に、例えばバスツアーに単身で参加する人は男女問わず少なく、やはり賑やかな女性グループが多いのだ。つまり高齢女性をひとり顧客にすれば、あとは芋づる式にお友だちがついてくる......、なんていうのは大袈裟か?
とにかく個人的見解として中高年の女性をターゲットにしたサービスが増えるのは大歓迎なので、是非とも「群れるお婆ちゃん」の存在をビジネスチャンスと捉え、さまざまなお得プランを考え出していただきたいものだ。
※記事の情報は2022年5月17日時点のものです。
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【PROFILE】
小田かなえ(おだ・かなえ)
日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。
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