【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る
2022.10.25
小田かなえ
皆さんに問う!「あなたはお化粧をしていますか? 」
人生100年時代、「あなた」はどう変わるのか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。2022年9月時点で100歳以上のお年寄りは9万人を超えました。自分に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。各世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。
男性と化粧の歴史、そしてクレオパトラ
今回はメイクのお話......と書くと「自分には関係ない」なんて思う殿方が多いかも。しかし大手化粧品会社が20~30代の男性会社員にアンケート調査を行ったところ、85%強が「メイクに興味あり」と答えたそうだ。
メンズメイクは主に美しさを追求するというより(中には美しさを追求する男性もいますが)、肌を紫外線から守りつつ健康的に見せるとか、目ヂカラを強くして信頼感を高めるとか、主にビジネスの現場で印象を良くするための手段という考え方のようだ。
「へぇ、時代が変わったんだなぁ、最近の若いモンは男も化粧するのか」と驚いた方々もいらっしゃるだろうが、ちょっとお待ちあれ。
「男は化粧なんかしない」と断言できるのは明治以降で、それ以前は身分の高い人ほどさまざまな化粧を施していたのである。
例えば、平安時代の源平合戦(治承・寿永の乱)においては、源氏がノーメイクで平氏はお歯黒。そのため源氏のフリをして逃げようとした平氏が歯を見られて殺された、なんていう話も残っている。
江戸時代になると、男性の化粧は権力者ではなく歌舞伎役者たちに移っていき、やがて「男は化粧なんかしない」明治へとつながるわけだ。
また、濃いメイクの男性といえば古代エジプトを思い浮かべる方も多いはず。男女問わずくっきりと引かれたアイラインには、日焼け防止や虫除けの目的もあったらしい。つまり野球選手のアイブラックと同じだ。
エジプトといえば、先日とある会合に出席する際、私もクレオパトラに近づこうとアイメイクを頑張ってみたのだが......。エジプシャンブルー(古代エジプトで珍重された青色)のつもりで買ったプチプラのアイシャドウと太めのライナー、マスカラもたっぷり。
自分ではうまくできたつもりだったが、帰宅後に鏡を見たら、そこにはクレオパトラではなくパンダがいた。
なぜそんなことをしたのかというと、最近の女性は結構メイクに手間を掛けているように見えるから。マスク着用が影響しているのかもしれないが、特にアイメイクに凝っている人が多い。なんとなく古代エジプトっぽいような......。古代エジプトはメイクに限らず服装も現代に近いようで、壁画にはワンピースを着た女性が描かれている。
そんなこんなが重なってクレオパトラに近づけるのではないかと勘違いした私は、意気揚々とパンダメイクを完成させたのだった。
ほの暗い平安時代のメイク、そして笑い話
ところで、我らが日本の昔はどうだったのか。例えば平安時代の化粧は、太陽が降り注ぐ国のメイクとは真逆である。
「源氏物語絵巻」などを見れば分かるように、ポイントは白い肌と眉毛。エジプトとは違い、昼でもあまり陽光の差さないお屋敷の奥で暮らしていたお姫様たちは、そもそも日焼けなどしない。そんな暗い室内で際立つのが、白い肌なのだ。
また、皆さんご存じの通り、特徴的なのは眉。元の眉毛を全部抜き、本来の位置より上の方に眉墨で太く描く。現代人からすると滑稽(こっけい)に見えるかもしれないが、あの表情が読み取れない不思議な目元が奥ゆかしく美しいとされていたそうである。
この眉メイクに関するオモシロ話として、平安文学の「堤中納言物語(つつみちゅうなごんものがたり)」をご紹介したい。
これは短いストーリーが10話ほど載っている本で、1つ目のお笑いメイク話は「虫愛づる姫君」。昆虫が大好きな変わり者のお姫様が虫好きな男児を集めて虫捕りをさせ、毛虫などを手のひらに乗せては喜んで観察している。
このお姫様は「何事も取り繕わず自然のままがよい」と言い、大人になっても眉の手入れやお歯黒をしない。現代人から見ればお歯黒や額の上に描く眉の方が異様なのだが、平安の人々はゲジゲジみたいな眉毛でゲジゲジを集めるお姫様を面白がったようだ。
2つ目は「はいずみ」というお話。長年連れ添った妻を遠ざけて新しいカノジョをつくった男が、ある夜、予告なく新カノの家に行く。新カノは油断してノーメイクだったため、慌ててお化粧を始めた。
ところが平安時代の夜は暗い。おしろいと間違え、顔中に眉墨を塗りたくってダーリンを迎え阿鼻叫喚! 結局、男は元の妻とよりを戻したという、ドタバタだかハッピーエンドだか分からない結末である。
どちらも端折(はしょ)ったご紹介なので、興味のある方はぜひどうぞ。現代語訳も出ています。
高齢社会と若返り、そして「こだわり」
さて、現代におけるメイクを考えてみよう。
女性たちはアートメイクやマツエクを気軽に取り入れ、ネイルサロンも大人気。男性陣もエステに通ったりしている。
もちろん外見だけではなく中身も磨くべきなのだが、ご存じの通りその2つは表裏一体。容姿に自信を持つことで心に意欲が湧き、また内面的な充実感があれば身だしなみも意識するようになるのは自明の理。
世代で見ると、昭和の中高年女性はあまりお化粧をしていなかった気がする。せいぜいファンデーションと淡い色の口紅ぐらいで、攻めるメイクではなく身だしなみという感じ。それに比べ、令和では70代・80代でも美を追求する人が結構多い。
この風潮を歓迎する人もいれば、批判的に見る人もいるのだろうが、総じて日本人全体が若返った気がするのは悪いことではないと思う。
というわけで人生100年時代。何十年もオトナとして生きてきた高齢者だからこそ、それぞれの生活環境で培われた美意識がある。
環境の違い、従事してきた仕事の違い、趣味の違い。好きなファッションは変わらなくても、20代の頃より40代・50代の方がセンスは良くなっているはずで、自分をどんなふうに見せたいのかという「こだわり」も生まれてくる。その「こだわり」は、加齢とともに変化する体型や健康状態にうまく対応するためのスキルになるのではなかろうか。
小皺や白髪が増えるのと引き換えに手に入れた、自分らしいメイクや着こなし。それを生かしてすてきな自分を表現することは、歳を重ねた人たちだけの特権なのである。
......などと考えている私自身は、在宅時にメイクをしない。朝起きて顔を洗ったまま、夜まで化粧水すらつけないこともしばしばだ。
それを見かねた近所の友達が、美肌効果のあるクリームと色付きリップをくれた。どちらも高級品。私が買うリップクリームの30倍のお値段! さすがにトロける使い心地だった。
積み重ねた歳月の間に出会う人々の影響で、少しずつ自分が変わっていく。これまた人生100年時代の楽しみかもしれない......、などと、勝手な理屈をこねてみる昨今である。
※記事の情報は2022年10月25日時点のものです。
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【PROFILE】
小田かなえ(おだ・かなえ)
日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。
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