デジタル化とご長寿の相性はよろしいようで

【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る

小田かなえ

デジタル化とご長寿の相性はよろしいようで

人生100年時代、「あなた」はどう変わるのか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。2021年9月時点で100歳以上のお年寄りは8万6,000人を超えました。自分に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。各世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。

パソコンとインターネットの思い出あれこれ

私には90代男性の友達がいた。年長者に対して「友達」などと言っては失礼なのだが、何人かで食事をご一緒する際には、世の中の出来事からご自身の恋愛遍歴まで偉ぶることなく語り、楽しませてくださる。


残念ながら1年前に他界されたが、その方と知り合ったのはSNSだった。若い世代にそれを話すと、大半の人が同じような反応を見せる。


「おじいさんなのにSNSやってるんですか?」
「パソコンを使える90代なんてビックリです」


しかし、である。インターネットの個人利用が広まったのは1995年以降だが、パソコン自体は1980年代から存在していたわけで、今90代の方々の現役時代にも必要があれば会社や自宅に置いてあったはず。驚くには当たらない。


私も15年ぐらい前に眼鏡屋さんへ行った時、若い店員さんから同じことを言われた経験がある。


「お客さん、パソコン使われるんですか? 偉いですね!」


私はニコニコしながら心の中で思った。
(おばさんはね、坊やが赤ちゃんの頃からパソコンを使ってるのよっ)
......別にそんなことで威張る必要はないのだが。


わが家も1985年頃にはすでにパソコンを所有しており、私は近くの大学のパソコン講習で簡単なプログラミングを習った。文章を書く仕事には不要な知識だが、謎めいた箱に見えるパソコンの仕組みを理解するのに役立ち、おかげで1995年にインターネットを使い始めた際も臆することはなかった。


もっとも最初の頃のインターネットは中身がスカスカ。まだサイトが充実しておらず、大好きなロックバンドのクイーンを検索すると、あろうことか籠に盛られたジャガイモのメイクイーンが出てくる始末。だからしばらくの間、パソコンはワープロとファクシミリの機能を併せ持つ道具として使うしかなかった。


それが変わったのは1年後の1996年ぐらいだ。ネットサーフィン(この言葉も今はもう使われませんね)をしていて、異業種交流サイトを見つけた。フリーランスの身としては見逃せず、勇気を出して登録してみた。


なぜ勇気が必要だったのかといえば、私が話題についていけるのかという心配があったから。投稿している人は理系の研究者やお医者さんなどが多く、しがないコピーライターなんかお呼びじゃないという感じ。


でも何人かの方からご連絡をいただき、例えば学会で発表する原稿の文章チェックや、地方自治体の観光パンフレット案などを頼まれた。


そのサイトが今どうなっているのか、いや、それ以前の問題として自分自身が退会したのか放置しているだけなのか、皆目分からない。そもそもサイトの名前すら覚えていないのだが、インターネットを活用すれば本来なら知り合えないはずの方々に出会えることを教えてくれたありがたいサイトだった。


ちょっと話はズレるが、アマチュア無線は資格試験に合格すれば子どもでも使える。中学生の頃、私はそれにとても興味があったのだが、知らない人と交信するのは危険だという理由で両親に許してもらえなかった。


だから懐かしの昭和の少女雑誌に載っていた文通コーナーを見て、東北地方に住んでいる同学年の女の子に手紙を出してみた。もちろん親には内緒だが、何度か手紙をやり取りするうちに母にバレて厳しく叱られ、断念せざるを得なかった。


母というのは、そう、本連載にもたびたび登場した、あの老母(「公民館に生まれた小さな国際交流」ほか参照)である。若い頃はうるさかったのだ。今でもうるさいが......。別の意味で。




リモートワークで生涯現役、官公庁も支援中!

昨今のコロナ禍で世の中ではリモートワーカーが増えたが、私は40年間ずっとリモートだ。40年前にはフリーランスのコピーライターやグラフィックデザイナーがたくさんいて、収入が安定してくると都心にオフィスを構える人も多かった。


私も周囲から勧められたし、良い物件を紹介してくれる親切な知人もいたのだが、ある理由によってすべて却下し、今に至っている。ある理由とは一体なんだろう? それは、都心にオフィスがあったら通勤しなきゃならないから!


大きな声では言えないが、そもそも私は毎日の通勤が面倒になってフリーランスになったのだ。仕事場まで通うんじゃ意味がない。


まぁ私のような怠け者はさておいて、人生100年時代には在宅ワークが貴重な収入源となり得る。いくら寿命が延びても残念ながら身体は老いるわけで、足腰や内臓の不調で通勤できなくなることもあるだろう。


そうなったとき、リモートでアルバイトをするという選択肢が浮上する。現役時代とは違う職種になってしまうかも知れないし、収入も大幅に減るかも知れないが、誰かの役に立ってわずかでもお財布が潤うなら良いのでは?


などと書きながらデジタル庁による「日本のデジタル度2021」という調査資料を見て、私は少しだけ違和感を覚えてしまった。デバイスの保有状況やデジタルサービスの利用状況などの調査対象が、15歳から79歳までなのだ。


老齢年金の繰り下げ受給が75歳まで延長された今、70代の約3割が働いている。内閣府の「令和3(2021)年版高齢社会白書」によれば、70歳から74歳の就業率は2020年の時点で32.5%。つまり「日本のデジタル度2021」は、ほぼ現役世代だけを調べた結果というわけだ。


マイナンバーカードの取得手続きやワクチン接種予約など、オンラインのほうがラクなことは多い。ネットスーパーだって高齢者にこそ使ってほしいサービスである。


だからリタイア後の世代がデジタル化から取り残されちゃ困るな......、と思ったら、総務省ではスマホの円滑な利用を支援する高齢者向け教室を、販売店や公民館で実施しているんだって。うんうん、それならOK!


インターネットが一般に利用されるようになって30年近く経った現在、旧来のパソコンは徐々に使われなくなり、家電量販店でもフロアの隅っこに追いやられている。


今の主役は、24時間手元にあるスマホだ。スマホさえあれば友達の電話番号を覚える必要はなく(昭和のヒトたちは何人もの電話番号を記憶していた)、ビジネスも多様化し、娯楽の世界も広がる。


デジタルに苦手意識のある方は、各市町村またはスマホ販売店に教室開催などを問い合わせてみると良いかも。




身近な仲間たちのスマホ事情

私にもデジタル化に背を向けたまま暮らしている友達がたくさんいる。先日、彼女たちに会って最近の様子を聞いてみた。


友人A
「電話はガラケーのままよ、スマホなんか持ってたら危ないし」
「どうして?」
「スマホにはLINEがあって知らない人と勝手に電話がつながっちゃうんでしょ?」
......その現象は友達追加機能の設定の問題で、そもそもLINEはガラケーでも使えるのだと説明したら、不気味そうに自分のガラケーを見ていた。


友人B
「ネットスーパー? アタシは使いたくないわ」
「なんで?」
「だってさ、注文ミスして牛乳が10本届いたら困るでしょ?」
「あっ」
......何が「あっ」なのかと言えば、つい先日、私がやらかしたからである。6個入りの卵パックを1つ注文したはずなのに6個入りの卵パックが6つ届き、近所の友達に無理やり3パック押し付けた。


友人C
「スマホは持ってるけど、電話するのと音楽聴くのに使うだけ」
「LINEやメールも使うでしょ?」
「うーん、必要最低限ね。できるだけ手書きしないと漢字を忘れちゃうから」
......ううっ、耳が痛い。


友人D
「スマホの話なんかしないでよ!」
「何かあったの!?」
「年度末で定年退職したから新しい仕事が欲しくて、近くのスーパーに聞いてみたの。そしたらまず派遣会社に登録してくださいって言われて、その派遣会社に電話したらスマホのアプリが何ちゃらって言われてさ、もう諦めたわ」
「あらあら気の毒に。アナタみたいなスマホ難民こそ次のエッセイのテーマで......」
「うるさい! 今度スマホって言葉を聞いたら絶交するからねっ」


旧友たちとの会話で分かったのは、ネットスーパーに大量注文したり漢字を忘れたりするのは私も同じで、むしろそこに危機感を抱いている人々のほうがお利口さんだということ。さらに、今から新しい仕事にチャレンジしようという精神の持ち主なら、いずれ「スマホのアプリが何ちゃら」だってクリアするだろうってこと。


みんな大丈夫だ、私よりずっとね!


※記事の情報は2022年8月17日時点のものです。

  • プロフィール画像 小田かなえ

    【PROFILE】

    小田かなえ(おだ・かなえ)

    日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。

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