【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る
2024.02.13
小田かなえ
人生100年なら恋は何年?
人生100年時代、「あなた」はどう変わるのか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。2022年時点で100歳以上のお年寄りは9万人を超えたそうです。自分に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。各世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。
71歳で伴侶に巡り逢った女性
今から30年以上前のある日、
「聞いて聞いて、71歳の叔母さんが結婚したのよ!」
友人がテンションMAXで電話してきた。
彼女の叔母さんは一度も結婚せず仕事一筋で、70歳のときに自宅を売却して老人ホームへお引っ越し。そこで運命の出会いを遂げたそうだ。お相手の男性は同い年で奥様に先立たれた方。
新婚旅行をかね全国の親戚に挨拶して回り、友人のところにも立ち寄った。「あんなに仲良さそうな高齢夫婦は見たことがない」と言っていた。それはそうだろう、新婚だもの。
時代は平成初期、高齢者同士の結婚は初婚でも再婚でも周囲から好奇の目を向けられた時代である。叔母さんカップルがどうだったかはわからないけれど、再婚の場合には相続トラブルを懸念する身内の反対だってありそうだ。
実際、娘たちの猛反対にあって再婚を断念した高齢の知人男性がいるが、その人は入籍せずに事実婚という形で同居に踏み切った。20年ぐらい前のことである。
最近はどうだろう?
ここ10年ぐらいの間に、私より年上の知人女性が3人結婚した。初婚が1人、再婚が2人。再婚した2人のうち1人は前夫と死別、もう1人は離婚である。
ここでちょっと2022(令和4)年(最新)の「人口動態調査」を覗いてみよう。この年に60歳以上で婚姻届を提出した男性は8,586人、女性は4,446人だった。そのうち初婚の男性は1,060人、女性は455人。再婚が多いのは、まぁ当然か。
過去のデータを遡って見ると、戦後まもない1947(昭和22)年、この年に結婚した60歳以上の男性は1,471人、女性は408人。そのうち初婚の男性は165人、女性は98人だった。
時代は変わり、21世紀を迎えた2001(平成13)年はどうか。新世紀に婚姻届を提出した高齢男性は6,799人、女性は2,951人。そのうち409人の男性と288人の女性が初婚だった。
このデータを見ると、終戦直後の75年前より今のほうが高齢で結婚する人数は増えている。しかしもっとグーンと増加しているだろうと予想していた私には少し意外でもあった。この程度なら、平均寿命の延びから考えて妥当な数字と言えよう。
婚活ビジネスの現場から
結婚相談所を経営している友人に聞いてみると、相談に来る人の平均年齢は男女ともに40歳から45歳ぐらいとのこと。けっこう遅い気もするが、これはあくまでも平均。20代、30代の会員さんが多くても、60代、70代の人たちが増えれば平均値が上がる。
「結婚したいと思う理由って、若い世代と高齢世代じゃ違うんでしょ?」
「そうでもないわよ。トシに関係なく『寂しいのはイヤ』って言う人が圧倒的に多いもん」
「へぇ、みんな同じ気持ちなんだ?」
「若い世代に限れば『親が結婚しろってうるさい』と言うケースも多いかな」
「あら、そんなことを言ってる親は私たち世代ってことよね?」
「そうよ、アナタは子供に何も言わないタイプだけど、ほかの親御さんたちは息子や娘の結婚を心配してるんだから見習いなさいよ」
「............」
気を取り直して質問を続ける。
「相手に対する希望条件は年齢によって変わるの?」
「それが、そうでもないのよ。各世代とも同じような感じ。年齢に関係なく男性は容姿端麗な女性が好きね。正直、プロフィールも顔写真しか見てない感じの人が多いわ」
「女性側の条件は?」
「やっぱり容姿がいちばんで、肩書や収入、資産にもこだわるわよ」
「難しそうね」
「賃金が安い中で女の子たちが高収入の男性を求めるのは無理もない。彼女たちにとって恋愛と結婚は違うのよ」
たしかに今は恋人を探す方法ならいろいろある。年齢や性別、住んでいる地域に関係なく、望めば世界中をターゲットに「誰かいませんかー」と発信できるのだ。騙されやすい人には絶対オススメできないけれど、少なくとも自力でパートナーを探す手段はあるわけだ......無料で。にもかかわらず会費を支払って婚活する理由は、やはり条件のよい相手を探したいからだろう。
「高齢の会員さんならではの条件っていうのはないの?」
「高齢男性は自分よりかなり若い女性を希望することが多いわね。それは見た目だけじゃなく、将来の介護問題を見据えてるわけ」
そういえば......と思い出す。知り合いの50代独身男性が、以前こんなことを言っていた。
「若い頃は20歳ぐらい年上の女性に惹かれたこともあったけれど、今は40代までの人しか目に入らない」
この男性は介護を望んでいるわけでもないのだが、それでも若い女性にしか興味がないようで。
こうした傾向はおじさんに限ったことではない。おばさん軍団のほうも年齢を重ねるにつれて図々しく(?)なり、我が友人たちがステキだと言う男性はみんな自分より10歳以上も若いのだ。
人生100年だから、恋だって100年!
高齢者の「結婚」「恋愛」。若い世代から見ると自分の両親や祖父母と重なって、複雑な気持ちになるかもしれない。
私自身も30代ぐらいまでは心のどこかで"あり得ない"と思っていた。純粋に「人間は60歳にもなれば恋愛に興味なんかなくなるはずだ」と信じ込んでいたのである。
しかし断じてそんなことはない!
ちょっとここでひもときたいのが「健康寿命」のデータだ。健康寿命とは「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。世界保健機関(WHO)が2023年に発表した調査で世界1位となった我が国の健康寿命は、男女平均74.1歳だった。
その真っ只中にいる元気な高齢者......現在70代の人たちを一括りにすると「団塊の世代」である。 1960年代後半の「ラブ&ピースムーブメント」や1969年の「ウッドストック」をリアルタイムで見聞きし、愛と自由を尊ぶ生き方に価値を見出した若者たちだ。
そしてその下に控える60代は、団塊の先輩たちが創り上げる新たな文化に影響されて育った。さらに現在50代後半......仕事や子育てに余裕が出てきた世代は、華やかなバブル期に社会人となった面々である。
つまり、今のシニア&プレシニアたちは"そういう人たち"なのだ。昔と同じように、いや、昔よりずっと楽しい遊びが溢れている現代にあって、地味な老後生活に甘んじているわけがないと思うのは私だけ?
かく言う私も、毎回60代っぽい生活について書いてはいるが、プライベートでは新しい友達を次々と増やしているし、面白そうなイベントがあれば積極的に首を突っ込み、自分で何かを企画することだって大好きなのである。男女問わず仲間が増えれば、新しい知識や新しい生き甲斐も増えてくる。
そして、そういう場所には必ず恋する同世代の女性がいる。彼女たちとお喋りするだけで、自分が現在進行形の恋愛をしていなくとも若返りそうな気がするのだ。
賛否両論あるとは思うが、人生100年時代における少々の恋心は"自分らしさ"を保って元気に生きる秘訣だと信じたい。
ちなみに99歳になった老母は施設の自室に亡父の写真を飾り、誰彼かまわず自慢している。
「これはアタシの大好きな人よ、ハンサムでしょう?」
戦争で離れ離れになった時期はあったようだが、80年間も同じ人に恋をし続けている母は、たぶんとても幸せなのだろう。
(参考資料)
・人口動態調査(2022年) 中巻3「婚姻件数(当該年に結婚生活に入り届け出たもの), 初婚-再婚・夫-妻・結婚生活に入ったときの年齢(5歳階級)・届出月別」(厚生労働省)
・人口動態調査(2001年) 上巻9-7「結婚生活に入ったときの年齢別にみた年次別婚姻件数(各届出年に結婚生活に入ったもの)」(厚生労働省)
・「World health statistics 2023」(WHO)
※記事の情報は2024年2月13日時点のものです。
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【PROFILE】
小田かなえ(おだ・かなえ)
日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。
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