【連載】人生100年時代、「生き甲斐」を創る
2024.11.12
小田かなえ
老いてなお、子どもみたいな探究心
人生100年時代、「あなた」はどんなふうに過ごしますか。何十年も前から予測されていた少子高齢社会。自分自身に訪れる「老い」と家族に訪れる「老い」。世代ごとの心構えとは? 人生100年時代をさまざまな角度から切り取って綴ります。
オカルト......お好きですか?
「オカルトブーム」という言葉がある。私が中高生の頃から耳にしてきた言葉だ。一説によれば1970年代と1990年代にピークがあったそうだが、個人的には物心ついて以降、現在に至るまでずっとブームが続いている。怖い話、不思議な話が好きな者にとって、オカルトはブームじゃなく日常だ。
いきなり何を言い出すかとお思いだろう。いよいよ話題がなくなったのか? 否、これはむしろ書きたくてたまらなかった話なのである。オカルト嫌いな方々、ごめんなさい。今回は諦めてお付き合いくださいね。
さて、日本におけるオカルトのジャンルは幅広い。UFOと宇宙人、河童に代表される謎の生物、お岩やお菊などの幽霊たち、菅原道真・平将門・崇徳院の日本三大怨霊、源義経=ジンギスカン説から口裂け女・きさらぎ駅まで時代を問わず語り継がれる都市伝説......。昭和の頃には雑誌でしか読めなかった怖い話が今はネットに溢れており、ともすれば時間を忘れて動画を観てしまう。
そのおかげで長年の疑問が解けたこともあった。
たとえば小学生の頃に見たモノの正体。夜空を斜めに横切ったオレンジ色と黄緑色が混ざる楕円形の物体......真っ先にUFOじゃないかと思い、次に人魂かな? と。一瞬の出来事だったため私以外に見た人はおらず、それでも忘れることなどできるはずもなく、長い間ずっと心に引っかかっていた。
やがてインターネットが各家庭に普及して情報量も増えてきた頃、私はついに類似の物体をパソコンで見つけたのである。幼い頃に私が見たものは「火球」だった。記憶どおりに輝く画像を発見したときは嬉しくて、何枚も部屋に貼ったものだ。
兎にも角にも便利で楽しい時代だが、オカルト絡みの話は当然ながら信憑性は低い。わくわくするのは良いとしても、どこかの誰かが体験した話を鵜呑みにする気にはなれない。それは皆さんにとっても同じで、いくら私が「本当なんです!」と書いても、これを読んでくださっている方々から見ればありきたりの怪談のひとつに過ぎないと思う。
ゆえに今から書く話には一定の縛りを設けたい。まず自分自身が経験した現象に限定する。そして、その現象は私がひとりのときに起きたものではなく、同時に複数の人間が遭遇した出来事であること。もちろんそれでも創作だという疑惑は拭えないわけだが、このアクティオノートに書く以上は真実の体験であるとお約束したいので、それ故の縛りでもあるとご理解いただければ幸いだ。
ということで所謂ポルターガイスト現象をサラッとご紹介! サラッと......というのは、怖がらせる目的で書くわけではないから。おどろおどろしい前置きは不要。ただ起こったことだけを淡々とお伝えしたい。
一連の出来事は私が17歳から26歳まで住んでいた家で起きた。木造2階建てのその家は、農地を宅地にして売り出された土地を買い、新しく建てたものである。過去の因縁などはない。
・ひとつめ
1階の応接室にいると、隣接するキッチンとの間の壁を叩く音がする。時間を問わず、部屋に入ると必ず聞こえる。来客時にも、お客さんが誰であれ繰り返しトントントン、トントン、トントントンと、部屋にいる間ずっと続いて、もちろんその音はお客さんにも聞こえている。原因を究明すべく母と交互に応接室とキッチンを往復しながら確かめたが、けっこう大きい音なのにキッチン側では全く聞こえなかった。
・ふたつめ
2階にいると誰かが階段を上ってくる足音が聞こえる。リズミカルな足音に加え、階段が僅かに軋む音もする。ある日、友達と一緒に2階で話をしていたときも階段を踏む足音と重たげな床の軋みが聞こえた。母がお菓子を持って来たのだろうと思って友達がドアを開けたが誰も居ない。この階段を上る足音の怪もかなりの頻度で起きた。
・みっつめ
別の友人が玄関から2階へ続く階段で半透明の足首を見た。その足首は浮いているわけではなく、1段ずつ階段を踏みしめながら上って行く。そのとき私と母も近くにいた。私が見ていたのは足首ではなく、足首の本体らしき透明な物体が2階に移動する様子。その動きは人間が階段を上るのと寸分違わず、ゆっくり移動していく。母の目もそれを追っていた。とても長い時間に感じたが、たぶん実際は5〜6秒。友人は口を開けたまま見送っていた。
ほかにも変なことはたくさんあったのだが、すべて書いたら長編小説になってしまうのでやめておこう。
「出る」なら面白く出てほしい
さて、世の中にはいろいろな人がいる。こういった話を即座に心霊現象だと信じる単純な肯定派。光の屈折や気象現象、あるいは心理学などを用いてオバケ以外の"何か"だと解説する論理的な否定派。そこに居合わせた人たちが示し合わせて嘘をついていると考える懐疑派。
愚母は否定派である。私の幼少時から一貫して「人間は死んだら終わり、魂なんか存在しない」と言い続けている。一緒にラップ音を調べたときも「確かに壁を叩く音は聞こえるけど、きっと水道管のせいよ」と断言。水道管ならキッチンのほうがよく聞こえそうなものだが......。
また友人が足首を、私が透明な身体らしきものを見たときも一緒に目で追っていたくせに、後日そのことを話題にしたら「あれは廊下の窓から入った光が揺れてたのよ」とキッパリ否定した。
ちなみに私とふたりのときに足音を聞いてしまった友達は「怖すぎる! もう帰る!」と叫び、その日以来ウチには来なかった。逆に、足首を見送った友人は「また見たい」と言って頻繁に来るようになった。余談だがこの友人、1990年代半ばに私が現在の家でインターネットを使い始めたらすぐに飛んできて、サンドイッチを食べながらグロ系の画像を夢中で検索していた。その姿は幽霊より怖かった。
100年も生きて知恵と経験を積み上げれば、この世の森羅万象に対する考え方が変わっていくのではないかと思う。それは"若いときは愚かでトシを重ねれば賢くなる"という意味ではなく、人生で遭遇する様々な出来事によって良くも悪くもモノの見方を変えざるを得なくなるということだ。
私自身も「オバケなんか居ない」と教えられて育ったわけだが、実際に自分が遭遇してしまえば考えを変えるしかない。しかし愚母のように自説を曲げない人たちもいる。先日、母が入居する施設の庭を散歩しながら聞いてみた。
「ねぇ、今でも死後の世界を信じない?」
「当たり前じゃない、人間は死んだら無になるだけ。こうやって歩いてるのも喋ってるのも脳があるからよ。その脳が無くなったらぜんぶ終わり!」
畏れ多くもホーキング博士と同じことを言う。加えて、余計なひとことも。
「もし間違ってたらアタシが死んだあとに"出て"あげるわよォォォ」
「ひぇ! 出るなら怖いんじゃなく面白く"出て"よね、面白いの得意でしょ」
ところで私は悪人ではない、たぶん。かと言って自己犠牲を尊ぶほどの善人でもない。だから私がイメージする死後の世界は地獄や極楽ではなく、たとえば「量子不滅論」のようなもの。死後も意識だけが量子情報として宇宙空間を漂っているとかね......物理学はチンプンカンプンだけれど。
もちろん愚母が(ホーキング博士も)主張しているように、死ねば完全な「無」になるのかも知れないとは思う。ただし人間がすべて無になるのだとしたら、過去に体験した不思議な出来事に心霊現象以外の説明をつけなければならないわけだ。
トントントンと鳴り続けるのは本当に水道管なのか、水道のプロを呼んで調べてもらうべきだった。あるいは光の悪戯で人間の足首に似た何かが出現するものなのか、とことん実験すれば良かった......と考えてハッとする。これから少しずつ実験してみれば良いんじゃない? 100歳まで生きるなら、まだあと30年以上もあるのだから。
もし私も人生100年時代の恩恵を受けられるなら、まずは若い頃からの謎を調べて納得したい。新築の家の水道管が鳴る理由は何か、窓から入った光を人間の動きと見誤る可能性はあるのか、誰かの足音と間違えそうな住宅の軋みは何なのか......等々。
ずいぶん年老いた気がしている私だが、100歳になるまでまだ30年以上。人生の始めに経験した不思議なことを、人生の残りの30年でじっくり調べるのも楽しみな気がしてきた昨今である。
※記事の情報は2024年11月12日時点のものです。
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【PROFILE】
小田かなえ(おだ・かなえ)
日本作家クラブ会員、コピーライター、大衆小説家。1957年生まれ、東京都出身・埼玉県在住。高校時代に遠縁の寺との縁談が持ち上がり、結婚を先延ばしにすべく仏教系の大学へ進学。在学中に嫁入り話が立ち消えたので、卒業後は某大手広告会社に勤務。25歳でフリーランスとなりバブルに乗るがすぐにバブル崩壊、それでもしぶとく公共広告、アパレル、美容、食品、オーディオ、観光等々のキャッチコピーやウェブマガジンまで節操なしに幅広く書き続け、娯楽小説にも手を染めながら、絶滅危惧種のフリーランスとして活動中。「隠し子さんと芸者衆―稲荷通り商店街の昭和―」ほか、ジャンルも形式も問わぬ雑多な書き物で皆様に“笑い”を提供しています。
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