2024年 珠玉の来日ライブ特集|ジャズ、R&Bから厳選

【連載】創造する人のためのプレイリスト

ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

2024年 珠玉の来日ライブ特集|ジャズ、R&Bから厳選

クリエイティビティを刺激する音楽を、気鋭の音楽ライターがリレー方式でリコメンドする「創造する人のためのプレイリスト」。今回は2024年に来日したアーティストのライブレビューです。今年も素晴らしいミュージシャンが来日公演を数多く行いました。ジャズやR&Bを中心とした来日公演の中から、音楽ライターが感動した7公演をピックアップ。ライブを振り返りながら、そこで披露された珠玉の音楽を厳選して紹介します。動画とともに、お楽しみください!

早いもので年末。2024年は皆さまにとってどんな年でしたか?


今年も海外アーティストの来日ライブが目白押し。筆者も、個人的に気になるライブがたくさんありました。さりとて全部を観る余裕はなく、泣く泣く観るのを諦めた公演も多数あります(円安と物価高の影響もあり、チケット料金もコロナ前より総じて上がっていますし)。


今回は、そんな2024年来日ラッシュの中で観たライブのうち、忘れられない印象を残した7公演をレポートしつつ、厳選した音楽をプレイリストにして紹介します。ジャズやR&B周辺の旬の音楽がお好きな方には、おすすめのラインアップになっていると思います。同じライブを観た方もいらっしゃるかもしれませんね。動画も観ながら、一緒に振り返りましょう。



【2024年 来日ライブ アーティスト 目次】

  1. ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)
  2. シルビア・ペレス・クルス(Sílvia Pérez Cruz)
  3. フェアーグラウンド・アトラクション(Fairground Attraction)
  4. レイヴェイ(Laufey)
  5. ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)
  6. ウォルフガング・ムースピール・トリオ(Wolfgang Muthspiel Trio)
  7. エスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)




ミシェル・ンデゲオチェロ

(2024年2月13日 ビルボードライブ東京 1st)

1. ミシェル・ンデゲオチェロ「クリア・ウォーター」(2023年)



ミシェル・ンデゲオチェロ(Meshell Ndegeocello)を初めて意識したのは、今から30年ほど前。デビューアルバム「Plantation Lullabies」(1993年)が出た翌年あたりに、彼女がプロモーション来日した時のことでした。その時のライブ(楽器イベントの併設企画)は観ることができませんでしたが、このベーシスト&シンガーソングライターのライブをプロのミュージシャンたちが熱をもって語る様子に、すごい人が出てきたと思ったのが最初。


彼女のライブを初めて観たのは、2002年6月のブルーノート東京。しかし、この時の印象が悪かった......。スタートからベースアンプの出音に不満があったようで、演奏中何度も音響スタッフに指示を出し、本人の苛立ちがこちら側にも伝わって、とくに前半はピリピリとした雰囲気の中でのライブだったことを覚えています(その後もずっと彼女の作品は追いかけているものの、この時の印象がトラウマになり来日ライブは長らく敬遠していました)。


しかし、近年、ブルーノート・レコードから出した「The Omnichord Real Book」(2023年)などのアルバムがキレキレな今のンデゲオチェロは絶対に観ておきたいと、今回実に22年ぶりにライブへ。この間に結婚し、2人の子供を得て、50代中盤となった現在の彼女があの時からどう変わったのか、変わっていないのか、興味津々で観客席に着きました。


定刻18時にメンバーが登場。サングラスをかけたンデゲオチェロはステージ中央のキーボード席に座り、ベースはサポートメンバーが担当します(その後は数曲で彼女もエレキベースを弾きました)。


この日の1stステージ1曲目は、筆者の記憶が正しければ、アルバム「Weather」(2011年)収録の「Rapid Fire」。ミドルテンポのビートに合わせて語るようなボーカルが乗り、キーボードとコーラスによって奏でられる浮遊感のあるテーマが印象的な曲です。


そして、2曲目はドイツの伝説的バンド、CAN(カン)の「Vitamin C」のカバー。ちょうど、この数日前にCANのボーカリストだったダモ鈴木(1950-2024)が逝去しました。旧西ドイツ生まれのンデゲオチェロにとって、CANとダモ鈴木は音楽的ヒーローの一人だったのかもしれないなと勝手な想像をしながら、思いがけない追悼演奏をじっくり聴きました。


その後は、「The Omnichord Real Book」の曲を中心に、デビューアルバム収録曲の「I'm Diggin' You(Like an Old Soul Record)」を新たなアコースティックなアレンジで披露し、ジョージ・クリントン(George Clinton)のカバーなども挟みつつ、アンコールの「The Atlantiques」まで10曲。


全体を通じて、ファンクやR&B、ジャズをベースにしながらも、彼女の音楽はそのジャンルレスな個性を以前よりも深化させた印象です。バンドが発する音の波を介して、彼女の「内側の世界」と我々オーディエンス、さらには宇宙(的な無限の世界)とが一つにつながるような不思議な感覚を幾度となく覚えました。


ライブの間、彼女は終始穏やかで、演奏中はずっと着席したまま(エレキベース演奏時も座ったままでした)。ステージアクション的な動きはほとんどありませんでしたが、22年前とは違って何が起ころうが泰然自若、文字通り不動のフロントパーソンとしてバンドの演奏を仕切っていました。複雑なグルーヴが脈々と連なって、それがライブ全体の興奮を形づくっていく面白さも感じたライブでした。


紹介した映像は、ライブでも披露された「Clear Water」のレコーディングメンバーによる演奏です。ここには来日時のメンバーであるドラムスのエイブ・ラウンズとボーカルのジャスティン・ヒックス、ジェビン・ブルーニが登場しています。


メンバー:Meshell Ndegeocello(vo, b, key)、Justin Hicks(vo)、Jebin Bruni(key)、Christopher Bruce(g)、Abe Rounds(ds)、Kyle Miles(b)




シルビア・ペレス・クルス

(2024年4月8日 ブルーノート東京 1st)

2. シルビア・ペレス・クルス「Nombrar es imposible (Mov.5:Renacimiento)」(2023年)

3. シルビア・ペレス・クルス「タイニィ・デスク・コンサート」(2024年)



初めてアルバムを聴いてから約12年、シルビア・ペレス・クルス(Sílvia Pérez Cruz)は、ぜひともライブを観たいと思っていたアーティストでした。音楽を愛する知人たちの間で、この現代カタルーニャ音楽を代表するシンガーソングライターの過去の来日公演は、非常に高く評価されていたからです。皆、口々に「あの歌唱は、絶対に一度はナマで聴くべき」と言い、「観ないと一生後悔する」とまで断言する人もいました。


ということで、ようやく初のライブ鑑賞が叶った今回。セットリストは、この時点での最新アルバム 「Toda la vida, un día」(2023年)の収録曲が中心でした。


この作品は、幼年期から青年期、円熟期、老年期、そして再生という、人の一生と無限の循環を描き出した全5楽章21曲の力作です。バンドはバイオリン、ウッドベース、チェロ、それにシルビア・ペレス・クルス自身のギターの4弦構成。弦楽器の多様な音を重ね、全員が一体となって躍動感のある音を奏でるバンドの表現力にまずノックアウトされました。


何よりもすごいのは、シルビア・ペレス・クルス自身の魅力です。多くの人が彼女のライブを勧める理由がわかりました。時に軽やかに、時に楽器の最小の音に合わせて自在にコントロールされるボーカル。神の使者のような、心を揺さぶる素晴らしい声、バンドとの一体感。彼女が発する明るいオーラが客席との自然で親和的な雰囲気を生み出します。


とにかく、歌の表現のレベルがずば抜けて高い。聴覚が喜び、魂が浄化されるような気持ちになりました。


最初の映像は「Renacimiento(再生)」をテーマとした最終第5楽章の中の1曲。キューバのハバナで撮影・録音された同曲には現地のミュージシャンも参加し、曲全体が明るいエネルギーに満ちています。曲に登場する印象的なフレーズを、ブルーノート東京のライブでは客席と合唱していたことを思い出します。


2番目の映像は、彼女が米国公共ラジオ放送NPRの音楽番組「Tiny Desk Concerts」に出演した時のもの(全部で22分ほどですが、最初の2曲は「Toda la vida, un día」の収録曲です)。ベースとチェロの2人の奏者は来日公演でも素晴らしい演奏を聴かせていたメンバー。シルビア・ペレス・クルスの可愛らしい人柄も感じられ、当日のライブの雰囲気がよく伝わる映像なのでご紹介しました。


メンバー:Sílvia Pérez Cruz(vo, g, synth)、Carlos Montfort(vln, tp, per, back vo)、Marta Roma(vc, tp, synth, back vo)、Bori Albero(cb, synth, back vo)




フェアーグラウンド・アトラクション

(2024年6月27日 渋谷クラブクアトロ)

4. フェアーグラウンド・アトラクション「ア・スマイル・イン・ア・ウィスパー」(1988年)



オリジナルメンバーでの34年ぶりの再結成と来日という夢のような知らせに驚かされ、待ちに待ったライブでした(来日前の期待に満ちあふれた記事はこちら)。


場所は、彼らが34年前に解散前のラストライブを行った渋谷クラブクアトロで、記念すべきツアー初日。オールスタンディングの会場は、1990年当時を知る年齢層の人が多めでしたが、若い人もいて超満員。全員がバンドとの再会を今か今かと待っている、そんな幸せな空気が会場に充満していました。


さあ、待望の開演です。4人のメンバーと2人のサポートメンバーが大歓声に迎えられステージへ。1曲目は新曲のバラード「A Hundred Years of Heartache」。あの頃と今日のこの時を一瞬にしてつなぐタイムレスなアコースティック・サウンドが流れ、会場がヒートアップします。


しかし、エディ・リーダーのボーカルがあまり響いてこない。PAの問題かと思ったら、2曲目「A Smile in a Whisper」(映像で紹介)で懐かしいイントロに反応した観客の歓声に感極まったのか、急に歌えなくなり後ろを向いて涙を拭っている。


そうか、1曲目の時点ですでに感動して声がふるえていたのかも! オーディエンスが彼女を応援するようにシンガロングします。見ると、ギターのマーク・ネヴィンも泣いていて、会場にも涙する人たち多数。ステージ上の人も、客も、スタッフの人も、この場にいる(ある程度の年齢以上の)人たちそれぞれの34年間の歴史と時間が、クロスオーバーするような感覚が襲ってきます。


名盤「The First of a Million Kisses」(1988年)の収録曲と新録音の曲もまじえて本編19曲、アンコール3曲。ライブの終盤では「Moon on the Rain」「Clare」「Fairground Attraction」「Perfect」と立て続けに往年の名曲を披露しました。


もう観られないと思っていたバンドとヒット曲「Perfect」を思い切り合唱できる喜び、同じ時代に歳を重ねた彼らの全ての曲が愛おしい。目が潤む瞬間も幾度か。感情的に完全にシンクロして、会場のバイブスも最高。こんなライブに出会えることはなかなかありません。


中盤のMCでエディ・リーダーは「私たちが解散を決めたのは日本ツアーでのことでした。だからもう一度、この会場から再スタートすることにしたの」と客席に向けて語りました。みんな、34年の間よく生き延びました! ずっと長い間音楽を好きでいて良かったと心から思わせてくれた、贈り物のようなライブでした。


メンバー:Eddi Reader(vo, g)、Mark Nevin(g, vo)、Simon Edwards(b, guitarrón)、Roy Dodds(ds, per)
サポートメンバー:Graham Henderson(acc, mand, key)、Roger Beaujolais(vib)




レイヴェイ

(2024年8月17日 サマー・ソニック2024 幕張メッセ国際展示場)

5. レイヴェイ「アイ・ウィッシュ・ユー・ラブ」(ライブ・アット・ザ・シンフォニー 2023年)



夏真っ盛りの8月17日(土)、サマー・ソニック2024のレイヴェイ(Laufey)のステージを観に行きました。


レイヴェイは、1999年、アイスランド・レイキャビク生まれのシンガーソングライター。ギターやピアノ、チェロなどのマルチ奏者でもあります。米国のバークリー音楽大学を卒業し、ファーストEPをリリース。オーセンティックなジャズの雰囲気をもちながら、現代的なセンスで幅広いオーディエンスを惹きつける作曲能力が高く評価されています。2024年には第66回グラミー賞でセカンドアルバム「Bewitched」(2023年)がBest Traditional Pop Vocal Album賞を受賞。これからの活躍が楽しみな新世代のアーティストです。


バックバンドはドラムス、キーボード、ウッドベース、ギターの4名。バンドが、ジャジーにアレンジされたドビュッシーの「月の光」を奏でた後、「While You Were Sleeping」のイントロとともに、純白の衣装に身を包んだレイヴェイが登場し、歌い始めます。


その姿は予想以上に華やかなオーラを発散し、まるで妖精。時にミュージカルの主役のように舞台上を舞い、歌い、曲によってチェロやエレキギターを持ち替え、ピアノを弾き、彼女自身の曲やスタンダードナンバーを次々に披露していきます。ステージの背景にレイヴェイのアップ映像が流れる程度のシンプルな演出にもかかわらず、ライブ全体の印象は演劇的で、昔の映画を観ているような感じになりました。


その理由は、主にレイヴェイの中低音豊かに響く深い歌声とアレンジにありますが、彼女自身が発する往年のフィルムスターのような"華"にもあると思います。MCにも知性とユーモアを感じて魅力的。2023年の単独来日チケットがすぐにソールドアウトした人気の秘密がわかりました。


映像は、当日のステージでも歌った「I Wish You Love」をアイスランド交響楽団と共演した時のものです。幼少期から演奏しているというチェロの腕前もさすが確かですね。


メンバー:Laufey(vo, vc, g, p) ※サポートメンバーは不詳




ジルベルト・ジル

(2024年9月27日 めぐろパーシモンホール)

6. ジルベルト・ジル「セラフィン」(ライブ 2023年)



1942年生まれ、今年で82歳のジルベルト・ジル(Gilberto Gil)は、約60年にわたりブラジルのポピュラー音楽を牽引してきたレジェンドです。その彼の来日公演は16年ぶり、しかもワールドツアーからはこれで引退という話もあり、日本でのライブは今回が最後になりそう。そのためか、東京公演をはじめチケットは抽選の末、ほぼ完売でした(当日券はわずかながら出たそうです)。


コンサートはジルベルトのギターとパーカッションだけの曲「Viramundo」で始まりました。その後、ギター、ベース、キーボード、ドラムスの全てをジル一族で固めたファミリーバンドが勢ぞろいし、ジルベルト・ジル自身の数々の名曲をはじめ、ブラジルを代表するシンガーソングライター、エドゥ・ロボ(Edu Lobo)のカバー、20世紀ブラジルの国民的作曲家、アリ・バホーゾ(Ary Barroso)の曲やサンバを歌唱。中盤ではなんと、レゲエの先駆者、ボブ・マーリー(Bob Marley)の名曲「No Woman, No Cry」を英語とポルトガル語で披露しました。


その合間に孫娘のフロール・ジルの歌唱による「イパネマの娘」や「ムーン・リバー」といったポピュラーソングを挟みつつ約2時間。前半こそジルベルト翁はスツールに腰かけて歌っていましたが、中盤からはずっと立ち上がってギターを抱え、歌う声には力があるし、時には踊りながらステージを歩くといったエネルギッシュさで、さすがのエンターテイナーぶりを発揮。


そして、曲にブラジル人や日本の南米音楽ファンが即応し、合唱します。この観客席との一体感、ホール全体を巻き込むエネルギーには圧倒されました。この人、本当にツアーを引退しようとしている82歳なのでしょうか? すごすぎる......。映像では、そんな彼とファミリーバンドのライブの様子を感じていただけると思います。


筆者は、個人的には近年のアルバム「OK OK OK」(2018年)をはじめとする、ゆったりとしたテンポのエレガントな作品が好みですが(以前の記事で紹介しています)、ライブではやりませんでした。でも大満足です。本編終盤の「Palco」あたりからは会場も総立ちで、2階席でもみんな立ち上がるほどの大変な盛り上がりを見せました。


ジルベルトは長い音楽キャリアの傍ら、サルヴァドールの市議会議員を務め、さらにブラジルの文化大臣の任にもあたりました。そう、ある種のスーパーマンなのです、この方は。ワールドツアーは引退しても、これからもその尽きないエネルギーで音楽の創造を長く続けてくれることを願います。


メンバー:Gilberto Gil(vo, g)、 Bem Gil(vo, g, b)、José Gil(vo, ds)、João Gil(vo, g, b)、Flor Gil(vo, key)




ウォルフガング・ムースピール・トリオ

(2024年10月5日 コットンクラブ 1st)

7. ウォルフガング・ムースピール・トリオ「アンギュラー・ブルース」(ライブ・イン・バークリー 2022年)



2023年の来日時に観られず、悔やんでいた達人トリオのライブ。ウォルフガング・ムースピール(Wolfgang Muthspiel)のアコースティックギターのソロ(ニューリリースされた「Etude Nr.1 Tremolo」)からライブがスタート。複雑な響きの流麗なトレモロが静まりかえった会場に響きます。


2曲目の「Cantus Bradus」(「Dance of the Elders」収録曲)から3人の達人による演奏へ。包み込むような穏やかな出音、ジャズの範疇にとどまらないニューエイジ感のある音楽、霧にかすむ東欧の森のような風景が脳裏に浮かびます。


後半エレキギターに持ち替えてからはフリーな要素が加わり、ムースピールのギターに、スコット・コリーの個性的なラインのウッドベースと、ブライアン・ブレイドのダイナミックレンジの広いドラムスが有機的に絡みます。


ブレイドのドラムはウェイン・ショーター(Wayne Shorter)のバンドでも観たのですが、とにかく鳴る、響く、そして歌う。ピアニッシモの微細なブラシ音から大きく激しい音まで変幻自在。その完璧なサウンドコントロールの技に今回も鳥肌が立ちました。楽器も、こんな名人たちに弾いてもらえて本望だろうと、なぜか楽器目線で考えてしまうほどの見事な演奏が最後まで続きました。


メンバー:Wolfgang Muthspiel(g)、Brian Blade(ds)、Scott Colley(b)




エスペランサ・スポルディング

(2024年11月1日 ビルボードライブ横浜 2nd)

8. エスペランサ・スポルディング「Formwela 4 feat. Corey King」(2021年)



現代ジャズの進化を支える重要人物の一人、ベーシスト&シンガーソングライターのエスペランサ・スポルディング(Esperanza Spalding)が7年ぶりに来日。


エスペランサはこの7年の間にも、身体のさまざまな器官、機能、エネルギー、ヒーリングを題材にした「12 Little Spells」(2019年)、人々のストレスや悲しみを和らげるため、多様な分野の専門家との研究コラボから生まれたヒーリング・アルバム「Songwrights Apothecary Lab」(2021年)、さらには"ブラジルの声"の異名をもつ偉大なシンガーソングライター、ミルトン・ナシメント(Milton Nascimento)と共演した記念碑的アルバム「Milton + esperanza」(2024年)などの各種の作品を発表し、アーティストとして不断の進化を続けていました。


筆者は2011年2月の初来日ライブでその音楽性とベースプレイに惚れ込み、その後のエスペランサの来日ライブはほぼ欠かさず観ています。これらのアルバム制作を経た彼女がどのような音楽を聴かせてくれるのか、今回のライブが非常に楽しみでした。


バンドは、ギターのマシュー・スティーヴンス(Mattew Stevens)以外はライブでは初めて見るメンバーで、しかもそのうち2人はダンサー! アルバム「Songwrights Apothecary Lab」の1曲目「Formwela 1」でステージは始まり、2曲目はガラッと雰囲気を変えて「Ponta de Areia」。エスペランサが自身のセカンドアルバムでカバーしたミルトン・ナシメントの名曲です。


この時点の最新アルバム「Milton + esperanza」の曲が聴けると期待した人も多かったと思いますが、結局ミルトンの曲はこの1曲のみ。基本的には「12 Little Spells」と「Songwrights Apothecary Lab」の曲で構成されたステージでした。


時折、バンドのジャムっぽい演奏をバックに、ダンサーによるコンテンポラリーな即興ダンスシークエンスが挿入され、そこではまるで焚き火を囲んで集うトライブ(Tribe)の踊りを近くで観ているような、以前のライブにはなかった何か原初的なイメージが湧きました。エスペランサが"族長"、あるいは"神の子"のような神々しい存在に見えてくるから不思議です。


アンコール1曲目に演奏された「Formwela 4」では、エスペランサのアコースティックギターを爪弾く音とメンバーのコーラスが、よりいっそう原初的なイメージと一体感を増幅させました。


個人的には、やはりフレットレスのエレキベースを自由に弾くエスペランサは最高だし、「I Know You Know」や「Black Gold」といった初期の曲(ただし、アレンジは変えまくり。さすがです)が聴けたことにも感動しました。


それにしても、ステージで踊り出すエスペランサは初めて見ましたし、ましてやダンサー2人と一緒に腰を振るシーンを目撃するとは予想もしていなかった!


常に進化を続け、同じものは二度と作らない彼女ですが、さらに大きな変化が起きる予感がします。まだまだこの人からは目が離せません。


メンバー:Esperanza Spalding(b, vo)、Matthew Stevens(g)、Eric Doob(ds)、Kaylin Horgan(dancer)、Tashae Udo(dancer)




最後に

このほかにも2024年は多くのライブを観ました。また、この記事には間に合いませんが、11月末には、以前の記事で取り上げたナラ・シネフロ(Nala Sinephro)の初来日公演などもあります。そうそう、同じ記事で取り上げたフェルボム(Felbm)の初来日ライブも8月にありました。


しかし、観たくても諸事情で観られなかったライブも多数。そんな時、配信でライブを観られるサービスが普及してきたのは助かりますね。米国の音楽フェス、コーチェラ・フェスティバルでのブリタニー・ハワード(Brittany Howard)、ブルーノート東京でのアマーロ・フレイタス(Amaro Freitas)など、オンラインではあっても、アーティストの魂、気持ちが伝わってくる素晴らしいパフォーマンスを観ることができました。


来年も皆さんが、いい音楽とライブに出会えますように!


※記事の情報は2024年12月10日時点のものです。

  • プロフィール画像 ミュージック・リスニング・マシーン:シブヤモトマチ

    【PROFILE】

    シブヤモトマチ
    クリエイティブ・ディレクター、コピーライター。ジャズ、南米、ロックなど音楽は何でも聴きますが、特に新譜に興味あり。音楽が好きな人と音楽の話をするとライフが少し回復します。

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