趣味
2023.08.22
まろさん おひとりプロデューサー〈インタビュー〉
まろ|「おひとりさま」の時間が人生を豊かにしてくれる
ひとり時間を楽しむためのメディア「おひとりさま。」を運営するまろさん。ひとり時間の過ごし方についての情報を発信し、ひとりでホテルに泊まるのが好きな女性が主人公の漫画「おひとりさまホテル」(漫画:マキヒロチ氏)の原案も務めています。「ひとりの時間を持てたら、人生に前向きになれる」というまろさんに、メディアを始めたきっかけや「ひとりホテルステイ」の魅力、今後の活動などについてお聞きしました。
写真:川島 彩水
ひとりだからこそ、いろいろな発見がある
──「おひとりさま。」はいつ、どのようなきっかけで始めたのですか。
始めたのは2017年、社会人2年目の時です。新卒で入りたい会社に入れたものの、希望とは異なる部署に配属されました。与えられた仕事をきちんとこなしてはいましたが、調整業務の割合が多い部署だったので、てきぱき仕事を進めると時間が余ってしまっていたんです。それで、「これはまずい。脳みそを使わなければ、自分がダメになってしまう」と考えるようになりました。
そこで目をつけたのがインスタグラムでした。いろんな人の投稿を見るのが好きでよくチェックしていたのですが、自分でもインスタグラムを使って何か発信できないかと考えたんです。自分が好きなことでほかの人のニーズがあることって何だろうと考え、「ひとり時間」をテーマにすることを決めて、副業で「おひとりさま。」を始めました。
──「ひとり時間」をテーマにしたのは、なぜですか。
よく雑誌で「ひとり時間」の特集が組まれていますが、それに特化したメディアはないなあと思ったんです。私自身、ひとり時間を楽しむための情報を求めていたし、そういうメディアがあったらいいなと。行ってみたいお店があっても、そこがひとりで行っても大丈夫か、楽しめるかどうかって、分からないことも多いので。
──ひとり時間を自分だけで楽しむのではなく、誰かに伝えたいと思ったのですね。
もともと自分だけで何かを感じるよりも、自分が感動したことやすごいと思ったことをほかの人にも知ってほしいなという思いが強く、学生時代には大学の体育会各部の動向を伝える「スポーツ新聞会」というサークルに所属していました。スポーツが好きなので、いろんなスポーツの選手を取材してその人やスポーツの魅力を伝えるのが楽しかったです。
──もともとひとりで過ごすことがお好きだったのですか。
この活動をしていると「ひとりが好きなんですね」と言われることがありますが、ひとりで過ごす時間と誰かと過ごす時間、両方大事だと思っています。でも、ひとり時間がないと辛いです。なので、高校時代の修学旅行で1週間、集団行動しなくてはいけなかった時はきつかったですね(笑)。
──まろさんにとって、ひとりで過ごす時間はどんな意味があるのでしょうか。
ひとりで過ごしていると、新しい自分と出合うことができたり、自分の人生で大事なものって何だろう? と前向きに見えてくるものがあったりします。行ってみたい所がある時に、ひとりなら誰かと予定を合わせる必要がなく、さっと行くことができるので行動範囲が広がります。それに、街を歩いていると、いろいろな発見があって、街と会話できるのもひとりならではかなと思います。誰かといると、その人との会話に夢中になってしまうので。
ひとりで自分と向き合う時間を持てたら、人生に対して前向きに、もっと人生が豊かになるんじゃないかなと思うんです。「おひとりさま。」の活動を始めた社会人2年目の時に、周りで「人生はこうあるべき」という「べき論」を聞くことが増え始め、それに対して「もっと自分軸で考えてもいいんじゃないかな」と考えるようになりました。
ひとりで旅に出ると、旅先で入ったお店の常連さんと仲良くなったりして、コミュニティーが広がります。人間関係で悩んだときは、ぜひひとりで旅に出たり、街を歩いてみたりしてほしい。この広い世界には、きっとどこかに自分に合うコミュニティーがありますから!
──まろさんご自身、旅先でどんな出会いがありましたか。
ひとりで沖縄に行った時のことです。居酒屋のカウンターでたまたま隣に座っていたのが韓国人の女の子で、お互い仕事のことは明かさずに話していたのですが、常連のおじさんが記念写真を撮ってくれて。それで連絡先を交換したら、彼女は、私が原案を務めている漫画「おひとりさまホテル」を韓国で発行する予定の出版社で働いていたことが分かったんです。出会った時は日本の大学でメディアを研究していて、研究発表でたまたま沖縄に来ていたんです。私もメディア業界にいたので、話が尽きず、居酒屋の後に国際通りのスターバックスに移動し、遅くまで語り合いました(笑)。
日本は「おひとりさま」にやさしい国
──「おひとりさま。」を運営する中で、苦労されたことはありますか。
「とりあえずやってみよう!」という気持ちで、アイデアを思いついてすぐにスタートしました。インスタグラムなら金銭的なリスクもありませんし。でも、とりあえず過ぎて何の戦略もなく、なかなかフォロワーが増えませんでした......(笑)。ただ、「ひとり時間」というコンセプトには自信があったので、SNSのコンサルタントにアカウントを見てもらってテコ入れし、現在はフォロワーが5.9万人を超えました(2023年8月21日現在)。
でも、「フォロワーを増やしたい」とか「有名になりたい」とかそういう気持ちよりも、「ひとり時間の楽しみ」をもっと国内外で広めたいという気持ちの方が断然大きいです。本当はひとりで過ごしてみたいけど、一歩を踏み出せていない方がいたら、もったいないと思うので、そういう方の背中を押してあげたいです。
日本って「おひとりさま」にやさしい国だと思うんです。ひとりでも入れる店がたくさんあるし、孤食文化もある。日本でひとりで何かをするって、そこまでハードルが高くないんですよね。でも社会としては集団行動が求められることも多く、そのギャップが面白いなと思っています。
──確かに、特に欧米にひとりで行くと外でご飯を食べる時に困ることがあります。
来日したアメリカのある女優さんが、雑誌のインタビューで「ひとりでご飯を食べに行ったのですが、その体験が新鮮でした。でもひとりの時間がとても尊くて、この文化はすごくすてきだと思いました」というようなことを言っていて、思わずうなずいてしまいました。
海外の人からしたら、お店でひとりでご飯を食べられるって新鮮なんですよね。おいしい牛丼チェーンや回転寿司がある日本は、ひとりご飯のパラダイスです(笑)。
──日本人にとっては当たり前のことが、海外の人には新鮮にうつるのですね。
海外の旅行会社の方と話していた時も「アメリカでは"ひとりホテルステイ"は考えられない」という話題になりました。「なんでわざわざバケーションでひとりになるの? 寂しいじゃん」と。
孤食文化のある日本でも、ホテルに関しては「ひとりホテルステイ」がまだそれほど広がっていないと感じているので、もっと広げていきたいですね。
年間200日以上は「ひとりホテルステイ」
──まろさんが「ひとりホテルステイ」を楽しむようになったのには、何かきっかけがあったのですか。
きっかけは、2019年に東京の日本橋浜町にHAMACHO HOTELが開業したことです。ある雑誌で浜町を特集していたのを読んで「この街に行ってみたい」と興味を持ったのが始まりなのですが、初めてひとりで宿泊して、その楽しさに目覚めました。
私はハマると一途になるタイプで(笑)、開業以来HAMACHO HOTELには100日以上宿泊しています。都内のホテルは、身構えなくても来られるのがいいですね。マッサージなどと同じ感覚でリフレッシュできます。
──平日もホテルに宿泊して、ホテルから仕事に行くこともあるそうですね。年間どれくらいホテルに泊まっているのですか。
平日に連泊したりして、200日以上は泊まっていますね。今日も、宿泊先の日本青年館ホテルから来ました。目の前に神宮球場があるのですが、ちょうど高校野球の時期(取材日は7月下旬)なので、朝8時から高校球児たちの練習の声が聞こえてきて、とても新鮮でした。
私は東京生まれ、東京育ちですが、ホテルに泊まると自分の知らなかった東京を感じられて面白いです。ホテル暮らしを始める前は、「そろそろ東京に飽きてきたな?」なんて思っていたのですが、それは自分の行動範囲が限られたエリアになってしまっていたからだと気づきました。いろんな街に暮らすようにホテルに泊まると、新しい発見があって新鮮です。東京出身でも、知らないことがたくさんあります。
──1年の3分の2はホテル暮らしなのですね......! 「ひとりホテルステイ」の魅力とは何でしょうか。
まず、「ひとりホテルステイ」は、自分を甘やかす時間の使い方として最高であることを伝えたいです。チェックインしたら、思う存分ダラダラできます。すてきな空間の中で、すっぴんでNetflixも見放題です(笑)。普段の生活の中にあるいろんなルールに縛られることなく、自分の好きなように自由に過ごすことができます。
それから、誰かがこだわって作った空間にとことん身を委ねられるのも心地いいですね。ひとりで泊まると、部屋の細部まで楽しめるのがいいところ。友人と泊まるのもそれはそれで楽しいですが、おしゃべりに夢中になって、細かいところにまで目がいきません。ひとりで泊まるからこそ、「ホテル」という作品を堪能することができます。
──おすすめの泊まり方はありますか。
「日月ステイ」をもっと広めたいです。ホテルというと「土日ステイ」を思い浮かべる方が多いと思いますが、週末だと混むし、料金も高くなりがちです。それが「日月ステイ」だと、宿泊客が少なくなったホテルを満喫することができ、料金も下がるんです! 都内にお勤めの方なら、都内のホテルに泊まれば、ホテルからそのまま出社できます。いつもよりいい朝食を食べて、月曜から気分よく仕事を始められて、いいことずくめです(笑)。
──とはいえ、ひとりでホテルに泊まるのにハードルを感じてしまう人もいるかと思います。
そうですね。「やってみたいけど勇気が出ない」という声を聞くのも事実です。よく聞くのは「夜ご飯をどうしたらよいか」と「時間を持て余してしまうのではないか」という2つのハードルです。
それらの問題を解決するために、ホテルとコラボして「おひとりさまプラン」を作ることもしています。ひとり向けディナーを考案したり、街歩きが楽しくなるようなホテルの近隣マップを作ったり。ひとり向けプランを作ることは、「おひとりさまウェルカム」というホテルのメッセージを伝えることにもなりますし、何より「ひとりホテルステイ」をやってみたいという人の心理的ハードルを下げられたらうれしいですね。
海外でも注目されている「Me Time」
──今後やってみたいことはありますか。
勤めていた会社を退職し、9月からフリーランスとして活動していくのですが、これまで以上に「ひとり時間の楽しみ方」にコミットしていきたいと思っています。インスタグラムでの発信にとどまらず、海外の人にももっと広めていきたいですね。
新たな活動のひとつとして、2023年7月1日から「おひとりくらぶ。」を始めました。ずっとやってみたいと思っていたオンラインコミュニティーで、旅や温泉、グルメ、美術館などのジャンルやエリアごとに掲示板を作って、会員同士での交流を楽しんでいます。ひとりでメディアをやっていると、良くも悪くも私の趣味嗜好に偏ってしまうので、もっといろんなひとりの過ごし方があっていいと思っていました。
スタートして約1カ月、会員の皆さんが本当に個性的でめちゃくちゃ面白いです! 全国のマラソン大会に参加しながらひとり旅を楽しんでいる方や、映画館でのホラー映画鑑賞と発酵風呂でのクールダウンを必ずセットで(笑)ひとりで楽しんでる方など、多様なひとり時間の過ごし方があって、すごく刺激をもらっています。
──海外への発信についても、展望を聞かせていただけますか。
「おひとりさまホテル」はアジア数カ国でも出版される予定ですが、まずは漫画をきっかけに、ひとりでホテルに泊まる良さを感じてもらえたらと思います。実在するホテルを紹介しているので、ガイドブック的にも使ってもらえたらうれしいですね。
おひとりさまの文化がある日本は、ひとりで旅をしやすい国でもあります。お茶や坐禅など日本を感じられるリトリート*のプログラムを用意して、ひとり時間の楽しみ方を伝えていけたらと思います。
最近、アメリカでも自分のために使う時間を「Me Time」といって、ひとり時間を大切にする風潮が強まりつつあるようです。アメリカにはカウンセリングの文化があるので、自分の心身を大事にする「Me Time」が広がる素地はあると思います。「Me Time」を過ごすために日本に来た方が、存分にひとりの時間を楽しめるようなプランを考えていきたいですね。
*リトリート:日常から離れた環境に身を置き、非日常の体験を楽しみ、心身ともにリラックスすること。
──お話の端々から、ひとりで過ごす時間を大切にしたい気持ちと「おひとりさま。」の活動にかけるまろさんの情熱が伝わってきて、とても楽しいインタビューでした。ひとり時間を大切にする人が増え、「おひとりさま」という日本のカルチャーが世界に広がっていくことを期待しています!
■取材協力
HAMACHO HOTEL
※記事の情報は2023年8月22日時点のものです。
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【PROFILE】
まろ
おひとりプロデューサー。ひとり時間の楽しい過ごし方を提案するメディア「おひとりさま。」をInstagram(@ohitorigram)中心に運営。Instagramのフォロワーは5.9万人超 (2023年8月現在)。 自身が原案のマンガ「おひとりさまホテル」(漫画:マキヒロチ氏)のコミックス第2巻が発売中。「Hanako.tokyo」での「まろが行く。ひとりホテルのすゝめ」(https://hanako.tokyo/tags/maro-hotel-alone/)連載など執筆活動を行うほか、ホテルなどとコラボして、おひとりさま向けプランの企画・プロデュースも手掛ける。2023年7月には"ひとり時間をみんなでつくる"会員制コミュニティー「おひとりくらぶ。」をオープン。
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