【連載】新しい扉を開く“ひとりホテルステイ”
2023.08.29
まろ
ここまで、やっちゃう!? "尖りすぎ"なホテルに刺激される
英気を養い、創造力を高めるためには、日常から離れ、自分と向き合う時間も必要です。この連載「新しい扉を開く"ひとりホテルステイ"」では、おひとりプロデューサーとして活躍するまろさんに、ひとりで過ごすのにぴったりなホテルを、3回にわたってご紹介いただきます。第1回のテーマは、創造力を刺激する「"尖りすぎ"なホテル」です。
初めまして! ひとり時間の過ごし方を提案する「おひとりさま。」というメディアを運営している、まろです。
この8月に第2巻が発売された漫画「おひとりさまホテル」の原案者にもなっているほど、私は大の"ひとりホテルステイ"好き。ホテルの世界観にどっぷりつかりたくて、あえてひとりで各地に泊まりに行っています。
この連載では、ひとりステイを通して"新しい扉"が開くような、自分の感性が刺激される国内のホテルを、テーマ別にまとめて紹介していきます。第1回は、「"尖りすぎ"なホテル」です。
テレビ塔に泊まれる! ここにしかないワクワク感「THE TOWER HOTEL NAGOYA」
国指定の重要文化財でもある愛知県名古屋市の中部電力 MIRAI TOWER(旧名古屋テレビ塔)内に2020年にオープンした、全15室のスモールラグジュアリーホテル「THE TOWER HOTEL NAGOYA」。漫画「おひとりさまホテル」第2巻にも登場しているホテルです!
この写真を見た時点で「!?」と驚きますよね。そう、なんとテレビ塔の中に泊まれてしまう"世界初"のホテルなんです(写真下のちょっと出っ張った所が、お部屋になっています!)。もうこのアイデアだけであっぱれなのに、実現しちゃうところがすごいですよね。
フロントまでのエレベーターが塔内を通過するので、最初からワクワクが止まらないのですが、気になるお部屋はというと......こちら! テレビ塔を支える鉄骨がフロアを突き抜けているんです。かっこよすぎませんか......。
早速の変態発言ですが(笑)、この鉄骨がかっこよすぎて、ずっと眺められちゃうわけですよ。鉄骨越しの公園の景色、夜の鉄骨の影。いや~、いつどの角度から見てもかっこいい!
そして、私が最も感動したのが、22~24時にテレビ塔の展望台エリアに行くことができるという宿泊者限定の特典! 館内に隠されている"秘密のエレベーター"に乗って、展望台エリアに着くと、なんと私以外だれもおらず、名古屋の夜景をひとり占めできてしまったのでした。なんとロマンチックなこと......。
テレビ塔に泊まれるというだけですごいのに、こんな仕掛けで楽しませてくれるなんて、素敵ですよね。ちなみに、このホテルはSLH(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド)*1の「アート愛好家のための必見ブティックホテル世界10選」にも選ばれていて、館内の至る所にアート作品が散りばめられているので、そちらもお見逃しなく。
*1 SLH(スモール・ラグジュアリー・ホテルズ・オブ・ザ・ワールド):90カ国以上の520軒を超える独立系ラグジュアリーホテルが加盟する、小規模ラグジュアリーホテルの会員組織。
妥協したのは"シーツ"だけ!? 突き抜けたアートホテル「白井屋ホテル」
2020年12月に群馬県前橋市に誕生した「白井屋(しろいや)ホテル」。取り壊しの危機にあった、300年も続く老舗旅館「白井屋」を、前橋出身の起業家で、アイウエアブランド「JINS」の創業者である田中仁(たなか・ひとし)さんが私財で買い取り、世界中のクリエイターたちが集結して生まれ変わらせたアートホテルです。
設計は、建築家の藤本壮介(ふじもと・そうすけ)さん。既存施設をリノベーションした「ヘリテージタワー」と、新設した「グリーンタワー」の2棟があります。初めて訪れた時はもちろんのこと、何度来ても「おおおお」と叫びたくなってしまうような"突き抜けた"空間なんです。ヘリテージタワーの吹き抜けなんて、普通にもうけを追求しようとしたら客室として利用するところを、あえてそぎ落として空間が出来上がっており、本当に圧巻です。さらに美しいアートや植栽で彩られていて、まさに唯一無二の空間。
お部屋はスタンダードタイプもあるのですが、ここに来たからにはぜひ泊まってほしいのが、世界有数のクリエイターが手掛けた「スペシャルルーム」。なかでも私のいち押しは、部屋中に金色の水道管が張り巡らされた「レアンドロ・エルリッヒルーム」です。
よく見ると、ソファのひじ掛けが水道管になっていたり、歯ブラシ立てもパイプの接合パーツになっていたり! 遊び心満載で抜かりないです。
正直、こんなにすごければ食事が多少まずくても構わないと思っていたのですが(笑)、これがしっかり美味しくて。メインダイニング「the RESTAURANT」では、群馬の食文化をあっと驚くイノベーティブな手法で表現したフレンチをいただくことができるのですが、カウンターでひとり、思わず踊り出してしまうほど(笑)楽しくて、感動しました。今まで泊まったなかで一番かも......。
さらに、グリーンタワーにはプライベートサウナも併設されていて、心身をリセットして、創造力のスイッチを入れることができます! 「ベッドルームサウナ」は、ベッドとサイドテーブルのあるベッドルームのようになっていて、花瓶にアロマ水を注いでロウリュ*2ができちゃうんですよ。おしゃれ......。
*2 ロウリュ:フィンランドのサウナ入浴法のひとつ。熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる。
ホテルって、「ここはこうせざるを得なかったんだろうなあ」という妥協ポイントがどこかにあると思うのですが、白井屋ホテルにはそれが一切見つかりません。オーナーの田中さんが、設計を手掛けた藤本さんとの対談で「妥協したのは、ベッドのシーツだけ」とおっしゃっていて、シーツ以外は妥協がなかったのか! と納得しました。
ちなみに、取り入れたかったシーツは超特殊な素材で洗うのが難しいことが分かり、シーツを洗うためにクリーニング屋をつくることも考えたものの、やめたのだそう。すごすぎますよね(笑)。 この突き抜けたカッコよさ、ぜひひとりで泊まって、じっくり体感してほしいです。
建築家・坂茂がこだわり抜いた、軽井沢の "生きた"リトリート施設「ししいわハウス」
続いて紹介するのは、建築家がデザインする自然の中のリトリート*3施設「ししいわハウス」。長野の軽井沢にあり、2018年にできた1棟目「SSH No.01」を手掛けたのが、建築家の坂茂(ばん・しげる)さんです。
*3 リトリート:日常から離れた環境に身を置き、非日常の体験を楽しみ、心身ともにリラックスすること。
なんというか、もちろんいろんな制限はあると思うのですが、「坂さんが伸び伸びと作ったのだろうな」ということが感じられる気持ちのいい空間になっています。この外観から分かるように、建物がもともとあった樹々に沿ってうねっているのが印象的で、このうねりが"生き物"のように感じられるんですよね。
滞在していると、トトロのような生き物のうえで眠っているような、ハグされて包まれているような感覚になってきます。坂さんが手掛けているインテリアの一つひとつも、愛らしい生き物に見えてきて、思わず滞在の最後にスケッチしてしまいました。
お部屋はコンパクトで、共有部が広いのも特徴。最初は、お部屋が広い方がいいな~と思っていたのですが、行ってみたらみんなでシェアする空間が広いのっていいなあと。宿泊者同士で新たな出会いが生まれたりしそうで、ワクワクしますね。
そして、ここはお風呂が本当に気持ち良いんですよ。軽井沢の景色をたっぷり感じながら、湯船につかることができます。「外から見えているのではないか?」と不安になるくらい大胆なつくりなのですが、それも気にならないくらい(笑)開放的な気分になれます。
ちなみに、今回紹介したのは「ししいわハウス」の1棟目で、同じ敷地内にある2棟目も坂さんが手掛けられています。2023年5月には建築家の西沢立衛(にしざわ・りゅうえ)さんが手掛けた3棟目もオープンするなど、今後もししいわハウスから目が離せません!
いかがでしたか? つい大胆さを恐れて、丸くなりがちなときに、ぜひこれらの"尖ったホテル"に泊まって、眠っているクリエイティビティーを呼び起こしてみてください。という私も、この9月からフリーランス転向でびくついているので、行かなきゃ......!(笑)
※記事の情報は2023年8月29日時点のものです。
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【PROFILE】
まろ
おひとりプロデューサー。ひとり時間の楽しい過ごし方を提案するメディア「おひとりさま。」をInstagram(@ohitorigram)中心に運営。Instagramのフォロワーは6万人超 (2023年10月現在)。 自身が原案のマンガ「おひとりさまホテル」(漫画:マキヒロチ氏)のコミックス第2巻が発売中。「Hanako.tokyo」での「まろが行く。ひとりホテルのすゝめ」(https://hanako.tokyo/tags/maro-hotel-alone/)連載など執筆活動を行うほか、ホテルなどとコラボして、おひとりさま向けプランの企画・プロデュースも手掛ける。2023年7月には"ひとり時間をみんなでつくる"会員制コミュニティー「おひとりくらぶ。」をオープン。
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