【連載】SDGsリレーインタビュー
2021.08.03
上田壮一さん 一般社団法人Think the Earth理事/プロデューサー〈インタビュー〉
SDGsについて上田壮一さんに聞いてみた(前編)
世界的に注目を集めている「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。そこにはより良い世界を実現するための17のゴールが設定されています。なぜ私たちは今、SDGsに取り組まなくてはいけないのでしょうか。そして「持続可能な開発」とは何を指すのでしょうか。SDGsリレーインタビュー、第1回はSDGsを学校教育に届ける活動「SDGs for School」を推進し、その教材書籍「未来を変える目標 SDGsアイデアブック」を編集・発行した一般社団法人Think the Earth理事の上田壮一さんに、SDGsについて基本的な質問をしてみました。
今までのやりかたで続けられる期間はどんどん短くなっている
――SDGsが世界的に注目を集めていますが、SDGsを気にせず今まで通りに暮らすことってできないのでしょうか。
しばらくの間は今のやり方で続けられると思いますが、そのまま続けられる期間は限られていると思います。すでに今までにはなかった事態が起きていますし、それは年々深刻化していますから、続けられる期間はどんどん短くなっています。
――なぜ今まで通りに暮らせなくなるのですか。
これまでは資源やエネルギーをバンバン使って、どんどん物を作り、要らなくなったら全部捨てるという20世紀型の産業構造で文明が発達し、人口も増えてきました。地球上の多くの国が工業化を目指す中、エネルギーのほとんどを化石燃料に頼ってきました。その結果大気中にCO2などの温室効果ガスが増え、最近頻発している気象災害に象徴されるように、地球環境のゆらぎが大きくなっていると言われています。20世紀型の産業構造は地球には無限に資源があると思い込んで、とにかく経済的な発展を第一に進めてきました。ところが世界中でそれをやったところ、人間社会と地球との関係が悪化し始めてしまったのです。
――このままだと、今後どのような問題が発生するのでしょうか。
特に気候変動、生物多様性など環境破壊の問題が大きいと思います。気候で言えば、例えば今年の梅雨の期間に日本各地でいくつも線状降水帯が発生しました。これまで線状降水帯という気象現象は専門家しか知らない言葉でしたが、近年頻発しており、テレビのお天気コーナーでも普通に使われるようになりました。今では当たり前に使う「猛暑日」も2007年から正式に使われるようになった言葉です。これらは地球の気候に大きな変化が起きていることを示していて、多くの科学者は人間の活動が大きな要因になっていると考えています。
また土地を切り開いたり、動植物を乱獲したりすることで生態系も破壊されています。地球上に生物は今3000万種以上いると言われていますが、その多様性が失われつつあります。ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム博士らが地球の危機の境界線を示したプラネタリーバウンダリーという図でも生物多様性の危機は境界線を大きく越えてしまっています。例えば森や草原がなくなると、そこに暮らしていた動物、植物が生存できなくなり多様な自然が失われます。地球上には人間しかいないわけではなく、あらゆる生命とともに生きていますし、人間の暮らしも社会も経済も、すべて自然の恩恵の上に成り立っています。そこのバランスが崩れると大変なことになりますが、それはもう現実のものになってきています。
「サステナブル・デベロップメント」とは、私たちと将来世代の幸せを一緒に考えて開発すること
――地球環境を保全するために経済活動を縮小することがSDGsの狙いなのでしょうか。
そうではありません。SD、つまりサステナブル・デベロップメントとは適切な開発によって人間の幸せを持続させることを目指しています。では具体的に「持続的な開発」とはどういうことなのか。その定義*1は「次の世代のニーズを損なうことなく、我々の世代のニーズを満たす開発」とされています。これを分かりやすく言うと、子どもや孫たちの幸せを損なうことなく、我々の幸せを追求する。日本語で言うと「足るを知る」に近いと僕は思っています。
*1「環境と開発に関する世界委員会」(委員長:グロ・ハーレム・ブルントラント/ノルウェー首相=当時)が1987年に公表した報告書「Our Common Future」の中心的な考え方として取り上げた概念。
――次の世代が幸せに生きられることを担保しながら、自分の幸せを追求する、ということですか。
そうなんです。ですから100年後の世代に何かが足りなくなるような開発であれば、それはやめましょうということです。僕は、個人的には人間だけではなく、他の生物についてもちゃんと考えることが定義に入るといいなと思っています。
日本のSDGsは「ジェンダー」「環境」が遅れている
――現在世界各国がSDGsに取り組んでいるわけですが、日本のSDGsへの取り組みで進んでいる点、遅れている点を教えてください。
あるNPOが作ったSDGs達成度の世界ランキング(参考:「サステナブル・ブランド ジャパン」)では、日本は4番の「質の高い教育」、9番の「技術革新の基盤」、16番の「平和と公正」が達成済みの緑ランプ、5番の「ジェンダー平等」と13、14、15番の「環境」関連、17番の「パートナーシップ」はまだ大きな課題であることを示す赤ランプとなっています。進んでいる点で言えば、日本ではほとんどの人が読み書きできますから、教育の質は高いと思います。そして技術基盤に関しても戦後急速に技術が発達し、今現在多くの人が簡単にインターネットにアクセスできることを考えると日本は頑張っていると言えるでしょう。
ただ、教育現場では、いじめの問題が後を絶たず、教師の過酷な労働環境が指摘され、18万人もいる不登校の子どもたちを包摂する制度作りはこれからです。技術基盤の面ではコロナ禍でやっとリモートの環境が整い始めたくらいですし、16番も街は安全に歩けるかもしれませんがDVなどの問題は深刻です。それぞれの現場で考えると、とても進んでいると胸を張れる状況ではないかもしれません。なので、他国に比べて相対的に進んでいると考えた方がよいと思います。
一方、明らかに遅れている点で言えば、5番のジェンダーは極端に意識が低い国の1つです。特に政治、経済の面では先進国の中でも最低レベルです。実際見回してみると、男女平等と言える議会も組織もほとんどありません。女性はこうしなきゃいけない、男性はこうしなきゃいけないという社会通念が非常に強い国だと言えるでしょう。先日経団連が発表した目標値が「2030年までに女性役員比率30%」です。目標値でこれですから、日本では女性が社会で活躍する場は男性に比べて圧倒的に少ないのが実情です。
また13番の気候変動については、国際会議で何度も「化石賞」*2を取ってしまうぐらい意欲も目標値も低く、相当遅れているとされてきた分野です。14番の海の環境については、日本は海に囲まれた国で魚を食べるので、海の資源を守る意識は強いのですが、日本では天然の魚介類の価値がとても高いですよね。今、世界では天然物よりも養殖の水産物を選ぶ人が増えています。ただしこれらの話は食文化に関わる問題ですので、一概に世界に追随すればいいわけではないのが難しいところですが、日本でも「サステナブルシーフード」についての議論は始まっています。
*2 化石賞:地球温暖化対策に前向きな取り組みを見せない国に対して、NGOがバッドジョークとして与える不名誉な賞。1999年のCOP5(ドイツ・ボン)において始められ、以来、恒例のセレモニーとして継続的に実施されている。
生活の中のアクションだけでなく、仕事を通じてSDGsに貢献することを考えてみる
――SDGsの達成目標である2030年まで、残り10年を切っています。今は「行動の10年」として取り組みの加速が要請されていますが、私たちが実際にできることにはどんなことがあるでしょうか。
生活の中でのアクションだけでなく、仕事を通じたアクションをしよう、というのが僕の考え方です。エアコンの設定温度を過度に上げ下げしない、待機電力を減らしましょう、ゴミはちゃんと分別しましょう、といったモラル、生活改善はもちろん大切で、僕たちができることとして間違っていない。でも、それだけでは世界は多分変わらない。それ以上のことをやらなきゃいけないというのが、SDGsが発信している大切なメッセージだと思います。
――SDGsを仕事でやる、とはどういうことですか。
大人のみなさんはお仕事してますよね。働いているじゃないですか。例えば行政の人たちや法律を作る人は、制度改革のところで頑張れます。企業に勤めている方、技術者、科学者なら、イノベーションが起こせる。そこには技術的なイノベーションもあれば、ビジネスモデルのイノベーションもあると思います。そして我々のようにメディア、コミュニケーション、教育に携わっている人なら、意識改革の分野で頑張れます。そのように仕事の場でできること、SDGsに貢献できることは必ずあるはずで、それは暮らしの中のことより、たぶん大きな力を持っています。より多くの人が仕事を通じて持続可能な社会を目指すようになれば、ずいぶん世の中は変わるんじゃないかと思います。
しかも、SDGsが言っているのは、そうしたことを1人、1社でやるのではなくて、パートナーシップを組んでやろうという話です。それが17番の「パートナーシップで目標を達成しよう」です。ですから、そういう人たちが集まって新しいビジネスやイノベーションを創出する。また「創造と革新」をしている人をメディアで紹介することは社会変革を促進させる意義があると思います。
このように日々の生活での改革に加えて仕事でもSDGsに貢献できれば、それは生活と仕事、つまり人生そのものですから、人生全ての面でより良い社会づくりに貢献できるわけです。
――我々の日々の暮らし、そして日々の仕事の両方でSDGsにどう貢献できるかを意識するということですか。
そうです。さらに究極を言えば、SDGsは忘れてもいい、と思います。SDGsの何番なのか、といった答え合わせをするのはスケールが小さい話で、SDGsの先にある「次世代のために、よりよい世界を実現する」という意識を持つことができれば、SDGsにこだわる必要はないと思います。
※記事の情報は2021年8月3日時点のものです。
後編に続く
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【PROFILE】
上田 壮一(うえだ そういち)
一般社団法人Think the Earth 理事/プロデューサー。1965年、兵庫県生まれ。東京大学大学院工学系研究科修了。広告代理店勤務を経て、2000年に株式会社スペースポート、2001年にThink the Earth設立。以来、コミュニケーションを通じて環境や社会について考え、行動するきっかけづくりを続けている。主な仕事に地球時計wn-1、携帯アプリ「live earth」、プラネタリウム映像「いきものがたり」、書籍「百年の愚行」、「1秒の世界」、「グリーンパワーブック 再生可能エネルギー入門」ほか多数。2017年にSDGsの教育普及プロジェクト「SDGs for School」を開始し、書籍「未来を変える目標 SDGsアイデアブック」を編集・発行した。多摩美術大学客員教授。
Think the Earth
https://www.thinktheearth.net/jp/
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