坂口由里香のBeach Days
2024.03.29
ビーチバレーボール選手:坂口由里香
決められたことを毎日続ける、メンテナンスをきちんとできる選手が長く活躍できる【坂口由里香×橋本玲子 対談 後編】
世界を舞台に奮闘しながらパリ五輪を目指すビーチバレーボール選手 坂口由里香さんと、管理栄養士/公認スポーツ栄養士の橋本玲子さんが、「アスリートと食」をテーマにトーク。後編では具体的に坂口選手がとった方がいい食事量、海外遠征時に持って行くと良いものなどを、橋本さんに教えていただきました。
前編はこちら
写真:三井 公一
量が足りていない? 坂口選手の普段の食事
坂口:前編で必要な栄養などを教えていただきましたが、具体的には何をどれぐらいとればいいんでしょうか。
橋本:坂口さんの体重から割り出すと、平常時は1日約2,300kcal、トレーニングの日は2,600kcal以上。たんぱく質は体重1kg当たり×1.8g~2.0gとして1日100g以上。糖質はご飯に換算すると少なくともお茶碗6杯(1杯150g)程度は必要です。
坂口:ご飯6杯! それはやばい。例えば朝昼夜にお茶碗に2杯ずつ、1日で6杯ですか?
橋本:そうです。坂口さんに必要な量です。
坂口:本当ですか!? 私、糖質もたんぱく質も全然足りてないですね。ご飯6杯......そんなにおかわりしていいんですか。すごい......。今、朝はグラノーラを食べることが多くて、昼と夜はご飯1杯ずつです。圧倒的に量が足りてないんですね。
(資料提供:株式会社 Food Connection)
橋本:それはアスリートじゃなくて、一般女性の食べる量ですね(笑)。
坂口:グラノーラは市販されているものじゃなくて、自分で作っています。精製された白砂糖は使わずにメープルシロップを使ったりして、材料にはこだわっていますが。
橋本:市販のグラノーラは糖質が少なくないため、自分で作るのはいいと思います。ただ、1日を通して食べる量が少ないようです。きっと身体がそれに慣れてしまっているんですね。食べる量を少し増やすと一時的に体重は増えるかもしれませんが、トレーニングをしっかりして脂質などをとり過ぎなければ、ご飯を増やしても体脂肪は増えません。
坂口:確かにアスリートの中では少ない方かもしれません。ほかの選手が食べている量を見てびっくりすることがあります。やっぱり動物性のたんぱく質もとった方がいいんでしょうか。
(資料提供:株式会社 Food Connection)
試合前日の夜にとった方がいい肉は?
橋本:全く食べないというのは、控えた方がいいと思います。肉や魚、卵、牛乳、ヨーグルトなどの動物性たんぱく質に含まれるアミノ酸のロイシンには、筋肉量を増やしたり、維持する働きがあるんです。
動物性のものを全部避けてしまうと、たんぱく質を一所懸命とっても効率よく筋肉がつくられません。ビーチバレーの選手にとって瞬発力を発揮できる筋肉は重要なので、普通に食べられるのであればぜひ食べてください。
坂口:肉は鶏、豚、牛の中では好きなものを食べていいんですか?
橋本:それぞれに含まれる栄養素が違うので、まんべんなく食べるのがおすすめです。例えば牛肉の赤身のステーキには鉄が多く、貧血予防や改善にピッタリです。鶏肉には、風邪の予防や免疫力を維持するビタミンAが豊富に含まれます。豚肉はみなさんがよくご存知のビタミンB1の宝庫ですね。糖質をエネルギーに変える働きを助けてくれます。食べ方としては、今日牛肉を食べたら、明日は豚肉というふうに、ローテーションすると栄養のバランスが整えやすくなります。
坂口:試合前日の夜はどれをとった方がいいとかあるんでしょうか。ビーチバレーは1日2試合、それが3日間とか続いて、それも真夏の炎天下でって、結構クレイジーなんです。
橋本:1日2試合はハードですね。
坂口:以前、豚肉は疲労回復にいいって教えてもらって、昨シーズンは1日目から3日目まで、試合後の夕飯は豚肉をがんばって食べていたんです。
橋本:試合に合わせてエネルギー源となるご飯などをしっかり食べる場合は、ビタミンB1をセットでとるようにしましょう。例えば、試合前日の夕食に豚の生姜焼きを食べ、試合が終わった後は筋グリコーゲンを回復させるため、ご飯と豚のしゃぶしゃぶを食べる。
試合中は豚肉を意識してとるのもいいですが、栄養の偏りを防ぐことも大切です。例えば、1日目は牛肉の赤身ステーキで鉄を補給し、スタミナ、持久力アップを図る。今日はちょっと胃がもたれて食欲がない、というときは鶏の胸肉やささみを使った料理がさっぱりしてるのでおすすめです。
海外に行ったときは牛肉の赤身ステーキが手に入りやすいので、しょうゆとわさびを持って行けばさっぱり食べられます。鶏肉も世界中どこへ行ってもありますし、魚であれば、サーモンがいいですね。
海外遠征時に持って行くと良い食品
編集部:海外のお話が出ましたが、海外遠征時に持って行くと良い食品はどんなものでしょうか。
橋本:今どのようなものを持って行ってますか?
坂口:お湯や水を入れただけでご飯になるアルファ米とお茶漬けの素、あとは、レトルトのおみそ汁と......缶詰は重くなるからやめちゃってます。アルファ米は、サポートしてくださっている尾西食品さんの、カレールーが入っているタイプも。梅干しとしょうゆは必需品ですね。あとはプロテインバーとゼリー。ゼリーはちょっと重いけど、バテているときでも食べられるので持って行ってます。あとおやつはせんべいと、スポーツドリンクの粉ですね。
橋本:おせんべいはいいですね。基本的にはエネルギー源になるものが適しているので、アルファ米もおすすめです。蕎麦やうどんなどの乾麺を持って行くのもいいと思います。キューブ状になった鍋の素とか。とにかく食事が口に合わなかったり、食欲が低下して食べられないときに現地でささっと整えられる、日本食が食べられると安心です。
坂口:そうですね。ほんとに日本食が食べたくなります。
橋本:あとは少し気分を変えたいときに、パスタソースはどうですか。現地でパスタの乾麺を買って、絡めて食べるだけのパスタの素とか手軽で安くて、美味しい。普段からいろいろ試してみて、美味しい、食べたいなと思うものを持って行くことですね。
坂口:確かに。持って行ってあんまり美味しくなかったとなるのは避けたいです。おやつにグミは持って行っていいんですか?
橋本:グミもいいですよ。手軽にエネルギー源となる糖質が補給できるほか、コラーゲンというたんぱく質からつくられるゼラチンも含まれていて、骨や靭帯などの結合組織の材料にもなるので。
坂口:えー。めっちゃうれしいです! グミはすごく好きなんですけど、控えた方がいいのかなと思って食べていなくて。
橋本:海外に行って一番避けたいのは体重が減ってしまうこと。そういうときは甘いものを我慢するのではなく、いかに体重を維持するかを優先した方がいいですね。
坂口:せんべいも好きなんですが、実はハッピーターンが大好きなんですよ。でもあのパウダーが塩分も多そうだし、ダメかなと思って我慢しています(笑)。
橋本:ハッピーターンももちろんOK。海外遠征のときは好きなもの、食べたいものを持って行く方が安心です。海外に長くいること自体がストレスになってくるので、そのようなときは、坂口さんがホッとできる「コンフォート・フード」を準備しておくのも戦略のひとつですよ。
坂口:そうなんですね。グミとハッピーターンがOKなのは本当にうれしい!
カルシウムと鉄を不足しないようにとることがどの年代も大事
編集部:ビーチバレーの選手は40代でもバリバリ現役で競技されている方も多いですが、人によってスピードの差異はあれ、年齢を重ねると肉体は確実に衰えてはいきます。年齢に合わせて意識してとった方がいいものはあるのでしょうか。
橋本:女性に関して言えば、エネルギー源となる糖質、カルシウムと鉄を不足しないように摂取することがどの年代も大切です。特にカルシウムは全ての年代で不足しており、吸収されにくい代表的な栄養素ですので、意識してとる必要があります。
また、年齢を重ねていくと、疲労回復の遅れを感じたりするので、月並みですが、バランスのとれた食生活の基本である1日3回の食事をとる。その際、主食と主菜と副菜の3つをそろえ、それにプラスして牛乳やヨーグルト、果物を欠かさず食べることを心がけてください。
例えばサッカーのキングカズこと三浦知良選手にしても、私がこれまでサポートしてきた元サッカー日本代表の中澤佑二さん、中村俊輔さん、ラグビー日本代表の稲垣啓太選手は、みな食生活にも気を配り試行錯誤を重ねて自分に合った食べ方を毎日続けているんですね。それを続けられる選手、メンテナンスを行っている選手が長く活躍できるので、坂口さんも続けていってほしいです。
坂口:そうですね、がんばります。カルシウムってやっぱり牛乳がメインですか? 私牛乳が苦手で、ヨーグルトもあまり得意じゃないんですよね......。
橋本:チーズはどうですか?
坂口:チーズは好きです!
橋本:チーズ、シシャモ、納豆、あとは高野豆腐もカルシウムが豊富です。野菜だとモロヘイヤや小松菜、大根の葉っぱもおすすめですよ。
坂口:モロヘイヤはよく食べます。ありがとうございます。参考にします。
学生スポーツの選手は身体の成長に見合ったエネルギー量が必要
編集部:スポーツ界の食トレンド的なお話になるのですが、学生スポーツもいろいろ環境が変わってきていますよね。必要な食や栄養という点で昔と変わってきたことはありますか?
橋本:今、小・中学生のお母さんたちからよく相談されるのが「うちの子は食が細いんです」ということ。少食の子どもが増えているようです。高校生ぐらいまで身長は伸びますし、骨量(骨の量)は10代が最も蓄積される時期です。この時期に身体の成長に見合ったエネルギーやたんぱく質、カルシウムなどを不足なく摂取しないと、丈夫な身体がつくれないんですよ。
ですので、スポーツをする子どもや親御さんには、とにかく太ることを気にしないで食べて動く、ということをお伝えしています。トップ選手がこういうものを食べているから真似した方がいいですかと聞かれるのですが、とにかく何でもいいからまずは食べることが大事と答えます。
また、子どもにプロテイン飲料を飲ませたいと言う親御さんが増えていますが、成長期は規則正しい食習慣を身につける大切な時期です。安易にプロテインに頼らないでほしいと思います。大学生ぐらいになって、運動量が増加し、食事だけではどうしても身体が大きくならない場合にはプロテインやサプリメントを推奨することはあります。
よく寝て、よく身体を動かし、好き嫌いなく1日3回の食事と補食(間食)をとっていれば、筋肉はつき、背も伸びるはずです。
パリオリンピック。選手村の食事もプラントベースに
編集部:最後に、今年2024年はオリンピックイヤーです。「アスリートと食」というテーマで注目されているトピックはありますか。
橋本:世界のアスリートを取り巻く食のトレンドという意味では、特に欧米のアスリートやスポーツ関係者の間で、強くなるために何を食べるか、ということだけではなく、環境に負荷をかけない食べ物や、食べ方というのが意識されています。
現にパリ五輪が掲げる「フード・ビジョン(食の方針)」では、「すべての人が環境や社会に対する責任を果たしながらも、美味しく食べることを目指す」という考えの下、選手村で提供する食事には、環境負荷の少ない(二酸化炭素排出量の少ない)ベジタリアンメニューを多く取り入れるようです。
また、使い捨てのプラスチックをガラス瓶で代用したり、地元の食材を使うことで輸送に伴う二酸化炭素を削減したりと。
五輪は今や、世界の食の課題やスポーツと食の最先端のトレンドが集約される大会です。それを影響力のあるアスリートたちが実践し、世界中の人たちにメッセージを発信していくことで環境への意識がものすごく高まると思います。
日本でもそういった背景を意識して、実際に環境負荷をかけないような取り組みをしているアスリートが増えてきています。その意味で、坂口さんがプラントベースの食事を実践されているのは、とてもいいことですね。
坂口:ありがとうございます。食事の量とかダメ出しされたので、やっと褒められました(笑)。最後に1点だけ、トレンドと全く関係ない話ですが、どうしても聞きたいことが。今は特にですが、海外へ行くと食事代が結構高いんです。でも、アメリカだとハンバーガーは比較的安い。ハンバーガーってジャンクなイメージがあって、アスリートはダメなんじゃない? ってなるんですけど、内容はパンと肉と野菜じゃないですか。ポテトを食べなかったらいいのかなって、食べていたんですけど、実際はどうなんでしょうか?
橋本:本当にその通りで、ハンバーガーそのものは理想的な組み合わせです。アメリカ人はポテトを野菜のグループとして捉えていますし、毎日食べ続けなければ問題はありません。もし、食べ過ぎて脂質をとり過ぎてしまった場合は、次の食事で、蒸した肉や魚などさっぱりとしたもので済ませるなど工夫をすれば大丈夫です。
坂口:分かりました。ファストフードのチェーン店は世界中わりとどこの国に行ってもあるので助かります。今日はとても有意義なお話をいただき、本当にありがとうございます。
※記事の情報は2024年3月29日時点のものです。
![橋本玲子(はしもと・れいこ)](https://note.aktio.co.jp/image/20240326-1548_prof.jpg)
【PROFILE】橋本玲子(はしもと・れいこ)
株式会社 Food Connection 代表取締役
管理栄養士/公認スポーツ栄養士
ラグビーワールドカップ(W杯)2019で栄養コンサルティング業務を担当。2003年ラグビーW杯日本代表、サッカーJ1横浜F・マリノス(1999年~2017年)、ラグビーリーグワン・埼玉パナソニックワイルドナイツ(2005年~現在)ほか、車いす陸上選手らトップアスリートのコンディション管理を「食と栄養面」からサポート。また、ジュニア世代と保護者に向けての食育活動も行う。近著に「スポ食~世界で戦うアスリートを目ざす子どもたちに~」(ベースボールマガジン社)
https://food-connection.jp/
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【PROFILE】
坂口由里香(さかぐち・ゆりか)
小学3年生からインドアのバレーボールを始め、中学3年生で神奈川県代表選手に選出。高校3年生で神奈川県ベスト4入り、ビーチバレーはマドンナカップの神奈川県予選で優勝、全国大会で5位入賞。その後、2014年国内ツアー入賞をきっかけに本格的にビーチで活動、2018シーズンはビーチバレージャパンで決勝進出、2021年の国内ツアーでは優勝3回、準優勝1回、3位1回、2022年は開幕戦から国内で出場した大会は全て優勝し、9月の女子アジア選手権では5位入賞、10月のBeach Pro Tour モルディブ大会でも5位入賞した。勝負強さ、安定したパス、攻撃のバリエーションで、次代を担っていくプレーヤーとして注目される。
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